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200 日の届かない暗闇

ついにこの小説も、節目の200話を迎えました。読者の皆様のおかげと、心から感謝しております。

 全ヨーロッパを恐怖に包み、虐殺と破壊をほしいままにしている最中に忽然と姿を消した存在、それは人々の記憶から薄れはしても、あまりに絶望的な破壊の傷跡ゆえに、けっして忘れることができない悪夢として各々の心に刻まれている。ことにロシアの黒海沿岸部やセルビアのニーシの街周辺の住民は、第2次世界大戦以来の目を覆うような多大なる被害を被っただけに、一層深く住民の間に心の傷として残っているのだった。


 一時は各国のマスコミや政府機関が血眼になって捜索したが、その行方はようとして掴めずに現在に至っている。あれだけの虐殺を繰り広げた挙句に、その当事者たちが突如として行方をくらました奇妙な現実に、諜報機関や政府関係者だけでなくて一般の人々も首を捻っているが、何ら手掛かりが残っていない点において、なんとも不可解な事件であった。


 唯一、ニーシの近くにあるアレクシナツという小さな街の住民が『街を攻撃していた何者かは、日米連合軍によって討伐された』という証言をしているが、それすらも誰もその現場を目撃したわけではないので、確実な情報とは見做されなかった。その結果として、ヨーロッパ中には様々な噂が広まっていく。


 最初に人々の間に広まった話は、アレクシナツの住民の証言を元にして、虐殺者たちは日米連合の帰還者部隊の手ですでに葬られており、二度と姿を現すことはないと断じるものだった。だが、この件に関して日米両国政府から公式な見解が出されていないため、あくまで真偽が確定していない噂の段階に過ぎない。これに関しては、人々が安寧をもたらす情報にすがりたいという気持ちが高じた結果、このような不確定な話が広まったのでがないかと分析する声もある。


 その後に広がったのは、日米政府の歯切れの悪い態度から鑑みて、悪夢の根源たる虐殺者はまだ生きており、再び復活を遂げてヨーロッパを恐怖のどん底に突き落とすのではないか、という不安を煽るような噂であった。その結果として、ヨーロッパ中の人々は、何を信じてよいのか疑心暗鬼に陥いっていた。


 当然欧州各国政府も引き続き情報収集に努めており、中には直接日米当局に問い合わせしてくるケースもあったが、両政府はともに『事実関係を確認中』という返答を繰り返すだけであった。ことにアメリカ政府からは『当方は中華大陸連合相手に大規模な戦争中であり、こちらが終結するまでヨーロッパ各国は、過度な反応は抑制せよ』という圧力を隠そうともしない文言が添えられているのだった。





 そして、その虐殺の当事者であるカイザーは、現在ルーマニアにあるモビル洞窟の内部にいる。サン・ジェルマンの申し出を承諾した彼らは、かれこれ1か月以上にわたって、洞窟内を彷徨っているのであった。


 普通の探索者は、これほどの長期間を洞窟内では過ごせない。食料や水といった携帯可能な生活必需物資の量に限界があるので、長くとも1週間滞在するだけで精一杯であろう。だが帰還者には、アイテムボックスという便利なスキルが存在する。その中に半年分の必要物資を詰め込んでおけば、少なくとも飢えや渇きに悩まされる可能性はない。


 さらに帰還者が、行き先が見えない真っ暗な洞窟内で精神を保っていられるには、確固とした理由が存在する。


 その理由とは、彼らはもれなく異世界のダンジョンを経験していることに由来する。ダンジョン攻略、ことに最下層まで進むとしたら、その難易度によっては1か月では足りない。2~3か月、場合によっては半年から1年を費やすケースもあるのだ。


 そのうえ、ひっきりなしに魔物が湧いてくるダンジョンの内部は、ごく稀に用意されている安全地帯を除けば、四六時中気が抜けない。常に極度の緊張を強いられるダンジョンと比較すれば、暗闇の広がる洞窟内という特殊な生態系で進化した特に害をなさない小動物など、カイザーたちにとっては物の数ではなかった。


 むしろカイザー一行にとって最大の敵は、果てしなく続く洞窟自体の深さと、奥に進むにしたがって複雑に道別れしていく地形だったといえるだろう。単調な暗闇を心細い明かりを頼りに進んでいく得も言われぬ緊張感と不安こそが、彼らの前に立ちはだかる最大の敵とも呼べる存在であった。


 ここまで洞窟の奥深くに踏み込んでくるにあたって、彼らは微かに感じる魔力の気配を道標にして、地図もない未踏の通路を進んできた。だが奥に進むにつれて、少しづつその様相が変化を見せてくる。複雑に枝分かれする全ての通路の奥から確実に魔力の気配が漂ってくるのだ。


 その結果として、彼らは枝分かれしている通路の一つ一つを、根気強く探索するという困難な作業を強いられていた。そして通路の先を照らす明かりは、この枝道の終焉を告げている。



「クソッ! またガーゴイルか!」


 この通路の終焉部は、自然に出来上がった洞窟には不似合いなくらいに、人工的に四角く切り取られた空間が広がっている。広さでいえば体育館と同等で、1か月以上洞窟を進んだ突き当り地点としては、全く不似合いに映る場所だった。


 そして空間の四隅には、巨大なガーゴイルが1体ずつ鎮座している。


 ガーゴイルとは、元々古代エジプトやギリシャ時代から発生した石造りの建築において、屋根に落ちた雨水を口から流す雨樋の役割として造形された不気味な姿をした魔獣を象った彫刻を指している。日本の鬼瓦やしゃちほこも、シルクロードを通って伝わった同時代の文化から派生していると考えてもよいかもしれない。


 翻って現代では、石を材料にして造形された伝説上の動物の彫刻や宗教的な意味合いが強い魔獣を象った建造物全般を指し示すケースが多い。スフィンクスや神社の狛犬も、広義の解釈ではガーゴイルの仲間ともいえる。


 そして、カイザーたちが入り込んだ洞窟の突き当りの空間には、体高5メートルを超えるガーゴイルが、四方からカイザー一行を上から睨み付けるがごとくに佇んでいるのだった。



「そろそろ動き出す頃だぞ! 全員、戦闘態勢を固めろ!」


「「「「「了解!」」」」」


 カイザーの注意を促す声で全員が魔法銃を取り出して構えると、その銃口を4体のガーゴイルへと向ける。



 ズーン!


 1体のガーゴイルが一歩足を前に出したのを皮切りにして、空間の四隅から巨大な石の塊が動き出す。その姿は、背中から翼が生えた2足歩行のライオンのようでもある。獰猛な牙が並んだ口を広げて、ガーゴイルは咆哮する。その声は、石で造られているとは思えないほどに、妙に生々しい生命の鼓動を感じさせており、その分並の人間が耳にしたら、その場で立ちすくんで何もできないままに蹂躙されてしまう絶大な恐怖を漂わせている。



「発砲開始!」


 カイザーの声で、合計6丁の魔法銃から魔力の銃弾が襲い掛かる。銃弾は、ガーゴイルの体にぶつかってその体から石の破片を削り取っていくが、致命傷を与える効果はなかった。魔力の弾丸に怯まずに、ガーゴイルは奇妙に長い腕を伸ばして、カイザーたちがいる場所に向かって前進してくる。その足取りは、けっして早くはないが、かといってモタモタしているとも言えない。迎え撃つカイザーたちには、それほど時間の猶予は残されていなかった。



「半数は魔法銃で接近を許さないように攻撃を継続しろ! 残りは私に続け!」


 魔法銃を素早くアイテムボックスに放り込んだカイザーは、剣を抜いて最も手近なガーゴイルに突進を開始する。彼の背後には親衛隊の二人が続き、残った三人は魔法銃を盛んにブッ放しながら、残った三体を寄せ付けないように決死の形相で援護を開始する。最大射速で銃口から飛び出す魔力弾は、その爆発の威力で僅かながらガーゴイルの前進を食い止める。その間に、カイザーは……



「魔力よ、我に力を貸せ! 石の弱点は水、我が剣よ、万物を切り裂く水流を纏え!」


 カイザーの剣が魔力に包まれると、その表面には蠢く水の膜が出来上がる。カイザーが剣を上段に構えるのと、迫りくるガーゴイルの長い腕が横薙ぎに振るわれるのはほぼ同時であった。



「我が剣が纏いし水流によって、切り裂かれろ!」


 カイザーの目は、冷静に迫りくるガーゴイルの腕を捉えていた。一切の迷いを断ち切った剣が、上段から振るわれて、渾身の力で叩き付けられる。



 キン!


 わずかな音を発して、水流を纏いし剣はガーゴイルの腕を絶ち斬る。その斬り口は限りなく滑らかであり、さながらウオーターカッターのごとくに、鮮やかにガーゴイルの腕をその半ばで絶っている。



「まだまだ、我の剣は止まらぬぞ!」


 さらにカイザーは、反対側から伸ばされた腕に引き戻した剣を振り下ろすと、再び鮮やかな断面を残して絶ち斬っていく。両腕を失ったガーゴイルに対して、カイザーの背後から迫っていた親衛隊の二人の剣が迫る。両者ともカイザー同様に剣に水属性の魔法を纏わせて、裂帛の気合で両足目掛けて振り下ろす。



 ズドーン! 


 両足まで絶ち斬られたガーゴイルは、姿勢を保てずに前のめりに倒れ伏していく。轟音が空間に満ちて、長きに渡って溜まっていた砂塵が舞い上がる。だが、カイザーは攻撃の手を休まない。倒れこんだガーゴイルに駆け寄って、剣を振り上げる。



「止めだ!」


 カイザーの剣がガーゴイルの頭部に振り下ろされると、その石でできた体もついに動きを止めて、バラバラと崩れ去る。おそらくは、長い年月魔力によって形を保っていたのだろうが、その魔力を失って脆くなった石自体が、形を失って崩れていったのだろう。



「カイザー! 右から迫っています!」


 カイザーが一見無謀ともいえる突進を敢行したのは、実は綿密に計算された行動であった。1体だけを相手にする時間的な余裕を作り出して、4体のガーゴイルを各個撃破する戦術を、彼の鋭敏な頭脳が弾き出していたのだ。もちろんこれは、カイザーの経験に裏打ちされた最も勝利の可能性が高い対ガーゴイル相手の戦術であった。さらに、水属性魔法を操れる二人を攻撃役にして、残った3人を援護に回す点などは、カイザーの戦闘に関するセンスが現れた端的な例だろう。


 これだけの戦いを繰り広げられるカイザーと親衛隊の5人を相手にして、何も手出しをさせなかった日本の帰還者、とりわけ聡史とさくらの兄妹が、あらゆる意味で常識から掛け離れた存在なのだ。



 こうして何とか無事に4体のガーゴイルを倒したカイザーたち、一歩間違うと相当に危険な相手だっただけに、その緊張感を解きほぐした表情で、親衛隊がカイザーのもとに集まってくる。



「カイザー! 今回も無事に仕留めましたね」


 実は彼らがガーゴイルと戦うのは、何も今回が初めてだというわけではなかった。すでに同様の空間を発見すること5回、その度にガーゴイルに襲われて、このような戦闘に及んでいた。当然、初回は相当に混乱しながら立ち回らざるを得なかったが、徐々に戦術が洗練されてきたというべきだろう。



「何とか乗り切ったという感想だな。一瞬の油断が致命傷となる。各自が気持ちを引き締めて、今後とも持ち場を死守せよ」


「「「「「了解しました!」」」」」


「それでは、道が分かれた地点まで戻って、新たな通路を探索するぞ。こうして何も存在しなかった洞窟に、魔力で造られたガーゴイルが置いてあるのは、この場が神の手によって創られた動かぬ証拠だ。神がどのような姿をしているのか、この目で確かめてやろうではないか!」


「我々の士気は十分です! このまま進みましょう!」


 こうしてカイザーたちは、広い空間を後にして、来た道順を辿って別の通路へと向かって歩き出すのであった。

 








 その頃、富士駐屯地の特殊能力者部隊、第2演習場では美鈴たちが……



「美鈴、司令が聡史とさくらちゃんを連れだしていったけど、一体何をするつもりなんでしょうね?」


「フィオ、深く考えないほうがいいと思うわ。あの3人が生み出す化学反応なんて、私たちの想像を絶するものになるはずよ」


 フィオの眉間には深いシワが刻まれているわね。あんまり心配すると、そのシワが取れなくなるわよ。かく言う私も、気を付けたほうがいいわね。ただでさえナディアから怖がられているのに、眉間にシワを寄せながら話し掛けたら、絶対に逃げられてしまうわ。ようやく最近になって『おはようございます』の挨拶をしてくれるようになったのよ! これは大きな前進よね! きっと近いうちにナディアを思いっきり抱きしめて、思う存分可愛がる機会が来るはずよ。私は、心からそう願ってやまないわ。



「フィオお姉ちゃん! 聡史お兄ちゃんは、どこに行っているの?」


 あら、ナディアが、私たちの所に来てくれたわ。さあ、早く私に笑顔を向けてちょうだい!



「司令と一緒に、お隣の東富士演習場にお出掛けしているのよ。夕方には戻ってくるなら、魔法の練習をして待っていましょうね」


「うん、わかった! お兄ちゃんが帰ってくるのを待っている!」


 えっ?! ナディアはフィオに向かってそれだけ言い残して、リディアのいる場所に走り去っていったわ。私に向けてくれるはずの笑顔は、どこにいったの? こうなったら追い掛けていこうかしら?



 ガシッ!


 走り出そうとした私の左腕を誰かに掴まれたわ。振り返ると、フィオが私の腕をけっして離すまいとして両腕で掴まえているじゃないのよ! なんでこんな大事な時に人の邪魔をするのかしら! 本当に心外よね。



「美鈴! わかっていると思うけど、ナディアを怖がらせるのは止めにしてよね!」


「フィオ、何を言っているのか、よくわからないわ。私がいつナディアを怖がらせているのかしら?」


「ありのままに話すと、常に! かつ恒常的に! 美鈴の顔を見ただけで、ブルブルっとするのよ。水に濡れた子犬のようにね」


「そんなはずはないわ! この前初めて『おはようございます』と言ってくれたんだから!」


「きっと、勇気の有りっ丈を振り絞ったんでしょうね。でも、その後の魔法の練習では、恐怖心から集中力が乱されて、ボロボロの結果だったのよ」


「そ、そんなはずはない…わ」


「一瞬、間があったわね」


「ぐぬぬ」


 こうして私たちは、聡史君とさくらちゃんのことはすっかり忘れて、もっぱらナディアにどうしたら好感を抱いてもらえるかという話題に終始するのでした。もちろん、私がフィオから様々なアドバイスを受ける形よ。大魔王が頭を下げるのは屈辱だけど、ナディアを抱き締めるためなら、この際手段は選ばないわ!


 フィオ、さっさと役立つアドバイスをしてよね!








 同じ頃、東富士では……



「司令官ちゃん! まずは何からやればいいのかな?」


「さくら軍曹、ちょっとは落ち着け! 闘気を自在に操るには、気持ちが逸っては無理だぞ。研ぎ澄ました精神を身に着ける必要がある」


「よーし! さくらちゃんがバッチリ精神を研ぎ澄ますからね! 兄ちゃんもそこで見ているんだよ!」


 俺の妹が、これ以上ないくらいに快調に飛ばしている。精神を研ぎ澄ますなんて、そんな簡単に出来っこないだろうが! いったい何をやらかすつもりなのか、不安しか感じないぞ。



「それじゃあ、いくよぉ! はあ~♪ 踊り踊るなぁ~ら、ちょいと東京音頭~♪ ヨイヨイ!」


「さくら軍曹、それは何のつもりだ?」


 妹は、腰を低く構えて、いきなり東京音頭を口ずさみだした。さすがにこれには司令も面食らっているようだな。もちろん俺も、妹の理解不能な行動に、絶賛戸惑っている最中だ。



「司令官ちゃん、よく聞いてくれたね! これはさくらちゃんが香港で身に着けた、カンフー流の気を練る方法なんだよ! 東京音頭のメロディーに合わせて気を循環させると、いい感じに練り上げられるんだよ!」


「さくら軍曹、勘違いするんじゃない! 気を練るのと精神を研ぎ澄ますのは、似て非なるものだ。初歩の段階では、気を高めると闘気を感じられなくなるから、引っ込めておくんだ!」


「なんだ、そうだったんだね! はい、引っ込めたよ!」


 人の話を聞かないことで定評のある妹が、素直に司令に従っているぞ! それにしても、気を簡単に出したり引っ込めたりしている妹は、やはり相当な達人の域に達しているんだろうな。さもないと、このような芸当など不可能なはずだ。  



「それでは、改めて開始するぞ。まずは二人とも、目を閉じて無になれ! 空気と一体化するように自らの存在を消して、知覚を最大限に引き上げるんだ。注意しておくが、スキルは使用するなよ!」


 俺と妹は、その指示に従って目を閉じる。空気との一体化なんて、相当に難しい課題だな。ひとまずは目を閉じたままで、何も考えないようにして自らが自然の中に溶け込むような、そんな感覚を心掛けながら力を抜いていく。


 まだヒンヤリとした風が頬を掠めていくな。風の流れや遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声など、感じるままに知覚を総動員していくと、目を閉じているにも拘らず周囲の風景が心に浮かんでくるな。


 澄んだ青空や雲の流れ、山々を抜けていく風と、頭上から差し込む太陽の光など、見えていないものが心に浮かんでくる。その時……



(今日のお昼ご飯は、コロッケと豚汁だったねぇ。確かクリームコロッケだった気がするけど、早く食べたくなってきたよぉぉ!)



「妄想がダダ漏れだろうがぁぁぁ!」


 しまった! せっかく集中していのに、妹の心の声が聞こえてきたせいで、完全に途切れてしまった。それにしても、俺と妹では、見えている物がこれほどまでに違っていたのか。



「楢崎中尉、その反応からすると、お前のアホ妹の心の声が、聞こえてきたようだな」


「はい、この場で昼食メニューを考えている食欲まみれの妄想が、俺の中に流れ込んできました」


「それでいい。他人の心の中が読めるのは、お前にはすでに闘気が生じている証拠だ。そのまま続けるんだ」


「はい、わかりました」


 驚いたな。妹の心の声が聞こえてきたのは、闘気のおかげだったのか。ひょっとして、司令の勘が妙に鋭いのは、闘気の影響なのかな?



 再び心を落ち着けて空気と一体化を図ると、今度は……



(目を閉じていると,なんだか眠くなってきちゃうよ…… ZZZ)



「寝ている場合か!」


 いかん! また大声を出してしまった。原因は、あれだけ張り切っていたにも拘らず、全く精神を研ぎ澄ます気配がないアホの子のせいだ。

 

 

「いいだろう。両者とも、第一段階は合格だな」


「えっ! うたた寝している妹も合格なんですか?」


「ああ、そうだ。レーダーにパッシブとアクティブがあるように、闘気にも受ける側と発する側がある。楢崎中尉は、どうやら受ける側だな。さくら軍曹は、その性格の通り発する側らしい」


「なにしろ、超攻撃的な性格ですから」


 どうやら司令の話が理解できてきたぞ。妹が発する闘気を俺が感知したから、心の中で考えていることが伝わってきたんだな。これはおそらく、血が繋がっているという点も影響しているんだろう。



「さて、すっかり大人しくなったさくら軍曹を起こすとしようか」


「司令、寝ている妹は危険です!」


「まあ、見ていろ!」


 司令は座り込んで寝ている妹に無造作に接近すると、ニヤニヤしながら右手を伸ばす。



 ブーン! ガシッ!


 これは驚いたぞ! 俺でも避けようがない妹の裏拳を、簡単に掴んでいる。そして、空いているもう一方の手で……



 パコーン!



「司令官ちゃん! 急に何をするのかな? いきなり叩かれてビックリしたよ!」


 ようやく妹の目が開いたようだ。相当な威力のある一撃だったが、大元の防御力が高い妹にとっては、軽く小突かれた程度の影響しか与えていない。一般の人間だったら、20メートルくらい吹き飛んでいただろうな。それにしても、妹が殴られる機会など滅多にないから、いい薬になっただろう。さすがは司令だ!

 


「さくら軍曹、両目を開いてしっかりと体を観察してみるんだ! 薄っすらと体を取り囲む闘気が見えるだろう」


「むむむ、どれどれ…… ほほう、なるほど! これが闘気なんだね。以前にも時々見えていたけど、正体がわからなかったんだよ!」


「知覚が敏感になれば、闘気は視認可能だ。見えるものなら、操れる。だが、ここからが長い道のりだぞ」


「天才さくらちゃんは、誰よりも早くマスターするからね! 司令官ちゃん! ガンガン教えるんだよ!」


「いいだろう。楢崎中尉は、もうしばらく時間がかかりそうだから、そのまま知覚を鍛える訓練を続けてくれ」


「了解しました!」


 俺の目にはまだ見えないが、妹にははっきりとその存在が知覚可能なようだ。これだから天才肌というのは手に負えないな。寝ている間に高等技術をマスターするなんて、う、羨ましくないんだからね!


 こうして、俺たちの修業はまだまだ続くのであった。 


 

久しぶりにカイザーが登場しました。作者も忘れていたわけではありません。忘れてないよ!(大事なことなので)


そして、聡史とさくらの修業の行方は…… この続きは、来週の中ごろに投稿いたします。どうぞお楽しみに!


感想とブックマークをお寄せいただいて、ありがとうございました。皆様の応援を心待ちにしております。今後とも、どしどしお寄せいただけたら嬉しいです。

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