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24 日本海海戦 前編

お話はいよいよ中ロの2国が日本海で激突します。話が長くなったので前後編に分割させていただきました。前半は海戦というよりも空戦です。



 渋谷での中華大陸連合の帰還者によるテロ事件が発生して以降、日本国内は『中華大陸連合の横暴に対して武力を用いてでも対抗するべきだ』という意見と『平和的な外交で戦争の危機を回避するべきだ』という意見が各メディアから様々な角度から流されていた。


 もちろん中立的な意見を述べる識者もいたが、概ね彼らは『日和見をしている』と逆に双方から攻撃されるケースが多かった。


 世論も当然2分されている。特に既存のメディアではなくてネットで情報を得ている50代以下の世代では『中華大陸連合を倒すべし』とか『日本を守るためには戦争はやむを得ない』という意見が圧倒的に強い。反対にネットに触れる機会が少ない60以上の世代からは『どんな理由があろうとも戦争には反対する』とか『憲法を再改正して戦争を禁止するべきだ』という声が強く寄せられていた。


 世代間の意見の食い違いは深刻で若い世代からは『情弱乙www』『お前たちが日本を駄目にしている』『いつまでも社会に影響を持っていると思うな! さっさと引退しろ!』『お前たちが色々と援助して中華大陸連合という怪物を育てたんだろう。責任を取れ!』といった60台以降の世代を攻撃する書き込みがあらゆるネット媒体に溢れた。




 このように日本全体で身近に迫っている戦争を巡る世論が揺れているさなか、メディアを通じた会見を終えた翌日に内閣総理大臣・山本宗太郎の執務室に国防大臣と統合幕僚長が訪れている。



「総理、中華大陸連合のテロならびにロシア沿海州方面への侵攻を受けて、統合作戦会議でまとめた当面の作戦案をお持ちいたしました」


「大臣、どうもご苦労さんでした。私も出席しなければならなかったが、何しろ片付けなければならない議題が山積みでね。詳しい話を聞こうか」


「それではご説明いたします。わが国に対して中華大陸連合が攻撃を仕掛ける可能性が高い場所が以下のように考えられます。尖閣諸島を含めた先島諸島と沖縄本島。朝鮮半島を経由した対馬並びに北九州。この2箇所に関しては石垣要塞と対馬要塞にそれぞれ陸上戦力1個師団を送って人員を増強いたします。海上戦力並びに航空戦力も同様に強化いたします。中華大陸連合の尖兵となっている旧韓国軍が占拠をしております竹島は機雷で封鎖いたします。ここまではよろしいでしょうか?」


「うむ、いいだろう。いまさら相手国を刺激するなどと悠長な話はしていられない。わが国の本気度合いを見せ付けてくれ」


「敵のミサイル攻撃に対してはすでに全土で対応を整えております。ただし弾道ミサイルに関してはまだ一抹の不安が残っております。この点に関しては統合幕僚長から補足がございます」


「私から補足いたします。ミサイル防衛につきましてはアメリカから導入したイージスショアと我が国独自の迎撃システム『天の岩戸』がございますが、このたび帰還者の能力を組み込んだ強力な迎撃システムの構築の目処が立ちました。しかも他のシステムとは違って驚く程の低予算で運用できそうです。具体的に言えば一桁金額が少ないと申し上げておきます。効果は既存の迎撃システムを上回る物と考えられます」


 ミサイルに関する防衛はかねてより日本にとって一番の懸案事項だった。巡航ミサイルに対する『天の岩戸』システムと弾道ミサイルに対するアメリカ製のイージスショアで迎撃率90パーセントと目されていたのだが、そこに強力な帰還者の能力を応用したシステムが加わると、ようやく100パーセント迎撃可能と胸を張れる。



「次にサイバー空間と国内にまだ潜んでいる工作員の・・・・・・」


 こうして統合幕僚会議の報告は総理大臣によって承認を得ていくのだった。その中には間もなく中ロ間で起こるであろう日本海での海上決戦に対する日本の対応策も含まれていた。







 話はさくらが天狐を飼い犬にした翌日の日本海に移る。



 空母2艘を要する中華大陸連合連合艦隊は日本海を進む。夏の日本海は比較的天候が安定して波も穏やかだ。それでも日本の出方を警戒して艦隊は自国の沿岸の領海に沿って北上していく。



「日本の艦艇に動きはないか?」


「海上並びに上空100マイル以内には姿がありません」


 空母のCIC(戦闘指揮所)からの問い掛けにレーダー室が返答を寄越す。レーダーには日本の航空機の姿や艦艇のシルエットは全く映っていなかった。



「どうやら腰抜けの小日本は我々の艦隊の姿を見て手を出すのを諦めたようだな」


「艦長その通りであります。小日本はヘリ空母を改装した軽空母は持っていても、我々のような正規空母は所持しておりません」


 これがよく有りがちなな中華民族の考え方だ。大きな物を持っていれば周囲は自分たちの威光を恐れてひれ伏すだろうという考え方が、空母の艦長という要職を務める人間の脳内にも刻み込まれている。時代がどう移り変わっても『自分たちこそが世界の中心』という中華思想に骨の髄まで取り付かれているこの民族の特徴だった。


 この考えが厄介な問題を引き起こす一例として、自分たちが世界の中心だからその周囲に住んでいる蛮族は好きにして構わないという発想に至るからこそ、あれだけ占領下の他国の人々に対して残酷な振る舞いができるという点が挙げられる。



「そうか、1時間後に艦載機の発進に取り掛かれ。攻撃目標はロシア軍太平洋艦隊」


「了解しました、準備に取り掛かります」


 甲板では艦載機発進準備のために慌しい動きが始まる。すでに爆装を整えた攻撃機と護衛のための制空戦闘機がパイロットが乗り込んだ状態で甲板にスタンバイしている。中華大陸連合が各国から技術を盗んだJ-15とJ-31が15機ずつ、どちらもロシア製エンジンに不安があって果たして本当に使い物になるのかと囁かれている迷機だ。ただし搭載しているミサイルとレーダーをはじめとするアビオニクスはオリジナルのロシア製を上回っている。これはアメリカやヨーロッパの技術をハッキングした賜物だった。



「艦長、長春基地を飛び立った航空部隊が間もなく一足先にウラジオストクを爆撃します」


「そうか、我々も動く時間だな。全機発進! 索敵を厳にせよ」


 蒸気式カタパルトに誘導されたJ-15のエンジンからキーンというエンジンの音が甲板に響き渡る。カタパルトで加速された機体はアフターバーナーの尾を引いて大空に飛び立っていく。



 こうして2艘の空母が次々と艦載機を発進している頃、ロシアのハバロフスク航空基地とユジノサハリンスクを飛び立ったミグ24、スホーイ31、スホーイ35などの編隊が続々と中華大陸連合の航空隊と艦隊を目掛けて押し寄せてくる。シベリア東部のチタからも増援を得てこちらも全力出撃をしている。



 更にまだ無事な沿海州北部からは長春基地を発進してウラジオストクを目指す航空隊200機目掛けて多数のミサイルが飛来する。



「ミサイル接近! 迎撃せよ!」


「了解!」


 迫ってくるロシア製9K37ミサイル『ブーク』は全長5.5メートル、同時に6個の目標を迎撃可能な性能を誇っている。対してステルス機のJ-25は敵ミサイルの進路を大きく左右に迂回して、代わって空対空ミサイルを搭載したJ-15が前面に出る。



「迎撃ミサイル発射!」


 J-15が翼下に搭載するPL-12がマッハ4の速度でロケットエンジンを燃焼しながら飛び出していく。目標に向かって誘導されると近接信管が働いて標的を爆破する。大空にそこだけ花が咲いたように点々とミサイル同士が対消滅する光景が浮かび上がる。


 だが中華大陸連合の飛行隊も一部が迎撃に失敗して護衛機のJ-15が17機撃墜される。



 僚機が被害を出したのを尻目にステルス性能を生かしてミサイルの進路を迂回したJ-25のレーダーにはロシアの航空隊の影が映り込む。



「敵の航空機を発見! 各自割り振りにしたがって誘導ミサイルを発射!」


 戦術コンピューターが各機に目標を自動的に割り振ってロックオンする。パイロットは発射スイッチを押すだけでミサイルは目標に自動的に誘導されていく。



 レーダーの差で先手を取られたロシア航空隊は迫り来るミサイルを回避しようと懸命の操縦をする。海面ギリギリまで高度を下げたり急旋回で何とか追尾の手を逃れようとするが、接近するミサイルを振り切れずに3分の1が撃墜される。



「クソッ! 全部予算をケチった中央政府のせいだぞ!」


 悪態をつく生き残ったパイロットの言葉通り、レーダーの改修と近代化が大幅に遅れていたロシア航空軍は大きな被害を出している。なお進入して来ようとする中華大陸連合を阻もうとするが、ミサイルの回避で大幅に燃料を消費して已む無く引き返す道を選ぶ。双方の機体に航続距離の差は殆どなかったのだが、長春を飛び立って一旦牡丹工で給油を受けた中華大陸連合機に対して、約倍の距離のハバロフスクや4倍の距離のユジノサハリンスクから飛来したロシア軍機には燃料の余裕がなかった。



 こうして迎撃を排除したJ-25約100機はウラジオストクに接近すると、ウエポンベイを開いて格納してあった誘導ミサイルを次々に発射する。目標はウラジオストクの軍港と郊外にある軍事拠点だ。更に後続の大型のH-6爆撃機が国境付近からKD-88空対地ミサイルを発射する。こうしてウラジオストクのロシア軍の拠点は完膚なきまでに叩き潰されるのだった。






 同じ頃、艦載機を発艦し終えた中華大陸連合の空母は戦域の後方に退避を開始する。空母自体の防御力は無きに等しいので、艦載機が載っていない空の状態では全くの役立たずだ。



「艦長、ウラジオストク爆撃が成功しました。あとはロシアの太平洋艦隊を我々が仕留めれば、相手の残存戦力は高が知れています」


「うむ、こうして我が国の大艦隊が出てきたからにはロシア艦隊も動かざるを得ないだろう。勝利は目前だ」


 艦長は何が起こるかわからない戦場ですでに勝利を確信している。そもそも大艦隊がやって来たからそれを艦隊で迎え撃つという発想が、第2次世界大戦当時から思考停止していると言わざるを得ない。それも揚陸艦を随伴しているのならば敵地への上陸が目的だろうと考えられるが、その姿がないところからして中華大陸連合は単なる艦隊決戦を挑みにここまで出張ってきたようだ。


 大陸国家の悲しさで、空母の有効な運用法が理解できていなかった。それもアメリカのように超大型の原子力空母を同時に3艘送り付けて200機を超える艦載機が睨みを効かせるならばともかくとして、2艘で合計60機の艦載機では戦力としても中途半端な気がする。



「レーダーより、ロシアのミサイルが100機以上こちらに殺到しています!」


「ミサイル巡洋艦に迎撃させろ!」


 旗艦の指示で随伴している巡洋艦のミサイルハッチが開く。この迎撃システムは日本やアメリカのイージスシステムを参考にして旧中国が独自に開発したものだ。もちろんその裏にはスパイやハッカーが大いに活躍していた。



 垂直発射式のミサイルランチャーからHHQ-10近SAMミサイルが次々に発射されて、接近してくるロシアの対艦ミサイルを叩き落す。唸りを上げてファランクスが20ミリ弾を吐き出していく。こうしてロシアが放ったミサイルの大半を叩き落すが何しろ数が多い。


 当然迎撃の網を掻い潜ったミサイルがいくつか船体に激突して爆発音を轟かせる。



「駆逐艦・昆明中破! 駆逐艦・長沙大破!」


「巡洋艦・徐州中破!」


「空母には異常ありません!」


 各艦に通信が行き交い被害の状況が報告される。ミサイルの攻撃を受けた艦は必死で消火活動と浸水を食い止めようとしている。




 その頃、約30マイル離れた海底に潜んでいる国防海軍潜水艦〔じんりゅう〕の船内ではソナー員が報告する声をあげている。



「海上の中華大陸連合艦隊から爆発音、ミサイルを被弾したものと思われます。昆明、長沙、徐州の3艦は減速します」

 

「おいおい、あれでもナンチャッてイージスシステムを導入しているんだろう。撃ち漏らしが出るとはお粗末過ぎるぞ」


「しょうがないだろう。仮にシステムが完璧でも動かしているのがあの適当な性格の連中だ。撃ち漏らしぐらい出るだろう」


 帝国海軍はかつて『百発百中』をスローガンに掲げて猛訓練に明け暮れて、第1次世界大戦から第2次世界大戦の初頭までは世界最強の海軍だった。国防海軍になった現在もその伝統は引き継がれており、『当たって当然、外したら切腹もの』という冗談が飛び交う空気が訓練の時から流れている。


 それだけに中華大陸連合艦隊の防御のお粗末さを余計に不甲斐なく感じているのだった。



「まあそれでも艦隊の大部分は残っているようだから、引き続き情報収集に当たろう」


 こうしてじんりゅうは海の底に身を潜めながらじっと耳を凝らして海上の様子を探っていくのだった。




最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回は当然日本海海戦の後編になります。どのような形で両国の決着がつくのか、そして日本の対応は・・・・・・ という感じでしょうか。



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