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203 事件と新たな敵の影

またしても、週中頃の投稿を飛ばしてしまって、申し訳ありませんでした。自粛が解けて、仕事が忙しくなりまして……

 富士山が崩落しかけた翌朝、駐屯地の食堂では……



「そうそう、そこでさくらちゃんの新たな必殺技が炸裂して、一歩間違うと富士山が普通の高さの山になるところだったんだよ!」


「なんと! それほどの大技でございましたか! 主殿の新たな技となれば、ぜひとも一目見とうございましたな」


「妾も見ておきたかったのじゃ! 主殿のことであるからには、それは目を見張るばかりの素晴らしき技に違いないのじゃ!」


「ポチとタマは、無理を言うんじゃないんだよ! あんな大技を気軽に使っていたら、今度こそ富士山が消えてなくなっちゃうからね!」


「さすがにそれは、我にとっても少々困りものでありますな! 我は、霊峰富士の峰より妖力をいただいたおりまする。その肝心なる御山がなくなるような真似事は、どうか主殿おやめくだされ!」


「妾にとっても、さすがに富士の峰が消えてしまうのは、由々しき問題なのじゃ! 主殿は、どうか自重してもらいたいのじゃ!」


「納豆ゴ飯ガ一番美味シイ!」


 妹がペットに囲まれて、毎日と変わりのない賑やかな朝食の時間が流れていく。


 たーだーし!


 天狐と玉藻の前は、もっと強い口調で己の主人を諫めてもらいたいものだな。そんな遠回しな言い方では、妹の脳内に全然突き刺さらないぞ! 『今度やったら、丸一日絶食!』とか言ってみろよ! さらにその会話とは関係なく、テーブルの上に乗った八咫烏が美味そうに納豆ご飯をパクついているし…… 相変わらず実にカオスな状況だ。



「実はさくらちゃんも、少々反省したんだよ! さすがに調子に乗ってやり過ぎちゃったかなってね! まあでも、カレンちゃんが兄ちゃんの魔力を使って、あっという間に元通りにしてくれたから、すぐに反省の時間は終わりにしたけどね」


 終わらせるの、早すぎっ! 他人に任せっきりで、それでお前は本当にいいと思っているのか? 今日一日、食事も忘れて座禅を組むべきじゃないのか? どうなんだ、んん?



「そういえば、主殿! 祠の床から湧き上がる妖力が、昨夜から勢いを増したような気がいたしまするぞ」


「そうなのじゃ! 妾も横になりながら、はて? と、考えておったのじゃ!」


 なんだと! また俺の魔力が、大量に撒き散らかされたのか? 確かに美鈴、フィオ、カレンの3人に供給するために、後先考えずに制限を取っ払って魔力を溢れ出させたから、その一部が大気中や地面に拡散してしまった可能性はあるだろう。兆単位で湧き出した魔力のごく一部であったとしても、数値に直すとそれは空前絶後の莫大な量となる。それだけの量となると、この界隈の魔力の流れに影響を与えても不思議ではないな。反省すべきは、俺かもしれない。



「そうなんだ! ポチとタマはラッキーだね! 寝ている間に、簡単レベルアップだよ!」


「ボス! それは本当ですか?!」


 おいおい、今度は話をかき混ぜてさらにややこしくする連中が、横からしゃしゃり出てきたぞ! 親衛隊たちは、魔力を吸収できる機会さえあれば、一瞬の隙も見逃さずに喰い付いてくる。当然、この話にも身を乗り出して目をギラギラさせながら、妹に食い下がるつもりのようだ。



「地面から湧き出してくる魔力を寝ている間に吸収できれば、オイシイ話だな!」


「聞くところによれば、その祠の中が駐屯地中で一番魔力が高いんだろう!」


「天狐さん! 私たちもその祠に泊めてよ! ボス! どうか許可してもらえませんか?」


「うーん、どうなんだろうね? 本人がいいって言ったら許可するけど。ポチはどうなのかな?」


 こいつらは、ごく当たり前の常識などどこかに追いやって、とんでもない角度から物凄い提案をかましてくるな。どこの世界に、妖怪の寝床で一緒に過ごそうとする人間がいるんだ?



「主殿、やめておかれてほうが宜しいかと存じまする。こうして目覚めている折には、自らを律することが可能ですが、微睡まどろんでいる刻は、大妖怪の本性が現れぬとも限りませぬ。人を捕って食う癖が、ついつい顔を覗かすやもしれませぬ」


「うん、それは無理だね! 親衛隊は諦めるんだよ! ポチが本気になったら、みんながが束になって掛かっても一捻りだからね!」


 寝ているところを無理やり起こそうとすると、回避不可能な裏拳を飛ばしてくる張本人が、偉そうなことを言っているぞ! それにしても、妹の裏拳を簡単に止めた司令は、やはり化け物だよな。俺だって油断すると、息が詰まるほどの衝撃を食らうのに……


 おい、それよりも親衛隊! なんでそんなにあからさまにガックリしているんだよ! 当たり前! 当然! 普通は、最初からこんなバカげた提案なんか、誰も思い付かないんだぞ!



「仕方がないからいつものように、お兄さんの魔力を吸収しようか」


「そうだな、せっかくのいい案だったと思ったのに、本当にガックリだぜ!」


 コラコラ! テンションダダ下がりの表情で、俺の周囲に集まってくるんじゃない! 本当に鬱陶しいなぁ! こうして親衛隊たちは、朝食時間が終了するまで俺の魔力を吸収し続けるのだった。もういい加減にしてもらいたい! 俺に後ろに並んで、スーハースーハー大迷惑なんだぞ!



「オ腹イッパイ! ゴチソウサマ!」


 八咫烏は、茶碗ひとつで腹いっぱいになるから、安上がりだよな。どこかの大食いとは違って、体の大きさに見合った分量だけしか食べない。おまけに、空を飛び回って時々情報を持ち帰ってくるから、役に立つんだよな。朝食が終わったら、いつものように広い範囲を飛び回るつもりなんだろう。



 こうして俺たちは朝食を終えて、各自の訓練へと散っていくのだった。ようやく親衛隊の鬱陶しい攻撃から解放されて、ほっとした気分だ。美鈴に頼んでもう一つ祠を作ってもらって、あいつら全員押し込んでおこうか。






 その日の昼前……



「帰還者と能力者は全員、図面演習室に集まれ!」


 急にどうしたんだろうな? 間もなく昼礼の時間だし、作戦の説明であればその後に俺たちを招集すれば問題ないはずだ。訓練を中断して集まるなんて今回が初のケースだけに、緊急事態が発生した可能性がある。


 俺は、一緒に訓練していたリディア姉妹と図面演習室へと向かう。妹も、ちょうどそこに軍団を率いて戻ってきたので、一緒にゾロゾロと廊下を歩いていく。


 図面演習室の中に入ると、そこには司令が難しい顔で腰掛けている。この人が直々に俺たちを招集したということは、これは、よほどの事態が発生したと考えて差し支えないだろう。


 俺たち全員が揃ったのを見て、司令が口を開く。



「たった今、特殊警護隊から緊急連絡が入った。楢崎中尉、さくら軍曹の父上が、何者かに拉致された」


「「なんだってぇぇぇぇ!」」


 俺と妹の声が、見事に揃った。家族が直接被害を受けた一報を聞いて、鋼の神経の持ち主である俺の妹も、さすがに焦った表情をしている。動揺を隠せない俺たちに代わって、大魔王様が司令に事件の内容を確認してくれる。



「私たちの家族は、護衛の部隊が常に目を光らせて、厳重に警護しているはずですが、なぜ今回、このような事案が発生したのでしょうか?」


「その辺に関しては、私も警護隊からしっかり事情を聴取した。どうやら、帰還者が直接拉致に関わっている可能性に関する報告がある」


「帰還者によって、聡史君たちのお父さんが拉致されたんですね」


「正確に確認されたわけではないが、その可能性が高いであろうと考えている。警護隊には、相当な腕利きが選抜されているのは、知っての通りだ。しかも、魔法銃が全員に支給されている。彼らが手も足も出ないうちに簡単に拉致を許したとなると、帰還者が関わっていると考えて間違いないだろうな」


「どこの国の帰還者が、実行犯として考えられるでしょうか?」


「当たり前に考えると、中華大陸連合が真っ先に槍玉に挙がるだろうな。ついこの間は、細菌兵器を撒き散らそうとした帰還者がいた。だが今回は、単独犯ではないようだ。逃走時に車が用意してある他、拉致の実行時に数人が関与したという目撃証言がある」


「ということは?」


「日本国内では、中華大陸連合の組織は壊滅状態となっている。誘拐事件のバックアップをしている余力は、とうに失っていると判断して間違いない」


「中華大陸連合が実行したとは、断定できないということですね」


「西川少尉、その通りだ。どこの国が我々の関係者に手を出したか、そこが大きなポイントだと考えられる」


 司令と美鈴のやり取りが一段落したのを待ちかねたかのように、今度は妹が口を開く。いまだにその表情は、動揺を隠せないままだ。



「司令官ちゃん! 犯行がどこの国なんて、細かい話はどうでもいいんだよ! さっさと犯人をとっ捕まえて、お父さんを助け出すんだよ!」


「司令、一刻も早く動き出しましょう!」


 妹に続いて、俺も横から口添えをする。自分の父親が拉致されたからには、この手で犯人の首根っこを押さえて、死んだほうがいいくらいの目に遭わせないと、俺たちの気が済まない。 



「二人とも、少々頭を冷やせ! どこに潜り込んだのかもわからない相手を探すのは、そうそう簡単ではないんだぞ」


「司令! 方法ならあります! 俺は両親に魔力でマークを付けていますから、半径50キロ圏内ならば探査できます!」


「ほう、それは便利なスキルだな。すぐに居所を突き止めてもらいたい。それから、マリア訓練生!」


「ハイですぅ!」


「国家に属さないフリーの帰還者が日本に潜り込んでいないか、情報をあたってもらえるか?」


「わかったですぅ! 知り合いに聞き回って、情報を集めるですぅ!」


 なんだって? フリーの帰還者だと! 司令はそんな可能性を疑っているのか? マリアなら、それなりのネットワークを持っているから、何らかの情報を掴めるかもしれないけど。



「司令、フリーの帰還者の存在を疑っているんですか?」


「西川少尉ともあろうものが、その可能性を見逃していたのか? 今のところ、各国から公表されている帰還者が日本へ入国した形跡はない。となったら、我が国が得ている情報の網から漏れている帰還者の存在を疑うのは、当然だろう。金で雇った人間ならば、トカゲの尻尾切りで使い捨てにできるからな」


「承知しました。あらゆる可能性を考えながら、今回の任務にあたる必要を心に留めます」


「それでいい。まずは、楢崎中尉のスキルを利用して、被害者の居場所を特定するんだ。それまでに各自は、出動の準備を整えろ。動くのは、それからだ!」


「「「「「了解しました」」」」」


 全員が一斉に準備に取り掛かる中、俺は一人で図面演習室に残って、探査スキルを発動しながら精神を集中していく。両親に付与してある魔力のマークに意識を合わせると、脳内に描かれた地図には、実家の位置に一つ目のマークが浮かび上がる。これは、母親のものだな。無事に家の中にいるのが確認できて、一安心だ。


 そして、もう一つの父親に付与してある魔力のマークを探すが、これに関しては、どうもその反応が不鮮明であった。通常は一点に留まっているシグナルが、はっきりと形を成さずに、時には点滅を繰り返す。これは、対象が移動中という状況を示している。正確な場所を特定できないが、どうやら都内を北の方向に向かっているようだ。移動速度が速いと感じるのは、車に乗せられて高速道路を走行している影響かもしれない。


 さらに俺には、気掛かりな点がある。このまま父親が移動し続けると、数分後には俺のスキルの探知圏外へと出ていってしまうのだ。おぼろげなシグナルの移動状況を地図と照らし合わせると、どうやら東北道方面に進んで北に向かう公算が高い。今からヘリで追いかければ、ギリギリで追尾は可能かもしれないな。ことは緊急を要するだけに、すぐに出発しよう!



 こうして、俺は司令に報告をすると、自らも出撃に備えて装備を整える。とはいっても、必要な物品は全てアイテムボックスに入っているから、特に何も準備はしないのだが。


 それはいいとして、スマホの通話ボタンで、司令との回線を繋ぐ……



「わかった、行先は、東北方面だな。すでにヘリの手配は済ませてあるから、楢崎中尉もヘリポートに向かえ」


「了解しました!」



 管理棟の建物を出ると、急いでヘリポートへと向かう。そこにはすでに、主だったメンバーが装備を整えて待っている。



「楢崎中尉、さくら軍曹、西川少尉、カレン准尉の4人は、すぐにヘリに乗り込め。それから、フィオ少尉は、別のヘリで厚木に向かえ!」


 父親の救助に向かう俺たちとは別に、フィオは俺の実家に残っている母親の警護に向かう手筈となった。休暇のほとんどを俺の実家で過ごしているフィオにとっては、すでに我が家同然だから、これは適任といえるだろう。大賢者が守っていてくれれば、実家の心配はいらないな。その分だけ、父親の救助に専念できる。そして救援実行部隊は、俺、妹、美鈴の3人だ。カレンは万一の際の回復担当で、今回の出動に加わっている。



「兄ちゃん! お父さんの居場所は分かったのかな?」


 俺がヘリに向かって移動する姿を見た妹が、整然と並んでいる隊列から飛び出してきた。父親の行方が気掛かりなんだろうな。二人並んでヘリに向かいながら、状況を知らせてやる。


「おそらく車で移動中だ。東北方面に向かっている可能性が高い」


「兄ちゃん! 犯人は絶対に、さくらちゃんがこの手でブッ飛ばすんだよ! 無関係の家族に手を出すなんて、絶対に許せないんだからね!」


「さくら、父さんの安全が最優先だからな。落ち着いて行動するんだぞ」


「兄ちゃん! もちろんお父さんは無事に助けるんだよ! その上で、犯人はブッ飛ばすからね!」


 妹は、相当に頭に血が上っているようだ。だが、父親の命が懸かっているのだから、さすがに無茶はしないであろう。た、たぶん…… お願いだから、そうあってもらいたい。



 ヘリは俺たちを乗せて離陸すると、まずは大宮駐屯地へと機首を向ける。俺のスキルで父親の行方を追えたのは、都内の北部だが限界だった。そのため、大宮に出向いてから改めてスキルを発動して、捜索を継続する予定だ。


 重苦しい沈黙が流れる機内だが、その状態を打ち破るかのような声が響く。



「さくらちゃん、誘拐されたお父さんが心配ですね」


「そうなんだよ! さすがのさくらちゃんも、今回ばかりは相当焦っているんだよ! 明日香ちゃん、心配を掛けて悪いね…… うん? ところで、なんで明日香ちゃんがここにいるのかな?」


「えっ! 私はさくらちゃんのお父さんとは顔見知りですし、救助に向かうのは当然ですよね!」


「確か司令官ちゃんは、4人で出動と言っていたよ! いつの間にこのヘリに乗り込んだのかな?」


「ヘリの搭乗口が開いていたので、そのまま乗り込みましたよ。私がヘリポートに到着した時には、まだ誰も来ていませんでしたから!」


 完全にやられた! さすがは特殊能力者部隊最大の地雷! 駐機しているヘリに何も考えずに乗り込むなどといった真似は、明日香ちゃん以外には誰にも成せない業だろう。全員が整列した時に、その姿がなかった点をすっかり見逃していた。


 それにしても、我が家の父親救出という大変デリケートなミッションに、明日香ちゃんが紛れ込むとは…… 困難な状況のハードルが、さらに3段階くらい嵩上げされた気分だぞ。今更引き返すわけにもいかないし、明日香ちゃんを含めた5人で対処するしかないのか……


 

「付いてきてしまったものは、今更しょうがない。明日香ちゃんの力も借りるとしよう」


「お兄さん! 私、頑張りますから!」


 明日香ちゃんは、力こぶを作ってやる気を漲らせている。いや、そんなに張り切らなくていいから! やる気に溢れた地雷なんて、死亡フラグ以外の何物でもないから! お願いだから、できれば何もしないでください!


 騒動のタネを撒き散らかさないでもらいたいというのが、この場にいる4人の本音であるのは言うまでもないが、当人がその点に一向に気が付いてくれないのは、実に手を焼く事態だと申し添えておこう。あーあ、緊急事態なのに、嫌な予感しかしないぞ!



「明日香ちゃんがいるからには、保険を掛ける必要があるわね」


 美鈴は、自分のスマホを何やら操作しているな。一体、何をしているのだろうか?



「美鈴、何をしているんだ?」


「ちょっとしたおまじないだから、聡史君は気にしなくていいの!」


 片目を瞑って俺に向かってウインクすると、美鈴はスマホの操作に集中し出して、しばらく無言となった。一通り操作が終わると、スマホをしまって何事もなかったかのような表情をしている。謎の多い大魔王様だな。



 こうして約50分後に、俺たちは大宮駐屯地に到着するのだった。


 






 その頃、富士駐屯地の宿舎では……


 どうも、マリアですぅ。


 司令官からフリーの帰還者の情報を集めろと言われたので、方々の知り合いに電話を掛けている最中ですぅ。でも、今のところ、これといった情報がないですぅ。仕方がないから最後の頼みの綱である、ロシアンマフィアと連絡を取ってみるですぅ。



「もしもし、モグレビッチさんですかぁ? 運び屋のマリアですぅ」


「おう、マリアか! ずいぶん久しぶりだな。最近姿を見せないが、どうしているんだ?」


「しばらくアジアにいるですぅ! 香港や日本で運び屋をやっているですぅ! こっちの組織は、気前がよくって、定期的に報酬が入るですぅ!」


 本当は日本の国防軍に所属しているですぅ。でも、この場はあくまでも運び屋のマリアで通すですぅ。



「そうなのか! この前、香港マフィアを紹介しろと頼まれたが、拠点を移したという話は、どうやら本当らしいな」


「今の拠点は、日本ですぅ! 食べ物が美味しいから、しばらく離れるつもりはないですぅ!」


「それは残念だな。お前さんに頼みたい仕事があるんだが、時間が空いたら教えてくれるか?」


「わかったですぅ! それよりも、情報は必要ですかぁ? 東アジアと沿海州に関しては、ある程度の情報が集まっているですぅ」


 日本が集めた情報のうち、外に漏らしても構わないものは司令官から許可を得ているですぅ。情報が欲しい時には、ギブアンドテイクが基本ですぅ。



「そうだなぁ…… 香港はその後どうなったんだ?」


「16Kは、壊滅したですぅ。代わって、新魏会がマカオのカジノ利権を手に入れたですぅ」


「ほう、新魏会は昔馴染みの組織だから、こちらとしても好都合だな。沿海州は、どうなっているんだ?」


「中華大陸連合には、秘密にされた帰還者がまだいるですぅ。その戦力が投入されると、ロシアは厳しいですぅ」


「それは大ごとだ! こちらも対策を考える必要があるな。役に立つ情報をありがとうよ!」


 モグレビッチさんが、満足する情報でよかったですぅ。それでは、こちらが知りたい情報を教えてもらう番ですぅ。



「最近のフリーの帰還者の動きは、どうですかぁ? 運び屋のライバルが出てこないか、気になるですぅ」


「マリアはそれなりの地位を築いているから、運び屋として安泰だろう」


 今は公務員として安泰ですぅ。絶対にしがみつくですぅ!



「顧客を取られないか、毎日が不安ですぅ! ライバルの情報は、喉から手が出るほど欲しいですぅ!」


「そうなのか? まあいいか。そうだなぁ…… クロアチアのデューク=ドラガンという男を知っているか?」


「初めて聞く名前ですぅ」


「2か月前くらいに突然現れたんだが、どうやらモサドに囲われているらしい。ユダヤ教徒なのかもしれないな」


「モサドですかぁ?」


「ああ、モサドの非合法活動の外注のような役割をしているらしいな。この男が、現在ヨーロッパから姿を消して消息不明となっている。とまあ、これ以上詳しい話は、俺も知らないがな」


「わかったですぅ! ありがとうございました」


「いいってことよ。こっちも面白い話を聞かせてもらったからな」


 こうして通話を終えたですぅ。すぐに司令官に報告ですぅ! モサドが動いている可能性なんて、まるっきり予想外の方向ですぅ! 情報通のマリアも、ビックリしたですぅ!


 こうして司令官室を訪れるですぅ。司令官に、一通り話をしたですぅ。黙って聞いていた司令官が、キッとした表情で口を開いたですぅ。



「モサド風情が出しゃばりやがって! 機会があったら、組織ごと潰してやろうか!」


 こ、怖くって、腰が抜けたですぅ! さくらちゃんに殴られた時の、百倍怖かったですぅ! もしかしたらチビってしまったかもしれないですぅ!


 這うようにして司令官室を飛び出して、トイレに駆け込むマリアでしたぁぁぁ。

誘拐された主人公の父親の運命は果たして…… この続きは、明日投稿する予定です。どうぞお楽しみに!


評価とブックマークをいただいてありがとうございました。引き続き皆様の応援をお待ちしております。


話は変わりますが、アメリカでは暴動騒ぎが収束する気配がないようです。トランプ大統領の発言では、アンティファという組織の関与が取り沙汰されているようです。


この小説の18話でも中華大陸連合の関与で、アメリカで暴動が発生するくだりを描きました。未だに暴動の背後に関与している組織の正確な実態が判明しておりませんが、作者の心象としては十中八九中国の何らかの影響があるとみています。


もちろんアメリカも黙って指を咥えているはずはないでしょう。FBIとCIAが総力を挙げてアンティファのバックを明らかにしていくでしょう。その結果として、仮に中国の暗躍が暴かれたとしたら、アメリカの世論はますます強硬になっていくと考えられます。


若い方は知識でしか知らないと思いますが、今から30年前までは、米ソ冷戦という世界でした。世界中がアメリカブロックとソ連ブロックに2分されていた時代です。


もしこのまま米中の対立が進むと、西側と東側が対立と小競り合いを繰り返した冷戦時代の再来となるのでしょうか?


どちらにしても、経済の分野では、中国はサプライチェーンから外されていくのは、間違いありません。高成長を謳歌してきた中国の時代は、終えんを迎えたと考えて間違いないと思います。


コロナ騒動をめぐって、ますます激化する米中対立ですが、経済分野だけに留まるのか、それとも現実の戦争となってしまうのか、その流れを決定する一コマとして、今回のアメリカでの暴動が発生したと考えるのが、至極納得いく回答のような気がしてならないのは、作者だけでしょうか? 現状は、かなり悲観的なシナリオに天秤が傾いてしまったような気がいたします。

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[一言] 絶対に公務員にしがみ付くウーマン好きw
[良い点] オーストラリアが中国に侵略された経緯の本「サイレントインベーション」の続編が出るとのこと、今度は世界版で日本、イギリスのブレグジットなんかの話も入るそうです。 千人計画とか孔子学院とかチャ…
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