表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/229

37 Xデイ

日本に本格的な攻撃が・・・・・・

 日本政府が『中華大陸連合と実質的な交戦状態に入った』と表明してから約1月半が経過した。この間政府は国内の中華大陸連合の拠点や工作員の摘発に力を注いで、概ね表立ったテロ行為や反政府活動は鎮静化している。


 これまで日本は日本海海戦のドサクサに紛れて中華大陸連合の空母2艦を沈めた以外は表立った軍事的な行動は控えてきた。これは日本国防軍最大の弱点である『攻撃兵器の不足』という課題が如実に明らかとなったからだ。


 長年平和憲法の下で専守防衛に努めてきた結果、国土を守る装備はそれなりに揃ってはいるものの、敵地を攻撃する手段が大きく不足していた。更に装備だけではなくて国防軍の人員も定員を2万人増加してみたものの、周辺各国を相手取ってこちらから打って出るには程遠い状況だった。



 防衛予算だけ見ても日本はGDPの1.2パーセントの7兆円少々となっており、経済破綻した中華大陸連合が未だに12兆円を超える軍事費を支出しているのに比べても、相当に頼りない数字といえるだろう。更に7兆円の半分以上が人件費に消えるのだから、装備の購入も少しずつ順番に行っていく他無かった。



 それでも急遽臨時の予算を組んでアメリカから対地ミサイルを購入したり、国内のメーカーに対空ミサイルの増産を要請したりと、できる範囲での努力は重ねていた。ただしこの点に関しても野党やマスコミの猛烈な反戦キャンペーンに晒された挙句にようやく実現するという綱渡り状態だった。




 そんな夏真っ盛りの暑い日に、首相官邸にただならぬ様子で統合幕僚長が防衛大臣に伴われて入ってくる。



「総理、中華大陸連合が弾道ミサイルに燃料の注入を開始しました。直ちに日本全土に警戒警報発動を要請いたします」


「わかった、すぐにマスコミを通じて全国に警報を出そう。その他には動きは無いかね?」


 総理に要請を伝えた防衛大臣は隣に座る統合幕僚長を振り返って発言を促す。ミサイル以外にも懸念事項があるようだ。



「現在朝鮮半島の鎮海軍港と釜山港で旧韓国海軍の動きが慌しくなっています。蔚山航空基地には爆装を終えた戦闘機が出撃の準備を整えております。近いうちに我が国に対する攻撃を開始する予兆と見るのが妥当と考えます」


「そうか、こちらの準備はどうなっているかね?」


「すでに全軍が即応体制を整えております。旧韓国軍だけでしたら我が国には指一本触れさせませんが、侵攻と同時にミサイルを打ち込まれると対処が厄介になります。ミサイル迎撃に陸海空ともに相当数の部隊を割く必要があります」


「割り振りはできているのかね?」


「シュミレーションは終わっておりますが、何分戦後初めての事態ですので、図面上の演習と同様に事が運ぶかどうかは不明です」


「最善を尽くしてくれ。国民に被害が出ないように国防軍の将兵の奮戦を期待している。今からできることはあるかね?」


「この期に及んでは我が国単独ではこれ以上は無理であろうと考えます。アメリカ軍の協力を得て策源地を叩くことが可能でしたら、我が国の安全は高い確率で確保できます」


「何とかあちらの大統領に掛け合ってみよう。なに、交渉材料は手元にあるからね」


「例のアレですか?」


「そう、大臣が想像している物だよ。どうせドイツの技術だから精々高く売りつけようじゃないか」


 山本首相はドイツの帰還者が所持していたアサルトライフルに魔法術式を組み込んだあの銃をアメリカの魔法技術者に公開するのと引き換えに、中華大陸連合のミサイル基地攻撃を要請するつもりらしい。タダ同然で手に入れた物を取引の材料にするとは相当にしたたかな人物だ。



「総理、もうひとつお願いがあります」


「幕僚長、何かね?」


「南西方面は現状の迎撃システムで何とか敵ミサイルを全弾撃ち落す自信があります。しかし問題は北方から飛来するミサイルです。中華大陸連合が占領した沿海州からロシアのミサイルを発射する可能性があります。両面から同時にミサイル攻撃を受けると、いささか北部方面の防衛に不安がございます」


「つまりロシア側から飛来するミサイルにはアレで対処しろということかね?」


「そのとおりです。まだ1度しか試験を行っていませんが背に腹は代えられません。特殊能力者部隊の出動を要請します」


「わかった、許可しよう。彼らにも大いに頑張ってもらいたい」


「ありがとうございます」


 こうして近いうちに予想されるミサイル攻撃に特殊能力者部隊も国土防衛の一翼を担うことが決定された。余談ではあるが聡史たちが所属する特殊能力者部隊の活動には厳格な制限が定められていて、出動の際には総理大臣の許可を必要としている。


 ただし先日のショッピングセンターでのドイツの帰還者との戦闘のように、突発的な事態に関しては事後に承諾を得るという抜け道が設けられている。司令官は常にこの抜け道を利用して度々聡史たちに無茶振りをしているのだった。





 その日の富士駐屯地、昼礼の時間・・・・・・



「政府の警戒警報で発表があったように近々中華大陸連合による大規模なミサイル攻撃が予想される。我が特殊能力者部隊もミサイル防衛の重大任務を担うこととなった。各自最善を尽くしてもらいたい」


 いつもは副官さんが昼礼で伝達事項を伝えるんだけど、今日は司令官さんが自ら前に立ったよ。内容が内容だけにそれも当然か。それにしても飛来するミサイルを撃ち落すなんて、本当にできるんだろうか?


 実験で衛星を撃ち落した時は上手くいったけど、実際に空の彼方何百キロ先で本当に衛星を破壊したのかこの目で確認したわけじゃない。だから丸っきり実感がなくって自信が湧いて来ないんだよな。でも失敗は許されない重大な任務だから、気を引き締めて臨まないとな。




 午後は他の隊員が射撃訓練を行う中で、俺は1人で例の魔力対空砲の操作訓練に勤しんでいる。衛星を破壊した時は照準がすでに設定されていたけど、通信衛星からリアルタイムで送られてくる情報を基にして自分でも照準を合わせられるように訓練している。本番では専属のオペレーターが担当してくれるそうだけど、全部自分でできるようになっておくのは悪くは無いだろう。





 そしてそれから5日後に、日本にとっては運命を左右する『Ⅹデイ』がやって来る。



 その日の未明に日本の主要都市に向かって中華大陸連合の基地や占領地から多数のミサイルが発射された。



「泉州基地から沖縄に向かって巡航ミサイル多数飛来! 弾種は不明、数200基!」


「朝鮮半島蔚山近郊からミサイル発射を確認! 移動式発射台から発射されています。おそらくは玄武-2B、もしくは2Cだと思われます! 数合計80基! それとは別に巡航ミサイル100基も発射されている模様!」


「南シナ海に遊弋中の潜水艦からSLBM多数発射! 中距離弾道ミサイルです。目標地点は東京!」


「ロシア沿海州の基地からも多数のミサイルが飛来! 数250! 東日本全体を射程に収めています!」


 統合幕僚本部にはレーダー管制員から慌しい報告が入る。3方向から日本全体に向かってミサイルの飽和攻撃が行われたのだった。



「各基地に指令! 割り振りに従って迎撃せよ! 一基も国内に着弾させるな!」


 宇宙空間に浮かぶ監視衛星と日本各地に設置されているフェイズド・アレイ・レーダー(通称・ガメラレーダー)はステルスミサイルすらもその位置情報を丸裸にする。更に同じレーダーを搭載した早期警戒機・E-2Cが石垣島基地や千歳基地から交代で飛び立って24時間体制で上空を監視しているので、飛来するミサイルの位置は手に取るようにわかっている。



「こちらは石垣基地、飛来する巡航ミサイルが射程に入りました。順次迎撃します」


「こちら対馬要塞、『天の岩戸システム』稼働率100パーセント! 迎撃準備完了です!」


「南大東島基地、迎撃ミサイル発射準備完了!」


「嘉手納基地、巡航ミサイル迎撃飛行隊発進準備完了! 順次発進します」


「こちらイージス艦『みょうこう』弾道ミサイルロックオン完了! SU-3発射します!」


「千歳航空隊、すでに先行して空に上がっている。まもなく敵巡航ミサイルが射程圏に入る。各隊、撃ち漏らすなよ」



 通信がめまぐるしく飛び交い、基地に向かって指令が飛ぶ。弾道ミサイルは早い物だと発射してから30分で日本上空に到達するので、迎撃は時間との戦いだ。



「蔚山基地から航空機多数発進! 韓国軍戦闘機だと思われます」


「都築基地、迎撃に掛かれ!」


「了解、すでに全機発進準備完了!」


「こちら島根県沖の航空輸送艦『いずも』艦載機発進します」


「佐世保沖の『ひゅうが』艦載機発進準備完了!」


 蔚山航空基地を出発した旧韓国空軍のF-15K40機を迎撃するために、北九州の都築基地からはF-15J25機と実質的な空母に改修された『いずも』『ひゅうが』からステルス戦闘機F-35Bが発進していく。  


 韓国軍のF-15Kと日本が保有するF-15Jは同型機であるが、導入されたのは韓国軍が遅い分だけエンジン性能等は上回っている。だがそれはあくまでもカタログ上のスペックであって、その後何度も近代改修を受けて戦術コンピューターやレーダーを一新しているF-15Jの方が制空戦闘機としてははるかに高い性能を誇っていた。それに加えて垂直離陸式のF-35Bが合計で16機加わるのだから、機体性能だけでも日本側が圧倒的に有利な状況だった。


 しかも全機がイギリスと共同開発した最新鋭の空対空ミサイル『JNAAM』を8発ずつ爆装している。このミサイルは公式発表の射程距離が100キロ以上、最大速度マッハ4以上という代物だ。F-15Kが搭載する一世代前の『AMRAAM空対空ミサイル』とは特に航続距離で大きな差をつけている。つまりこれは日本側が遠くから韓国軍の戦闘機を狙い撃ちにできるということに他ならない。


 現代の航空戦は戦闘機同士のドッグファイトなどまずは発生しない。どちらがより優秀なレーダーで早期に敵を発見して、より足の長いミサイルを発射するかで勝負が付く。だからこそ敵のレーダーに発見されないステルス機の開発に各国が血眼になっているのだ。





 日本に向かって発射された巡航ミサイルは各基地から発射された迎撃ミサイルによって次々に撃ち落されていく。巡航ミサイルとは音速に近い速度で海面スレスレを飛行して敵地に接近するミサイルだ。民間の旅客機と同じくらいの速度しか出ないので比較的迎撃は容易だ。戦闘機が後方に回り込んで追尾してから余裕でロックオンできる。


 ただし問題はその数にある。何百ともなると全弾撃ち落すには精密な誘導システムが必要になってくる。これに対応するために日本が開発した『天の岩戸システム』は空対空ミサイルを地上配備型に改良した多連装式ミサイル射撃管制システムだ。射程は最大で300キロ、日本に到達するはるか手前で巡航ミサイルを迎撃可能となっている。


 今回の中華大陸連合のミサイル攻撃にも十分にその性能を発揮して何とか飛来してこようとする全弾の迎撃に成功した。だが、この一連の迎撃で各基地のミサイルの在庫が半分になっている。早急に補充しないと次に同じような規模の攻撃を受けた際には撃ち漏らしが発生するかもしれないのだった。幸いにも政府がメーカーに増産を指示していたおかげで、現在毎月500発の迎撃ミサイルの補充が可能となっているのはファインプレーと言えよう。ただし今回の件を重く見た政府は毎月1000発まで生産要求を引き上げるのだった。






 旧韓国空軍戦闘機の機影をレーダーでいち早く発見したのは『いずも』から発進したF-35Bの国防海軍第8飛行隊だった。80年ぶりに海軍飛行隊が復活したのだ。



「敵機の機影を発見! 攻撃に移るぞ! 各機は戦術コンピューターに従って振り分けどおりにミサイルを発射しろ!」


「隊長機へ、ユニコーン1了解!」


「ユニコーン2、了解、標的をロックオンしました」


「ユニコーン3、了解、ロックオン完了!」


「よーし、俺たちが先陣を飾るぞ! 全機ミサイル発射!」


 パイロットが発射ボタンを押すと、F-35Bのペイロードが開いて格納されていたミサイルが姿を表す。そして点火されて炎の帯を引きながら勢いよく飛び出していく。



「敵機、回避行動を開始!」


「追撃するぞ! もう1発お見舞いしろ!」


「「「了解」」」


 更に追撃のミサイルが発射されると、約8秒後にレーダーから敵機の機影が消滅する。



「4機の撃墜を確認。引き続き哨戒しながら飛行せよ」


「隊長、AWACS(空中管制機)からの指示あり! 11時の方向に敵機あり!」


「よーし、このまま突っ込むぞ!」


 こうして空の上では戦闘機同士のバトルが続くのだった。


   




まだまだ日本の危機が続きます。その時主人公たちは・・・・・・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ