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196 新宿大騒動 中編

新宿御苑でさくらは……

 さくらちゃんのイメージでは、新宿というのは、超美男子のせんべい屋さんとか、悪魔と同じ名前の名医がいる街なんだよ! これは、さくらちゃんの勝手な思い込みだから、深く追求しないでいいからね。



 さて、現実のさくらちゃんは、偶然行き会った中華大陸連合の帰還者と睨み合っているんだよ。


 どんな相手かまだ分からないけど、新たな敵と対峙するのはワクワクしてくるね。もっとも、いつものようにこのさくらちゃんが、華麗にブッ飛ばしちゃう予定だからね! 見ているんだよ!


 なんだって? 戦う前からフラグを建てるなって! 


 大丈夫だよ! このさくらちゃんの手に掛かれば、どんな相手でも、あっという間に敗北に追い込んじゃうんだからね。


 延と名乗った帰還者は、20歳過ぎの背の高い男だね。それほど筋肉ムキムキというわけじゃなくって、引き締まった体格と言っていいだろうね。武器を取り出していないから、ぱっと見の外見では、近接戦闘タイプか魔法使いタイプか、まだまだ判断がつかないね。


 さて、周囲にはこれから帰還者同士の戦いが開始されるなんて気が付いていない人たちが、公園の中にたくさんいるんだよ。まずはこの人たちには、少なくとも公園の外に退避してもらわないと、戦いに巻き込まれて大きな被害が出そうだよ。


 こんな場合を想定した装備があるんだよね! 駐屯地の開発課と美鈴ちゃんが協力して作った優れモノだよ! さくらちゃんは、アイテムボックスから一丁の拳銃を取り出すよ。



「その銃はなんだ? 俺を相手にして、そんなちゃちな銃で戦うつもりか?」


「まあ見ているんだよ! この銃はねぇ、こうやって使うんだよ!」


 延は、私が取り出した拳銃にイチャモンをつけているね。このさくらちゃんを、まだバカにしている態度に腹が立ってくるけど、まずは公園にいる人を避難させるのが先だからね。さくらちゃんは、躊躇わずに拳銃を空に向けて引き金を引くよ。



 シューーー…… ズドドドドーン!


 銃口から魔力が飛び出して、上空200メートルにオレンジ色の火の玉が出来上がるよ! 



 ズドーン! ズドドーン! ズズーン!


 火の玉からは、ひっきりなしに爆発音が轟くね。



「なんだ! あれは!」


「危ないぞ! 爆発しそうだから、すぐに逃げるんだ!」


「キャーー! 助けてぇぇぇ!」


 火の玉を目撃した人々は、恐怖に怯えた表情で公園から逃げ出していくね。


 でも、安心していいんだよ! この火の玉は、音と光しか出さないからね。爆発なんかしないんだよ。


 緊急時の避難誘導が難しい場合に、恐怖心を煽って人々をその場から遠ざける術式なんだよ。パニックを起こして大騒ぎになる危険性があるけど、帰還者同士の戦いに巻き込まれて命を落とすよりは、まだマシだからね!


 うんうん、効果はバッチリだね! 付近には誰もいなくなったよ。これで周囲を気にすることなく、思いっきり力を発揮できるね!


 さあ、始めるよぉぉぉ!








 一方その頃、神宮外苑のカフェでは……



「聡史君、こうして二人っきりになるのは、本当に久しぶりね」


「そうだな、ずっとあちこちに出撃して、結構すれ違いも多かったからな」


 俺と美鈴は、朝一番で駐屯地を出発して、午前中は、神宮外苑にある絵画館で展示されている歴史的な絵画を見学して過ごしていた。この絵画館には、江戸時代末期から明治時代にかけての歴史の教科書に掲載されるような絵画が、数多く展示されているのだ。


 優等生の美鈴は、学科全般好成績であるだけではなくて、美術や絵画の素養もあるので、一度この絵画館の展示物をじっくりと鑑賞したかったそうだ。明治時代の貴重な歴史的遺物だから、俺も結構楽しめたぞ。


 それにしても絵画館って、初めてやってきたけど、なんだかどこかで見掛けた建物の造りだよな。そう思って美鈴に聞いてみたら……



「国会議事堂とほとんど同じ設計の建物よ」


 という答えが返ってきた。


 なるほど! 言われてみれば、国会議事堂と瓜二つだな。戦前の日本の建築様式の歴史を感じる。もちろん、当時の日本人の手によって設計されたそうだ。いまから100年も前の話なのに、当時の人の努力の跡を感じるな。





 午前中をかけて見学を終えてから、ランチを食べに入ったこの店で、俺たちは食後のお茶を飲んでいる最中だ。



「聡史君、午後はどうしようかしら?」


「今日一日は、美鈴にずっと付き合うぞ」


「そう言ってもらえるのは嬉しんだけど、ここは男らしさを見せてリードする場面じゃないかしら?」


「そ、そうなのか? すまん、何も考えていなかった」


「聡史君だから、最初から諦めてはいたんだけど……」


 そういうものなのかな? どうもこの辺の機微は、俺にとっては明らかに苦手分野に属しているな。美鈴の気持ちを満足させるのは、相当ハードルが高いようだ。その時……



 ズドドドーーン! ズーン!


 腹に響くような爆発音が、俺たちの周囲に響いた。店のガラスが、ビリビリと音を立てて振動しているぞ! 


 音がした方向に素早く視線を向けると、窓から見上げるビルの向こう側に、大きな火の玉が浮かび上がっている。これは容易な事態ではないな! 午後の予定は、完全にぶっ飛んでしまったようだ。


 

「あれは、緊急退避術式ね! 私自身が組み上げたものだから、間違いはないわ!」


「発動用の銃は、俺たち帰還者しか持っていないはずだよな」


「そのはずよ! そして今、駐屯地を離れているのは……」


「俺たちとさくらだけだな!」


「急いで向かいましょう! いくらさくらちゃんでも、無闇にあんな物を使用しないわ!」


「何かあったと考えて、間違いなさそうだ! 急ごう!」


 俺と美鈴は、慌てて店を飛び出すと、上空の火の玉を目指して走り出す…… 違った! 俺は自分の足で走っているけど、美鈴は重力と風を操って、俺の後ろを滑空するように付いてくる。二人ともフルスピードで、車道を走る車を簡単に置き去りにしていく。



「あの方向は、新宿御苑に間違いないわ!」


「下手すると、新宿が廃墟になりかねない! 全速で向かうぞ!」


 こうして、俺と美鈴は妹がいるであろう方向を目指して、都心を駆けていくのであった。







 新宿御苑では……



「周りに誰もいなくなったから、これで心置きなく戦えるよ! 覚悟するんだよ!」


「ふん、人がいようといまいと、関係ない! どうせ東京は、感染症で地獄となるからな!」


「病気なんか、気合で打ち負かせるんだよ! このさくらちゃんが、食い止めて見せるからね!」


(ヒャッハー! 細菌は消毒だぁぁ!)


(異物は皆殺しにしてやれぇぇ!)


(殺して殺して殺しまくるんだぁぁぁぁ!)


 おや? 私の周囲から謎の声が聞こえてきたような気がするんだけど、きっと気のせいだよね。病気なんて、いっぱいご飯を食べていたらすぐに治るから、気にする必要もないしね! 


 さあ、それじゃあ、いくよぉぉ!



 さくらちゃんは、いつものように拳を握り締めて殴り掛かっていくんだよ! でも……



 ゾクゾク!


 拳が延に当たる瞬間、首の後ろ側に危険を示す嫌な悪寒が発生したんだよ! 今までこの勘は間違った試しはなかったからね。

 

 さくらちゃんは、衝撃波だけを打ち出して、素早く拳を引っ込めて一旦距離を置いたよ。



 キーン! ドドーン!


 至近距離から放った衝撃波が、対象にぶつかって耳をつんざくような爆発音が響いているけど、延には全く影響がないようだね。これは、何らかのシールドを体の周囲に張り巡らしていると考えて、間違いなさそうだよ。


 でも、なんで嫌な予感が走ったのか、よくわからないね。ちょっと、試してみようかな。


 さくらちゃんは、アイテムボックスから銃弾を1発取り出すと、延に向けて指で弾くよ!



 カン! バリバリバリ!


 ほほう! 延の体の手前で止まった銃弾には、電流がまとわりついて火花がスパークしているね。直感の正体が判明したよ!


 延は強力な電気でシールドを構築していたんだね。もし、さくらちゃんの拳がシールドに当たったら、その場で感電していたかもしれなかったよ! さすがのさくらちゃんでも、電流自体を遮断できないから、相当なダメージを受けていたかもしれなかったね。危ないところだったよ!



「どうやら気が付いたようだな。俺は〔雷帝〕だ。雷だけではなく、電流すら自由自在に扱える! 俺が張り巡らしている高圧電流のシールドに触れただけで、1発であの世行きだぞ!」


「これは、中々歯応えがある敵に出会ったようだね! さくらちゃんは、殴るだけが攻撃じゃないからね! これはどうかな?」


 私のように直接攻撃を加えるタイプには、天敵のような存在だよね! なにしろ、高圧電流のシールドがある限り、体に触れられないんだよ。さくらちゃん最大の武器であるパンチが、今の時点では封じられてしまっているね。


 そこでさくらちゃんは、アイテムボックスから擲弾筒を取り出すよ! 魔力の弾丸は、果たしてどこまで通用するかな?



「食らってみるんだよ!」


 シュパシュパシュパシュパシュパシュパ! ドドドドドドドドガガーン!


 連射した魔力弾が、次々に延の体に命中するよ。着弾と同時に、激しい爆発を繰り返しているね。効果はどうかな?


 爆発で生じた煙が晴れると、そこには無傷の延が立っているよ。



「この程度の豆鉄砲では、俺のシールドには影響を与えないぞ! これでお仕舞なのか?」


「まだまだだよ!」


 今度は徹甲弾に切り替えて発射だよ! 擲弾筒の威力が上がって、戦車3台まとめて撃ち抜く一撃だからね!



 シュパーン! ズウウゥゥン!


 お腹に響くような爆音が轟き渡っているよ! これは、さすがに効いたんじゃないかな?



「バカめ! 多少威力が上がったところで、俺のシールドは破れないぞ!」


 参ったねぇ…… まるで兄ちゃんを相手にしているみたいだよ! あのシールドを何とかしない限りは、さくらちゃんの勝機が見い出せないようだね。ただし、手を触れないで壊さなといけないというのは、かなりハードルが高いよ。



「さて、お前の攻撃は、これで打ち止めか? それでは、今度は俺の順番だな」


 延は、アイテムボックスから青龍刀を取り出したよ。映画では見たことあるけど、実物は初めてだね。刃渡り1メートルを超えている大型の青龍刀を、延は軽々と振り回しているね。扱いに相当手馴れている腕前は、どうやら達人レベルと言っても過言ではないだろうね。



「行くぞ!」


 ダッシュした延は、私に斬り掛かってくるよ! スピードもかなりのものだけど、避けるのはそれほど問題はない……


 ビュン! バリバリバリ!


 危なかったよぉぉぉ! 延は、青龍刀からも高圧電流を飛ばしてきたよ! ギリギリで何とか回避したけど、電流が直撃した木が真っ黒に焦げて、ブスブスと煙を上げているよ。



 ビュンビュンビュンビュン!


 延が青龍刀を振るたびに電流が飛び出してくるから、さくらちゃんは懸命に回避に努めるんだよ! これは相当に不味いよね。音速よりも速い電流を勘だけを頼りに避けるのは、さすがに骨が折れるよ。


 1発衝撃波を放って延の前進を止めると、さくらちゃんは自分から下がって距離を稼ぐよ。



「中々ヤルね! でも、さくらちゃんはこれだけではないんだよ!」


 さくらちゃんの体から真っ赤な魔力が噴き出すよ! 身体強化の第1段階完了だね。親衛隊やアイシャちゃんレベルだと、身体強化によって筋力や敏捷性が30~50パーセント上昇するけど、さくらちゃんの場合は全ての数値が2倍になるんだよ。


 さあ、威力を増した衝撃波を食らってみるんだよ!


 

 キーン! ドッパーーン!


 拳を突き出す速度がさらに早くなった結果、衝撃波の速度はマッハ2を超えているね。威力は速度の2乗だから、4倍だよ! さくらちゃんの計算能力をもっと褒めていいんだよ!



「なるほど、多少は威力が増したようだな」


 フフフ、衝撃波の威力に押されて、シールドごと延の体が1歩後退しているよ。どうやら効果があるようだね。さくらちゃんの衝撃波を警戒して、延が迂闊に踏み込まなくなってきたよ。遠くから電撃を盛んに飛ばしてくるね。身体強化のおかげで、さっきよりも、軽々と避けちゃうんだよ!


 ここは畳み掛けるチャンスだね! さくらちゃんは、さらに身体強化第2形態を発動するよ! さっきよりもさらに大きな魔力が吹き上がって、これで、身体機能が4倍になったよ!


 

「いっくよぉぉぉぉぉ!」


 さくらちゃんの全力の衝撃波が炸裂するよ!



 キン! ドバコォォォォン!



「なんだ、この威力は!」


 延の体は、4,5メートル後退しているね。それでもギリギリで踏み止まって構えを崩していないから、これはこれで大したものだよ!


 でも、どうやらまだまだ足りないようだね! さくらちゃんの第3形態をお披露目しちゃおうかな。それっ!


 魔力が勢いよく10メートルの高さに吹き上がるよ! この状態になると、普段と比べて8倍の筋力と敏捷性を獲得しているんだよ。そして、拳から撃ち出される衝撃波の威力は……



 えーと…… 計算が面倒だからいいや! 細かいことはどうでもいいんだよ! とにかく強力なんだからね!


 さくらちゃんは、最大限まで強化した敏捷性を生かして、延に急接近していくよ!


 ゴオォォォ!


 風を切る音が一瞬だけ聞こえたけど、もうその時には延の体の正面に到達しているんだよ! 



「なっ、なんだと! 急に現れたぞ!」


 さすがに、さくらちゃんの8倍速の動きは目で追えなかったようだね! そのまま思いっ切り姿勢を低くして、最大速で拳を撃ち上げるんだよ!



「究極! 空の彼方まで飛んで行けアッパー!」


 ズババババ--ン!



「なんだとぉぉぉ!」


 至近距離から浴びせられた衝撃破は、延を斜め上の方向の大空の旅にご招待したんだよ! でもねぇ……



 直接殴り付けたわけじゃなくって、衝撃波で吹っ飛ばしただけから、威力が不十分なんだよね。本来ならマッハ20近い速度でぶっ飛んで、発生する高熱で形がなくなるくらいに燃え尽きるんだけど、そこまでの勢いはなかったよね。


 延は公園の奥まで吹っ飛んでいるけど、体を包むシールドの効果と相まって、それほどのダメージを受けた様子はないよ。すぐに立ち上がって、こちらに向かってくるね。


 ただし、相当プライドが傷つけられたみたいで、人とは思えないような怒りの形相だよ。遠くから青龍刀を振り回して、こちらに電撃を浴びせかけているね。


 ホイホイホイっと! さすがにさくらちゃん第3形態になっているから、避けるのは簡単だよ! ただし、問題はダメージを全く与えていない点にあるんだよね。


 もちろん延の攻撃でこちらがダメージを負う心配はほとんどないんだけど、勝負の決め手に欠けるんだよ! 延の電流シールドさえなければ、話は簡単なんだけど……


 どうしようかな…… 今まで使ったことはないけど、身体強化オーバードライブまで行ってみようかな? これは、身体の限界を突破して極限まで強化する技だから、使えるのはわずか1発なんだよね。最後に賭ける一撃のようなものだよ。


 それに、衝撃波だけでどれだけの威力になるか、さくらちゃんも見当がつかないんだよ。下手をすると、都心一帯が壊滅しちゃうかもしれないんだよね。


 でも、延を倒すには、もうこれしか残っていないよね。この際だから、思い切って行っちゃうよ!



「身体強化! オーバードライブ!」


 真っ赤な魔力が100メートル以上吹き上がっているよ! 体中がバキバキと音を立てて、何か別のものに変化しているようだね。全ての関節が軋んで、体中の筋肉が悲鳴を上げているよ。猛烈な痛みが広がっていくけど、歯を食い縛って我慢するんだよ!


 さあ、どうやら収まったようだね。この一撃に、さくらちゃんの全身全霊を駆けるんだよぉぉぉ!



 こちらに向かってくる延に負けないように、さくらちゃんも猛スピードで突っ込んでいくよぉぉ! この拳に込めた全ての力を、延のシールドに直接叩き付けるよ! どうせこの一撃で最後だからね。


 こっちのダメージは無視して、いや、命すらも捨てる覚悟でぶつかっていくんだよ!


 延の姿が、どんどん大きくなってくるね。さあ、思いっきり右手を引いて、力の限り殴ってやるんだよぉぉぉ!



 ドゴゴゴゴーン!


 その瞬間、視界が真っ白に染まったんだ……





 あれ? おかしいなぁ? 拳を撃ち出す寸前に、目の前から急に延の姿が消えて、私から見て横方向にすっ飛んで行ったよ! その後に、大きな爆発があったけど、一体何が起きたんだろうね? 周囲をキョロキョロ見渡すと、そこには……



「さくら、あまり無茶をするなよ!」


「さくらちゃんは、一人じゃないのよ! 全責任を一人で被ろうとして、いつも無理をするんだから!」


「兄ちゃん! 美鈴ちゃん!」


 兄ちゃんは、右手にコンクリートのブロックを握っているよ。きっと、離れた場所から投げつけて、延を吹っ飛ばしてくれたんだね。二人が応援に来てくれたのは、奇跡のような出来事だよ!


 超美男子のせんべい屋と悪魔の名医じゃなくって、平凡な顔立ちの兄ちゃんと美人の大魔王が現れたんだ! ほらほら、平凡が、さくらちゃんに向かって口を開くよ!



「さくら、年下は引っ込んでいろ! この場は、兄に任せるんだ!」


「そうよ、さくらちゃん! 私たちが、この場の対処をするから、無理をしないで休んでいなさい!」


 兄ちゃんと美鈴ちゃんが二人掛かりで私を引き留めてくれるよ。本当にありがたいね! 一時は命を捨てる覚悟もしたけど、もう限界だからオーバードライブを解除するよ。


 ほえぇぇぇぇ! 物凄い脱力感が襲ってきて、立っていられないんだよ! 


 思わずその場に座り込んでしまったじゃないかね! これほどまでに後遺症が大きいとは、全然考えていなかったよ! 体中の関節と筋肉が悲鳴を上げているから、耐え難い痛みで声が漏れてしまうよ。



「ククゥゥゥ!」


 さすがにこんな状態になっては、足手まといにしかならないよね。仕方がないから、兄ちゃんたちの戦いぶりを見守るとしようかな。ちょっと悔しいけど、これが今の私の実力なんだね。



「妹が世話を掛けたな。俺は、日本国防軍のスサノウだ」


「まとめて殺してやるから、覚悟するんだな。俺は延海南、中華大陸連合の帰還者だ」


 兄ちゃんは、全く普段通りの姿で立ち会っているね。特に魔力を強化した様子もないよ。対して延は、青龍刀を構えて殺気満々の表情で、兄ちゃんを睨み付けているね。コンクリートの塊をぶつけられた件で、相当に頭にきているみたいだよ。



「食らえぇぇぇ!」


 延の絵青龍刀からは、幾筋もの電流が兄ちゃん目掛けて飛んでくるよ! でも、兄ちゃんは何も気にした風もなく、無造作に延に接近していくよ。電流は、お馴染みの魔力バリアに阻まれて、兄ちゃんの体には何の影響も与えていないみたいだね。



「その程度の電撃で、何をするつもりだ?」


 兄ちゃんは、アイテムボックスからスコップを取り出すと、軽く振るうね。あっ! 延の青龍刀を撥ね飛ばしちゃったよ! こういう時には、兄ちゃんの無限の防御力と馬鹿力は、本当に頼りになるよね♪


 さあて、あとは兄ちゃんの魔力バリアと延の電流シールドの優劣が、勝負の分かれ目だよね。もう、さくらちゃんの目には、勝敗は決しているように映っているけど。



「子供だましの小細工は、俺には通用しない!」


 パッカーン! バリン!


 兄ちゃんの右の拳が、延のシールドをきれいに打ち破ったね! さすがは、兄ちゃんだよ! やっぱりまだまだ、私との差は大きいんだね。



「これはおまけだ!」


「グエェェェェ!」


 あーあ、延がシールドを張り直す前に、兄ちゃんの左拳が、鳩尾にメリ込んでいるよ。これは、相当にキツそうだよね。体をくの字にして苦しんでいるからね。さくらちゃんも、直接殴り付けたら、あんな感じに料理できただろうけど、今回は相手との相性が悪かったと割り切るしかないよね。



「聡史君、私にも出番を残しておいてね!」


「いいぞ! 美鈴の好きなように料理してくれ!」


 兄ちゃんは、あれだけ延を追い詰めておいて、あっさりと身を引いたよ! どうやら止めは美鈴ちゃんに任せるようだね。延は依然として苦しんでいるよ。



「この場で消えなさい! 黒蝕無葬懺!」


「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」


 シールドがなくなった延は、全く脆かったね。美鈴ちゃんの魔法で、体ごとあっという間に分解されてしまったよ。


 二人が登場してからは、ほとんど一方的な戦いだったね。なんだか、さくらちゃんの現在の立ち位置が分かった気がするよ。


 よし! 明日からまた、ご飯をいっぱい食べてしっかり訓練して、もっと上を目指すとするよ! 


 何よりも早く、兄ちゃんたちに追いつきたいからね!


 座り込んだままの力が入らない体で、そう誓うさくらちゃんでした。



さくらが意外と苦戦した帰還者ですが、聡史が兄の貫録を見せつけるように、打ち負かしました。ですが、まだまだ騒動は終わらずに…… この続きは、週末に投稿する予定です。どうぞお楽しみに!


コロナウイルスが、どうやら収束に向かっているような気配です。早く自粛生活から脱却したいと考えるのは、誰でも一緒です。あともう一息、力を合わせて頑張りましょう! 

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― 新着の感想 ―
[一言] 俺も好きだー!(魔界都市のメフィスト) 久し振りに読み返したくなった。
[一言] 差があるのは知ってたけどまさかこれ程の差があったとは・・・兄ちゃんかっくいぃ!
[一言] ハンターが好きかな? 小説の方は超推理の『鬼・・・』のシーンがいい
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