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25 日本海海戦 後編

前回の海戦の続きになります。果たして勝者はどちらになるでしょうか・・・・・・ 後半は主人公たちの話に舞台が移ります。



 国防海軍潜水艦そうりゅう型はスターリングAIPシステムとディーゼル機関を組み合わせてスクリューを駆動する。ディーゼルエンジンを停止した状態で航行すると限りなく無音に近い状態になるので、敵艦がソナーで探知するのは至難の業だ。AIPのみによって海中を低速で進み、中華大陸連合の艦隊の様子を伺いながら情報収集に努めている。



「ロシアの潜水艦隊がこちらの海域に接近しています。3時の方向距離120マイル、数8」


「長年太平洋艦隊を擁して我が国やアメリカと対峙していただけあって、ロシア海軍の方が多少は戦い方を心得ているようだな」


 ソナー員の報告を聞いて艦長の桜木さくらぎ 隆三りゅうぞう大佐が呟く。自衛隊時代から歴代の潜水艦を乗り継いできた生粋の潜水艦乗りだ。海図や海底地形を示すモニターがなくても、日本近海の海底を知り尽くしている。



「ソナー、ロシア潜水艦艦隊の魚雷発射のタイミングと進路を注視してくれ」


「了解しました」


 潜水艦は敵の艦隊に忍び寄って気付かれないうちに攻撃を加えるの海底の忍者だ。自国の艦隊に対して最も脅威となる艦から真っ先に攻撃を加えるのは言うまでもない。中華大陸連合の空母2隻を含む大艦隊に随伴している攻撃型原潜『商級』2隻と通常型潜水艦『キロ級』4隻がロシア太平洋艦隊にとっては最も脅威になる。その他にも攻撃型ミサイルを搭載している巡洋艦なども攻撃の対象に加えているだろう。



「中華大陸連合に動きなし」


「まだロシアの潜水艦を探知していないのか! お粗末過ぎるぞ、まもなく魚雷の必中距離だというのに」


 ソナーは一流の機器を装備していると言われているが、問題はソナーが拾った音を聞きつけた人間の判断力にある。優秀なソナー要員は一朝一夕には育たないのだ。ロシアの潜水艦から見て大艦隊の更に後方で息を潜めている『じんりゅう』がすでにその存在を探知しているにも拘らず、中華大陸連合の駆逐艦と潜水艦に全く動きがない様子に艦長は呆れ返っている。これでは何のために艦隊に随伴しているのかわからない。



「魚雷管注水音多数! ロシア潜水艦隊の飽和攻撃です!」


「魚雷の方向を見逃すなよ! エンジン始動、いつでもダッシュできるようにしておけ! 念のためにデコイを1番2番管に装填」


「すでに準備完了しております」


「いつもながら手回しがいいな。そのまま指示を待ってくれ」


「了解しました」


 魚雷発射室の対応に満足そうな笑みを浮かべる艦長、彼はロシアの潜水艦が万一自分たちまで探知していて、こちらにも魚雷を差し向けてくる可能性を考慮している。





 日本の潜水艦が深海に身を潜めて情報収集に努めている頃、海上を悠然と進んでいた中華大陸連合の艦隊はパニックに陥っていた。



「魚雷発射音多数、距離30! 全弾こちらに向かって接近中!」


「なんだと! 各艦回避行動開始! デコイを準備しろ!」


 必中距離から魚雷を発射されてからようやくソナー手がその音を感知して、大慌てで対応を開始している。その間にも50ノットで刻々と魚雷が迫ってくる。その数は16本、更に絶望的なソナー手の声が上がる。



「追撃の魚雷が更に発射されました!」


 ロシア潜水艦隊は有りっ丈の魚雷を撃ち込もうとしている。潜水艦隊だけで中華大陸連合の海上艦を全滅させる勢いで盛大に魚雷をぶっ放す。中華艦隊は魚雷の進行方向とは反対側に艦首を向けてジグザグに航行しながら回避を図り潜水艦はデコイを放つ。だがそこに更なる悲劇が襲い掛かる。



「敵ミサイル3時の方向から接近、本数は数え切れません!」


「迎撃ミサイル発射! 撃ち落せ!」


 ロシア太平洋艦隊は沿海州を荒らし回る中華大陸連合に対して怒り心頭だった。復讐心に燃えてノコノコと日本海に出てきた敵の艦隊を全滅させるために最初の一撃で有りっ丈の魚雷と叩き込み、そのタイミングに合わせてミサイル巡洋艦や駆逐艦からは大量のミサイルを発射していた。更に沿海州北部の地上基地からも第2波の夥しい対艦ミサイル群が飛来する。




 次々に襲い掛かる魚雷と対艦ミサイルの雨に海上海中を問わずに艦艇が被弾する。魚雷が船底で爆発して下から持ち上げる力が働いた駆逐艦が真っ二つに折れていく。


 海面下に魚雷が被弾して大穴を空けて傾いた巡洋艦に上空からミサイルが襲い掛かり、甲板に着弾して周辺に居た乗組員や艦上設備を吹き飛ばしながら火柱を上げる。


 デコイを掻い潜った魚雷が必死で逃げる潜水艦の後部に当たり、舵とスクリューを破壊しながら船体に大穴を空ける。海水が内部に流入した潜水艦は重量バランスが崩れて艦尾から海底に沈んでいく。そして深海の圧力に艦体が負けてぐしゃっと圧搾される。


 艦を捨てて救命ボートに乗り込む者や間に合わずに海に飛び込む者が大量に発生して付近の海域は阿鼻叫喚に包まれる。





「駆逐艦・藩陽轟沈! 銀川轟沈! 蘭州大破!」


「巡洋艦・徐州轟沈! 玉林航行不能! 衛水中破!」


 後方に退避していた空母2艘には次々と味方の艦船が被弾していく報告が伝わる。旗艦に居る艦隊司令官は予想以上の被害に唇を震わせている。このままでは本国に戻ってから責任を追及される。それだけで済めばいいが粛清の対象にされかねない危機が目の前に迫っている。



「発進した航空隊には敵艦隊の殲滅を期するように命じる。海の藻屑に変えるのだ!」


 2艘の空母に随伴する護衛艦は駆逐艦2艘と巡洋艦1艘、現在無事が確認されているのはこの場に居る5艘に過ぎない。未確認の艦も含めて艦隊のうち3分の2以上が被弾している状況は海戦としては大敗の部類に入る。


 もちろん司令官だけではなくて空母の幹部たちも一蓮托生の運命にある。艦橋では重苦しい空気が流れるのだった。






 再び国防海軍潜水艦じんりゅうの艦内、ソナーとXバンドレーダーで両国の艦隊の出方を伺っていた艦長の元に報告がもたらされる。



「中華大陸連合海上艦は殆ど動きを停止しています。ロシア側の飽和攻撃によって相当な被害を出した模様です。潜水艦隊は全艦魚雷攻撃によって海底に沈んでいます」


「そうか、今回はロシアを褒めておこう。それでは我々も仕事に取り掛かるとしよう。エンジン全開、目標中華大陸連合空母!」


 『じんりゅう』が動きを開始した様子を捉えて第1潜水艦群の僚艦もエンジンを始動させて空母が退避している海域に向かって動き出す。場所は現在地から南西に120マイルの位置だ。そうりゅう型4隻が等間隔で海中を進む。



「敵空母まで距離70マイル!」


「30マイルまで接近してから攻撃を開始する」


「了解! 1番から4番まで魚雷を充填します」


 魚雷室では慌しい動きが始まり魚雷がクレーンで発射管に送られていく。すでに空母の音紋は採取済みなのでインプットを終えている。音を追跡して60ノット(公表値)の快速で追いかけていくポンプジェット式のホーミング魚雷『12式魚雷改』だ。



「距離、40マイル」


「発射管注水開始!」


 魚雷発射管が海水で満たされていく。この時に僅かな音が発生するが、そうりゅう型はこの音を極限まで抑えているので探知されにくい。



「距離30マイル!」


「1番2番発射! 続いて3番4番発射! 1,2番にはすぐに次の魚雷を装填せよ! 3,4番は空けておけ!」


 発射管が開いて魚雷がスイムアウトしていく。じんりゅうは4発の魚雷を発射するとゆっくりと艦を回頭していく。空母を護衛する艦から反撃を食らう恐れがあるので、ヒットアンドアウェイでこの場をさっさと離れていく。僚艦も同様に魚雷発射後に艦首を回頭してじんりゅうに続いて戦域を離脱する。



「反撃の気配なし」


「どうやら対応に慌ててその余裕もないようだな」


 ソナーからの報告に艦長の桜木大佐はほっと胸を撫で下ろしている。



「多数の魚雷の爆発音感知! 位置は敵空母が遊弋している海域です」


「命中と判断していいだろう。任務完了! これより帰投する」


 4隻のそうりゅう型が放った魚雷合計16本は護衛する艦の必死の迎撃を掻い潜った約半数が2艘の空母に命中して巨大な水柱を上げて船底に大穴を空けていた。そのうちの1発は止めとばかりに船底で爆発して巨大な空母を二つ折にして轟沈させる。もう一艘も夥しい量の海水の浸入によって航行不能に陥り沈没は時間の問題だった。


 空母が撃沈された報告を受けた艦載機は爆装を海中に投棄して慌てて引き返す。戻るべき空母がなくなったからには、少しでも機体を軽くして燃料の残りを気にしながら最寄の基地に戻らないと墜落を免れないためだ。いち早く機首を旋回させて一番近い長春基地を目指した3分の2の艦載機が何とか無事に戻るのだった。

 



 こうして日本海海戦のドサクサに紛れて中華大陸連合の2隻の空母を沈めた第1潜水艦群は、呉基地に向かって日本海を西に進んでいくのだった。








 その翌日・・・・・・



「以上が衛星画像とAWACSが収集した情報を付き合わせた今回の日本海海戦の結果だよ」


「結果として中華大陸連合はウラジオストクの攻略に成功しましたけど、空母をはじめとする旗艦艦隊はほぼ全滅だったんですね」


 海の上は専門外とは言ってもこの海戦の結果は戦局に大きな影響を及ぼすので、知っておくべき知識として俺たちは八代大尉の講義を受けている。



「空母を一撃で沈めた日本の海軍は素晴らしいです! それにロシアもよく頑張って多くの中華民族を殺してくれました。神様に感謝します」


「アイシャ、日本には死んだ人にはたとえ敵でも哀悼を捧げる習慣があるんだ。戦死した魂にも祈ってやろうぜ」


「私にはムリです! むしろもっと多くの中華民族が死ねばいいと思っています。それが私たちの神の意思です」


 うん、全く話が噛み合わない。でもアイシャはその目で多くのウイグル人が圧制に苦しんでいる光景を目の当たりにしてきたんだから、こんな過激な発想になるのも仕方がないかもしれない。それに元々がウイグルの解放を目指す闘士だったし。これはお互いの立場の違いだからどちらが正しいとは決め付けられないだろうな。 


 今講義を行っている会議室には俺たち3人とアイシャに勇者とタンクが座って話を聞いている。いや、違った! 妹はぐっすり寝ていて全く話を聞いていない。その後ろには天狐が大の字になって床に寝ているよ。飼い主が飼い主だったら、飼い犬もこの態度! まったくどうにかしてほしいものだ。


 ちなみに天狐を飼い犬にするという話は例の少尉さんの説明によると、陰陽師たちの組織に激震をもたらしたそうだ。侃々諤々の議論の末にようやく式神と同じように扱うという結論が出たらしい。今のところは妹の目が届く駐屯地内から出さないという条件で人の世界で行動を認められている。朝一番で妹が地下通路のロックを開いて外に出して、夕方には祠に戻るという生活を天狐は送っている。なんでもあそこにある祠から長く離れていると妖力を失ってしまうらしい。



 さて、アイシャが物騒な発言をして場がちょっと冷え込んでいるので話題の転換を図ろうか。



「八代教官、長春基地からの航空戦力だけでも十分に勝ち目はあったのに、何でわざわざ空母艦隊まで動員したんでしょうか?」


「いい質問だね。他の訓練生はこの質問に関して何か思いつくかね?」


「たぶん国内の権力争いか予算の取り合いが絡んでいるでしょうね」


 さすがは美鈴さんだ。おっと、このところ俺が『~さん』付けで呼ぶとなんだか機嫌が悪いんだった。危ない危ない、注意しないといけないな。


 それにしても権力争いか・・・・・・ 予算の取り合いだったら日本でも多少はあるからまだしも、そんなつまらない意地で艦隊が全滅しちゃったなんて笑い話にもならないぞ。もっとも最後に止めを刺したのは国防海軍の潜水艦だ。表向きはロシアの攻撃ってことにしてあるけど、手柄を譲られたロシア海軍も逆に面食らっているだろうな。攻撃した覚えがない空母がいつの間にか沈没していたんだから、ラッキーとはいえ何か腑に落ちない点が残るだろう。



「おそらくその通りだろうね。独裁国家で出世するには権力者に気に入られなくてはならない。そのようなゴマを擦る人間が海軍の中枢部に居たんだろう。おそらくは今頃粛清の対象になっているだろうね。彼らは自国の海軍力を過大評価してロシアの海軍力を過小評価したんだよ」


 確かに教官が言う通りだな。ロシアは帰還者たちの攻勢には手を焼いているけど、こうしてひとつの海戦が終わってみると中華大陸連合に大きな打撃を与えている。その点ではいまだに東アジア地域における軍事大国と評価してもいいんだろうな。ただし戦争のフェーズが帰還者の能力を活用するという局面に移っているから、この点では今のところ中華大陸連合の優位は動かせないだろう。



 こうして八代大尉を交えて帰還者同士が様々な意見を交換しているうちに、午前中の講義の時間が終わりを迎える。



「おい、さくら! 昼食の時間だぞ!」


「むむ、このお腹の減り具合はまさしくお昼の時間だよ! ポチ、食堂にダッシュするよ!」


 俺の声に反応してガバッと起き上がった妹はまだ寝起き状態の天狐の襟首を引っ掴んで食堂に向かっていく。引きずられている天狐は両手をバタバタしているよ。どうやら襟元が首に食い込んで息ができないらしい。俺たちはそんな天狐にちょっと同情しながらゆっくりと食堂に向かうのだった。


 



次回からはまた主人公たちにお話の焦点が移ってまた新たなトラブルに巻き込まれます。どうぞお楽しみに!

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