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215 司会進行は、さくらちゃんだよ!

奴隷となっている人たちを助け……

 奴隷商人の商館へ乗り込んださくらは……



「アリシアちゃん! ここも全員救い出したね」


「口ほどにもない連中だったな」


 二人でガラの悪い用心棒を片っ端から叩きのめして、囚われていた奴隷の人たちを助け出したんだよ! やっぱり、獣人やエルフの血が混ざった人たちばかりだったね。


 ついでに、金庫にあった金貨と取引関係の書類を押収したよ。奴隷取引の大元を断つ重要な手掛かりだからね。


 美鈴ちゃんに渡せば、奴隷売買組織の解明に役立つと思うよ。


奴隷商人は『警備隊に連絡しろぉぉ!』と、喚き散らしていたけど、もうこの街には警備隊なんか存在しないんだよ! 残念だったね。


 

 さあ、私たちが拠点としている宿屋に向かって出発するよ! この街にあった奴隷商の商館は2軒だったけど、すでに両方とも商売を再開できない程度に破壊しておいたからね。さくらちゃん的には、ひと暴れして気分がスッキリしているんだよ。


 3台の馬車に20人近くの人たちの乗せて、馬車は宿屋に戻っていくよ。この人たちは、奴隷にされた期間が比較的浅いんだけど、中には遠い場所から連れてこられて、体が弱っているケースもあるから、一応全員カレンちゃんに回復してもらったほうがいいよね。


 私たちが商館に乗り込んだ時には、自分たちの身はどうなるのかと心配顔だったけど、今はみんな落ち着いて、晴れて自由になった喜びを、周りの人と分かち合っているようだね。


 結構結構! さくらちゃんが骨を折った甲斐があるよ。




 こうして、馬車は宿屋に到着するよ。


 私たちが止まっている宿屋は、先に救出した元奴隷の人たちを収容しているから、すでに満室だね。ちょうど隣にも宿屋があるから、全員こちらに泊まってもらうように手配するんだよ。



「いらっしゃいませ! ご宿泊ですか?」


「そうだよ! 20人が1週間ここに泊まるからね」


「そ、そんなに大勢ですか?」


 カウンターに立っている受付の人が、ビックリした表情を浮かべているね。でも大口の客が入って、急に笑顔を取り戻したよ。



「宿泊料金は前払いで渡しておくんだよ」


「そう致しますと、〆て金貨70枚になります」


 ふむふむ、一人1泊当たり銀貨5枚だね。まあ、相場通りだからいいかな。



「それじゃあ、金貨80枚払っておくよ。余った分は料理の追加料だよ。美味しいものを食べさせてもらいたいからね」


「かしこまりました」


 さくらちゃんは、軍資金として大量の金貨を領主と奴隷商人から押収したからね。ついつい気前が良くなっちゃうんだよ! それよりも、みんな奴隷として連れてこられて苦労したから、ちょっとくらい美味しご飯を食べさせてあげたいよね。美味しいご飯をいっぱい食べれば、元気になるしね!



 こうして、助け出したみんなを宿屋に収容すると、さくらちゃんは、兄ちゃんたちの所に戻るよ。



「あら、さくらちゃん! おかえりなさい」


「美鈴ちゃん! ただいま!」


「アリシア、妹に付き合わせてすまなかったな」


「別にいいい」


 アリシアちゃんは、口数が少ない子なんだよ。いつも、最低限の返事しかしないんだ。特に兄ちゃんに対しては例の件もあって、いまだによそよそしい態度なんだよ。これはきっと、兄ちゃんの反省が足りないせいだよね!


 あたりはすっかり日が暮れて、そろそろ夕ご飯の時間だね。今日は夕方から動きっぱなしだったから、屋台で食べた料理は、すっかり消化されちゃったよ!


 早くご飯の時間にならないかなぁ……





 夕食後……


 ふう、お腹がいっぱいで、あとはお風呂に入って寝るだけだよ。今日も充実した一日だったね! 


 おや、兄ちゃんが何か言いたそうだね。



「さくら、助け出した人たちを、どうするつもりなんだ?」


「それは、明日になってから発表するよ! もう眠いから、さくらちゃんはお風呂に入って寝るんだよ!」


 こうして、さくらちゃんの一日は過ぎていくのでした。それでは、おやすみなさい。ZZZ……









 翌日……



 朝ご飯が終って、さくらちゃんたちは、食堂の一番奥のテーブルに集まっているんだよ。


 今から、さくらちゃんが考えた奴隷解放作戦を発表するからね。なにしろ、天才さくらちゃんが考え出した素晴らしい作戦だからね。聞いてからビックリするんじゃないんだよ!


 出来れば〔朝まで生テレビだよ!〕みたいな感じで、活発な議論を期待したいよ。みんなの意見も取り入れつつ、より良い作戦にしていきたいからね。


 司会進行のタワラさん張りに、このさくらちゃんが仕切っていくからね! 



「それじゃあ、聞いてもらおうかな! さくらちゃんは、この国に捕まっている奴隷を一人残らず助けるつもりなんだよ!」


 ほらほら、あまりに壮大な作戦だから、みんな『まさか!』という表情をしているよ! ドッキリに引っかかっても、ここまでオーバーなリアクションは取れないだろうね。



「さくら、ずいぶん大きく出たな。本当に大丈夫なのか?」


「さくらちゃんに任せておけば、バッチリなんだよ!」


 兄ちゃんは眉間にシワを寄せて考え込んでいるけど、そんなに考え込んでいるとストレスでハゲるからね! 目の前には、将来の兄ちゃんの姿である、ツルッパゲのお父さんが座っているでしょう!



「それじゃあ、具体的なプランを聞かせてもらいましょうか」


「美鈴ちゃんは、兄ちゃんとは違って、考え方に柔軟性があるんだよ! さすがは、大魔王だね!」 


 あれ? 褒めたつもりだったのに、美鈴ちゃんは、今にも高価なツボを売りつけられそうな困った表情になっているね。


 もっといっぱい褒めてもらいたいのかなぁ? うん、きっとそうだね! さくらちゃんは、そうだと睨んでいるんだよ!



「それじゃあ、作戦の概要だよ! まずはこの街に1週間滞在して、その間に奴隷となっている人たちを、私たちの所に連れてきてもらうんだよ!」


「どうやって人を集めてくるのかしら?」


 どうやら美鈴ちゃんは、頭を切り替えたみたいだね。冷静な表情に戻っているよ。



「今、手元には40人の元奴隷の人たちがいるよね。この人たちに街中に出てもらって、出会った奴隷を片っ端からここに連れてきてもらうんだよ!」


「まるでキャッチセールスね」


 フフフ、美鈴ちゃんは、とっても的確な表現をしてくれるね。さくらちゃん自身は『ナンパ作戦』と名付けようと思っていたけど、これはどちらがいいか迷ってしまうよ。おっと、説明はまだまだ続くんだよ。



「ここに連れてきてもらった人は、知り合いの奴隷を次々に連れてきてもらうんだよ。こちら側の人数が増えれば増えるほど、効率が良くなっていくから、もしかしたら1週間はかからないかもね」


「屋内にいて、外に出ない人はどうするのかしら?」


「ちゃんと考えてあるんだよ! 獣人は鼻が利くからね! 臭いで仲間の居所を探れるんだよ。だから、建物の中にいる人たちをチェックしてもらって、私たちが乗り込んでいくんだよ」


「そういう手段があったのね! さくらちゃんしか気が付かない盲点だわ!」


 美鈴ちゃんが、感心した表情を向けてくれるよ。これは、鼻高々だね! さくらちゃんは獣人の王様だから、この程度は常識なんだよ!


 おや、今度は兄ちゃんが手を挙げているよ!



「今いる人数だけでも、俺たちだけで管理するのは手に余りそうだぞ。これ以上増えた場合、どうやって食べさせていくつもりなんだ?」


「うん、兄ちゃんにしては、中々核心を突いた質問だよ! さくらちゃんは、こういう質問を待っていたんだよ!」


「なんで上から目線なんだ?」


「兄ちゃんは、いちいち細かいことを気にするんじゃないんだよ! あんまり細かいと、お父さんみたいにハゲるんだからね! さて、徐々に増えていく人をどうするかという問題だよね! この街で集めた人たちは、取り敢えず宿屋に収容するけど、これから行く先にある街の人たちを全部集めるとなると、千人単位になりそうなんだよ。だから街の外に拠点を作って、そこに助け出した人を集めるんだよ」


「野営させるのか? そんな大人数が野営して、大丈夫か?」


「兄ちゃんは、発想が単純だね! 助け出すのは獣人とエルフの血を引く人たちだよ! 自然の中にいるほうが、みんな生き生きするからね!」


「なるほど、さくらに『単純』と言われたのは、忸怩たる思いだが、一応は理に適ってはいるな」


 ほらね! 兄ちゃんもさくらちゃんの言い分を認めたよ! 獣人に関して一番よくわかっているのは、さくらちゃんなんだからね。でもこのプランは、もっと奥が深いんだよ! さあ、ここからのお話に刮目するんだよ!



「街の外にいるだけじゃ、獣人もエルフも退屈だろうからね。そこでぇぇぇぇ!」


 さくらちゃんは、ここで思いっきり語気を強くするんだよ。ここからが本当に大事なポイントだからね!



「私たちの手を借りずに、自分たちだけで仲間を助け出す軍団を結成するんだよ!」


「??? さくらちゃん、嫌な予感しかしないんだけど、もうちょっと詳しく説明してもらえるかしら?」


 美鈴ちゃんも冗談が上手いなぁ! ちゃんとわかっているくせに! しょうがないから、さくらちゃんがもっと詳しい説明をしてあげるよ。



「獣人には武器と防具を渡して、みっちり訓練するんだよ! エルフには魔法と弓の訓練をするんだよ。こうして出来上がった軍団が、街に潜入して仲間を助け出すんだよ!」


「武器はどうするんだ? 人数分準備するだけでも、相当な数に上るぞ」


「兄ちゃん! その心配はないんだよ! すでに領主の館から、300人分の剣や防具を押収してあるからね。美鈴ちゃんの魔法で強化してもらえれば、十分戦えるよ! その武器で戦えるように、私が鍛え上げるからね! エルフたちに魔法を教えるのは、美鈴ちゃんに任せるよ!」


「私の負担が重すぎるように感じるのは、気のせいかしら?」


「しょうがないよ! 魔法を扱えるのは美鈴ちゃんだけだからね! フィオちゃんは、いないんだし!」


「はあ~」


 美鈴ちゃんはため息をついているね。でも、いざとなるとちゃんとやってくれるのが美鈴ちゃんなんだよ! 


 こうして助け出した奴隷を訓練で強化していけば、あっという間に、精強な獣人軍団が出来上がるんだよ! さくらちゃんが直々に鍛えれば、短期間で成果が出るからね。


 さらに、エルフの魔法使い部隊が加われば、もう怖いものなしでしょう! もちろん通常の方法で養成するんじゃないんだよ! 強制的に強大な魔力を得てもらうからね。一番手っ取り早くマリアちゃん方式で、大魔法使いを大量に育てちゃううんだよ!


 戦闘に向かない年寄りや子供は、後方支援で役立ってもらうからね。薪を集めたり、食事の準備だったり、人数が増えれば増えるほど、後方の仕事は大変になるからね。重要な役割だという自覚を持って、各自に頑張ってもらうんだよ!



「……さくら、どうしてこういう時だけ、まともに頭が働くんだ? もうちょっと普段から何とかしてもらえないか?」


 兄ちゃんは、意味が分からない愚痴をこぼしているけど、無視だよ! 無視! 奴隷にされた人たちを助けるんだから、兄ちゃんにしっかりと協力してもらうからね! 覚悟するんだよ!


 

「さくらちゃん!」


 おや、今度は明日香ちゃんが手を挙げたね。何か意見があるのかな? 司会役として、指名してあげるんだよ。



「私は戦いたくないので、街の外でお留守番をしています!」


「却下だよぉぉぉ! カレンちゃんと明日香ちゃんは、街の中に入って救護役を務めるんだよぉぉ!」


 まったく、明日香ちゃんがいなかったら、誰が隷属の腕輪を外すのかね! 昨日、散々ドヤってくれたのを、もう忘れているよ。本当に、明日香ちゃんには困ったものだよ!



「そうだな…… 明日香ちゃんの不思議な力があれば、触れただけで腕輪が外れるからな。あの光景には、さすがの俺もビックリしたぞ」


「お兄さん! そんなに褒められても、困りますよ~! 美しいとか、魅力的だなんて…… もしかしてお兄さんは、私に気があるんですか~? 私って、そんなに安っぽい女だとでも思っているんですか~?」


「いや、1ミリもないから!」


 兄ちゃんは、ここぞとばかりに語気を強めているよ。それにしても明日香ちゃんの妄想は、ブレーキが壊れて暴走しているようだね。ここは、一番のお友達であるさくらちゃんが、しっかりとブレーキ役を果たすんだよ。



「明日香ちゃん! やっぱりお薬を増やしてもらったほうがいいんだよ! なんでこの場で、兄ちゃんに対して変なアピールを開始するのか、意味が分からないよ!」


「いやいや、さくらちゃん! しっかりと聞いてください! 私も、さくらちゃんのお兄さんには全然興味はありません!」


「興味ナシなら、紛らわしいことを口にするんじゃないんだよぉぉ!」


「でもよくよく考えてみると、私ったら、昨日から大活躍じゃないですか! この勢いなら、正ヒロインの座も夢ではない気がするんですよ!」


「今この瞬間から、モブAに格下げだよぉぉぉぉ! しかも明日香ちゃんは、クリームあんみつやドーナツで簡単に釣られる、超バーゲンセール人間なんだよぉぉ! 安いにもほどがあるって、自覚するんだよぉぉ!」


 ハアハア! 声を特大に張り上げてしまったんだよ! 司会役として、穴があったら入りたいよ!



「またまた、さくらちゃんたら! 心にもないことを!」


 もう無視無視! お花畑の妄想に付き合っているほど、暇じゃないんだよ! ちょっと活躍して褒められると、すぐに天狗になるんだから! 明日香ちゃんは、その悪い癖を早く治すんだよ!



 おや、今度はカレンちゃんが手を挙げているね。目が銀色に光っていて、嫌な予感がしてくるんだよ。



「獣神殿! 先般のような我が神に対する不届きな振る舞いがあった場合、街ごと滅ぼす許可を得たい!」


「却下なんだよぉぉぉ!」


 ちゃんと話を聞いてもらいたいよ。奴隷になっている人を助ける相談をしているのに、なんで街ごと滅ぼすのか、理解に苦しむんだよ! 街を滅ぼす話じゃなくって、人助けなんだからね!


 主張が極端すぎて、本当に困ったよ! このパーティーには、さくらちゃんのような常識人はとっても貴重な存在だって、はっきりしたね!




 こうして、さくらちゃんが期待した熱い討論などどこにもないまま、むしろグダグダなうちに作戦会議は終了したんだよ。


 せめてもの救いは、さくらちゃんの案が全員の了承を得た点だね。でも、本当に大変なのは、ここからなんだよ! 気を引き締めて臨まないと。失敗に終わる可能性が高いからね。


 こんな感じで、最初の街タランスで1週間が経過したよ。




「全員、準備はだいじょうぶかな?」


「「「「「「「全員、揃っております!」」」」」」


「それじゃあ、出発するよぉぉ!」


 救い出した元奴隷は、100人少々だったね。20台以上の馬車に分乗して、街を出ていくよ。


 人口は3千人程度の小さな街で、領主とその騎士たちはほぼ全滅して、街を守るのはわずかに残った警備隊10人程度しかいなくなってしまったね。街の治安は、もうガタガタになっているよ。


 おまけに、重要な働き手だった奴隷が100人もいなくなったから、街全体の活動の半分がストップしているんだよ。どうか頑張って、街を立て直してもらいたいね。


 でも、同情はしないんだよ! 何の罪もない獣人やエルフたちを捕えてきて、奴隷にしていたんだからね。街の住民も、自業自得というものだよね。



 それにしても、ここまでの準備は大変だったよ!


 パンや野菜などは、比較的簡単に市場で購入できたんだけど、食器類や野営に必要な天幕、敷物、寝袋等、挙げればキリがないほどの物品が必要となったね。鍋だけでも、大きなサイズを50個も購入したんだよ。


 軍資金は領主と奴隷商人から巻き上げているからまだ余裕はあるけど、今後人数が増えてくると、あっという間に尽きてしまいそうだね。



 こうして、馬車のキャラバンは、街道を次の街に向かって進んでいくよ。朝から昼の時間までは移動に費やして、お昼ご飯の時間になるよ。


 後方支援の役割を与えられた獣人のオバちゃんたちが、20人も集まって料理を開始するんだよ。子供たちは、付近の森に薪を集めに行っているね。


 その間に、志願者で構成された救出部隊の若い男女が、草原を走り出すんだよ。すでに訓練は開始されているからね。食事の準備ができるまでは、走り込みで体力をつけるんだよ!


 おや? ビアンカちゃんも大人たちと一緒になって走っているね。さくらちゃんの暴れっぷりを目の当たりにして、獣人魂に火が付いたらしくて、どうしても訓練に参加すると言ってきかなかったんだよ。


 まあ、来る者は拒まずが、さくらちゃんの方針だからね。どこまで頑張れるのか、やってみるのもいいんだよ。



 さてこの1週間、さくらちゃんは獣人やエルフから、色々と話を聞いたんだよ。


 その話によると、キアーズ大陸の中央部には、ジェマル王国という小さな国があるんだって。この国自体は人族が創り上げた国なんだけど、狭い平野に数万人の人口しかないそうなんだよ。


 平野の周りには森林が広がっていて、その森の中には、いまだに純血種の獣人やエルフが暮らしているんだって!


 何しろ手付かずの深い森だから、人族は中々入り込まないそうだよ。あっという間に、森の中で迷ってしまうからね。


 逆に、森を自発的に出た獣人やエルフのほうから人の街に住み着くようになって、混血が進んだそうなんだよ。タランスの街で救い出した人たちは、ほとんどが獣人と人族、またはエルフと人族のハーフだったね。唯一の例外は、ビアンカちゃんだよ。彼女は、中々人前に姿を現さない純血種の獣人なんだって。


 ジェマル王国では、それぞれの種が共存して仲良く暮らしているんだけど、そこに軍勢を伴ったフランツ王国の奴隷商人がやってきて、多くの人たちを攫っていったそうなんだ。


 ジェマル王国も、奴隷商人を取り締まってはいるものの、武器や防具のレベルに差があって、太刀打ちできないらしいね。だったら、このさくらちゃんが、二度と手出しできないように、ジェマル王国の軍備を強化してあげようじゃないかね!


 乗り掛かった舟だから、とことん付き合ってあげるんだよ!



 




 昼食後……



 獣人から選抜されたメンバー30人が、10人ずつ小隊を組んで整列しているよ。


 全員が、支給された皮を部分的に金属で補強した鎧姿だね。


 この鎧は、タランスの領主の館にあった物を、カレンちゃんと美鈴ちゃんの手によって、強化してあるんだよ!


 カレンちゃんが手掛けたのは、皮の部分だね。一定の時間が経過すると、自動的に体力とダメージが回復する、天使の術式が掛けられているんだよ。


 美鈴ちゃんには、金属の部分を数倍の衝撃に耐えられるように、強化してもらったんだよ。ほぼミスリル製の鎧と同程度の防御力だね。


 もうこれだけでも、この世界では国宝級の逸品だね。結構質の高い皮を使用しているから、軽量で動きを阻害しないし、言うことなしだよ!


 獣人たちが手にしている剣は、ありふれた鉄製なんだけど、鎧同様に強化してあって、さらに麻痺の追加効果まで付与されているんだよ。


 美鈴ちゃんは『即死の追加効果を推奨する!』と、主張したんだけど、さすがにそれはやりすぎだろうと思って、さくらちゃんが押し留めたよ。だって、剣が掠っただけで相手は即死なんだよ! さすがにいかがなものかと思って、止めたよ。麻痺だって、十分すぎる効果だしね。戦いの最中に動けなくなったら、その時点で負けなんだから。


 あとはその場で斬り捨てるもよし、捕虜として捕らえるもよし、逃がすもよしだからね。相手を麻痺させたほうが、戦術に柔軟性があるでしょう。



 さて、これから台に上がって、訓練教官として気合を入れるんだよ!


 おや! 獣人たち3個小隊に混ざって、お父さんまで列の端に加わっているよ! ハゲ散らかしているくせに、いい年して調子に乗っているよね。異世界の生活を甘く見ているフシがあるから、この際痛い目に遭ってもらおうかな。


 それじゃあ、気合を入れるよ!



「お前たちは、再び奴隷に戻りたいかぁぁ!」


「「「「「「「「否ぁぁぁぁ!」」」」」」」


「苦しんでいる仲間を救いたいかぁぁ!」


「「「「「「「そうだぁぁぁ!」」」」」」」


「必要なものは、何だぁぁ!」


「「「「「「「力だぁぁぁ!」」」」」」」


「死ぬ気で力を得る気があるかぁぁぁ!」


「「「「「「「ウラーーー!」」」」」」」


 気合十分な表情で、剣を振り上げて声を上げているよ。さあ、それじゃあ、開始しようかな。短期間で使い物になるように仕上げないといけないから、相当厳しい内容になるよ!


 全員、死んだ気になって強くなるんだよ!


 こうして、さくらちゃんの地獄の訓練が、午後いっぱい続くのでした。






まったく無自覚なさくらの超無茶ぶりが…… 果たして無事に獣人たちを故郷に連れ帰れるのか?


この続きは、週の中頃に投稿いたします。どうぞお楽しみに!


たくさんのブックマークをお寄せいただいて、ありがとうございました。皆さんの応援を、心よりお待ちしております。

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