33 俺の武器ってこれなの?!
前日に続いての投稿です。いよいよ新たな武器のテストに臨む帰還者たちの様子をお楽しみください。
俺たち帰還者は全員が1台の装甲車に乗って隣接する東富士演習場に向かっている。車内ではようやく緘口令を解除された美鈴から銃で魔力を発射する仕組みのレクチャーが行われている。
「内部の仕組みは銃弾を送り込む機械的な装置というよりも車のエンジンを想像してもらった方がいいかもしれないわね。エンジンは『吸入』『圧縮』『爆発(燃焼)』『排気』の4工程でひとつのサイクルを形成しているけど、私たちが開発した銃もとってもよく似た感じなのよ」
美鈴はここまでは理解できているかどうか車内の帰還者たちを見渡している。当然妹は何の話かわからずにポカンとしている。妹よ、聞くだけ無駄だからアメでも舐めているんだ。俺は口を開いている妹にアメ玉を放り込んでやる。中に物が入るとこいつの口は本人の意思とは関係なく自動的に動き出すんだ。これでしばらくの間大人しくしているだろう。
横を見るとアイシャも同様に口をポカンとしている。どれ、まだアメが残っているから放り込んでおこうか。急に口の中にアメちゃんが飛び込んでビックリした表情をしていたが、アイシャはアメだと気がついて『ありがとうございます』とお礼を言ってくれた。うんうん、礼儀正しい子だな。
「魔力は実体が掴み辛いエネルギー体だけど、上手に扱えば気体と同じ方法で一定の量を所定の位置に蓄えられるのよ。この場合は銃に組み込まれた術式によって帰還者の体内から魔力を取り出すの。これがエンジンで言うと『吸入』の工程に当たるわね」
なるほど、その喩えはわかりやすいな。術式によって体内から魔力を取り出しているのか。俺なんか取り出し放題だぞ。10万や20万程度の魔力なんかお安い御用だからな。なんだったらドーンとまとめて1千万くらい取り出してもらっても全然ビクともしないだろうな。
「次に『圧縮』の工程ね。これはエンジンのシリンダーが気化した燃料を圧縮するのと同じ仕組みよ。この時に魔力弾が形成されるの」
ふむふむ、ちゃんとわかっているぞ。美鈴から以前教えてもらったからな。魔力は圧縮すると威力が上がるんだけど、圧縮しすぎると暴走を開始するから加減が難しいんだったな。
「次に『爆発(燃焼)』の工程ね。銃で言えば発射に当たるわ。この時に銃身内には次の魔力弾がセットを終えていて、先に込められた弾とは隔壁で仕切られているのよ。そして双方の魔力弾には『魔力を排除しろ』という術式が込められているわ。引き金を引くとカメラのシャッターのように瞬間的に隔壁が開くの。そうなると狭い銃身内で2つの魔力弾にはどのような力の作用が働くかしら?」
「互いに反発するのか?」
「そうよ、その反発力によって魔力弾が銃口から飛び出すの。次弾の背後は壁になっているから、双方の反発力は全て前方に向かうしかなくなるのよ。この辺の仕組みはレールガンに近いかもしれないわね」
レールガンか・・・・・・ 軍オタの血潮が騒ぎ出すフレーズだな。日本でも実証実験が行われていると聞いたけど、使用する電力が半端なさ過ぎて実用化の目途は立っていないらしいな。
「魔力弾同士の反発力で発射と同時に『排出』の工程も終えるわけね。あとはすでにセットを終えている次弾を前方に送り込んで、その後ろ側にまた次の弾を用意すればいいのよ。機械的な仕組みはマシンガンよりもシンプルね。隔壁の精度と圧縮するシリンダーの精密な工作ができれば町工場でもで組み立てられるわ」
なるほどねぇ、よく考えてあるな。聞いてみると簡単に感じるけど、美鈴が全貌を解明するのに10日近く掛かったんだから、その他にももっと複雑な術式が用いられているんだろうな。でもいくら町工場でもできるとは言っても、肝心の魔力がないと使えないから大量生産はできないな。
「ちなみにこの拳銃と小銃は今のところ5丁ずつあって、私たちの家族を警護している部隊に配備されているわ。対帰還者には効果がありそうだし、ゆくゆくは1000丁生産して対帰還者部隊を創設するらしいわよ」
「でも魔力はどうするんだ?」
「ちゃんと供給可能よ。魔石をコアにしたエネルギーカートリッジを作成してあるから、そこに聡史君が魔力を込めれば繰り返し使用可能でしょう。私のアイテムボックスだけでも使うアテがない魔石がそのくらい眠っていたから、1億円で国防軍に買い取ってもらったのよ」
「い、1億円だって!!」
「兄ちゃん、一億円だよ! 何でも食べ放題だよ!」
おっと、アメを舐め終えた妹が再起動しているぞ。左目が『¥』に右目が『$』になっているじゃないか! でもこいつが一億円握り締めたら3ヶ月くらいで全部使い切るかもしれないな。それにしても美鈴は立場を利用してうまいこと金儲けをしたもんだ。チャッカリ者の大魔王という称号を与えようじゃないか。
「予備のカートリッジを作成するために魔石はまだまだ必要みたいだから、アイテムボックスに眠っている分は残らず買い取ってもらえるわよ」
美鈴大先生のお言葉に帰還者全員が色めき立っている。勇者やタンクまでが小躍りしているぞ。まったく使うアテのない魔石が大層な金額で買い取ってもらえるとわかれば、そりゃー嬉しいよな。これ妹よ、今からヨダレを垂らすんじゃない!
「兄ちゃん、これこそが『ひょうたんからコマ』だね!」
「そうそう、ひょうたんを振ると中からコマが・・・・・・ んん? ちょっと待ってくれ! 珍しく正解しているじゃないか! 俺の中で燃え上がったツッコミ魂をどこに持って行けばいいんだ?」
「兄ちゃんはわかってないなぁ! 私はやればデキる子なんだよ! これが本当の私の姿だよ!」
この程度で調子に乗ってドヤ顔するんじゃありません! 今までの失態の数々をまだ全然取り戻していないからな。見ろよ、美鈴は『アンビリーバブル!』という表情をしているし、フィオは神様に向かって真剣に祈りだしているぞ! これはきっと良くない出来事が起こる前触れに違いない。
こんな騒ぎをしているうちに装甲車は東富士に到着する。総合火力演習を見に来た時にも感じたけど、本当に広大なエリアが広がっているな。今度は自分が国防軍の一員としてこの場に立つのは感無量だ。
司令官さんは戦闘指揮車で研究課の皆さんはマイクロバスに乗ってやって来ているよ。観測や計測に用いる機器も大量に運び込まれている。司令官さんと勇者が試射を担当してある程度のデータは集まっているんだけど、どうやら個人ごとのデータも集めたいみたいだな。
俺たちはまずは拳銃の射撃場に連れてこられる。銃を手にするのは初めての者もいるから、扱いやすい所からスタートするらしい。いいなぁ、俺はベンチに座って見学だよ。
30人くらいが並んで射撃訓練ができるスペースがあるけど、右から勇者、タンク、アイシャ、妹の順に間隔を空けて並んでいる。それぞれに開発担当者が付いて取り扱いの説明などを行っている。全員が安全装置を外してどうやら射撃の開始だ。
パシュ-ン!
パシュ-ン!
パシュ-ン!
バシッ!
3丁の拳銃からは全く同じちょっと甲高い音が音が響いているが、妹の擲弾筒からはずいぶんと鋭い音がしているな。魔力弾の飛翔速度が段違いで威力も半端ないぞ。たったの1発で的が吹っ飛んでいるな。それにしても妹よ、初っ端からど真ん中に命中しているのはどういうことだ? 格闘技だけじゃなくて射撃も天才なのか?
射撃訓練を開始してから20分くらいすると、タンクとアイシャの弾道が安定してくる。人型の的の狙った部分にかなりの精度で当たるようになっているよ。勇者はテストで何度も射撃を行っているから、他のメンバーよりもワンランク上の腕前のようだ。
そして妹は・・・・・・ さっきから測ったように全く同じ位置に弾痕を残している。的はボロボロになって千切れて飛んでいるが、土を固めた斜面に空いている穴が全く同じ箇所からブレていないよ。
「うほほー! 威力は大したことないけどお手軽で簡単だね!」
ベンチから一番遠くで変な笑い声が上がっていると思ったら、今度は違う場所に連続で着弾して穴を開けている。近接戦闘最強の存在にこんな物を持たせたらいよいよ人類最強への道を歩み出しかねないぞ。しかも妹の魔力は確か6000万くらいあるはずだ。ほぼ無限に撃ち続けられるのと変わらないな。
続いて小銃の射撃練習に移る。やって来たのは戦車が砲弾をぶっ放す総合火力演習ではお馴染みの場所だ。普通の小銃よりも威力が高いので、戦車の的を目掛けて練習するらしい。距離は500メートル以上はありそうだな。
うん? なんだ? 妹が美鈴と何か話をしているぞ。
「美鈴ちゃん、突っ立って撃つだけじゃつまらないから私から的まで全部シールドで包んでよ! 動きながら撃ちたいんだよ!」
「どうかしらね、司令に聞いてみないと・・・・・・ どうやら良いみたいね。それじゃあシールドで囲むから好きなようにやってちょうだい」
妹の申し出を司令官さんはあっさりと認めちゃったよ。動きながら撃つって何をするつもりだ?
妹の様子を見ているとあやつは敵を想定して形をなぞるように手を出したり蹴りを放ったりしながら、その合間に擲弾筒を放っていく。時には振り向き様に一瞬で照準を付けて正確に的の中心を捉えているよ。どうやら天才には逆らえないらしい。さすがに俺にもあんな器用なマネは不可能だ。
しかも擲弾筒は妹の動きを想定してオリハルコンの篭手にアタッチメントで取り付けられるようになっている。なんだか『サイコ○ン』のようだ。魔力と現代技術が融合してSFマンガが出来上がってしまいました。
そのうち妹はスイッチを切り替えて徹甲弾モードで射撃を開始する。魔力弾が盛り土の的の内部に貫通してその中で爆発をする。土の的は一瞬で破壊されてもうもうと土煙を上げているよ。あれはかなりヤバそうだな。美鈴のシールドをまとめて50枚くらいは叩き割りそうだ。フィオの弾性結界でも持ち堪えられるかわからないぞ。当然戦車や装甲車が相手でも一撃で葬れそうだ。
こうして4人の射撃練習が終了を迎える。妹は完全に別格として、他の3人もそれなりに照準を合わせられるようになって手応えを掴んだようだ。
「さて楢崎訓練生、ずいぶん待たせたがようやくお前の出番だ。あそこにあるのがお前のために準備した装備だ」
司令官さんが指差す先にはさっきから目に付いていた11式対空誘導弾の発射車両がこれ見よがしに置いてあるんだけど、誘導ミサイルを発射する部分が取り外されて、代わりに長い砲身が載せられているぞ。
「こいつは11式の発射車両にレールガンの実証実験に使用していた砲身を換装した物だ。電磁力に耐えられるように作ってある分、普通の砲身よりも魔力への耐性が強いからな。撃ち落すのは日本に飛来する弾道ミサイルだ。今日はテストとして燃料切れになった光学衛星を撃ち落してもらいたい」
へっ? なんですって?! とんでもない司令官さんの無茶振りが始まりましたよ! 宇宙を飛んでいる人工衛星を撃ち落せって、どうなっているの?
「あとは技官の指示に従ってくれ」
はい、丸投げなんですね。俺に全部やれということですか。わかりましたよ、やればいいんでしょう。
半ばヤケクソな気持ちを抱えて俺は技官の説明を聞く。なんでも完全にコンピューター制御で目標に照準を付けて発射ボタンを押すだけらしい。意外と簡単だな。おっと、その前に砲身に魔力を充填しないといけないらしい。指示に従って魔石を利用したバッテリーのようになっている部分に手を触れて魔力を流していく。
うん、どうやら100万くらいの魔力が流れ込んでいったな。砲身は2本あるのでもう一方のバッテリーにも魔力を流していく。仕組み自体は小銃と変わらないそうだ。ただし俺は100単位の細かい魔力の出し入れができないので、こんな馬鹿デカイシステムの運用役に抜擢されたらしい。サバゲー愛好者としては銃の方が良いんだけど・・・・・・
「もうすでに照準はセットしてあります。あとはこのパソコンの画面で秒読みが開始されますから、ゼロになったらエンターキーを押してください」
超簡単でしたよ! すでに宇宙にある衛星の座標はインプットされているので、所定の時間になったらキーを押すだけらしい。
「10,9,8,7・・・・・・ 2,1,ゼロ」
それ、ポチっとな! 俺はタイミングに集中してエンターキーを押す。
ズドドーン! キーーーン!
空気を切り裂くように水蒸気の尾を引きながら2発の魔力弾は青空に向かって駆け上がっていく。ロケットの発射速度よりも圧倒的に速いな。周囲の大気を圧縮してプラズマの発光現象を引き起こしながら2発の魔力弾は進んでいく。魔力自体は重力の影響を殆ど受けないから初速を維持したまま大気圏を越えて見えなくなる。
おや、パソコンの画面でも魔力弾の軌道が確認できるんだな。どうやら真っ直ぐに標的に向かっているみたいだ。
「衛星の消滅を確認。実験は成功です!」
「そうか、これで弾道ミサイルに対する有効な迎撃手段の目途がたったな」
満足そうな司令官さんの表情があるけど、俺の装備は本当にこれなのか? こんなので良いのか?
確かに弾道ミサイルの迎撃というのは重大な使命だけど、もうひとつ腑に落ちない思いを抱える俺だった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は週の半ばを予定しています。
新たな武装を手にして新手の敵が・・・・・・ そんな展開かもしれません。
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