214 最後まで突っ走るんだよぉぉぉ!
ルシファー様、大暴れのあとで……
フランツ王国、タランスの街に入ったさくらは……
さてさて、街の門の手前では、美鈴ちゃんの怒りが爆発して、実に面白い展開だったよね! もっとさくらちゃんのような、大らかな気持ちで笑って許してあげてもいいのにね。
美鈴ちゃんもああ見えて、結構キレやすいんだね。
街中に入った馬車は、さくらちゃんが手綱を握って、ゆっくりと通りを進んでいくよ。まず向かうのは、冒険者ギルドだね。
おやおや、とっても有意義な情報を発見だよ! 街中の所々で屋台が美味しそうな香りを立てているんだよ! これは絶対に立ち寄らないとダメだよね。馬車を預けたら、速攻で見て回るんだよ! 今から実に楽しみになってきたねぇ!
あれ? 通りを歩く人たちの大半は、ナウル王国の人たちと大差ないんだけど、時々耳がちょっとだけ長い人や、頭の上にネコミミがついている人たちを見掛けるよ。
人間の国だと聞いていたけど、どういうことなのかな?
もしかしたら、中には大元の種族の身体的な特徴が表れている人もいるのかもしれないね。でも、なんだかそういう人たちは、揃って元気がない様子なんだよ。ちょっと気になってくるねぇ。
そうだよ! 聞いてみればいいんだよ! 次にすれ違う時に、声を掛けてみようかな。
おお! いい感じに前からキツネミミを頭に乗せた人が来るんだよ! 獣人の血を引いているのかな?
声を掛けてみるんだよ!
「そこの人は、獣人の血を引いているのかな?」
「どうか、お許しください」
あれれ? 若い女の人だったけど、顔を伏せて足早に去って行っちゃったよ。何か急ぎの用事でもあったのかな?
今度は、ダークエルフっぽい人が来たね。ちょっと色黒で、耳が長いよ! もう一回声を掛けてみようかな。
「もしもし、そこの男の人は、ダークエルフかな?」
「すまない」
なんだかなぁ……
その人も、顔を伏せて雑踏の中に消えていったんだよ。せっかくさくらちゃんが声を掛けても、どうにもツレない様子だね。もしかして警戒されているのか、よそ者には心を開かないのか、そんなところなのかな?
こうしているうちに、馬車は冒険者ギルドに到着するんだよ! 建物の裏にある馬小屋に馬車を預けたら、そのまま屋台巡りに出発だよ! それぇぇぇ! レッツゴーなんだよぉぉぉ!
「あっ! さくら! ちょっと待つんだ!」
「もう、待ちきれないんだよぉぉぉ!」
兄ちゃんが呼び止めようとしたけど、そんな無駄な努力はしないほうがいいよね! さくらちゃんは、兄ちゃんを振り切って、ギルドの裏手から飛び出したんだよ! 2時間前にお昼ご飯を食べたから、夕方までたっぷりと屋台巡りをするんだよ! いい感じにお腹がこなれてきたから、まだまだ入りそうだね!
さて、落ち着いて通りを眺めてみると…… おお! 第一屋台、発見!
「いらっしゃい」
「オッちゃん! この屋台は、何を売っているのかな?」
「スープに麺を入れた、ヌードルだよ。食っていくかい? 一杯銅貨4枚だ」
「取り敢えず、5杯用意してもらえるかな! 銀貨2枚でいいよね」
「嬢ちゃん! 小さな体で、そんなに食べ切れるのかい?」
「いいから早く作ってよ!」
出来上がりが待ちきれないんだよぉぉ! このところ、肉料理ばっかりだったから、麺と聞いただけでヨダレが出てきたよ! 早く茹で上がらないかなぁ……
「はいよ! おまちどうさん」
「おお! いい香りが漂っているんだよ!」
なるほど! コンソメ風のスープに小麦粉で作った麺が入っているよ! 具はコロコロした肉と、数種類の野菜に、味のアクセントになるハーブの葉っぱだね。どれどれ……
これはっ!
なんともいい感じなんだよ! 特に麺の食感が、たまらないねぇ! ラーメンとパスタの中間くらいの歯応えで、コシがあるしっかりとした麺なんだよ! これは大正解だったね! 第一号の屋台でこの味に出会えるとは、さくらちゃんはきっと強運の持ち主なんだね。
しかもスープに独特のコクがあって、これは何杯でもイケちゃうんだよ! さくらちゃんの右手と食欲は、止まるところを知らないね。
「ふう、ごちそうさまだったんだよ!」
「嬢ちゃんは、ホレボレする食べっぷりだね!」
「よく言われるんだよ! さくらちゃんはとってもチャーミングだからね!」
「いやいや、嬢ちゃんの食べっぷりのことだよ!」
「オッちゃん! いい年してテレなくっていいんだよ!」
やっぱりさくらちゃんの魅力は、どこにいようとも隠しようがないみたいだね。内面から滲み出てくる魅力と、誰からも注目されてしまう美貌は、もはや罪だよね。
さて、屋台のオッちゃんを美しさで魅了したところで、せっかくだから例の件を聞いてみようかな。
「オッちゃん! この街では時々獣人ぽい人やエルフみたいな人を見掛けるんだけど、あの人たちは何者なのかな?」
「シッ! 嬢ちゃん、悪いことは言わねえから、その件は人前で口にするんじゃないぜ」
「うん? どういうことなのかな?」
「あれは、よその国から連れてこられた奴隷だよ。純粋な白人族以外は、この国ではみな奴隷として扱われるんだ。嬢ちゃんも気を付けるんだぞ。黄人族も領主様の腹一つで奴隷狩りの被害に遭うからな」
「そうだったんだね! わかったんだよ! オッちゃん! ありがとうね」
「また来てくれよ!」
なるほどねぇ……
奴隷としてよそから連れてこられたんだね。話を聞いてみると、気の毒になってくるね。
特に獣人は、さくらちゃんとは切っても切れない縁があるからね。できれば助けてあげたいけど、何かいい方法はないのかなぁ……
こうしてさくらちゃんは、街の様子を事細かに観察しながら、夕暮れまで屋台巡りをしたんだよ。
でも残念なことに、オッちゃんの麺料理を超える逸品はなかったよ。まあそれでも、そこそこ楽しんで屋台料理を味わったんだけどね。
さて、兄ちゃんたちがどこに宿をとっているのか、ギルドに聞きに行こうかな。きっと伝言を残してくれているはずだからね。
今日は下町を中心に食べ歩いたから、街の中心に戻っていく感じだね。大きな通りを急ぎ足で進んでいくんだよ。その時……
「キャァァァ!」
家路を急ぐ人たちで賑わう通りのちょっと先から、女の子の悲鳴が聞こえてきたんだよ。声の感じからすると、まだ小さな子供のような気がするね。
さあ! これは事件にニオイがプンプンしてくるよ! さくらちゃんは、騒ぎが起きている場所に駆け付けるんだよ。人垣を掻き分けて、中心に入っていくと、そこには……
「お願いです。どうか許してください」
「奴隷が、騎士にぶつかって服を汚したんだ! この場で剣で斬り捨ててやる」
ネコミミの7、8歳の子供が、地面に跪いて許しを請うているけど、騎士は腰の剣を引き抜いて今にも女の子を斬ろうとしているよ! 剣を手にした騎士の後ろには仲間が5人並んで、この様子をはやし立てているね。
「ハハハ! あの奴隷は、もうおしまいだな」
「大方よそ見でもしていたんだろう! ホルランにぶつかるとは運が悪かったな」
「あいつは、奴隷を毛嫌いしているからな」
周囲には大勢の人が取り巻いているけど、誰も止めようとしないね。中にはこの出来事を、まるで見世物を見るかのように楽しんでいる人間もいるね。
この街での奴隷の扱いは、相当悲惨なものなんだって、このさくらちゃんにもわかってきたよ!
さて、誰も動かない以上は、この場は、さくらちゃんが一肌脱ぐしかないでしょう!
「ちょっと待つんだよ!」
さくらちゃんは、騎士と女の子の間に割って入り込むよ。これで女の子が斬られてしまう危機は、ひとまず回避できたね。
「お前は卑しい身分の黄人族か! 奴隷同士で命乞いをしても、無駄だぞ!」
「黄人族じゃなくって、さくらちゃんだよ! 獣人は私が守るからね!」
「奴隷の分際で白人族にたてつくとは、貴様もろとも斬り捨ててくれる!」
「精々頑張ってみるんだね!」
「死ねぇぇぇ!」
ガキッ!
怒り心頭の騎士は、教科書通り剣を上段から振り下ろしてきたね。
でも剣の軌道は完全に読めているから、さくらちゃんは右手に嵌めた籠手を翳して、撥ね飛ばすんだよ!
さくらちゃんは小柄だから、大抵の相手は上段がスキになるだろうと勘違いするんだよね。さくらちゃんのスキとは…… そんなものあるはずないでしょう!
全方位、365度…… あれ? 360度だったっけ? と、とにかく、さくらちゃんにはどこにもスキなどないのだ(汗)! もちろん頭上も、完璧にガードするんだよ!
「なっ! 奴隷の分際で、俺の剣を撥ね付けるだと!」
「ふん、バカだね! 自分が手加減してもらったことに、気が付いていないのかな? さくらちゃんが本気になれば、一合の間に100発のパンチを決めるんだよ!」
男の目がちょっと真剣になったようだね。さくらちゃんを甘く見ていると、怪我だけじゃ済まないからね。でも、さっきよりも殺意を露にしているから、もう手加減なんかしないでいいよね。軽く片付けちゃおうかな。
「卑しい奴隷がたわ言を抜かすな! この場で死ねぇぇ!」
「無駄なんだよ!」
今度は袈裟斬りだね。剣の軌道の外側に避ければ、どうってことないんだよ!
そして、さくらちゃんの右手が届く場所に、騎士の脇腹が無防備に晒されているよ。皮鎧を着こんでいようとも、さくらちゃんの重たい一撃は、ガードなんて不可能なんだよ!
ボスッ!
「グエェェェェ!」
うん、この手応えは内臓が完全にいったね。死ぬまでに時間がかかるから、その間とっても苦しいよ。さて、撤収しようかな。さくらちゃんは、後ろで蹲っているネコミミの子供を、抱きかかえるよ。
そのまま人垣を飛び越えると、一気に通りをダッシュしていくんだよ! 振り返って見ると、風よりも早くさくらちゃんがいなくなったから、人垣が右往左往しているね。
「アワアワアワ……」
むむ、女の子が口をパクパクして、何か訴え掛けてくるね。ああ、さくらちゃんが走るスピードが速すぎて、頭がガクガクしているんだね。それじゃあ、もっとペースを落としてゆっくりにしてあげようかな。
おやおや? スピードを落としたのに、まだ何かに怯えているみたいだよ! これは優しい言葉を掛けてあげないといけないよね。
「もう大丈夫なんだよ! あんなヘナチョコ騎士なんて、さくらちゃんに掛かれば一瞬で片付けちゃうからね」
「お、お姉ちゃん…… ありがとう」
おお! 初めてまともにしゃべってくれたよ! 表情はまだ怯えているけど、ちょっとだけさくらちゃんに気を許してくれたのかな?
「私は、さくらちゃんだよ! 名前を教えてもらえるかな?」
「ビアンカ」
「ふむふむ、ビアンカちゃんだね。もう安心していいんだよ」
「うん」
言葉少なに頷いて、私の肩に体を預けてくれたよ。それにしても、こんなに可愛い女の子に剣を向けるなんて、絶対に許せないよね! その時……
「そこの奴隷! 待つんだぁぁぁ!」
おや?
さっきの騎士の仲間が追いかけてきたようだね。ビアンカちゃんとお話をするためにゆっくり歩いていたから、いつの間にか距離を詰められていたみたいだよ。
「さくらお姉ちゃん! 怖い」
「大丈夫なんだよ! 目を閉じて、お姉ちゃんの後ろに隠れるんだよ!」
抱えているビアンカちゃんを地面に降ろすと、私の背中にしがみついてブルブル震えているよ。安心していいんだよ! 騎士の5人や6人、さくらちゃんがあっという間に片付けるからね。
アイテムボックスから擲弾筒を取り出すと、こちらに向かって走ってくる5人の集団に照準をつけるよ。単発で十分だよね。
ビシュ!
引き金を引くと、魔力弾が飛んでいくよ。一番弱い威力でも、装甲車を簡単にぶち抜くからね。何も知らずにこちらに向かって走ってくる騎士たちは、もう死んだも同然なんだよ。
ズドーン!
照準通りに、先頭を走っている騎士に命中したよ。引き起こされた爆発で、周囲を走っていた他の騎士も吹き飛ばされて、建物の壁や地面に体を打ち付けられているね。
「騒ぎはこっちか?!」
あーあ、今度は物音を聞きつけた警備兵の一個小隊が、前方から走ってくるよ。訓練マニュアルに従った出動、大変ご苦労さんだね! 特に恨みはないんだけど、今からさくらちゃんが、精一杯歓迎してあげるんだよ!
おっと! その前に、ビアンカちゃんの手を引いて建物の陰に連れて行くと、さくらちゃんは静かな声で言い聞かせるんだよ。
「ここに座って、目を閉じてじっとしているんだよ! すぐに終わるからね」
「うん」
擲弾筒をアイテムボックスに仕舞うと、通りの真ん中に立ちはだかって、やってくる警備兵を迎え撃つよ。
「あの黄人族だ! 取り押さえろ! 抵抗する場合は切り捨てるんだ!」
隊長の指示が飛んでいるね。この場で部下に与える指示としては、まあまあ合格の70点かな。減点は、さくらちゃんの力を見誤っている部分だね。さくらちゃんを相手にする時には致命的な減点だけどね。
話は飛ぶんだけど、こうしてこの世界の部隊の動きを目の当たりにしてみると、親衛隊を率いる真美のほうが、リーダーとしてもっと的確な指示を出すよね。日頃の訓練レベルが違いすぎるんだろうね。
もちろん、装備の違いなんかもあるけど、最大の原因は指導教官だと思うよ! このさくらちゃんが直々に訓練しているんだからね。
どうせだったら、親衛隊も一緒にこの世界に連れてくれば面白かったんじゃないかな。きっと、嬉々として戦いに参加するだろうね。
ただねぇ……
時々さくらちゃんも疑問に思うんだよ。親衛隊は、どうしてあんな風に育っちゃったんだろうってね。確か出会った頃は『魔法少女として強くなりたい』と、言っていたような気がするんだよねぇ。
まあ、ああなってしまったものは、今更取り返しがつかないよね。細かいことは考えないようにしよう!
さあて、話はそれたけど、これから心を込めた歓迎をしてあげようかな。代金は、命で払ってもらうからね! こうなったらもう誰も止められないんだよ! 行き着くところまで、突っ走るんだからねぇぇ!
ガキッ! バコッ! グキッ! ドスッ!
ほらほら! あっという間に警備兵たちが宙を舞っているよ。この場に立っているのは、さくらちゃんと隊長だけだね。
ハハハ! 我が軍は圧倒的ではないかね!
「一歩でも動いたら、死ぬんだよ!」
立ちすくんでいる隊長を視線で制すると、建物の陰にいるビアンカちゃんを呼ぶんだよ。
「ビアンカちゃん! 今からちょっとした冒険に出掛けるからね! 大人しく一緒についてくるんだよ!」
「うん」
今度は素直に頷いてくれたよ。だいぶ私に慣れてくれたようだね。さて、次に茫然自失で突っ立っている隊長に声を掛けるよ。
こうなったら、街の警備隊や騎士団全体を敵に回したも同然だからね。殺るか、殺られるかの戦争が始まるんだよ!
さくらちゃんは、徹底的に暴れちゃううんだからねぇぇぇ!
「警備兵の詰め所に案内するんだよ!」
「どうか命は、助けてくれ」
「それは、心掛け次第だね」
なんだか命懸けで街を守る気概をこれっぽっちも感じないよね。警備隊の小隊長として、どうかと思うよ。きっとこの世界も、自分の命を最優先に考えないと、生き残っていけない厳しい世界なんだろうね。
隊長を引っ立てて街の北側に歩いていくと、石造りの建物が5棟並んでいる様子が目に入ってくるんだよ。
「あそこが警備隊の詰め所兼兵舎だ」
「そうなんだね。それじゃあ、壊しておこうかな」
擲弾筒を構えると、躊躇わずに引き金を引くよ。5連発で発射された魔力弾が着弾すると、轟音を立てて景気よく建物が崩れていくね。中にいた皆さん、どうもご愁傷様でした。
「な、なんてことを……」
「この程度で驚いてもらったら、こっちがテレるんだよ! 今からこの街の人間が、奴隷に対して加えていた仕打ちを、そっくりそのままお返ししてあげるからね!」
「そ、そんなバカな! 奴隷と白人種では、価値が違う!」
「お前たちの考え方なんか、どうでもいいんだよ! さくらちゃんが殺ると決めたら、何があっても殺るんだよ!」
目標は、この街の奴隷全員を、自由の身にすることだよ! 今さくらちゃんが手を引いているビアンカちゃんのような、気の毒な子供は放っておけないからね。
その結果として、この街がどうなろうかなんて、さくらちゃんにとっては知ったことじゃないんだからね!
「次は、領主の屋敷に案内するんだよ!」
「もう勘弁してくれぇぇ!」
根性がない男だねぇ。絶望色に染まった瞳が、死んだように宙をさまよっているよ! さくらちゃんに追い詰められたマフィアが、よくこんな目をしているのを思い出したよ。ついこの間の香港警察の連中とかね。
でも、まだまだこき使ってやるからね! 地獄の底まで案内するんだよ!
30分後……
さくらちゃんの目の前には、この街を支配する領主が、真っ青になってガタガタ震えながら立っているんだよ。
すでに館の内部は死屍累々で、魔力弾が炸裂した個所は、壁が崩れて酷い有様だね。
「い、命は助けてくれ! 何でも言うことを聞く!」
「そうだねぇ…… まずは、武器庫と食料の貯蔵庫に案内するんだよ!」
擲弾筒を背中に突きつけると、領主は素直に歩き出すね。散々館の壁が崩れる光景を目にして、抵抗したら命がないと悟ったんだね。
フムフム、武器庫には2,300人が武装できる程度の装備が揃っているようだね。全部アイテムボックスに放り込んじゃうよ。さくらちゃんが手を引いているビアンカちゃんは、なんだか全てを諦めた表情で、その様子をボケっとした顔で眺めているだけだね。
食糧庫に行ってみると、これはこれは! ずいぶん貯め込んでいるようだね! 小麦がぎっしりと詰まった麻袋が、天井に届く勢いで積み重ねてあるよ。はい、全部いただきま~す!
あとは、金庫を開けさせて、現金を押収すれば、残っているのは最後の仕上げだよ。
「奴隷がいるのはどこかな?」
領主は観念した表情で、さくらちゃんにされるがままだね。粗末な造りの離れに案内すると、鍵を開くよ。中には20人くらいの奴隷が、収容されているね。着ている服が土で汚れているから、農作業に使われていたようだね。
「今からみんなは自由の身だよ! ここから出るんだよ!」
どうやら健康状態がよくないみたいだね。中には怪我をして立ち上がれない人もいるね。動ける人が肩を貸して、全員を馬車に乗せるよ。接収した3台の馬車で何とか乗り切れたね。
さて、へたり込んでいる隊長を立ち上がらせると、馬車の手綱を握らせるよ。さくらちゃんは、馬車の屋根に乗って、周囲の監視役だね。ビアンカちゃんは、別の馬車に助け出した人と一緒に乗せているよ。
屋敷の門を出た所で、一旦馬車を停止させると、さくらちゃんは、擲弾筒を構えるよ。
ズガズガズガズガズガーン! ズズズズーン! ドドドドーン!
徹甲弾を屋敷に向けて5発打ち込むと、轟音を立てて崩れていくね。もちろん領主は建物の中に置いてきたから、巻き込まれていると思うよ。運がよかったら助かっているかもね。もうここには用はないから、さっさと出発するよ!
3台の馬車は、冒険者ギルドに立ち寄ると、宿屋が集まっている下町に向かっていくよ。兄ちゃんたちが宿泊している場所を聞いたからね。
さすがにこれだけの人数が集まるとねぇ… ビアンカちゃんをはじめとした奴隷だった皆さんを兄ちゃんたちに預けないと、いくらさくらちゃんでも、身動きしにくいからね。
フムフム、この宿屋だね。ギルドで聞いた通りだよ。面倒だから、馬車の屋根に乗ったままで大声で兄ちゃんを呼ぶんだよ。
「おーい! 兄ちゃん! ちょっと出てきてもらえるかなぁぁぁ!」
2階の部屋の窓が開くと、兄ちゃんが顔を出すね。眼下に3台の馬車が止まっている様子に、頭を抱えているみたいだよ。
せっかくさくらちゃんが人助けをしてきたのに、なんだか失礼な態度だね。
しばらく待っていると、宿屋の入り口から兄ちゃんと美鈴ちゃんが出てくるよ。
「さくらちゃん! この馬車の行列は、何事かしら?」
「奴隷にされていた人たちを助けてきたんだよ! 怪我をしている人もいるから、カレンちゃんに面倒を見てもらってよ! それから、みんなの腕に嵌められている、隷属の腕輪を外してもらえるかな」
「さくら! 屋台の食べ歩きのはずが、どうしてこうなるんだ?」
「兄ちゃん! そんなの私に聞かれても困るんだよ! 成り行きでこうなったから、兄ちゃんたちも協力してよ!」
「本当に、しょうがないヤツだな!」
口ではそんなことを言いながら、兄ちゃんの目は笑っているね。前の世界でも、奴隷として扱われていた人たちを、大勢助けたからね。
その辺は、兄ちゃんも承知してくれているんだよ。
怪我をしている人たちは、カレンちゃんが治療して、隷属の腕輪は、明日香ちゃんが手を触れただけで、腕から外せるようになったよ!
なんと! 明日香ちゃんはこの世界にきて、初めて役に立ったんだよ! これはとっても画期的な出来事だね!
ただねぇ… そのドヤ顔は、どうなんだろうね? こんな時だけドヤ顔されても、日頃のヤル気のなさを考えるとねぇ… ちょっと腹が立ってきたから、横っ面を張り倒してやろうかな。
兄ちゃんたちの手を借りて、救い出した元奴隷の皆さんを宿屋に収容すると、さくらちゃんは、次の場所に向かうんだよ!
行先は当然、奴隷商人の商館に決まっているよね! これはもう定番中の定番だからね! 水戸のご老公のテーマソングに乗って、悪徳奴隷商人を懲らしめるんだよ!
馬車の御者台に座り込んだまま、動く気力もなくなった隊長を急き立てると、馬車はゆっくりと進みだすよ!
こうして、さくらちゃんは、心強い応援のアリシアちゃんと一緒に、奴隷商人の店へと向かうのでした。
今度はさくらが大暴れ! しかも、まだまだ収まる気配はなく、本人はヤル気満々…… 一体どうなるのか? この続きは、週末に投稿します。
ブックマークをお寄せいただきまして、ありがとうございました。皆様の応援を、心待ちにしております。




