38 国土防衛奮戦す!
前回に引き続き直接日本への軍事行動を開始した中華大陸連合に対して必死に防戦に務める国防軍の姿です。主人公たちは最後の方にちょこっとだけ出てきます。
沖縄の南西50海里に展開中のミサイル護衛艦『まや』の艦内では中華大陸連合の泉州基地から発射された弾道ミサイルの迎撃のために慌しい動きが続いている。
「弾道計算再確認、敵ミサイルは石垣要塞と那覇を目指しています! 弾数20、着弾まで40分!」
「迎撃開始! 弾数が多いから撃ち漏らすなよ!」
一般的には『イージス艦』と呼ばれているミサイル護衛艦(DDG)には艦首と艦尾にMk41・垂直発射装置が設置されている。大気圏外に飛び出した敵の弾道ミサイルを迎撃するために日米で共同開発されたスタンダードミサイル・SU-3が次々に炎の尾を引いて撃ち出されていく。その数合計40発、敵弾道ミサイル一基につき2発のミサイルを放って撃ち落す。
「SU-3、敵弾道ミサイルに向かっていきます。着弾まであと30秒!」
「当たってくれよ!」
祈るような思いで固唾を呑んでいる艦橋の面々、僅かな時間が永遠にも感じてくる。その間にもレーダー要員から様々な報告が入ってくる。
「本艦に向かって敵陸上基地から対艦ミサイルが発射されました! 数30基、90分後にこちらに到達します!」
「迎撃は僚艦に任せる! 我々は弾道ミサイルに集中するぞ!」
「SU-3初弾、命中! 敵弾道ミサイルの消失を確認しました!」
「気を緩めずに次弾の行方を追ってくれ!」
報告と指示が飛び交う艦橋には緊張感が漂う。それでも次々と命中する迎撃ミサイルによって、中華大陸連合が放った弾道ミサイルが撃墜されていく。だが次の瞬間艦内が凍りつく。
「SU-3一基不発! もう一基も外しました!」
「石垣要塞にPAK-3発射を要請しろ!」
弾道ミサイル迎撃システムは3段階に渡って準備されている。大気圏外で迎え撃つ海上のイージス艦や陸上のイージスアショアシステムによって、高度数百キロの成層圏でミサイルを破壊するのが第1弾。続いてはパトリオットミサイルで地上20~30キロの高度で迎撃するのが第2段に当たる。
これでも撃ち漏らした場合は最後の砦で大気圏ギリギリの高度で速射砲によって破壊するしか残された手段がなくなる。マッハ10以上で大気圏に再突入する弾道ミサイルの迎撃は最新技術をもってしても中々困難を伴う。
「石垣要塞から入電!」
「こちら石垣要塞、すでに準備は万端だ! 射程に入り次第叩き落してやるから安心してくれ!」
「そんなに多くそちらに任せる気はないが、残った分はよろしく頼むぞ」
「ああ、大船に乗った気でいろ! もっとも船に乗っているのはそちらの方だがな」
こうして泉州基地から発射された弾道ミサイル20基中、18基がイージス艦のSU-3に2基が陸上から発射されたPAK-3によって撃ち落されるのだった。
台湾の南100海里には合衆国第7艦隊が中華大陸連合の動きを監視するように遊弋している。原子力空母『ドナルド・レーガン』を旗艦とする太平洋艦隊だ。この艦隊だけでも小国ならば制圧が可能といわれる一大戦力だ。
「司令、本国より打電! チャイナの泉州基地からミサイル多数が日本に発射されました。攻撃許可が出ています」
「よろしい、せいぜい派手に撃ち込んでやれ」
第7艦隊は空母を旗艦にして4艦の防空巡洋艦と8艦の攻撃型駆逐艦などを従えている。その他海中には原子力潜水艦なども秘かに随伴して行動している。
その中の攻撃型駆逐艦が戦闘指揮艦を除いて一斉に垂直発射装置を開く。5艦から猛烈な勢いでミサイルが飛び出していく。その攻撃の模様はかつてイラクやリビアに対してミサイル攻撃を加えた規模をはるかに上回っている。5艦から合計400発のトマホーク巡航ミサイルが発射されて、泉州基地に向かって飛翔する。ロケットエンジンで加速してからターボプロップファンで900キロ近い時速で標的に向かって突き進む。
中華大陸連合もミサイル迎撃システムを実用化に移そうと努力を重ねてはいたが、何歩も先を進む日米の技術には及んでいなかった。対空機銃の雨を掻い潜って、次々にトマホークミサイルが着弾する。
ドドドーーン!
ズーーン!
重たい音と盛大な火柱が上がって基地内の建物や人員が吹き飛ばされていく。発射された400発のうち300発近くが基地と周辺の地域に着弾して何10棟という建物が被害を受ける。死者や怪我人は正確には判明してはいないが、相当数に上るものと思われる。
こうして泉州基地はこれ以上の日本へ向けたミサイル攻撃を継続できなくなって、怪我人の収容と復旧に追われる事態となった。
南西方面からのミサイル攻撃は一旦収束したが、朝鮮半島からは継続的に数回に渡ってミサイルの雨が飛来してくる事態が続いている。ただし、旧韓国が保持していた玄武2-B、2-Cは誘導が精密には行えない技術水準で、日本にとっては大した脅威とはならない代物だった。
打ち上げたミサイルのうち8割が日本海に落ちて、残りの大半は太平洋の彼方に消え去って、実際に日本側が迎撃したのは弾道ミサイル80発中7発に過ぎない。巡航ミサイルはアメリカ製だったのでそれなりに脅威ではあったが、それらも整備が酷い状態で大半は対馬さえ越えられない有様だった。
さすがは世界に笑いを振りまくお笑い集団の韓国軍だけのことはある。果たして彼らは真剣に国防というものを考えていたのだろうかと、迎撃を担当する九州の各基地は皆が首を捻っている。このような国とかつてはアメリカを仲立ちにして間接的な防衛協力関係にあったと考えると、ちょっと背筋が寒くなってくる。
だがロシア側から発射されたミサイル群は東日本に大きな脅威を与えた。海上に配備されたSU-3を装備したイージス艦は8艦中5艦が南西方面に展開しており、北からの攻撃に対する防御が手薄だったという点も否めない。
陸上のイージスアショアも札幌と仙台に配備されている他は関東に集中配備されていた。それでも各隊の的確な対処で、全弾撃墜に成功している。かなり危険な綱渡りではあったが、3方面から飛来するミサイルの防衛に成功するのだった。そして戦局は対馬海峡に移っていく。
鎮海軍港と釜山港を出撃した旧韓国海軍の艦隊は強襲揚陸艦『世宗大王』を旗艦として世界中でこの国しか保持していない『攻撃型イージス艦』3艦と駆逐艦やミサイル艇がそれぞれ数隻という布陣だった。
そもそも『イージス』とはギリシャ神話に出てくる盾の名称で、イージス艦を日本語に直すと『対空防衛艦』となる。つまり艦隊の防空任務を司る守備型の艦艇の総称にも拘らず、韓国海軍はなんとその艦に色々と攻撃兵器を詰め込んだ挙句に全ての用途が中途半端で使えない艦を造り上げてしまった。
それでも旧韓国海軍の士気は高く、日本に一泡吹かせようという意気込みで対馬に向かって母港を出航している。艦隊の後方には上陸のための地上軍が輸送艦に満載されて、それでも乗り切れない人員は徴発されたフェリー数隻に分乗しているのだった。
この艦隊の目標は日本の対馬要塞を殲滅して北九州に上陸を果たすこと。しかしそれ以上の戦略プランは全く持たずに、こうして日本に向かって出撃している。日本に上陸さえすれば食料他の物資が手に入ると、全員が飢えた瞳を輝かせている。
対して日本側はイージス艦と艦隊の旗艦を務める航空輸送艦が別の海域でミサイル防衛や航空支援に当たっているため当該海域には不在だった。10を超える旧韓国軍船に対して水上艦なしで日本はどのように戦うのだろうかと疑問が湧いてくるのは当然だろう。
その頃北九州の都築基地では・・・・・・
「都築第1航空隊出撃します」
「同じく第2航空隊出撃します」
「第3航空隊出撃準備完了、順次出撃します」
「第4航空隊、第3航空隊に続きます」
整備担当の隊員が一列になって『無事に帰って来いよ』という気持ちを込めて手を振って見送る中で、次々に最新鋭のF-3支援戦闘機が滑走路から離陸していく。轟音を轟かせる機体の腹の中には超音速対艦ミサイル『ASM-3』を2発抱えている。固体燃料ロケットとラムジェットエンジンを組み合わせてマッハ3以上の速度と200キロ近い有効射程を持つ、日本が誇る対艦用の必殺兵器だ。
飛び立っていく新鋭F-3の12機に続いては、まだまだ現役で頑張っている『対艦番長』F-2支援戦闘機24機が発進命令を待ってスタンバイしている。ステルス機のF-3には敵わないとしても、対艦攻撃に特化したその機体には長年日本の海の安全を守ってきた誇りが滲み出ていて、もはやそれは貫禄とでも呼ぶしかない。
「都築各飛行隊に告ぐ、海軍の潜水艦が露払いをしてくれる。攻撃はそれからだぞ! 上手くタイミングを合わせてくれ」
「了解しました、大回りをして海域に接近します」
真っ直ぐ飛んでいくと予定時間よりも早く到着してしまうので、五島列島の東側を大きく迂回して4つの飛行隊は対馬の北30海里の地点を目指す。これ以上敵艦隊に接近を許すと対馬要塞が艦砲の射程圏に入ってしまうのだ。
「都築飛行隊へ、海軍潜水艦が魚雷を発射しました」
「了解、我々も仕事に取り掛かる」
日本海海戦で中華大陸連合の空母を撃沈した『じんりゅう』を含む第1打撃潜水艦隊の魚雷の飽和攻撃が始まる。大小10を超える艦船に向かって静かに水中からの刺客が放たれる。それに続いてF-3のウエポンベイが開いて、ASM-3が姿を現す。
こちらは旧韓国艦隊の旗艦『世宗大王』・・・・・・
「魚雷接近! 合計16! 真っ直ぐにこちらに向かってきます!」
殆ど音を立てない『そうりゅう』型潜水艦の魚雷攻撃に旧韓国艦隊のソナー員の発見が遅れる。
実はこれにはれっきとした理由があった。以前韓国海軍の最新鋭艦にソナーが納入された際に監査が入って発見された衝撃の事実で軍全体を揺るがす大騒ぎになったことがある。
それは納入された品は漁業用のソナーだったという大事件だった。10億円以上の費用を掛けて漁師さんたちがイワシやカツオの群れを追う数百万円のソナーが納入されたのだった。一事が万事この調子では、優秀なソナー員など育つはずがない。これこそが世界に冠たるお笑い韓国軍の実態だった。
必死の回避行動を取ろうとしても時すでに遅しで、旗艦の『世宗大王』をはじめとする艦が大きな水柱を上げて漏れなく横腹に穴を開けている。中には魚雷の一撃だけですでに傾いているイージス艦の姿もある。色々と詰め込んでしまったせいで艦の重心が高くて、バランスを崩すと一気に傾いてしまうのだ。
「艦を立て直せ!」
艦長が必死に艦員を鼓舞して被弾したブロックを閉じて船体を立て直そうとしているその時、海面ギリギリを飛来する多数の影が超音速で旧韓国艦隊に近づいてくる。すでに都築航空隊のF-3は12機が同時に腹に抱えていたミサイルを放っていた。
『ASM-3』はあらかじめ組まれている命令に従って指定された艦に向かって誘導されていく。海面ギリギリの高度から着弾手前の地点で一旦急上昇して敵艦の指定位置に向かって急降下していく。
キーーン!
超音速で空気を切り裂く衝撃波とともに死を呼ぶ使者が旧韓国艦隊に迫る。甲板員は必死でファランクスを撃ちだしてミサイルを叩き落そうとするが、マッハ3の速度は簡単には掴まらなかった。
ドドーーーーン!
『世宗大王』の艦橋に着弾したミサイルは盛大な火柱を上げて上部構造と甲板員を吹き飛ばす。魚雷で足止めされていた所に打ち込まれたたった1発で艦としての機能を失っている。だがさらにそこに追い討ちの一撃がやって来る。
ドドーン! ドカーーン!
艦を回り込んで後部に着弾したもう一基のミサイルが弾薬庫に飛び込んで船体が真っ二つになる激しい誘爆を引き起こしていく。
「世宗大王、轟沈!」
「ダメだ、このままでは全滅するぞー!」
「うわーー! こっちにも来たー!」
ドドーーン!
こうして、旗艦から小型のミサイル艇や随伴するフェリーまで、対馬を目前とした海域で旧韓国海軍の艦艇は海の藻屑として消えていくのだった。
その頃富士駐屯地では・・・・・・
「今のところは日本国内に飛んでくるミサイルはないようだな」
「聡史君、お疲れ様!」
この日の未明からずっと対空魔力砲の前でスタンバイしていた俺は、ひとまずは全てのミサイルが迎撃されたという報告を受けて一息ついている。ちょうどシートから立ち上がったタイミングで、近くに待機していた美鈴が声を掛けてくる。
「いつ自分の仕事がやって来るかって結構張り詰めていたから、精神的に疲れたよ」
「大事な役目だからね。聡史君にしか出来ないんだから諦めてちょうだい。それよりも今のうちにお昼にしておきましょう。さくらちゃんなんかとっくに食堂に向かっているわよ」
我が妹はどうやらこの緊急事態においても平常運転のようだ。あやつの行動を今更一々気にしていても仕方がないので、俺は美鈴と一緒に食堂に向かう。食堂の中は朝方の張りつめた空気とは違って、全体が緊張から解き放たれたほっとした空気が流れている。
「兄ちゃんたちは遅いんだよ! もう私はすっかり食べ終わっちゃったよ!」
妹はいつものようにトレーを重ねて満足して表情をしている。その横では天狐が一心不乱にキツネうどんを食べているいつもの光景だ。
「緊急連絡! ロシア方面からミサイルの第2波が発射された! 全軍所定の配置につけ!」
だが俺と美鈴が昼食を食べ終わったその時、一瞬のほっとした空気は駐屯地全体に流れた警戒サイレンによって破られるのだった。




