205 這い寄ってきやがる!
よかった! 今週は、無事に投稿できました。フッフッフ…… 3週続けて飛ばすようなヘマはしないのだよ!
「ギャハハハハァァ! ヘリから吊られて降りてくる明日香ちゃんが! ゲラゲラゲラゲラ!」
「さくらちゃん! なんでそんなに大笑いするんですか! 本当にヒドいです!」
妹が明日香ちゃんを指さして大笑いしている。確かに、天変地異など何も起きていない場所で、災害に遭遇した被害者ばりに担架で吊られて降りてきた姿は、笑いを誘われても仕方がないな。妹の笑いのツボを、大層刺激したようだ。
明日香ちゃんといえども、特殊能力者部隊なんだし。最近になってようやく体力訓練を開始しているけど、国防軍の一員として、まだまだあらゆる面で足りない部分を自覚してほしいものだ。
「二人とも、そろそろ気持ちを引き締めるのよ。人質となっているのは、さくらちゃんのお父さんなんですからね」
「そういえばそうだったよ! すっかり忘れていたんだよ! このさくらちゃんが、お父さんを救出して、バッチリ解決するから任せておくんだよ!」
そこだけは忘れないようにしてくれ! 救助対象は、我が家のパパさんなんだぞ! 爺ちゃんの戒名を覚えていていようとも、今一番肝心な件を忘れてしまうのは、本当に勘弁してくれ! というよりも、記憶の最前列に置いておくべきだろうが!
とにかく、人質を取られているという危機感が薄いぞ! 美鈴が言う通り、もっと気持ちを引き締めないと、父親の救出が疎かになってしまう! おっと、それよりも、犯行グループのアジトが見えてきたな。ここまで間近に迫れば、精神を集中しなくとも、父親に付与してある魔力マークがはっきりと判別可能となっている。
「あそこにある建物だ」
俺が指さす先には、著名外資系企業の保養所が聳え立っている。周辺の別荘は一戸建ての平屋の建物がほとんどの中、鉄筋5階建ての白亜の建造物は、相当目を引き付けるな。広大な敷地の周辺は、すべてフェンスで取り囲まれており、所々に監視カメラも取り付けられている。一見しただけだが、相当物々しい警戒ぶりだと言えるんじゃないかな。
「聡史君、問題は、どうやって中に入り込むかね」
「そうだな。こっそり忍び込みたいところだが、監視カメラが設置されているとなると、俺たちの姿はすでに捉えられているかもしれない。時間を節約するために、正面から押し入るしかないだろう」
美鈴から意見を求められた俺は、現状をありのままに返答する。
最悪の状況を考慮しつつ、最善の対応策を考える。これは、俺が国防軍に入隊してから司令の考えを自分なりに学んで、結論に至った戦術の組み立てだ。可能ならばもっと多くの情報を集めたいところだが、人質となっている父親の安全を考慮すると、悠長なことは言っていられない。この場合は、正面突破一択だろう。
「兄ちゃん! さくらちゃんが道を切り開くんだよ! 私の後から付いてくればいいからね!」
妹は、今にも正門から押し入る構えだ。鼻息も荒く腕捲りをしている。ゴーサインが出たら、あっという間に閉じている門をこじ開けてでも内部に突入するであろう。これだけ張り切っている妹を押し留めておくのは、かえって逆効果だ。過去の経験から言って、こいつは好きにやらせてこそ、最大限の力を発揮してくれる。
「よし、門を開けてくれ」
「任せておくんだよぉぉ!」
軽く助走をつけてジャンプすると、門を飛び越えて、その小柄な体は、あっという間に敷地の内部に入り込んでいる。ガチャリという音が響くと、正門脇の通用門が内側から開いて、妹が顔を覘かせる。
「兄ちゃんたち! 早く中に入るんだよ!」
手招きする妹に従って、残っていた俺たち4人は、通用門をくぐっていく。ここから先は、敵地のど真ん中だ。どんな危険が潜んでいるか分かったものではないからな。慎重に進んでいこう。
「先に行っているんだよぉぉ!」
と思っていたら、妹がダッシュしてあっという間に建物の前に到着している。慎重に行動しようなんて、無駄な考えだった。ただでさえ猪突猛進の傾向が強い妹だが、今回は父親の命が懸っているだけに、普段にも増して単独で突っ込もうとしているな。さすがに建物の内部に入り込んだら、もう少し抑えてもらおう。
「兄ちゃんたち! 監視カメラ以外は何も警戒されている様子はないから、早くこっちに来るんだよ!」
声がデカいぞ! 内部にも丸聞こえじゃないか! もうちょっと気を遣えよ! だが美鈴の捉え方は、俺とは違っていた。
「さくらちゃんの勘は、どうやら危険を察知していないようね。何もないのだったら、私たちも急ぎましょう」
「わかった、美鈴に従おう」
俺と美鈴は、妹の気配察知能力を信頼している。5メートル先に何があるかわからない異世界の深い森でも常に先頭に立って、襲い掛かってくる魔物を次々に排除していく姿は実に頼もしかった。妹の勘は、俺の探知能力の比ではない高性能なのだ。
全員が建物の入り口前に立つと、これから開始される突入を前にして、明日香ちゃんが緊張した表情を浮かべている。聞くところによると、香港マフィア同士の銃撃戦が発生と知って、自ら見送り役を買って出ようとしたらしいな。フィオとカレンに強制的に連行されて車に乗せられたそうだが、ヘタレな性格の明日香ちゃんらしいほのぼのとしたエピソードだ。
だったら、なんで危険があると承知の上で、父親の救出などに付いてきちゃったんだろうな? 明日香ちゃんの行動原理は、俺にとってどうにも不可解だ。
ともあれ、俺たちの前にはガラス製の自動ドアが存在している。もちろんスイッチは切られているから、ドアの前に立っても何の反応も示さない。傍らで拳を構えて叩き割ろうとしている妹を制して、俺が自動ドアの隙間に両手を差し込んで強引にこじ開けようとすると、意外なほど簡単に左右に開いていった。
「さくらが先頭を務めろ! 直後に美鈴、明日香ちゃんを挟んでカレンが続いてくれ! 俺が最後尾を進む」
「兄ちゃん! 任せてよ!」
5人が一列縦隊で、建物の内部に侵入を開始する。入口を入ってすぐの場所はエントランスとなっており、保養所を訪れたゲストを迎えるカウンターやロビーが置かれている。今のところは、どこにでもある保養所と見做して差し支えないな。そこから数メートル進んだところで……
「兄ちゃん! どうやら結界のようなものがあるよ! 叩き壊して中に入り込もうか?」
「美鈴、状況を読み取ってもらえるか」
「見るまでもないわね。誰かが別の次元をこの場に作り出している、その境界線よ。相当な術者でないと、この規模の別次元など展開できないわね」
別の次元を呼び出して、建物の内部に展開しているのか。美鈴が過去に何度も次元を作り出しては、その内部で戦闘を行ったよな。バチカンの守護聖人を葬ったあの時のように……
「内部の危険度は、判断可能か?」
「内部がどうなっているかは、何とも言えないわ。一つだけ言えるのは、危険なのは間違いないことだけね。私たちがやってくるのを承知で、これだけ大規模な罠を仕掛けているんですからね」
「術式のレベルは?」
「相当高いようね。カイザーが仕掛けた罠が、子供の遊びに見えてくるレベルよ! もっとも、大魔王に匹敵するかどうかは、語るには及ばないでしょう。注意すべきは、術者が作り出した次元の内部では、その術者が圧倒的に有利である点ね。自分に都合よい次元の設定が可能だから、私たちの行動を何らかの形で縛るような状況を創り上げているでしょう」
「それなりに困難が予想されるんだな。だがここで対策を考えていても、埒が明かない。踏み込むしかないだろう。さくら、頼む!」
パッキーーン!
拳の一振りで、その場に創り上げられた次元に人が通れるような亀裂が入る。敵の罠にも臆することなく、妹はその亀裂に身を躍り込ませていく。当然、俺たちもそのあとに続いていく。
「どうなっているんだ?」
自分が飛び込んだ異なる次元の内部を、一瞥した俺の感想だ。建物の内部にも拘わらず、俺たちが歩いてきた別荘地の景色が、広範囲で再現されている。ただしその景色には、大幅に違和感が残る。それは、再現された別荘地がモノクロというかセピア色というか、濃淡だけが再現されており、そこに色というものは存在していなかった。
「美鈴、色が全くないようだが、どうなっているんだ?」
「魔力の節約でしょうね。色まで再現すると、その分だけ魔力を必要とするわ。でもそんなことよりも、もっと気になることがあるのよ!」
「気になること?」
「そう! まるで星辰が正しい位置を示すまで海底に眠る都市〔ルルイエ〕のように、すべての直線と平面が、私たちが知っている幾何学の定理から外れているのよ」
そうか! 美鈴の指摘で、俺もようやくその事実に気が付いたぞ! 別荘地の建物や道路を構成する線や面が、どこを取ってもおかしいんだ。歪んでいるように見えてはいても、それはそれで一つの形を成しているし、直角のように見えても実は角度が狂っているし……
「この電柱は、真っ直ぐに見えるのに、よく見ると曲がっていますよ!」
明日香ちゃんが立っている脇には、一見何の変哲もない電柱がある。だが彼女の発言通り、曲がっているのか真っ直ぐなのか、目を凝らしても判断がつかないのだ。トリックアートをもっと極端にしたら、こんな怪しげな風景が出来上がるのかもしれない。明日香ちゃんは、なおもその電柱に興味をそそられている様子だ。
「本当に変な電柱ですね! ちょっと、手を触れてみましょうか!」
スッ……
明日香ちゃんが触れた瞬間、あったはずの電柱の姿は消え去って、そこから真っ黒な空間が広がっていく。
「気を付けて! 虚無の空間に飲み込まれたら、逃げ出せなくなるわよ!」
真っ黒な空間は明日香ちゃんが手を触れた電柱を起点にして、扇状に半径10メートルほど広がって停止した。その内部は、美鈴の指摘通りに本当に何もない虚無の空間だ。
「異なる次元とはいっても、構成しているのは魔力よ。魔力を消し去る明日香ちゃんの力が働くと、次元そのものを破壊してしまうから、迂闊に触れないほうがいいわね」
「ええぇぇぇぇ! 私の力で、次元の一部を壊しちゃったんですか?!」
「そうよ、この程度なら微々たるものだから次元全体を構成する魔力には影響はないけど、広範囲に消してしまったら、次元そのものが崩壊する可能性があるわね」
「西川先輩! 嫌な予感がするんですが、その次元が崩壊すると、どうなるんですか?」
「崩壊に飲み込まれたら、外に出られなくなるわね」
「もう絶対に何も触れません!」
明日香ちゃん! ヤバすぎっ! 触れただけで、この次元を壊してしまうなんて、なんて恐ろしい能力なんだ! 本当に魔力に対する天敵だよな。おや、美鈴は、まだ話し足りなさそうな様子だな。
「美鈴、まだ何かあるのか?」
「この次元に隠された罠の正体が、分かった気がするのよ」
「罠の正体だって?」
「ええ、明日香ちゃんの能力によって魔力が消えていく際に、一瞬だけ術式を構成する魔法式が読み取れたわ。この次元の正体は、虚数空間よ!」
「虚数空間?」
「ええ、a+biで示される虚数によって、この空間は作られているわ。実数の二次曲線を180°反転させたグラフね。理論的には創造は可能だと思っていたけど、こうして現実に目にするとは思っていなかったわ」
美鈴は魔法の第一人者を自称するプライドに懸けて、その術式を解明しようと、思考に埋没した表情を浮かべている。その脳内では、俺の想像がつかないほどの複雑な計算式が、高速演算されているのであろう。
やがて、演算を終えた美鈴が、何やらスッキリとした表情で顔を上げる。
「魔法式は解明できたけど、術式自体に介入するには、まだ情報不足ね」
「あのー、美鈴さん! その虚数空間が、どのように作用して罠に繋がるのか、説明してもらいたいんだが」
「ああ、そうだったわ。術式の解明に気を取られてしまって、その点をすっかり忘れていたわね。今からファイアーボールを飛ばしてみるから、ちょっと見ていてね」
美鈴は、誰もいない方向に向かって初級魔法を発動しようとする。
「ファイアーボール!」
だが、何も起きない! 目を閉じていても発動できるはずのファイアーボールが、一向に発生する気配すらない。美鈴の手の平には魔力が集まってはいるのだが、それが術式によって事象変換しないのであった。
「美鈴! 一体どうなっているんだ?」
「ご覧の通りね。魔法が封じられているのよ」
「魔法が封じられているって! どういう理屈が働いているんだよ?」
「私たちの魔力は、目に見えないし形もないわ。でも、実数として存在している。数値で表示されるのは、その証拠に他ならないわね。でも、ここは虚数空間よ。実在世界では空想の数字である虚数が、ここでは実体化しているの。したがってこの空間では、実数が空想の存在に成り代わっているの」
「虚数が実体化して、実数が空想化している…… なんとなくわかったような気がする」
理論的な詳しい話はともかくとして、イメージで美鈴の話をなんとなくは理解できた。一緒に聞いている妹や明日香ちゃんは、ポカンとした表情だな。明日香ちゃん! 大丈夫なのか? ついこの間までは、高校生だったんじゃないのか?
「したがって、魔力を攻撃や防御には使用できないわ。各自は、魔力が使用できない想定で、どのように対処するかを考えてもらいたいの」
これは参ったな…… 俺は戦いにおいて、魔力に依存している度合いが高いからな。魔力バリアも、働いていないと考えていいんだろうか? ちょっと試してみる必要がありそうだ。
「さくら、俺を軽く蹴飛ばしてもらえるか!」
「兄ちゃん、いいよ! 歯を食い縛るんだよぉぉ!」
「待てえぇぇぇぇ! 軽くと言っただろうがぁぁぁ!」
ガシッ!
「痛えぇぇぇぇ! む、向う脛がぁぁぁ!」
弁慶の泣き所を妹によってしこたま蹴飛ばされた俺は、地面を転げ回って痛みと戦っている。軽くと言ったにも拘わらず、容赦がなさすぎだ!
「聡史様、どうぞ」
その姿を見かねたカレンが、俺の口に回復水を流し込んでくれる。
よかった! おかげで痛みは引いていった。カレン、本当にありがとう!
「本来でしたら回復の光を使用したかったのですが、天使の能力も発揮できないようです」
「美鈴に続いて、カレンも力を封じられているのか。これは由々しき問題だな」
「兄ちゃん! このさくらちゃんは、特に問題はないからね! 多少威力は落ちているけど、敵をまとめてブッ飛ばすくらいの力は残っているよ!」
妹よ、それはよくわかっているとも! たった今この身を挺して体験したばかりだからな。バリアがなくとも、防御力99999999の破壊神を悶絶させるんだから、お前の攻撃力は健在だろう。ただし、魔力によって発動させる身体強化は、使用不可能だろうな。
「西川先輩! 皆さんの魔力が封じられているのに、なぜ私の力は、普段と変わらずに使用できるんですか?」
「明日香ちゃん、虚数にゼロを掛けると答えはゼロになるのよ。あなたの能力は、計算式で言うところの『ゼロを掛ける』だから、虚数空間でも通用するのは当然ね」
「はあ、なんだかわかったような、わからないような……」
明日香ちゃんは、どうも納得いかない表情をしているな。確かに明日香ちゃんの能力は、どれだけ大量にある魔力でも消し去ってしまうから、いうなれば『ゼロを掛ける』に相当するな。これは、わかりやすい物の例えだろう。だが一人だけ、全然わかっていない人間がいる。
「フフフ… ということは、明日香ちゃんは、人間としての点数が0点なんだね!」
「誰が人間点数0点ですかぁぁぁ! さくらちゃんこそ、定期テスト0点の常連だったじゃないですかぁぁぁ!」
「失礼だよぉぉ! ちゃんと一桁は取っていたんだよ! さくらちゃんの勘は、選択問題の正解を見逃さないんだからね!」
「一桁で威張らないでください! さくらちゃんはバカなんですから!」
「誰がバカだってぇぇぇ! 明日香ちゃん! 表に出るんだよ! 今度こそ決着をつけるんだよぉぉ!」
また、始まったよ! この緊急事態に、いい加減にしてもらえないかな。美鈴、頼んだ!
「二人とも、ドーナツがあるんだけど、食べるかしら?」
「美鈴ちゃんは、本当にいい人だよ!」
「西川先輩! いただきます!」
こうして妹と明日香ちゃんは、美鈴から手渡されたドーナツを仲良く食べている。たった今、二人でいがみ合っていた件など、忘却の彼方に飛んでいったようだ。そこへ、カレンの警戒するような声が発せられる。
「あれは何でしょうか?!」
その指さす方向に顔を向けると、ゼリー状の物体がうねうねと体をくねらせながら、こちらへ向かって這ってくる。その後方からも、同じような物体が数体向かってくるようだ。まさか、這い寄る混沌…… のはずはないか。おそらくは、魔力で作り出された仮生体だろう。ただし、うねっている塊の高さが1メートル弱という、かなりのサイズだ。
「あの手合いは、物理攻撃が効果ないのよねぇ」
「美鈴ちゃん! まずはこのさくらちゃんが試してみるから、待っているんだよ!」
妹が、ゼリー目掛けて駆け出していく。その右足が振り上げられて不気味な塊に叩き付けられるが、妹の蹴りに負けて千切れ飛んだ部分は、接地すると小さな塊となって、体をくねらせながら活動を開始する。もちろん元々の本体も、相変わらず動いてこちらを目指して這い寄ってくる。
「ダメだったね! 攻撃すればするほど、数だけが増えていくんだよ!」
さすがの妹も、これにはお手上げの様子だ。それこそ、ファイアーボール1発で片が付きそうなんだけど、肝心の魔法が封じられている。魔力が使用できないという不便を、これほど感じた経験はないぞ!
「私がやってみます!」
だがここで、立ち上がった一人の少女がいる! なんと、あのヘタレの明日香ちゃんだ!
「えい!」
千切れ飛んだ小さな塊に明日香ちゃんが手を触れると、たちまちその物体は魔力を失って、干からびたようになって消え去っていく。
「明日香ちゃん! ナイスだよぉぉ!」
「明日香ちゃん! 凄いじゃないの!」
「やる時はやりますねぇぇ!」
見事な活躍を見せる明日香ちゃんに、女子3人から歓声が飛ぶ。さすがだ! 強い者には媚びへつらうが、弱い者は徹底的に叩く明日香ちゃんの面目躍如…… すまん、ちょっと言い過ぎた。徐々に成長している姿を見ると、俺も嬉しいぞ!
魔力で作られた仮生体は、魔力を失うと消え去る運命。魔法が封じられたこの状況にあって、明日香ちゃんが頑張ってくれるのは、頼もしい限りだ!
こうして、ゼリーの塊をすべて明日香ちゃんが排除すると、今度は岩と土を固めたゴーレムの一団がやってくる。この相手ならば物理は有効だろうと、またもや妹が突撃していく。
ガキッ! バコッ! グシャッ! ドガーン! バキーン!
先ほどの鬱憤を晴らすかの如くに、妹は暴れまわっている。両手を振り回して攻撃を仕掛けてくるゴーレムの遅い動きなど、妹にとっては絶好のカモだろうな。一撃で岩だらけの体を粉砕しているぞ。
おや、横道から別のゴーレムの軍団が向かってくるようだな。俺は、行軍用スコップ改Ⅱ型を取り出すと、ゴーレムに向かって駆け出して、正面からスコップを叩き付ける。
ドワッシャーーン!
久しぶりに生身で戦ってみたが、攻撃力99999999は伊達ではなかったな。ゴーレムが、まるで爆発したかのように粉々になっているぞ。俺は、勢いに任せてその場に現れたゴーレムを次々に粉砕していく。その時……
「キャーー!」
これはっ! 明日香ちゃんの悲鳴だな! 振り返ると、横道の反対側から無数のゴーレムが、今にも美鈴たちに襲い掛かろうとしている。
不味いぞ! 目の前の敵に気を取られすぎていた!
美鈴とカレンはその力を封じられて、いわば丸腰の状態。それでも、大魔王と天使の矜持を保ったまま、ゴーレムに対して立ちはだかっている。
俺は、取って返して必死で走るが、どう足掻いてもあと一歩が足りない。不味い! このままでは、美鈴とカレンが! 二人の元に辿り着くまでの時間が、永劫に感じられる。もどかしい足取りを少しでも早めようとしても、あと一歩が届かない!
そんな絶望に俺が包まれかけた、その時……
「本厳院太極波ぁぁぁぁぁぁ!」
コオォォォォォ!
ドッパーーーン!
美鈴とカレンの目の前を、轟音とともに猛烈なエネルギーを秘めた光が通り過ぎていく。その光に巻き込まれたゴーレムは、たちどころに消滅していった。ゴーレムだけを滅して、美鈴たちにはかすり傷一つ負わせない見事なコントロールだ!
「さくら! デカしたぞ!」
「兄ちゃん! さくらちゃんは進化するんだからね! この程度は、楽勝だよ!」
ピカピカに光るドヤ顔をしているが、今回は許してやろう! 好きなだけドヤるがいいぞ!
こうして、色々と縛られた状態ながらも危機を脱して、父親が囚われている場所へと向かう俺たちであった。
魔力が使用できない! この非常事態に、聡史たちは果たしてどう立ち向かうか…… この続きは、今週末にお届けする予定です。どうぞお楽しみに!
ブックマークをありがとうございました。引き続き、皆様の応援をお待ちしております。
自粛解除後、都内では感染のクラスターが所々に発生しているようです。ウイルスに注意して行動するのは、自分だけではなくて家族や社会を守ります。
手洗いやアルコール消毒をこまめに実施しましょう!




