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194 明日香ちゃんの苦悩

投稿間隔が開いて、申し訳ありませんでした。

 東シナ海のベトナム沖を、一隻の貨物船が航行している。


 5千トン級の船体の船首に明記されている船名は、ファイブオーシャン5号、船籍はシンガポールに所属しているが、中華大陸連合の息がかかった華僑系企業が所有している。


 マレーシアで生産された生活雑貨を満載してシンガポールを出港して、順調ならば1週間後に、横浜港に入港する予定となっている。


 ただそれだけならば、単なる貿易の役割を担う船舶といえるのだが、最大の問題は乗組員に紛れ込んだ一人の男であった。


 その男は、正規のシンガポール国籍のパスポートを所持しているが、その実は、中華大陸連合が日本に送り込もうとしている、謎の帰還者である。


 男である以外は、氏名やコードネームは一切不明、経歴やどのような能力を所持しているかすら明かされぬままに、中華大陸連合参謀本部は、日本へ向けて彼を送り出していた。


 ただし、事前にかの国の同本部にもたらされた情報によれば、相当な実力を持った主席直属の帰還者という事実だけが、現在わずかに判明している。





 思えば、香港に現れたアフロディアは、さくらを相当に梃子摺らせる力をもって立ちはだかった。


 さくら本人は『前半は完全に遊んでいたんだよ!』と振り返ってはいるが、それにしてもある程度の苦戦をしたのは事実であった。あのさくらをして、『なかなかの強敵だったよ!』と言わしめた彼のように、世界にはまだその正確な正体が判明していない帰還者が相当数いるのだと、考えたほうがよい。


 対する日本の帰還者たち、ことに聡史、美鈴、さくらの3人を中心にして、それを取り巻くフィオやカレン、さらには〔神殺し〕と称される司令官は、これから先、その圧倒的な戦力を維持することが可能なのか、それとも、その戦力を脅かす存在が出現するのかは、現状ではいまだに不明である。世界は広い。誰も知らない場所に、名も知れない有力な帰還者が潜んでいる可能性が残されているのだ。


 このような状況において、果たしてこの帰還者が、どのような力を秘めているのかは、今のところ何も伝わってこない。だが、時折船内を歩くその身のこなしを鑑みると、動作の一つ一つには全く隙が窺えない様子が伝わってくる。少なくともアフロディアに匹敵する強力な帰還者ではないかと、容易に想像がつくのであった。





 貨物船は、一見平和な東シナ海を日本へ向けて進んでおり、その航海は至って順調そのものといえる。


 船員の生活区には、殆ど出入りする形跡がない船室がある。他の船員には何も知らせないままに放置されているので、そこに帰還者が息を潜めて日本への入国を企んでいると気付く者は誰もいない。多くの一般船員は、何かあるとは薄々気が付いてはいるものの、その内部にいる人間に関しては、口をつぐんだまま敢えて触れないようにしているのだった。


 謎の帰還者は、他の船員とは一切交わることなく、必要ある時以外は与えられた小さな船室に閉じ篭ったまま、静かに日本へ向かって進む貨物船に、身を任せるのだった。








 その頃、中華大陸連合の帰還者が潜入を図っていることなど全く知らない富士駐屯地では……



「ふう、今日も朝ご飯が実に美味しかったよ! ところで明日香ちゃん! 明日は二人とも非番だけど、一緒に出掛けるのはどうかな? 食べ放題の新たな情報をゲットしたんだよ!」


「さくらちゃん、少しは自重を覚えてください! 朝ご飯を食べ終わって、すぐに食べ放題の話なんて普通の人はしませんよ!」


 おかしいねぇ? 明日香ちゃんは全然乗ってこないよ。食べ放題のお店なんて、一番テンションが上がってくる話題なのに…… もうだいぶ時間が経過しているのに、まだインフルエンザの後遺症があるのかな?



「明日香ちゃんは、体調は大丈夫なのかな? まだどこか具合が悪いんじゃないのかな?」


「具合なんてどこも悪くないです! ただ……」


 おやおや、なんだか煮え切らない様子だね。明日香ちゃんがこんな態度を取るなんて、とっても珍しいよ! これはきっと、誰にも言えない悩みを抱えているに違いないんだよ! さくらちゃんは、そう睨んでいるよ! これは友達としてしっかりと聞き出して、明日香ちゃんの悩みを解消してあげないとね。



「さあ、明日香ちゃん! お友達のさくらちゃんに何もかも打ち明けるんだよ! どんな悩みでも、このさくらちゃんが受け止めてあげるからね! 秘密は厳守するよ!」


「何が秘密厳守ですか! さくらちゃんに話した瞬間に、駐屯地全体に広まっていますから! 今までさくらちゃんの口の軽さに、どれだけの被害を被ったか、覚えていないんですか?!」


 むむむ! これは明日香ちゃんの酷い言い掛かりだね。さくらちゃんは、過去も現在も信用第一でやってきているんだよ! 口の堅さでは、定評があるんだからね。口が堅いなんて大切なことを誰も褒めてくれないから、主に自分で声を大にして主張しているんだよ。



「いいから、明日香ちゃん! 何もかも白状するんだよ! このさくらちゃんを信用するがいいよ! 必ず力になるからね!」


「さくらちゃん、本当に力になってくれるんですか?」


「もちろんだよ! 大抵の悩みは、このさくらちゃんが、力尽くで何とかするよ!」


「力尽くという部分が、絶対に信用できませんから!」


 なんだってぇぇl! 明日香ちゃんは、とっても大きな誤解をしているよ! これは、異世界でマフィア組織だろうが、非合法の奴隷売買商人だろうが、国家単位のカルト教団だろうが、この拳一つで叩き潰してきたさくらちゃんを、まるっきり疑ってかかるような言い草だよ! 


 あまりに酷い言い掛かりだから、きっちりと誤解を解く必要があるね。



「明日香ちゃんは、まだまだ子供だねぇ! 世の中の大半の問題は、暴力で解決できるんだよ! 相手をブッ飛ばせば、何も言わない死体に変わるからね!」


「誰が子供ですかぁぁぁぁ! そもそも、そんな理屈は、犯罪者同然じゃないですかぁぁ!」


「明日香ちゃんは、本当に何もわかっていないよねぇ。一番簡単で実に分かりやすい方法なんだよ!」


「そんな方法は理解したくありませんから! さくらちゃんは、もっと現代社会の常識を身につけないと、そのうち逮捕されますからね!」


「香港で逮捕された明日香ちゃんに言われてもねぇ……」


「ムキーー! あれは私の作戦です! 絶対に逮捕されたんじゃないですから!」


 この話題になると、明日香ちゃんはムキになって突っかかってくるんだよね。自分でも、相当に仕出かしてしまった自覚があるに違いないよね。あんまりこの部分を突っつくと話が進まないから、話題を変えようかな。



「ところで明日香ちゃん、今抱えているお悩みは、なんだったっけ?」


「そうなんですよ! 実は、香港でさくらちゃんにご馳走になって、いい気になってお腹の限界以上に食べてしまいまして……」


 ほらほら、明日香ちゃんは、話題を転換すると、途端にガードが甘くなるんだよ。その結果、こうしてポロっとしゃべるんだよね。油断しやすい明日香ちゃんの性格なんて、長い付き合いのさくらちゃんからすると、すっかりお見通しなんだよ!


 ただねぇ…… 香港で散財した件は、私にとっても未だに癒えない傷なんだよねぇ。笑っている他の人も、二晩かけて百万円を使い果たしたら、さくらちゃんの気持ちがわかってくると思うよ。まあ、いいか。それよりも、明日香ちゃんの話を聞こうかな。



「フムフム、それでどうしたのかな?」


「日本に戻ってきたら、体重が2キロ増えていたんですよ!」


「ほうほう、それで?」


「仕方がないからダイエットに取り組んでいたら、インフルエンザに罹ってしまったんです。3日間殆ど食事が取れなかったせいで、体重が元に戻ったんですよ!」


 なんだ、それなら逆に良かったんじゃないかな。体重が元に戻ったんだったら、何の問題があるんだろうね?



「インフルエンザにも、思わぬ効果があったんだね。明日香ちゃんにとっては、良かったんじゃないのかな?」


「全然良くないんです!」


「ええ! 何が良くなかったのかな?」


「回復したら、急にお腹が空いてきて、ご飯がとっても美味しかったんですよ!」


「うんうん、ご飯はいつでも美味しいのは当たり前だよね!」


「それで、ついつい食べ過ぎちゃって…… 結局、4キロ体重が増えました……」


「ギャハハハハハ! 兄ちゃん、兄ちゃん! 明日香ちゃんは、体重が4キロ増えて悩んでいるんだよ!」


 これは大笑いだよね! あまりに明日香ちゃんの悩みがどうでもいい内容だったから、ちょっと離れた場所にいる兄ちゃんに、大声で教えてあげたんだよ。急に話を振られた兄ちゃんは、怪訝な表情で私たちのほうを向いているね。



「さくら、食堂で大声を出すんじゃないぞ! そんな2,3キロの体重の増減なんか、特に気に病むことじゃないだろう。お前だって、食後は思いっきり体重が増えているだろうに」


「兄ちゃん、それはそうだよ! 6人前も7人前も食べたら、普通に5キロくらいは増えているからね!」


 これは当然といえば当然だよね。でも、特殊能力者部隊の訓練はとっても厳しいから、普通の量の食事では逆に体重が減ってしまうんだよね。親衛隊たちも、無理やりお腹に詰め込んで、訓練で消費するカロリーを確保しているんだよ。一日の訓練後に体重を測ると、3キロぐらい減少しているからね。


 おやおや、すっかりガードが緩んでいた明日香ちゃんが、はっとした表情になっているよ。顔色が真っ赤になって、相当焦った様子だね。



「ちょっと、さくらちゃん! なんでお兄さんに、私の悩みをバラすんですか!」


「いやいや、あまりに下らない悩みだったから、兄ちゃんに聞いてもらいたかったんだよ!」


「下らない悩みとは、何事ですかぁぁ! 私にとっては、物凄く深刻なんですからね! 本当にさくらちゃんは、口が軽いんだから!」


「明日香ちゃん、お言葉ですが、普通に訓練していたら、体重なんてすぐに落ちるでしょう!」


「それが、全然落ちないから、困っているんです! なんでさくらちゃんは、そんなこともわからないんですか?!」


 おかしいなぁ…… 明日香ちゃんは訓練をやっていると言っているし、体重が減らない理由が思いつかないよ。何でだろうね? もうすっかりバレちゃっているから、兄ちゃんにも協力を仰ごうかな。



「兄ちゃん! 話を聞いちゃったんだから、明日香ちゃんの悩み解決に知恵を貸してよ!」


「そうですよ! せっかくだから、お兄さんも協力してください!」


「俺を巻き込むつもりか!」


 兄ちゃんは、なんだか嫌そうな表情をしているけど、明日香ちゃんと二人で手招きすると、しぶしぶ私たちの席までやってくるよ。ひとまずは、兄ちゃんに事情を説明だね。



「というわけで、明日香ちゃんは訓練をちゃんとやっているのに、体重が減らないんだよ!」


「そうなんですよ! 親衛隊の人はいっぱい食べても全然平気なのに、なんで私だけ体重が増えるのか、大きな謎なんです!」


 私たちの話を聞きながら、兄ちゃんは何か考え込んでいるね。おや、何か思いついたのかな?



「ひとまずは、明日香ちゃんの一日の生活状況と、訓練の内容を教えてもらえるか?」


「はい、わかりました! 朝起きて、朝食後に演習場に出て、レイフェンさんやフィオさんが作り出してくれたファイアーボールを打ち消す訓練をします!」


「時間は?」


「9時から開始して、10時には終わります」


 フムフム、1時間程度の訓練なんだね。私はポチたちと別の場所で親衛隊や捕虜の訓練をしているから、明日香ちゃんの日頃の様子を全然知らないんだよ。フィオちゃんや美鈴ちゃんは、良く知っているのかもしれないね。



「それから何をしているのか、教えてくれ」


「はい、曜日によっては、部屋に戻って通信教育の高校の勉強をしたり、あとは手が空いているマリアさんやリディアさんと、おしゃべりをしています。午前中は、こんな感じですね」


 なんだかとってものんびりした様子が伝わってくるようだよ。同じ頃、私たちは演習場を走り回ったり、真剣に戦闘訓練を行っているのに比べると、天と地の開きを感じてくるね。


 魔法系の特殊能力者は、全員がこんな感じなのかな?



「午後は、どうして過ごしているんだ?」


「はい、お散歩がてら、皆さんの訓練を見学したり、休憩中の人とおしゃべりしたりしながら、3時になったらおやつを食べに食堂に向かいます!」


「そのあとは?」


「部屋に戻って寝転がったりしながら、夕ご飯まで過ごしていますね」


「そんな生活をしていたら、太るに決まっているでしょうがぁぁぁぁぁぁ!」


「ああ、間違いなく太るな!」


「ええぇぇぇぇ! 私の生活のどこに、問題があるんでしょうか?!」


 ついつい大声を出してしまったけど、どうやら兄ちゃんと意見が一致した模様だね。訓練なんか朝だけで、一日の殆どをブラブラしながら過ごしている明日香ちゃんの恐ろしい実態が判明したんだよ! 訓練というからには、額に汗しているのかと思ったら、こんなお気楽に過ごしているとは思わなかったよ!


 しょっちゅう私たちの演習場に顔を出して、よくそんな時間があるなと不思議に感じていたけど、これで明日香ちゃんの自堕落な生活が明るみに出たね! 一日の消費カロリーなんて、ひょっとするとニートの人たちと同レベルかもしれないよ。それでいながら、ご飯もおやつもしっかりと口にしているんだから、太らないほうがおかしいね!


 明日香ちゃん、生活に問題があるんじゃなくって、日々の生活自体が問題なんだからね! よくこれで、半年以上特殊能力者部隊が務まってきたよね! 本当に不思議でしょうがないよ!



「兄ちゃん! 明日香ちゃんをビシッと鍛える必要性を、私はとっても強く感じているんだよ!」


「さくら、偶然にも気が合うようだな! 俺も、同様の意見を抱いているぞ!」


 どうやら兄ちゃんも、明日香ちゃんの現状を腹に据えかねているようだね。よし、こうなったら、親衛隊と一緒に地獄の訓練に放り込もうかな。



「ということで、明日香ちゃんは、当面私と一緒に訓練に励むんだよ!」


「無理に決まっているじゃないですか! 5分で死ぬ自信があります!」


 なんでこんな時だけ、きっぱりと言い切るのかなぁ。一番の友達として、情けない限りだよ。その時……




 トテトテトテトテ!



「聡史お兄ちゃん! 今日も一緒に訓練しよう!」


「ああ、ナディアか! ちょっと待ってくれるか?」


「うん!」


 演習服に着替えたナディアちゃんが、兄ちゃんの所にやってきたね。ナディアちゃんは、兄ちゃんがいる時にはいつもべったりと張り付いているから、朝ご飯後にこうして毎日やってくるんだよ!



「そうだ! いいことを思いついたぞ!」


 おやおや、兄ちゃんは、何か閃いた表情だよ! 一体どうするつもりなのかな?



「ナディア、魔法の練習だけじゃなくって、体力をつける訓練も今日から始めようか?」


「体力? 串刺しできるの?」


「いや、串刺しはこの際横に置いておこうか。丈夫で元気な体になるために、少し運動もしようというお話だよ」


「聡史お兄ちゃん、分かった! 丈夫になって、バチカンの悪い奴らを串刺しにする!」


「うん、串刺しの件だけは、早く忘れような」


 なんだか二人の間で、話がまとまったみたいだよ。兄ちゃんは、今度は明日香ちゃんに向き直るね。



「ということで、明日香ちゃんも、ナディアたちと一緒に身体を動かすことに決定したから、そのつもりでいてくれ」


「ええぇぇぇぇ! なんで私が?!」


「こんな小さい子供に負けていいのかな?」


「いくら何でも、負けないですよ! 頑張ります!」


 クックック! 明日香ちゃんは、いいように兄ちゃんの口車に乗せられているよ! これは面白そうだから、親衛隊の訓練はポチとタマに任せて、さくらちゃんも見に行こうかな。








 主に魔法系の能力者が集まる、第2演習場では……



「ということで、今日から魔法の練習の前に、軽く体を動かすことになったから」


 兄ちゃんが、一人で全員の前に立って、トレーニングメニューを発表しているね。ふむふむ、演習場を5周してから、ストレッチと筋力トレーニングだね。こんなの私たちからすると、準備体操にもならないレベルだね。全メニューを15分以内に終わらせないと、スペシャルメニューを追加されちゃうレベルだよ!



「聡史君! なんで、私たちまで巻き込まれるのかしら?」


「急にトレーニングといわれても、心の準備ができていないわ!」


 美鈴ちゃんとフィオちゃんが、口々に不平を鳴らしているね。あの二人は、こと体力面に関してはからっきしだから、ちょっとは体を動かしたほうがいいんだよ!



「我が神の仰せでしたら、このミカエルは地平の先まで走ってみせます!」


 カレンちゃんは、目が銀色に光っているね。地平の先までとは、ずいぶんスケールが大きいよ! 天使の体力がどうなっているのかは、ちょっと興味深いね。



「聡史お兄ちゃん! 頑張るから見ていてね!」


「あまり走ったことがないので、自信がありません」


 ナディアとリディアの姉妹は、対照的な様子だね。どちらかというと妹のほうが、張り切っているみたいだよ。子供は体を動かすのが仕事のようなものだからね!



「走るのは苦手ですぅ! かけっこはいつもビリだったですぅ!」


 マリアちゃんは、帰還者にも拘らず、体力が一般人並みだからね。いい訓練になるんじゃないかな。


 

「皆さん、大したことはないようですね! 私は半年前まで現役の高校生でしたから、体育の授業も受けていました! ドンと来いです!」


 明日香ちゃんだけは、自信たっぷりな表情だね。運動神経が壊滅的な状況なのに、どこからそんな自信が湧いてくるのか、さくらちゃんは不思議でしょうがないよ!



「それじゃあ、ゆっくり走るから、俺の後についてきてくれ!」


 おっ! 兄ちゃんが先頭で集団が動き出すね。私から見れば、歩くよりも遅いペースだよね。今のところは、全員が一団になって走っているよ。


 一番余裕があるのは、やっぱりカレンちゃんかな。真面目な性格だから、基礎訓練を怠らないようだね。その次に元気なのは、ナディアちゃんだね。バンパイアの血を引いているから、普通の人間よりも体力面で優れているのかもしれないよ。お姉ちゃんのリディアちゃんが魔法タイプで、妹のナディアちゃんが身体能力タイプみたいだね。


 今度さくらちゃんが、体術の手解きをしてあげようかな。運動神経がよさそうだから、飲み込みが早いかもしれないよ。これはちょっと楽しみになってきたね!


 外周400メートルの演習場だけど、2周目を終えると集団がバラけてきたよ! 兄ちゃんを先頭にして、カレンちゃんとナディアちゃんが直後にくっついて、やや遅れてリディアちゃんだね。


 30メートル以上離れて、フィオちゃん、美鈴ちゃん、マリアちゃんが、ゼイゼイ言いながら走っているよ! このくらいで息が上がるなんて、本当に体力がないよね!


 そこからさらに100メートル遅れて、明日香ちゃんがフラフラになって歩いているよ! どこが現役高校生なんだか、小一時間問い詰めてやりたいよね! さっきまでのあの自信は、本当に何だったんだろうね?



 こうして、予定の5周が終わると、全員に周回遅れにされた明日香ちゃんが、よれよれな姿でゴールするよ! あまりに情けなくって、友達として涙が出てくる光景だね。あーあ、ばったり倒れこんで、動かなくなっているよ。


 第1演習場でも、誰かが倒れこんでピクリとも動かなくなる光景は日常茶飯事だけど、体力のレベルがあまりに違いすぎだね! 親衛隊と明日香ちゃんは、スタートラインが大して変わらなかったにも拘らず、どうしてこうなったんだろうね? 本当に心から疑問だよ!



「はい、明日香お姉ちゃん! これを飲むと元気になるよ!」


「ナ、ナディアちゃん…… 手も動かせないから、飲ませてください」


「はい、お口を開けてね!」


 こんな状態の明日香ちゃんでは、4キロ体重を落とす道のりは、相当長いんじゃないかと実感するさくらちゃんでした。 



 

情けない姿の明日香ちゃんでしたが、次回からはシリアスな路線に戻ります。日本に潜入した中華大陸連合の帰還者が…… 投稿は日曜日を予定しています。どうぞお楽しみに!


投稿間隔が開いたにも拘らず、たくさんの閲覧をいただいてありがとうございました。感想、評価、ブックマークをお寄せいただいた方には、心から感謝申し上げます。


まだまだ自粛が続きますが、在宅の方は時間潰しにこの小説をご利用していただけたら、ありがたいです。

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