225 温泉を楽しもう!
本日は2話投稿します。続きは夕方頃の予定ですので、どうぞそちらもご覧ください。
異世界にいる聡史たちは……
オーガの討伐から三日間、俺たちは街にある宿屋に逗留して、現在は朝食時間を迎えている。
「兄ちゃん! この国は実にいい所なんだよ! お米が食べ放題だからね!」
「さくら! 米はたくさんあっても、お櫃の中はあっという間に空っぽだぞ!」
俺たちがやってきた西海国は方々に水田が広がっており、住民の主食は米だった。日本人としては大変ありがたい話だ。妹のアイテムボックスには日本から持ち込んだ米が入っていたが、何しろ大量に消費する人間がいるおかげで、そろそろ心許ない状況となっていた。
通りにある米屋を覘くと、俵に詰められた米がうず高く積まれていた。もちろん、買えるだけ買い込んでおいたぞ!
しかもこの国の人々の『旨い米が食べたい!』という情熱はどうやら日本人と共通しているようで、試行錯誤しながら品種改良されたコシヒカリと遜色ない天然有機栽培のコメが豊富に流通している。
近頃は〔魔力栽培〕なる農法まで開発されて、イネに魔力を取り込ませることによって病虫害を防いで、収穫量をさらに増やしているそうだ。米農家の皆さん、本当にありがとうございます。皆さんの努力によって、俺たちは旨い米にありつけています!
だが、こんな俺たちの中にあって、一人だけ戸惑った表情の人物がいる。もちろんそれはアリシアだった。元々東欧に住んでいた彼女は、米を口にする機会などほとんどなかった。主食はパンが当たり前であり、米を主食にする生活に慣れていないのだ。おまけに箸を手にするその手付きが、実にぎこちない。俗にいう握り箸になっている。
「食べにくい!」
アリシアがポツリと漏らした感想であった。
そんなアリシアに対し、ホカホカご飯を前にして食欲の猛威を振るっている妹はといえば……
「美鈴ちゃん! この卵をきれいにしてよ!」
「はいはい! クリーン!」
妹が手にしているのは、今朝のランニングの最中に偶然発見したニワトリを飼っている農家で手に入れた朝採りの有精卵だ。いくら状態異常無効化のスキルがあっても、このままでは生で食べるのは、衛生上好ましくはない。
そこで、美鈴が魔法で卵の汚れや細菌などを取り除く。こうすることで、日本の卵と同等の清潔な生卵が出来上がる。
「久しぶりの卵かけご飯なんだよぉぉぉ!」
妹が手にするドンブリには、殻を割った生卵が三個載せられて、そこに地元で醸造されたしょう油を垂らすと一気にかき混ぜる。こうして出来上がった卵かけご飯を、妹は掻き込んでいく。その表情は、日本人に生まれて本当に良かったと、ピカピカに輝いているのだった。だが……
「た、卵を生で食べるのか……!」
対してアリシアは、その光景に言葉を失っている。彼女の常識では、卵は火を通して食べるものだった。これがカルチャーギャップだよな。同じ地球に生まれても、こうして出身地が違うだけで食習慣に大きな差が出る。
ましてや、異世界では生活習慣から文化水準、人々の考え方、命の価値など、何から何まで全てが日本とは違うのだ。
だからこの国のような日本と共通する風習や生活様式に出会うと、心から落ち着いた心地になってくる。
こうして、アリシアにとっては驚きの光景だった朝食は無事に終了して、身支度を整えた俺たちは馬車に乗るのだった。
馬車に乗ってのんびりと街道を進む。行き先は、もちろん招待を受けている温泉宿だ。
街の住民の皆さんに対する営業再開は明日以降なのだが、俺たちはオーガを討伐した恩人ということで、一日早い温泉を楽しむこととなっていた。
オーガの集落討伐の際に一度通った道だから、馬車は迷うことなく順調に進んでいく。三時間も経たないうちに、目的地である温泉宿が見えてきた。先日馬車を置かせてもらった宿からもう少し先に進んだ場所に、その宿がある。
歴史を感じさせる木造の建物ではあるが、いかにも老舗の風情を漂わせているな。この前外から見た感じでは、宿の従業員が街に避難していたせいで埃を被って薄汚れた印象だったが、今は外観も磨き上げられてピカピカになっている。
「「「「「「いらっしゃいませ~!」」」」」」
馬車を馬小屋に預けて広い玄関から中に入ると、そこには和服とよく似た装束を着込んだ女性従業員が勢揃いで出迎えてくれた。揃いの着物にたすきを掛けて前掛けをしている姿は、実は日本にいるのではないかと、ついつい勘違いをしてしまう。
部屋に案内されると、そこは畳敷きの純和風の部屋だった。襖や障子まであるのにはさすがに驚いたな。俺と親父が同室となっており、女子たちは全員が最も広い部屋に通されている。
5人もまとまって一部屋で泊まるとなると、ちょっとした修学旅行気分かもしれない。普段は街中の宿屋か、美鈴が用意するコテージ風の宿泊施設に寝泊まりしているが、その際は二人で一部屋が基本となっている。いってみれば、ホテルに宿泊しているようなものだ。
だが今日だけは、いつもとは違う雰囲気を堪能するぞ! 特にベッドではなくて、床に敷いた布団に寝られるのが、実に新鮮な感覚だよな。日本でもベッドで寝る生活を送っているにも拘らず、こうして畳の部屋にいるだけで、落ち着いた心地になってくるんだ。
昼近くの到着だったので、腹を減らした妹が、俺と親父を呼びにくる。
「お父さん! 兄ちゃん! 近くに温泉名物を食べさせてくれる店がるんだよ! すぐに出発するからね!」
俺たちは、妹に手を引かれて玄関に向かう。すでに女子たちは全員が集結している。美鈴が、そっと俺に耳打ちしてくれた。
「さくらちゃんに急かされて、全員お茶も飲まないうちに外に出されたのよ」
「それは災難だったな」
食べ物を前にした妹の行動は、迅速を通り越して疾風怒濤と表現するのが適切だ。気の毒な女子たちは、妹の勢いに負けてこうして急き立てられるかのように、玄関に集合していた。
皆で外に出て、10軒ほどの宿が軒を並べる温泉街を歩いていくと、お目当ての場所が見えてくる。茅葺の東屋風の建物の中には、イスとテーブルが並べられている。
「いらっしゃいませ~! 何名様ですか?」
「7人なんだよ! 温泉名物が食べられると聞いて、大喜びで来ちゃったよ!」
愛想のいい店員さんに出迎えられて、俺たちは一番大人数が座れるテーブルに案内される。食べ物が懸かると行動が早い妹は、ヨダレを垂らさんばかりの勢いで食い付いている。
案内してくれた店員さんが、お茶を運びながら料理の説明をしてくれるようだ。
「メニューは、その日に採れた素材によって変わります。本日はイノシシの肉ですが、よろしいでしょうか?」
「いいねぇ! なんだか楽しみになってきたよ!」
「あちらに温泉の蒸気が噴き出ている場所がござます。天然の蒸気で蒸しあげたお料理を、どうぞお召し上がりください」
「取り敢えずは、10人前持ってきてもらえるかな。あとでお代わりもするよ!」
「7人様ではないんですか?」
「あれ? 少なかったかな?」
「そういう意味ではございませんが…… はあ、わかりました」
店員さんが、怪訝な表情で戻っていく。実際に料理が運ばれてきたら、なぜ妹が10人前注文したのか、その理由がわかってくるはずだ。
しばらく待っていると、地元の野菜とイノシシ肉の蒸し物、山菜おこわ、山菜の天ぷら、野菜の煮物、お椀などが、次々に運ばれてくる。
「とっても美味しいんだよぉぉ! 特にこのおこわが絶品だね!」
妹の箸は、一瞬たりとも止まることがない。というよりも、箸の動きが見えない。右手を高速で移動させながら、次々に料理を口に運んでいる。
どれ、俺も箸をつけてみようか。うん、素朴ながらも素材の良さが生かされているな。ポン酢に似たタレをつけると、野菜が持っている旨味と相まった味のハーモニーが口の中に広がってくる。イノシシの肉も余分な脂が落ちて、あっさりした味わいかつ、口に中に入れた瞬間ホロリと崩れていく柔らかさだ。
普段は野菜を後回しにする妹が、人が変わったようにパクパク食べているくらいだから、相当美味いのだろう。
そこに、再び店員さんが姿を見せる。
「お客様は、お手持ちの食材はございますか? もしよろしければ、あちらの蒸籠で蒸しましょうか?」
「おお! それはとっても嬉しいんだよ! 実は、こんな物があるんだ!」
妹がアイテムボックスから取り出したのは、ジェマル王国を旅する間に討伐したジャイアントシープの肉の塊だった。アイテムボックス内は時間が停止しているので、解体時の新鮮さを保ったままだ。
「これは見事な肉ですね! 見たことがないほどの新鮮さを保っています。一旦こちらでお預かりいたします」
店員さんは肉の塊を大皿に乗せると、手際よく蒸籠の中に入れてくれる。そのまま待っていれば、地面から噴き出す蒸気が調理してくれる。
「お待たせしました」
布巾を手にして熱々の皿を運んでくれた上に、手持ちの小型の包丁できれいに切り分けてくれる。痒い所に手が届くサービスぶりだ。ひょっとすると、これがおもてなしの心というやつではないだろうか?
「ふむふむ、この肉にはこっちのタレが合いそうだね!」
蒸しあがった羊の肉を一口食べた妹は、マイ焼肉のタレを取り出す。
「お客様、そちらのタレは、どのようなお味なのですか?」
「フフフ、これこそが、さくらちゃんの国に伝わる秘伝のタレなのだぁぁ! お姉さんもちょっと味見をしてみるかな?」
「ぜひともお願いします!」
きっと仕事熱心なんだな。店員さんは、焼肉のタレをつけた羊の肉を口にして、目を真ん丸に見開いているぞ。それよりも妹よ! 秘伝のタレではなくって、ただのエバ〇焼肉のタレだろうが!
こうして、温泉名物の昼食が終わって、俺たちは店を出る。
お会計の時に店員さんは、絶対にあのタレを再現してみせると、宣言していたぞ。どうか頑張ってもらいたい。
美味しい料理で腹が満腹になったので、散歩がてらその辺を歩いていると、『この先、志賀湖』という表示を発見する。
行ってみると、相当広い湖面が広がっている。
いくつもの桟橋があって、漁師さんたちが網の手入れを行っている様子が遠目に見えてくる。
この地方に水田がたくさんあるのは、この湖が水源地となっているんだろう。
「兄ちゃん! あれは何だろうね?」
妹が指をさす先には、一段低い桟橋が設けられており、そこには次のような表示がある。
〔観光たらい舟〕
行ってみると、本当にたらいに乗ってオールで漕ぐ舟だった。そのまんまじゃん!
「面白そうだから、乗ってみるんだよ!」
「そうね、乗りましょうか」
妹と美鈴が率先して、係のおじさんに料金を払ってたらいに乗り込む。
「ガンガン漕ぐんだよぉぉ!」
妹はオールを巧みに操って、猛スピードで岸から遠ざかっていく。そして、美鈴は……
「ちょとっと不安定ね。表面張力減少! 重力低減! 物質硬化!」
湖面とたらいに魔法を掛けている。
「水流制御!」
その一言とともに、たらいはモーターボート並みの速度で湖面を滑るように滑走する。しかも美鈴自身たらいの上に立ったままで、水流を操りながら牽引なしのジェットスキーを楽しんでいる。こんな無茶苦茶な乗り方を初めて目撃した係のおじさんは、口をポカンと開けたままだ。
しかし、これは羨ましい! つくづく、魔法が使えない不便な自分が悔やまれてくる。魔法がこんなアトラクションに役立つなんて、俺自身思いもしなかった。大魔王様の発想には、驚かされてばかりだ!
しばらく湖面を華麗に滑走していた美鈴が、桟橋まで戻ってくる。
「もう一人乗れるから、私の後ろに立って!」
「面白そうだから、やってみよう!」
最初に立候補したのはアリシアだった。二人乗りのたらいは、湖面を縦横無尽に滑っていく。ほとんど波が立たないのは、美鈴の魔法制御の賜物だろう。
寡黙な印象のアリシアには珍しく、キャーキャー黄色い歓声を上げている。ドラゴンの精神を宿していても、その実は普通の女の子なんだな。
アリシアの番が終わると、カレン、明日香ちゃんの順番でたらいに乗る。
二人が終わると、美鈴は俺の顔をじっと見つめる。無言で俺に、『後ろに乗れ!』と言っているんだな。よし! そのリクエストに応えてやろうじゃないか!
俺は美鈴の後ろに立って、腰の辺りに手を回す。
「もっとギュッと掴まっていないと、振り落とされるわよ!」
「わ、わかった」
美鈴と体が密着するくらいに両腕に力を込めて、背後から抱きつくような姿勢をとる。
ま、まあ、南大東島の件もあるし、こうして密着するのは別に構わないのだが、カレンや明日香ちゃんが見ているのは、どうにも照れ臭い。
こうしてしばらくの間、スピードとスリルと密着感に身を委ねる。終わって桟橋に戻る途中で、美鈴が振り返って俺の耳元で囁いてくれた。
「聡史君、とっても楽しかったわ」
「ああ、俺も」
こうして俺たちは、夕方が近づくまで湖で遊ぶのだった。
夕食後……
すっかり日も暮れて、俺たちは待望の温泉へと向かう。このためだけに、わざわざオーガの集落を滅ぼしたんだから、心行くまで浸かってやる。
もちろん男湯と女湯に分かれており、別々に脱衣所が設けられている。脱衣所の手前は、湯あたりしないように一休みするベンチが置かれて、飲み物を購入する売店などもある。
俺と親父は手渡された手拭いを手にして脱衣所に入り、スッポンポンになると早速湯船に突撃を敢行する。おっと、その前に掛け湯は温泉マナーの基本だよな。
黒い玉石を敷き詰めた床の先には、大きな岩を組み上げて作った湯舟がある。30人が一度に入れる大きな湯舟を、今だけは俺は一人で独占だ。もちろん露天風呂なので、見上げる夜空には満点の星が煌めいている。
「聡史、湯加減はどうだ?」
そこへ、親父がやってくる。肩に手拭いを引っ掛けて、股間をブランブランさせながら歩いてきやがる! 見苦しいから隠せよ!
親父は広い湯船にも拘らず、わざわざ俺の隣まで来て、お湯に体を沈める。しばらくは二人とも無言だったが、親父のほうから話を切り出す。
「聡史、お前たちから多少は異世界の話を聞いてはいたが、行方不明になっていた間、お前たちはこんな苦労をしていたのか?」
「ほう、親父も多少は理解したんだな。でも、この程度は苦労の範疇には入らないかもな。以前渡った異世界は、こんな生易しいものではなかった」
「そうか…… 自ら経験しなければわからないことが、世の中にはあるんだな。俺もこの年になって、ようやくそれが理解できたぞ」
「まあ理解できただけでも、いいんじゃないのか。それよりも、年甲斐もなく無理をするんじゃないぞ。親父の命くらいなら、俺たちがしっかり守ってやるからな」
「父親のプライドがズタズタになるフレーズだな。仕方がないから、日本に戻るまでは息子に従ってやるよ」
その後、俺たち親子はたわいもない話をしながら、体が芯から温まるまで温泉を満喫した。
服を着て脱衣所を出ると、ちょうど妹が売店で飲み物を買っている。なんだかコーヒー牛乳によく似た色をしているな。ビンの形までそっくりだぞ。
「おや? 兄ちゃんとお父さんは、いつの間に出てきたのかな。それよりも、この飲み物が美味しいんだよ! さくらちゃんなんか、もう3本目だからね!」
あきれたヤツだ! 風呂上がりに、コーヒー牛乳を3本も飲み干そうとしているのか! 俺たちが見ている前で、妹は作法に従って腰に手を当てて、グビグビ飲んでいく。鼻の下に薄っすらと茶色っぽいコーヒー牛乳の痕跡を残すなんて、完璧じゃないか!
「ぷはぁぁぁ!」
うん、締めの一声まで、温泉上がりのコーヒー牛乳道を極めているな。どれ、俺も1本飲んでみようか。
ビンについているフタを開けて、腰に手を当てて一気に流し込む。
おや? この味わいはコーヒー牛乳ではないな。ちょっと苦みが強いがココアに近い味だ。ミルクも牛乳ではなくて、ココナッツミルクのような植物性の味がしてくる。でも、甘みと苦みとミルクのバランスが程よくマッチしているな。
「兄ちゃん! どうだった?」
「イケるな! 美味いぞ!」
「そうなんだよ! さくらちゃんはもう1本行こうかと迷っているんだよ!」
「トイレに起きるぞ!」
「しょうがないから、止めておくよ」
温泉牛乳の儀も終了して、俺たち親子3人はベンチに座り、涼みがてら他の女子たちが上がってくるのを待つ。
だがその時、女湯から突如異変が……
「「「「キャァァァァァァァ!」」」」
脱衣所を隠すノレン越しにも、はっきりとわかる女子たち全員の悲鳴のカルテットだった!
「どうした?! 魔物か?! 敵襲か?!」
とっさに俺と妹は、後先考えずにノレンをくぐって女湯に突入する。
「あ、あれ! あそこに!」
あれだけ気丈な大魔王様が、身に何も巻き付けていない生まれたままのお姿で、真っ青な顔をして壁際の一点を指さしている。
そこには……
テカテカ黒光りして、俊敏に床を這いながら、時には羽を広げて空に飛び立つ、あの誰もが嫌悪感を抱く姿……
ゴキ野郎が、シャカシャカと床を這いまわっているのだった。
「すぐに成敗するぞ!」
俺が動こうとする横から、小柄な影が飛び出していく。
「ふん!」
パシッ!
妹は、自分が履いていたスリッパを右手に握りしめて、一撃の下にゴキ野郎を叩きのめしていた。見事な手際といえよう!
引っ繰り返って体から気味の悪い中身をはみ出させたまま、ゴキ野郎は昇天した。これで女湯の平和は取り戻されたな! よかった、よかった!
「なんで聡史君までいるのかしら?」
おや? 辛うじて手拭いで体を隠した大魔王様から、氷よりも冷たい響きのお言葉が下されたぞ。
一つ息を吸って、気持ちを落ち着けてから周囲を見渡すと、美鈴の横には何も身に着けていないカレンが、こちらを向いて立っている。
「我が神よ! このような粗末な体でよろしかったら、いくらでもご覧くださいませ!」
ありがとうございます! それではじっくり…… じゃないから! 神々しいお体を拝見している場合じゃないんだ!
カレンの斜め後ろには、アリシアが涙目で立っている。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのまましゃがみ込んで、何とか俺の目からその裸体を隠そうとしている。それにしてもアリシア…… まだ生えていなかったんだな。ドンマイ!…… って、違ぁぁぁぁぁう!
さらにアリシアの後ろには、明日香ちゃんが気を失って床に寝ている。うまい具合に体の上に手拭いが掛かっているため、ギリギリ何とかセーフだ! だが、わき腹が少々垂れ下がっているのは、注意したほうがいいぞ!…… そうじゃないだろうがぁぁぁぁ!
様々な場所に俺の目を楽しま…… ゲフンゲフン! 目のやり場に困る光景が広がっている。俺がそちらに気を取られていると、音もたてずに死角から近付く影が……
「兄ちゃんは、引っ込んでいるんだよぉぉぉ!」
妹の手加減なしのパンチが、俺のどてっ腹を貫く。魔力バリアが割れるパリンという音とともに、息もできない強烈なダメージが襲い掛かり、俺の体はノレンの下を通り抜けて、休憩所までゴロゴロと転がり出ていった。
「聡史、生きているのか?」
「お、親父…… し、死ぬ!」
ようやく絞り出したその声とともに、俺は意識を失うのだった。
夕方投稿の次話は、舞台が変わります。オマケもありますから、お楽しみに!




