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21 新たな帰還者の動き

お待たせしました、21話の投稿です。前回の投稿でヨーロッパの動きに触れましたが、その話に関連して新たな帰還者が登場する模様です。主人公たちを取り巻く状況が少しずつ切迫していきますが、それがあの究極のマイペースの人物に通用するのでしょうか?

 ベルリンを飛び立ったルフトハンザ航空239便は成田に着陸をする。機外に降り立ってターミナルに向かっている俺はミハイル=ハンス=シュテイヒャー、ドイツ国防軍に所属する帰還者だ。今回は日本の帰還者を抹殺する密命を帯びて来日した。



 手荷物を受け取ると入国カウンターの列に並ぶ。スーツケースにも手荷物にも怪しい武器類は一切入っていないので入国手続きをスムーズに終える。ドイツと日本は表向きは良好な外交関係を維持しているので、観光客を装っていれば全くのフリーパスだ。


 武器類は全部アイテムボックスにしまってあるので、パッと見では携帯しているなんて誰も気がつかないだろうな。ドイツの魔法科学の優秀性を証明する新兵器がこうして日本に持ち込まれたなんて、誰にもわかるはずがない。


 新兵器はまだ試作品段階だが性能は何度も試射を重ねて折り紙付だ。HK416アサルトライフルをベースにして魔法術式を組み込んだ最強の武器が俺のアイテムボックスに入っているのだ。魔力で作動して切り替えによって連射も可能な日本風に言うと突撃銃だ。発射された魔法弾は廃棄処分となった装甲車を一発でただの鉄クズに変えるほどの威力を誇っている。相手がいくら力を持った帰還者といえども、遠くから狙撃すれば無抵抗で一方的にやられるしかないだろうな。


 ターゲットの情報などの詳しい話は大使館の諜報部に顔を出してから聞くように言われているから、ひとまずは予約しているホテルに向かってからそちらに顔を出すようにしようか。


 ターミナルの中にはドイツ語の案内表示はどこにもないが、どんな文字だろうが理解できるのは帰還者だけの特権のようだ。どれどれ、成田から東京に行くには京成ラインに乗ればいいんだな。ホテルは麻布にあるから上野でメトロに乗り換えればいいと・・・・・・ 待て待て! なんだこの複雑怪奇なメトロの路線は! まるで電子部品の回路図のようになっているぞ。来日したばかりの外国人にこれを理解させようというのは日本とは恐ろしい国だな。こうなったらアイフォンのナビだけが頼りだろう。


 スマホの画面を見ながらスーツケースを転がして通路を歩いていく。時折顔を上げて通路の表示を見ながら進むと、反対方向から歩いて来るアメリカ人のような風貌の男女と目が合う。なんだか2人の様子がおかしいな。俺の顔を凝視しているぞ。そして女の方が俺に近付いて声を掛けてくる。



「あら珍しいわね! あなたはドイツの帰還者ね。大方日本に現れた新たな帰還者を調査しに来たんでしょうけど、無駄なことはしない方が良いわね。あれは決して手を出してはならない相手よ。忠告だけはしておいたから、あとは好きにしなさい」


「これは驚いたな! 出合ったばかりなのに俺の身元を知っているとは思わなかったよ。よほど優秀な諜報機関がバックについているんだな。君も俺と同類だろう。それに手を出してはならないとはどういう意味なんだ?」


 俺は彼女と一緒に歩いてきた男の方をチラッと見る。身のこなしからいってCIAのエージェントだろうな。



「そのままの意味よ。私は彼らの前には絶対に立たないと心に決めたのよ」


「慎重なのか臆病なのか判断がつかないな。勇敢なヒーローがアメリカ人の憧れだろう?」


「憧れで命を落とすほどバカじゃないのよ! あとから後悔しないように注意しなさい。あなたも無駄なことはしないで秋葉原や渋谷を堪能して帰るべきね。あそこにはそれだけの価値があるわ。あとは浅草もクラシックな雰囲気が素敵でお薦めよ!」


 彼女はそれだけ言い残して搭乗ターミナルの方向に消えていく。アメリカ人というのを否定しなかったから、俺が感じた通りにそっち方面の帰還者なのだろうな。それにしても気掛かりな点は彼女の『手を出してはならない相手』という話だ。彼女は日本の帰還者の何を知っているのだろうか?


 考えても仕方がないか。アメリカの帰還者については大使館で身元を照会してもらおう。ここで出会ったのは神の導きかもしれないから、一応の注意は払っておくとしよう。




 気を取り直して駅の構内で来日した旅行者用の1週間乗り放題のチケットを購入して、電車に乗り込んでいく。おおっと! 中々良い乗り心地じゃないか! ドイツの鉄道技術に負けていないようだな。フランス製やイタリア製よりもはるかに揺れが少ないぞ。ただひとつ言わせてもらえば、190センチ近い俺の身長からすると座席が小さ過ぎる。もっとゆったりと作ってもらいたいもんだな。


 こうして俺は初めてやって来た日本でひとまずは東京のホテルを目指していくのだった。









 話は富士に戻る。


 美鈴が司令官さんの銃の解析を開始してすでに5日が経過している。2,3日で終わると言っていたのだが予想以上に難航しているらしい。彼女は研究部門の1室に篭りっきりで術式の解析作業に没頭している。俺たちは今日から自分たちで決めたプログラムで訓練するように申し渡されている。



「兄ちゃん、もう退屈な講義が終わったから、ダンジョンに挑戦しようよ!」


「さくら、お前というやつはどうして口を開く度にそうやって危険を求めるんだ? それに講義中はずっと寝ていて退屈する暇なんかなかっただろう」


「聡史、日本にはダンジョンがあるんですか?」


 今日から本格的に訓練を開始しろと言われた矢先に妹は再びあの封鎖された地下のエリアに行こうと主張して、遠足かテーマパークに出掛けるおねだりをするようなキラッキラの目で俺を見ている。しかもその話に一緒に居るアイシャまでが食い付いてきた。



「アイシャ、ダンジョンとは言ってもその場所は日本の妖怪が出てくるんだ」


「妖怪? それは何ですか?」


「えーと・・・・・・ 渋谷でセカンドが呼び出していた魔物みたいなやつらと似ているな。あんな化け物が次々に出てくるんだ」


「それは中々面白そうな場所ですね」


「そうだよ! アイシャちゃんは実によくわかっているねぇ! 凄く面白いんだよ!」


 妹よ、アイシャに乗っかってそんなにグイグイ来るんじゃない! このままじゃ本当に行く羽目になりそうじゃないか。そうだ! こんな時こそあの人たちを頼ろう!



「まずは訓練室に行こう。そこで先輩たちから話を聞いてダンジョンに行くか決めようじゃないか」


「うーん、タンクは結構頼りになりそうだけど、あのヘッポコ君はどうも微妙なんだよね」


「ヘッポコ君? それは誰ですか?」


「アイシャ、さくらの話だけは真に受けないようにしてくれ。俺たちよりも先に異世界から帰還した人間がここには3人居るんだ。勇者とタンクという名前だ。もう1人は任務で長期で出掛けているそうだ」


「そうなんですか! まだ会っていないので挨拶をしたいです」


「アイシャちゃん、あんな弱っちいやつに挨拶なんてしなくていいんだよ! 精々パンを買う時のパシリとして使ってやるくらいだよ!」


 妹よ、お前はどこまでイジメっ子体質なんだ? 勇者様をパシリにするなど、異世界の人たちが聞いたら恐れ多くて気を失うぞ。いや、その前にアイシャが呆れた目を向けているよ。ひょっとしてこいつが異世界に召喚されたのは史上最悪の人選ミスではないか?



 そうこうするうちに俺たちは訓練室に到着する。先に着いていつものように準備体操をしている2人の姿がある。



「ポンコツ君とタンク、ダンジョンはどうすれば行けるか教えてよ!」


 おいおい妹よ、朝の挨拶もなしにいきなり用件を切り出すなよ! こんなアホの子の様子に2人は面食らっているよ。しょうがないよな、慣れろと言う方がムリだし。



「勇者さん、タンクさん、おはようございます。この人は白竜です。新しく仲間に加わったのでよろしくお願いします」


「はじめまして白竜です。色々と教えてください」


「この2人に頼む必要はないよ! アイシャちゃんは中々見所があるからね、私がしっかり鍛えるよ!」


 このアホ妹が! せっかくコードネームで呼んでいるのに名前をバラすな! 一体どこまで無頓着なんだ! 見ろ、2人とも気まずそうな顔をしているじゃないか。それでも気を取り直して様子で2人はアイシャに返事をする。



「あ、ああ、よろしく頼むよ。僕は勇者だ」


「俺はタンクだ」


「兄ちゃん、私は生まれて初めて自分が勇者だって自己紹介する人間を見たよ! 普通は名前を言うでしょう!」


 ダメだ! こいつはコードネームの意味を根本的に理解していなかった。勇者さんが苦々しい顔をしている。俺はもうこの場から逃げ出したいよ! この雰囲気を何とかするためには話題の転換を図るしかないだろう。



「えーと・・・・・・ 呼び方はさておいてですね、2人に聞きたいんですが、地下の妖怪が出る場所に行くのはどうすればいいんですか?」


「ああ、あそこは管理部の許可を得れば入れるよ」


「うほほー! 兄ちゃん、管理部に早く行こうよ!」


 アホの子が張り切っているがこの場はしばらく放置に限るな。もう少し色々と事情を聞いておこう。情報不足の場所に妹を連れて行くと、必ずトラブルを引き起こすからな。



「2人はあそこに入った経験があるんですか?」


「何度かあるかな。土蜘蛛が出てくるエリアまでは行ったよ」


「その先はどうなっているか聞いていますか?」


「それが僕たちの権限ではあそこまでしか行けないんだよ。何でも高位の陰陽師が一緒じゃないとその先は危険らしい」


「うほほー! ますます楽しみだね! どんな秘密が隠されているのかな?」


 どうやらアホの子は土蜘蛛エリアの先に踏み込む気が満々なようだ。行っちゃいけないとかいうのは妹にとっては完全に逆効果だ。『押すなよ! 絶対に押すんじゃないぞ!』という前フリ程度にしか感じていない。何事も力で正面突破する性格の持ち主なので、後先の問題など頭の片隅に髪の毛の先程も持ち合わせていないのだ。



「それじゃあ管理部に許可をもらってきます」


「早速行くのかい? まあ君たちの力ならば問題はないだろう。僕はこの場で自分の訓練をしているよ」


「俺も一緒に言って構わないか」


 勇者さんはこの場に残ると断言したけどもう1人のタンクが俺たちに同行を求めてくる。この際何かあったら責任を平等に分担してもらおうかな。



「人数が多い方が心強いです。よろしくお願いします」


「兄ちゃん、私の獲物が減っちゃうよ!」


「さくら、お前が何かしでかさないいように監視役は多い方がいいんだ。不満だったらここで訓練するぞ」


「チッ、しょうがないか。タンクも一緒でいいよ」


 なんだこの上から目線は! 一応は先輩なんだからもう少し敬意を払うべきじゃないのか? まあそんな神経を持ち合わせているのなら、兄として俺がこんなに苦労はしないんだけど。それにしても最強のストッパーである美鈴が居ない状態では俺1人じゃこいつを抑えきれないよ!





 管理部に行くと簡単な手続きであっさりと許可が下りた。案内役の先日の陰陽師の少尉さんが同行するが、彼の表情は俺たちを見た瞬間から引き攣りっ放しだ。陰陽師として修行して実戦経験もある少尉さんの目にも俺たちの戦い方は異様に映るんだろうな。しばらく我慢してくださいね。




「それでは内部に踏み込みますよ。念のため注意してくださいね」


 最後のロックを解除する前に少尉さんは俺たちを振り返る。全員が無言で頷く中で妹だけはコブシを振り上げて『行くよーー!』とノリノリの表情をしている。



「ズーン」


 金属製の扉が音を立てて閉じると、そこはもう妖怪たちが跋扈するエリアだ。少尉さんの話では気を緩めるとあっという間に妖怪たちに取り囲まれるらしいが、俺たちの場合は目の前に現れて来るやつらを妹が片っ端から粉砕していくのでそこまで心配する必要はない。



「アイシャちゃん、最初の1匹が出てきたよ! 譲ってあげるから相手をしてみなよ! ゴブリンと同じくらいの弱いやつだから、練習にはちょうどいいよ!」


「わかりました」


 先頭を進む妹の声にアイシャは頷いて、アイテムボックスから細身の剣を2本取り出して両手に構えている。いかにも切れ味が良さそうな剣だ。ただ彼女の体格は剣士というにはずいぶん華奢で、手にする剣も一見すると頼りなさそうに映る。



「来たよ!」


 前方からお馴染みの頭に1本角を生やした小鬼がやって来ると、アイシャはスルスルと近付いていく。その足取りは軽やかなステップを踏んでいるようだ。そして小鬼の爪がその体に届く寸前でヒラリと体を回転させる。



「グエーー!」


 体をクルクル回転させながら両手に持っている細身の剣が小鬼を斬り付けていく。遠心力と回転する力が働いて体中を深々と斬られた小鬼はすぐに息絶えて倒れていく。



「アイシャちゃん、ずいぶん変わった剣技だね」


「はい、普通に剣を振るうことも可能ですが今のは私の必殺技ですよ。セマーというグルグル回る踊りが元になっています」


 戻ってきたアイシャに妹が声を掛けている。確かに剣技としては一風変わった技法だが、踊りが元になっていると聞くとなんだか納得できるな。『舞踏』と『武闘』は語源が同じだとどこかで聞いた覚えがあるし、ブラジルの格闘技のカポエイラは支配層の目を誤魔化すために踊りと称して広まったらしいな。



「でもさくらちゃん、気になったことがあります」


「うん? どうしたの?」


「あの妖怪は見掛けはゴブリンとよく似ていましたが、皮膚がすごく硬くて一撃では切り捨てられませんでした。きっとゴブリンよりもずっと強いと思います」


「そんなはずはないよ! 私が相手をした時はいつものようにワンパンで頭が弾けちゃったからね」


「おかしいですね、手応えに差があったような気がしますが・・・・・・」


 どうやらどこの異世界でもゴブリンというのは標準装備で存在しているらしい。俺たちの世界に居たゴブリンは妹が言う通りにこの場の小鬼とほぼ同等の力を持っていた。それに対してアイシャが渡った世界ではゴブリンはもっと弱い存在だったらしい。これが異世界間の格差というものなんだろうか? ということは、俺たちはより強い魔物に揉まれて強力な存在になったという話の裏付けになるのかな。この件はあとで美鈴に聞いてみようか。



「じゃあ次はタンクに頑張ってもらおうよ!」


「ああ、この程度の連中なら問題ない」


 こうして俺たちは次の相手を求めて通路の奥に進んでいくのだった。




最後までお付き合いいただいてありがとうございました。


次回の投稿は水曜日を予定していますが、もしかしたら3連休中にもう1話投稿できるかもしれません。執筆の進行次第なので今のところどうなるかはハッキリしませんので、ひとまずは水曜日だと考えていてください。


評価やブックマークがたくさん集まれば作者のテンションが上がって、執筆の進行が早まるかもしれません。どうぞよろしくお願いします!

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