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208 虚数空間崩壊

魔術師を倒した聡史たちは……

 俺たちの前には、ミカエルに剣を突き付けられた男が立っている。やや長めのプラチナ色の髪に薄いブルーの目をした、男性にしては比較的華奢な体格をしている。



「構えを取らぬということは、すでに死する覚悟を決めているのか?」


 剣を胸元に突き付けているミカエル、その銀色に輝く瞳は、一瞬たりとも放すものかと、真っ直ぐに男の顔を見つめている。



「いい腕をしているようだが、私に剣を向けるには、まだまだ力が足りないようだな」


 胸元に剣を突き付けられているにも拘わらず、男は余裕の表情でミカエルに答える。小銃を持ったモサドと思しき男たちが全滅して、彼らを率いていたユダヤの魔術師が真っ二つに斬られた時にも、この男は全く動きを見せなかった。一体何のためにこの場にいるのか、よくわからないやつだ。


 だがその時、ミカエルにストップを掛ける人物が現れる。



「カレンちゃん! ちょっと待つんだよ! 面白そうだから、その男はさくらちゃんに任せるんだよ!」


 相手が強いと見たら、腕が疼いて居ても立ってもいられなくなってくる俺の妹が、戦闘狂の血を滾らせているのだ。右手が背中に背負っている刀に掛かっているところを見ると、鬼斬りで相手をするようだ。


 男は、声を上げた妹に興味なさげにチラリと視線を向けるが、手にする槍を動かそうともしない。相当に度胸が据わっているのか、はたまた危機感が足りないのか、この辺の判断がつかないな。


 ただし、このまま放置するするわけにはいかない。司令からは、なるべく生かして捕らえろと言われている。この場は俺が止めるしかないな。



「ミカエル、さくら、二人とも一旦引いてくれ。俺が、話をする」


「我が神の仰せの通りに」


「チッ! 兄ちゃんは本当に甘いんだよ!」


 ミカエルは素直に従って剣を引いてくれたが、妹は不満タラタラで背中の刀から手を放している。二人の様子を確認してから俺が前に立って、男との話を開始する。



「俺は日本国防軍のスサノウだ。名前を教えてもらおうか?」


「デューク・ドラガンだ」


「やはり、報告にあったフリーの帰還者か。何の目的で、この場にいるんだ?」


「特に目的はない。金で雇われただけだ」


「雇われたにしても、何もしなかったのは、どういうわけだ?」


「タミードの話を聞いて、やる気がなくなった。ハルマゲドンなど、望んでいない」


 ……それもそうだな。ユダヤ教原理主義者の主張に共感できる人間など、そん所そこらに居るはずがない。もし居るとしたら、そいつはユダヤ教原理主義者に他ならない。同じ原理主義者でも、イスラムなどからは大反発を食らうだろう。


 

「とはいっても、誘拐は重罪だ。罪は償ってもらう必要がある」


「生憎、私は自由を愛している。国家に属さないでフリーとして活動しているのは、私のポリシーだからな。強制的に捕縛するのだったら、力の限り抵抗する」


 これだけの数の能力者に囲まれていても、やはり抵抗する意思は失っていないんだな。とはいえ、このまま見過ごすわけにもいかない。手足の1,2本折ってもいいから、力ずくで取り押さえようか。


 だがその時……



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!



「この音は、次元震だな。術者が死んで、魔力の供給が途絶えた故、次元自体が揺らいでいる。まもなく崩壊するやもしれぬ」


 厳かに、ルシファー様からのご神託が下される。虚数空間などというわけのわからない代物だけに、一旦揺らぎ出すと収まる気配がないな。



「脱出を優先しよう! 出口はどこだ?」


「我らが入ってきた場所しか、存在せぬようだ。来た道を引き返すより他に、手段はないであろう」


「よし! グズグズしている暇はない! 外に出るぞ!」


 俺は、まだ意識を取り戻さない父親の体を肩に担ぎ上げて、神殿の外へ出る。外の景色に目をやると、整然と並んでいる別荘の建物が、その輪郭ごと大きく揺らいで、次々に崩れ落ちていく。 



「相当不味い状況だな。急ぐぞ!」


 しばらく保養所を目指して歩いてきた道を反対方向に進むが、明日香ちゃんの足に合わせているので、中々行程が捗らない。ようやく半ばまで引き返したところ……



「これは……」


 通りに沿って、地面が真っ黒な影に覆われている。虚無の空間が、侵食を再開したのであろう。明日香ちゃんが電柱に手を触れた場所を中心にして、虚数空間が暗黒に飲み込まれて、その範囲は秒単位で拡大しているのであった。



「ルシファー! 脱出可能な手段はあるか?」


「そうそう、その呼び方こそが、我にはしっくりくるのであるぞ! さて、この状況から抜け出すには、少々手荒な手段を用いるしかなかろう」


「手荒な手段?」」


「緊急的に転移の術式を用いる」


「安全なのか?」


「身の安全には配慮するが、どこに出るかは保証できぬな」


 参ったな…… だが他に方法がないのなら、今は転移するしかないだろう。運を天に任せて、何処なりと飛んでやろうじゃないか!



「わかった! 今すぐに転移する! 準備にどのくらい時間がかかるんだ?」


「5分であるな。もう少々、虚無の空間より離れた場がよいであろう」


「わかった! 一旦、神殿方向に引き返すぞ!」 


 こうして俺たちは、刻一刻と広がっていく虚無の空間からある程度距離がある場所まで戻って、そこでルシファーが術式を完成するのを待つ。



「ミカエルよ! そなたも力を貸すのだ! それから、スサノウよ! そなたの魔力を借りる故、精一杯放出せよ!」


「わかった! さくら、親父と明日香ちゃんを頼んだぞ」


「兄ちゃん! しっかり抱えておくから、安心していいんだよ!」


 俺は、まだ目を覚まさない父親の体を妹に預けると、魔力を放出する。おや? さっきまでとは手応えが違うな。虚無の空間に侵食されて、虚数空間の力が弱まってきたのか? どうやら体の周囲を取り囲む魔力が、実体化しているようだ。


 明日香ちゃんを妹に預けたのは、彼女が下手に何か仕出かすと、魔力を打ち消して術式自体に影響が出る懸念を感じたためだ。明日香ちゃんには、両手をポケットの中に仕舞うように、固く言い付けておく。



「術式自体は完成した。だが、この空間が不安定故、果たしてどこに出るやは、我にもわからぬ! 一同、覚悟を決めるのだ!」


「この際、何処でも構わない! 俺たちが安全に脱出できるんだったら、贅沢は言わないぞ!」


「それでは開始いたす! 転移術式、発動!」


 ルシファーの体から大量の魔力が放出されていく。当然それだけでは足りずに、ミカエルと俺がその背中に手を添えて、魔力を供給していく。


 だが俺たちが白い光に包まれるその瞬間、虚無の空間が、取り逃がすものかと急拡大する。あわやその真っ黒な空間が、俺たちを飲み込もうとする。



「これは相当に不味い問題が生じている。虚無の空間が押し寄せた影響で、飛び散った虚数の破片が術式に影響しているようだ」


 ルシファーの口調は冷静ではあるが、その口が語る内容は、とても冷静に受け止めきれる事態ではなかった。座標が狂ってしまったら、俺たちはどこに飛ばされるのか分かったものではないぞ!



「俺たちはどうなるんだ?」


「座標が大幅に狂うであろうな。ただでさえ、スサノウの膨大な魔力が術式に干渉しているうえに、そこなる小娘の無意識が、魔力を消そうとして作用しておる。転移は確実に行われるが、その行く先はどうなることやら……」


 どうやら、転移を妨害しようとして作用する力が、各方面からルシファーに押し寄せているらしい。虚数はまだしも、残った二つは身内からの妨害というのは、当事者の一人として大変申し訳なく思っている。



「座標がどこに設定されたのか我もわからぬが、転移いたすぞ!」


 その瞬間、視界全体が眩い光に満たされて、俺たちは意識を失った。

 


  






「ここは、どこ…だ?」


 ああ、この感覚には、覚えがあるぞ。最初は、人生で初めての異世界転移を経験した時だった。二度目は、異世界から日本に戻ってきた時だな。頭が真っ白になって、それから徐々に記憶が戻ってくるんだ。


 確か、虚無の空間から脱出するために、ルシファーが転移の術式を組み上げて……



 そこまで思い出すと、俺はガバッと体を起こす。周囲を見回すと、そこは風が吹き抜けるだけの、見渡す限りどこまでも広がる草原だった。


 俺の周囲には、一緒に転移した仲間の姿が全員あって、心の中にほっとした思いが込み上げてくる。



「ひとまずは、何とか脱出できたんだな。よかった……」


 どうやら俺が、一番先に目を覚ましたようだ。残りのみんなは、まだ地面に倒れて起き上がる気配がない。全員の首筋に手を当てて、脈拍を確認すると…… うん、大丈夫だな! 心臓は正常に動いているようだ。


 転移による体への影響は、人によって千差万別だ。自然に目を覚ますのを、待っているほうがいい。無理に起こすと、記憶が戻るのに時間が掛かったりするからな。





 約20分後……



「ここはどこかしら?」


 俺に続いて目を覚ましたのは、やはり美鈴であった。虚数空間の神殿に降臨したルシファーの魂は、どうやら奥に引っ込んで、メインの人格で意識を取り戻したらしい。



「美鈴、目を覚ましたか?」


「聡史君、一体どうなっているのかしら?」


 ああ、そうか! 転移する直前までルシファー様だったから、美鈴本人の記憶が、曖昧になっているんだな。



「美鈴自身は、どこまで覚えているんだ?」


「えーと…… 時間を止めようとして、聡史君から魔力をもらって…… そこから先は、なんだか夢を見ているような感じで、自分でも何が起きたのか、よくわかっていないわ」


 カレンも、最初のうちはこんな感じだったな。ミカエルが登場した時の記憶がはっきりしなくって、自分が何をしゃべったのかという自覚がなかったんだ。次第に二人の魂が融合すると、大まかな記憶としてその時の出来事が残るようになってくるんだけど、最近でも何も覚えていないケースが確認されている。



「美鈴の中に眠っていたお方の魂が目を覚ました件は、覚えてるのか?」


「ああ、そうだったわね。ついにあれが、目を覚ましたのね」


「前々から知っていたのか?」


「知っているというよりも、何かの存在は感じていたわ。ほら、私が無意識に大魔王モードを発動していたでしょう。きっとあれも、眠っていた者が私の意識に何らかの干渉をした結果よ」


 そうなのかな? 結構ノリノリでやっているようにも感じたけど…… まあ、本人がそう言うのなら、きっとそうなんだろう。そういうことにしておこう。



「あれから、タミードを倒して、その結果、あいつが作り上げた虚数空間が崩壊したんだ」


「そうだったのね。何か戦いがあったような記憶はあるんだけど、本当に夢を見ているようで、はっきりと覚えていないのよ」


「別の人格の目を通して、その場で起きた出来事を見ていたんだから、仕方がないだろう」


「よくわかっているわね。聡史君は、どうしてそんなことを知っているのかしら?」


「カレンから聞いた。はじめのうちは、そんな感覚だって」


「そうだったわね。身近に経験者がいるのを、忘れていたわ」


 ずいぶん、美鈴の意識がはっきりしてきたな。ついでにあの件も聞いておこうか。こんな機会でもないと、二人っきりでゆっくりと話ができないからな。



「それで、美鈴の中にいるルシファーさんは、やっぱり本物なのか?」


「ルシファーとして本物かどうかは、何とも言えないわね。キリスト教という狭い概念が生み出した存在ですからね」


「それは、どういう意味なんだ?」


「古今東西、光を背負うものがいれば、闇を統べるものもいるのよ。エジプト神話にあるように、太陽の光の化身〔アテン〕がいれば、闇と混沌の象徴〔アペプ〕がいるわ。ギリシャ神話にも、混沌の神〔カオス〕や死の神〔タナトス〕が、存在する。これらの闇を司るさらに原初の存在が、私の中に眠っていたものの正体ね。名前が通っているから、便宜上はルシファーを名乗っているだけよ」


「大層な神様だな! キリスト教が定義する〔悪魔〕なんかよりも、もっと大きな存在なんだな」


「そうね、そういう意味では、やはり〔大魔王〕という称号が、一番しっくりくるかもしれないわ。闇だけに留まらずに、魔法の第一人者でもあるんだし」


「ということは、ルシファーの魂が目覚めても、美鈴は美鈴自身なんだな」


「もちろんそうよ! カレンだって、ミカエルに乗っ取られているわけではないんだし」


「それを聞いて、なんだか安心したぞ! 世界を滅ぼす恐ろしい悪魔が、目覚めたんじゃないんだな」


「当然よ! 光の神に対比する闇の神というだけですから! 日本の例だと、天照大神あまてらすおおみかみに対する月読命つくよみのみことに相当するんじゃないかしら。これは、そう言い切れるだけの根拠がはっきりとはしないんですけどね」


「はっきりとはしない? どうして、わからないんだ?」


「古事記に残る月読命の伝承が、あまりに少なすぎるせいね。生れ出た記述しか残っていないのでは、判断する根拠が少ないと言わざるを得ないでしょう。まあ、この点は、聡史君の〔スサノウ〕という名も、どのような役割なのか、判断が難しんだけど」


「俺がスサノウだって? それって、コードネームの話じゃないのか?」


「どうかしらね。いつか自分でわかる日が来ると思うから、待っていればいいんじゃないのかしら?」


 どうにも、思わせぶりな美鈴の話だな。時折、こういうミステリアスな謎かけを口にするんだよ。でもこの点に関しては、かねがね俺自身が、疑問に感じていた。そもそも破壊神とは何者だろうかって。


 そこへいくと、スサノウという存在は、ピッタリと当て嵌まる部分がある。古事記の伝承では、子供の頃に泣き声だけで田畑や森を枯らしたという逸話が記述されている。その姿は、まさに破壊神に相応しいと言えるんじゃないのかな。もちろんスサノウ様は、それだけじゃなくて、人のためになることを一杯やっているから、そういう破壊的な側面があるという話だ。


 例として適切じゃないような気もするが、織田信長のように、子供の頃は手の付けられない大ウツケだったのが、成長すると戦国時代の覇者となった例もある。神様だって、年齢と経験を重ねて成長するのかもしれないだろう。



「うーん」


 美鈴とこのような会話を交わしていたら、カレンが薄っすらと目を開いた。どうやら、意識が戻ってきたようだ。



「ここはどこでしょうか?」


 周囲をキョロキョロして、俺たちの姿を発見した彼女は、そんな声を上げる。転移の初心者にありがちだな質問だな。ここがどこかなんて、俺が聞きたいくらいだ。



 その横では……



「ギョーザが山盛りになっているんだよぉぉぉ! いくらでも食べちゃうからねぇぇ!」


 これはまた、ずいぶん幸せそうな夢を見ている俺の妹がいる。眠ったままで盛んに口を動かしているようだが、どうか夢の中で腹いっぱいになってくれ! どうせしばらく経ったら目を覚まして、腹が減ったと騒ぎ出すのが目に見えているからな。このまま放置しておくのが、正解だろう。



「さくらちゃん! クリームあんみつが食べ放題なんて、とっても幸せです! 体重も減ったことだし、今日は思いっきり食べちゃいますよぉぉぉ!」


 明日香ちゃん! 夢の中で体重が減っても、現実は厳しいんだぞ! それにしても、なんでこういう時に限って、二人の息がピッタリ合うんだろうな? この二人の関係が不思議すぎるが、きっと仲がいい証拠なんだろう。


 この二人は、間もなく目を覚ますだろうな。それよりも問題は、我が家のパパさんだ。先ほどよりも、顔色が青白くなっている。もしかしたら拉致された時に、どこかに怪我を負った可能性がある。



「カレン、すまないが俺の父親を回復させてもらえるか!」


「聡史様、少々お待ちください。容体を確認してみます」


 カレンの瞳が銀色に変化する。全てを見通す天使の目が、父親の体をスキャンしている。



「どうやら頭部に強い衝撃を受けて、脳震盪を起こしているようです。今から回復いたしますので、ご安心ください」


 カレンの手の平から白い光が発せられると、父親の顔色は目に見えて赤みが差してくる。しばらく安静にしておけば、自然に目を覚ますだろう。





 それから10分後に、妹と明日香ちゃんが揃って目を覚ます。



「おや? 兄ちゃん! 大変なんだよ! さくらちゃんが美味しくいただいていたギョーザが、いつの間にか消えてしまったんだよ!」


「さくらちゃん! 私のクリームあんみつはどこですか? もしかして、さくらちゃんが食べてしまったんですか?」


 どうでもいいだろうがぁぁぁ! もっと大切な件に気が付けぇぇぇ! 揃いも揃って、現実と夢の世界を混同するんじゃない!



「美鈴ちゃん! 今すぐ、どうしてもギョーザが食べたいんだよ!」


「西川先輩! クリームあんみつが食べたいんですぅぅ!」


「さくらちゃん、明日香ちゃん、二人ともちょっとは落ち着いてね。転移した結果、何もない一面の平原に出てしまったのよ。しばらくは、ギョーザもクリームあんみつもお預けよ」


「「そんなぁぁぁぁ!」」


 これこれ! 何もない平原にもっと驚けよ! 自分たちが、どのような環境に置かれているかが、現在一番の問題だろう! ここが日本のどこかならまだしも、どこの世界に転移したのかすら、現段階では全くの不明なんだからな!


 このままでは収まりがつかない二人には、美鈴がアイテムボックスからドーナツを取り出して与えている。ひとまずは、これで気を静めるんだぞ! 本当に手が掛かる二人だ!



「うーん…… なんで聡史が目の前にいるんだ? 確か池袋で取材をしていて……」


 もう一人、説明に時間がかかりそうな人物が目を覚ました。



「むむ、お父さんが目を覚ましたよ! さくらちゃんたちが、誘拐犯から助け出したんだよ!」


「誘拐犯? それは何の話だ?」


 拉致される時に、いきなり頭を殴られたんだろうな。そこからずっと意識を失っていたから、父親本人は誘拐騒ぎなんて、全く記憶にないんだろう。これまでの成り行きを一から説明するのが、面倒になってくるな。


 父親に関しては、徐々に説明して納得してもらうしかないだろう。ここがどこなのか、もっとはっきりした段階で、色々と説明しようか。





 それよりも、もう一つ大きな問題がある! なぜ、お前がここにいるんだよ!


 待てよ…… 記憶を手繰ってみると、虚数空間から脱出のドサクサの際に、こいつも一緒に行動していたような気がするな。非常事態だったから、あの時は深く考えなかったが、どうやら転移にも一緒にくっついてきてしまったらしい。


 ということで、俺たちからやや離れた場所には、デューク・ドラガンと名乗った男が、依然として気を失ったままで倒れている。さてはて、どうしたものか……



「さすがにこのまま放置するのは、問題があるんじゃないかしら」


「しょうがないから、起こしてみるか」


 どうやら美鈴も、この闖入者を持て余しているようだ。この場を動くにしろ、留まるにしろ、こいつを放置しておくのも、なんとなく寝覚めが悪い気がする。あまり気が進まないが、起こしてやるとするか。



「おーい、目を覚ませ!」


 と呼び掛けながら、デュークの胸に手を置いて、体を揺すろうとする。



 ムニュッ!


 うん? なんだ、この柔らかい感触は??? 俺の手の平にスッポリと包まれるかのように、ちょっと弾力がありながらも、何とも心地よい手応えが伝わってくるぞ。


 そして、ちょうどその時、寝ていたデュークが、両目をパチリと開く。まずは、俺と目が合って、次に自分の胸に置かれている俺の手に、その視線が注がれる。



「キャァァァァァァァ!」


 穏やかな真昼の草原を切り裂くような、間違いのない女性の悲鳴が、大音量で響き渡るのであった。







どこかもわからない世界に転移してしまった聡史たち、果たして、彼らの運命は…… この続きは、週末にお届けいたします。どうぞ、お楽しみに!


たくさんのブックマークと評価をいただきましてありがとうございました。引き続き、皆様の応援をお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] やってしまいましたなぁ・・・逮捕です!!!
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