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209 手掛かり

事案発生!

「一番の問題は、いま私たちがいるこの場所が、一体どこなのかという点ね」


「美鈴ちゃん! どこでもいいんだよ! 適当に歩いていれば、そのうち誰かに出会うからね!」


「さくらちゃん、それはそうかもしれないけど、ちょっと運頼みのような気がしてくるわ」


「あの、俺に一つ考えがあるんですけど」


「あら、セクハラ大王が、どの口で発言をしようというのかしら?」


「兄ちゃん! ちょっと反省が足りないんだよ!」


 美鈴と妹からゴミムシを見るような目を向けられて、勇気を振り絞って発言した意見を却下された俺……  現在、爽やかな風が通り抜ける草原で、集団から少し離れた場所で正座の最中だ。かれこれ20分、この姿でジッとしている。





 今から20分前……



「つべこべ言わずに、そこに正座していなさい!」


「兄ちゃん! 正座3か月の刑なんだよ!」


 アクシデントとはいえ、俺がデュークの胸を思いっきり鷲掴みにした件が、全ての事の発端だ。これは誤解を解かねばならないと、俺は反論を試みる。人としての大切な何かを懸けて……



「女だなんて、全然気が付かなかったんだから、これは単なる事故だ!」


「あら、そんな言い訳が通用するのなら、世の中の犯罪の大半は、事故で済まされるわね」


 その一言で、有罪判決が確定してしまった。自分に厳しいが他人にはもっと厳しいこの二人が、揃って意見を覆す可能性は、ゼロどころかマイナスに等しい。こうして俺は、二人の視線に逆らえずに黙って正座を続けるのだった。




 話を現在に戻そうか……


 大魔王様の目が、先ほどから一切笑っていない。怜悧な光を湛えて、俺を射殺すような視線を突き刺してくる。強烈なビームを浴び続けている俺の精神は、もう擦り切れる寸前だ。あらゆる攻撃を撥ね返す無敵の魔力バリアも、大魔王様の精神攻撃には何ら役に立っていない。どうか、俺が白目を剥く前に赦免してもらえないだろうかと淡い期待を抱くが、もう少々美鈴の怒りのボルテージが収まらないと、望むべくもないようだ。


 女子が多い中にあって、カレンだけが俺に同情的な視線を向けてくれる。だが、彼女が何か言おうとしても、内部に秘められていたとんでもない魂が覚醒してしまった大魔王様と、反省を求める妹の強硬な態度によって、一向に取り合ってもらえない状況が続いているのだった。お願いだ! 一刻も早く、釈放してくれぇぇぇ!



(聡史、お前はいつもこんな目に遭っているのか?)


 親父が、憐憫に堪えない目を向けてくる。今この場で、真に俺の気持ちを理解してくれそうな人物は、親父しかいないだろう。男同士、この部分に関しては、相通じるものが存在していると信じている。



「さて、それよりも、あなたはの本名を教えてもらえるかしら? デューク・ドラガンなんて、通常は男の名前ですからね」


 美鈴は、何もかもお見通しという表情で、俺のセクハラの被害者…… じゃないから! 自分で認めてどうするんだ! 過酷な取り調べで、身に覚えのない罪状を自白する冤罪を掛けられた容疑者じゃないんだ!



「アリシア」


「なぜ、偽名を用いていたのかしら?」


「偽名ではない。私の職業名だ」


「職業名?」


「デュークは、貴族とか騎士を意味する。ドラガンは、私の故郷でのドラゴンの呼称」


「ドラゴンの貴族? 聞いたことがない職業ね」


「美鈴ちゃん! 鳥貴族だったら知っているんだよ!」


 そうそう、黄色い看板のお手頃価格な居酒屋チェーン! 家族連れでのお食事もオッケー…… じゃないから! 妹よ! 話を混ぜ返すな! 俺の正座が余計に延びるだけだろうがぁぁぁ!



「私が転移した世界では、そこそこの人数がいた。『竜騎士』と呼ばれている」


「竜騎士…… 初耳ね。よかったら、どんな職業か教えてもらえるかしら。興味が湧いてきたわ」


 美鈴の表情が、悪魔の微笑みに変化している。誰でもコロッと落とされる、おっかない魔性の笑みだぞ。しかも、覚醒した影響でグレードアップしているから、この蠱惑的な笑顔から逃れるのは、相当に困難を伴う。



「竜騎士には2種類いる。ドラゴンと契約してその背に乗り、敵と空で戦うドラゴンライダーが、一般的な職業として知られている」


「おや? それはさくらちゃんにも、経験があるんだよ! ペットのドラゴンが7体もいたからね」


「7体だと! いい加減なことを言うな! 通常は、一人のドラゴンライダーが契約可能なドラゴンは、1体と決まっている」


 アリシアが声を荒げている。妹の非常識さ加減を信用できないのは、当然だろう。神龍を含めた7体のドラゴンを率いるなんて、それだけでも世界征服が可能な戦力に他ならない。アリシアがいうところのドラゴンとは、ワイバーンのちょっと上位程度の個体じゃないのかな。一言に異世界といっても、世界ごとに状況は千差万別だから、一つの世界の常識は、別の世界では非常識となる。殊に俺たちが転移した世界は、相当に特殊だったから、他の異世界とは基準が違いすぎているのだった。



「むむ、アリシアちゃんは、さくらちゃんの力を信じていないんだね! ちょうどいい具合にここは広々しているから、呼び出してみようか!」


「さくらちゃん! 話が中々進まないから、ちょっとだけお口にチャックしてもらえるかしら。よかったらもう一つ、ドーナツを食べる?」


「美鈴ちゃんは、実にわかっているんだよ! ドーナツをちょうだい!」


 妹の口を塞ぐのは至極簡単だ! 食べ物さえ与えておけば、黙って食べている! これは、いつ何時であっても、絶対普遍の法則だ!



「さて、それではもう一つの竜騎士とは、何かしら?」


「ドラゴンライダーは、個人のスキルがあるにしても、所詮は訓練を受けた人間に過ぎない。だがもう一つの希少なる竜騎士、それは、ドラゴンの力を限定的に受け継いだ者を指す」


「ドラゴンの力?」


「せっかくだから、この場で披露してやろうか。驚くなよ!」


 アリシアが魔力を体内で循環させると、彼女自身が煌めく光に包まれる。その光が収まると、その場に現れたのは……



「これが竜騎士の本来の姿だ!」


 アリシアが胸を張っている。その頭部にはドラゴンを模った兜を被り、両腕は竜の鱗に覆われているようだな。手にする槍こそそのままではあるが、確かにドラゴンの力を限定的に受け継いでいるようだ。そして、体の最も大きな特徴として、背中から大きな翼が生えている。


 

「まあ、これが竜騎士の正体なのね! 初めて見たけど、中々勇敢な外見よ!」


「勇敢なのは、何も外見に留まらないぞ! ドラゴンの心も受けついているからな!」


 うん、美鈴が言うとおりだ。俺も竜騎士なる存在を初めてこの目にしたが、外見は相当イケているんじゃないかな。どの程度の能力があるのかは、まだ不明だけど、体から発する魔力もかなり強力だぞ。おや、美鈴の表情が微妙にニンマリしているように感じるのは、俺の気のせいか?



「その翼で空も飛べるのかしら?」


「飛べるに決まっているだろう! こんな感じだ!」


 美鈴に乗せられたアリシアは、翼をはためかせて5メートルほど地面から浮かび上がっている。



「そのくらいでは、まだよくわからないわね。その辺を飛び回って、周囲に街とか人の痕跡を探してもらえないかしら?」


「いいだろう! 私に任せろ!」


 そう言い残して、アリシアは上空に飛び去って行く。本人はいい格好を披露しているつもりのようだが、美鈴に体よく偵察に使われているという事実には、まだ気が付いていない模様だ。



「美鈴さん、偵察だったら、私が行きますけど」


「カレン、新入りには遣いっパシリを引き受けてもらわないといけないわ。ここがどんな場所なのか判明するまでは、アリシアの力も借りたほうがいいでしょうから」


 さっき、あっさりと却下されたんだけど、俺もカレンが上空から偵察する案を提示つもりだった。空から見下せば、圧倒的に遠くまでの情報が手に入るからな。わずかな手掛かりであっても、今の俺たちにとっては重要なんだ。



「ということは、彼女も一緒に行動するんですか?」


「そうね、差し当たって日本に戻るまでは、行動を共にしてもいいと考えているわ」


 美鈴は誘拐の片割れの件には目を瞑って、アリシアの力を借りるつもりらしい。どこに転移したのかわからない以上、仲間は多いほうがいいだろう。右も左もわからない場所に一人で放り出すのも、酷のような気がする。もちろん本人が望めば、俺たちと袂を分かって一人で行動するのを認めるしかないだろうが……



 しばらく上空を旋回していたアリシアは、10分程度で戻ってくる。その表情から、何らかの手掛かりを発見したようだ。



「西に5キロの地点に森があって、そこに小さな村があるぞ」


「アリシア! ナイスよ! その村まで、案内は可能かしら?」


「もちろんだ! 私についてこい!」


 あーあ、完全に美鈴の手の平で踊らされているよ。妹ほどではないが、意外と単純な性格をしているんじゃないのか? ともかく、アリシアは乗せられやすいというのは、理解したぞ。



 案内を買って出たアリシアを先頭にして、美鈴、妹、明日香ちゃんの3人が並んで続く。カレンと俺で親父を挟むようにして後方の警戒をしながら、膝丈の草が生い茂る草原を進んでいく。その真ん中に挟まれている親父が、俺に顔を向ける。



「聡史、明日は大事な会議があるんだが、今日中に家に戻れるのか?」


 父上様、あっぱれな社畜根性! 見上げたものですぞ! どこの世界に飛ばされたかもわからないこの状況で、明日の会議の心配をするのは、それこそ無駄というもの。この辺の事情は、追々に呑み込んでもらうしかないだろうな。



「親父、今は俺たちがどこにいるのかを明らかにしないと、どうやって家に戻るかも判明しない。さすがに、明日は無理なんじゃないかな」


「ええええ! 俺がプレゼン役なんだけど」


「親父! 会議の一つくらい、気にするなよ! フィオが母親と一緒に家にいるから、会社に連絡くらいは入れているだろう」


「困ったな…… どうしたものか……」


 そういうレベルの悩みは、捨て去ったほうが気が楽になるって! 今更会社の一つや二つ、気にしなくても大丈夫だから。社畜思考は切り離して、しばらくは豊かな大自然に囲まれながら、のんびりとした生活を送るのも悪くないって。


 一つ問題があるとすれば、果たしてその大自然が地球のものかという点だな。運よくこの場所が、地球上に存在するどこかだったら、家に戻るのに当たって、それほど時間はかからないだろう。ただし、その保証なんて、今のところ何もないけど……


 その時……



「兄ちゃん! こっちに向かって猛スピードで突っ込んでくるヤツがいるねぇ! もうちょっとしたら、遠くに姿が見えてくるよ!」


 妹の野生の勘が、接近してくる何かを捉えたらしい。それからきっかり30秒後に、草原の向こうから土煙が上がる様子が、目に入ってくる。生い茂る草を4本の足で薙ぎ倒しながら、地面を蹴って一直線に向かってくる姿は、俺にとってもごく見慣れたものだった。



「ビッグボアによく似ているよ! 兄ちゃん! せっかくだから、さくらちゃんが一狩りしてくるよ!」


「さくら! 待ちなさい! あんな大きな動物に向かっていくなんて、危ないだろう!」


 遠目に映るその姿がはっきりしてくると、どうやらイノシシ型の生物のようだ。ただし、その体から魔力を感じるから、俺たちの世界の定義だったら魔物と呼ぶ存在だな。どうやらこれで、この場所が地球上でないという困った現実が、確定したようだ。




 妹は、まだ距離がある魔物に向かってゆっくりと歩いていく。いくら親父が引き留めようとも、その足取りには一切の迷いがない。



「さくら! そっちに行くんじゃない! 早く逃げるんだ!」


 なおも声を枯らして引き留めようとする親父の肩を、一つポンと叩く。さもないと、妹を引き留めようとして今にも駆け出しそうな勢いだ。



「親父、慌てるなよ! さくらのやりたいようにやれせておけば、問題はないから」


「しかし、あんな化け物のような……」


「どこが化け物だって? さくらの眼には、単なる食料としか映っていないぞ!」


 軽自動車ほどの大きさの、イノシシ型の魔物…… 妹にとっては、まさにお手頃な食糧だ。あやつの目には、大好物の肉の塊にしか見えていないだろう。たとえ親父がどれほど心配しようが、肉を目の前にした妹の行動がブレるはずない。



「ブフォ! ブフォッ!」


 やがて、イノシシの息遣いが、俺たちの耳に聞こえる距離となってくる。妹は、何の構えも取らずに突っ立っている。そして……



「ふん!」


 ドドーン!


 右手から打ち出す衝撃波…… 猛烈な勢いで走ってくるイノシシの足を止めるには十分すぎる威力だ。



「ブフォオォォ!」


「やったね! お肉をゲットだよぉぉぉぉ!」


 衝撃波をまともに浴びてバランスを崩たイノシシが横倒しになると、一気に妹が襲い掛かっていく。顔面に一蹴り入れると、敷き詰められた草のカーペットを巨体が転がっていく。ゴロゴロと転がったイノシシの回転が停止すると、すでにピクピクと痙攣をして、起き上がる力を失っている。原因は、首が変な方向に曲がっている点であろう。おそらく妹の蹴りによるたったの一撃で、首の骨が折れたものと思われる。

  

 妹は、獲物をアイテムボックスに仕舞い込むと、ドヤ顔で戻ってくる。



「この程度じゃ、大した運動にもならないんだよ! でも、これで晩ご飯は、確保できたよ!」


「さくらちゃん、ご苦労様! 久しぶりの魔物討伐だったけど、勘は鈍っていないようね」


「美鈴ちゃん! このさくらちゃんには、多少のブランクなんて関係ないんだよ! 次はもっと大物が出てくるといいね!」


 趣味と呼んで差し支えない魔物討伐の機会が訪れて、妹の表情がツヤツヤしている。 


 このところ、銃を持った敵兵や戦車、装甲車を相手にしていたから、相手が魔物に代わったところで、妹の戦闘力には大きな変化はない。いや、むしろ、進化している。飛び交う銃弾やロケット弾に比べたら、この程度の魔物など、むしろ可愛いものだろうな。


 だが、この結果に口をパクパクしている人物がいる。依然として俺が肩に手をのせている、我が父親殿だ。



「さ、さくらが…… あんな怪物を……」


「親父、今のは、準備運動にもなっていないぞ! 俺やさくらの力は、この程度ではないから。どうか、今のうちに慣れてくれ」


「聡史、しかしだな…… あまりに危険だろう!」


「逃げても追い掛けて来るだけだ。こんな具合に仕留めておかないと、次から次にやってくるからな」


「それはそうだろうが……」


 異世界初見参の親父には、いきなり刺激が強すぎたかな? でもこれが、日常の風景だから、受け入れてもらわないとな。理解が追い付かないのは、仕方がない面はあるが、日本の常識に囚われていても、どうにもならないからな。この世界の在り方に順応していくしかないんだ。



 その後は、小物が少々ちょっかいを出してくる程度で、先頭を務めるアリシアやその直後にいる美鈴の手によって、簡単に討伐されていく。妹は、食料が無事に手に入ったこともあって、よほどの大物が出現しない限りは手出しをしない方針のようだ。




 2時間後……


 森の中の細い小道を歩いていくと、ようやく俺たちは村の入り口に到着する。30軒ほどの集落全体を、木材を組んだ簡素な柵で覆い、森に住む動物や魔物の侵入を警戒しているようでもある。


 だが不思議なことに、門は開かれており、そこには門番すら置かれてはいなかった。



「ずいぶん、不用心ね」


「美鈴ちゃん! 村の人がいるか、声を掛けてみるんだよ! もしもーし! 誰か村の人はいますかぁぁぁ?!」


 妹の地声は馬鹿デカい。小さな村全体に、その声は届いているだろう。しばし待っていると、門から見て5軒目の家のドアが開いて、一人の老人が俺たちの前に顔を出す。



「これはこれは! この村に久しく姿を見せなかった客人が、それもこのように大勢とは……」


「ご老人、私たちは、他国から参って道に迷った者です。街の在処や住んでいる人の状況など、この国のお話を聞かせてもらってよろしいでしょうか?」


「ほほう、面白い方々ですな。どうぞ、中にお入りくだされ」


 老人は、美鈴の申し出をあっさりと受け入れた。こんなに不用心で本当に大丈夫なのかと、かえって俺たちのほうが心配になってくる。とはいえ、何らかの情報が欲しいので、お言葉に甘えて老人の家に入っていく。



「さてさて、見ての通りに何の珍しい物もない貧しい村じゃ。もてなしはできぬが、ゆるりと休むがよかろう」


「ありがとうございます。村の皆様に迷惑にならないように足早に発つつもりですので、お話だけでも聞かせてください」


 家の中は、4人が掛けられるテーブルが置かれて、その横には年季が入った釜戸が置かれている。奥には寝室があるようで、小さなドアが設えてある。家具と呼べるような物は、イスとテーブルの他にはなくて、生活するには最低限の家と呼んで構わないだろう。


 数が足りないので、アイテムボックスから数脚のイスを取り出して、全員が壁に沿って並ぶように腰掛ける。それでも、この人数が収容ギリギリだ。


 全員がなんとか部屋の中に落ち着くと、皴深い顔の老人が話を切り出す。



「異国から、いやいや、物事は正確に申したほうがよいであろうな。皆さんは、異星から飛来された方々ですな」    


 いきなりの老人の発言に、俺たちは驚かされる。言い方は悪いが、こんな辺鄙で貧しい村に住む老人が、なぜ俺たちが転移してきたという事実を知っているのか。その謎を知るためには、老人の発言を一言も漏らさずに聞き取ることだ。



「あけすけに申し上げると、ご老人のご指摘通りです。私たちは、星を渡ってこちらの世界にやってまいりました」


 美鈴は、変に誤魔化さずにありのままを認める。相手がこちらの事情を知っている以上は、正直に打ち明けて、信頼を獲得したほうがいい。これは、以前に異世界での生活で経験済みだ。



「我らこの村に住む者たちは、精霊族の末裔でしてな。大元をただすと、神の血に行きつきますが、長い年月の間に力が衰えて、こうして隠れ住んでおります」


「尊き精霊の末裔にお会いできた奇跡に、感謝いたします」


「これはご丁寧に、こちらこそ皆様にお会いできたこの機会に、大いに感謝申し上げる」


 美鈴と老人が互いに感謝の気持ちを述べ合っている。ルシファー様の魂は奥に引っ込めて、普段の美鈴以上に謙虚な姿勢を心掛けているようだ。



「力は落ちたとはいっても精霊族なので、星の導きによって、近いうちに異なる星からの客人が来訪すると知っておりましたぞ。我が命が尽きる前にこうしてお話しできるとは、長生きはするものですな」


 ホッホッホと笑う老人だが、その表情や仕草には全く嫌味がない。神々の末裔というのが、その態度や物腰から頷けてくる。この世界の話を聞くには、うってつけの人物に出会えたな。



「こちらの世界は、人が住む場所と考えてよろしいでしょうか?」


「然り。太古の昔は神々が集う場であったが、現在は人の数が増えて、人族が中心となってこの星を動かしておる」


「神々が集う場?」


「うむ、伝承によらば、かつてこの世界には五色の神が集っておった。白神、黒神、黄神、青神、赤神の五柱であるな。さらに五神の下には、眷属となる数多の神々が付き従っておったそうだ」


 創世記の伝承というものは、どこの世界にも共通点があるのかな。まずは神様が現れて、そこから人が生み出されていくという神話が、地球上にもたくさん残されている。



「たくさんの神様がいたのですね」


「そうじゃのう。白神は巨人を生み出し、黒神は魔族、黄神は精霊族、青神はエルフやドワーフ、赤神は獣人を生み出したと言われておる。だが時が下るにつれて、それぞれの種族が交じり合い、その中から人族が生じた。人族は数を増やして、現在に至るというわけじゃな」


「種族が交じり合って、かえってその特性を失っていったのですか」


「そうとも言えるし、新たな人という種を生み出したとも言える。太古の五種族の血を守っておるのは、我らのように隠れ住んでおる者ばかりとなった」


「貴重なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました。最後にこの星は、どのような名称で呼ばれていますか?」


「エテルナス…… これはこの星であり、世界の呼び方でもある」


 こうして老人から興味ある話を聞いた俺たちは、最後に街がある方向を教えてもらって、この村を去るのだった。

 


近未来の戦争物の話のはずが、突如として舞台は異世界に…… 一体どうなることか? この続きは、来週の中頃に投稿いたします。今週末は、この1話だけの投稿で申し訳ありません。


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