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19 拠点制圧のご褒美

武器を隠してある倉庫の踏み込んだ主人公たちは内部に潜入します。とはいっても率いる司令官が余りに大雑把な性格なので、正面から強行突破と表現した方が正確かもしれません。


後半はなぜかご褒美タイムになります。どのようかご褒美かというと・・・・・・


今回も戦闘場面は控えめです。たぶん20話を越えた辺りから本格的な戦いの模様をお届けできるのではないかと予想しています。

 倉庫の入り口は以前は仕事をする人が入場していたメインの自動ドアの入り口と、トラックが直接荷物の揚げ降ろしをする車両用のバースがあるけど、どちらもシャッターが閉まっているな。一番奥には鉄製のドアがある。司令官さんはそちら側に向かっているから、きっと抉じ開けて内部に入り込むつもりだろう。



 ドーン! ガラガラッガッシャーーン!


 違ったよ! ゲート同様に蹴破っている。この人には入り口を手で開けるという発想がないのだろうか? こりゃあますます妹の同類が確定したな。



 倉庫の内部は真っ暗で視界が利かないから俺は暗視スキルを発動する。動かない物体は輪郭しかわからないけど、動きがある標的なら絶対に見逃さない中々使えるスキルだよ。スキルで見渡してみると倉庫の内部はガランとしているが、かすかに人の気配を感じるな。でも司令官さんの指摘のように武器や弾薬が隠されている様子は全く確認できなかった。



「中に居る人間はすぐに出て来い。今なら投降を認めるぞ。よし、投降者は居ないな」


「締め切り早やっ!」


 いかんいかん、ついツッコんでしまった。それにしてもこの司令官さんは、投降を呼び掛けてから1秒で締め切りなんてどういう神経をしているんだ?



「安心しろ、便宜上投降を呼び掛けただけだ。最初から1人も生かしておくつもりはない」


 さいですか。なんで俺の周りに居るのはこんな過激な発想の持ち主ばかりなんだろうね。破壊神の俺が言うのもなんだけど、俺の場合は結果としてとんでもない破壊を引き起こすけど、最初からそのつもりでぶっ壊そうとしているわけじゃないぞ。有り余る力の加減をちょっと間違えた結果そうなるだけだからな。ホントウデスヨ!



 ガシャン!


 音とともに強烈な光が俺たちを照らす。投光機が左右から俺たちを照らしている。これじゃあ相手から丸見えだよ。



 ガガガッガガッガガガガッガガガガガガガガ


 続いて連続した銃弾を撒き散らす音が閉鎖された倉庫の中に響く。内部に反響して鼓膜が痛くなりそうだ。鼓膜の心配をしている場合かって? 大丈夫だよ、美鈴さんが対物シールドを俺たちの周囲に展開してくれているからね。5.5ミリ機関銃弾がシールドにぶち当たってコンクリートの床にバラバラ音を立てて落ちていくよ。


 あれっ? 司令官さんと妹の姿が消えている。2人は投光機の光が当たった瞬間に動きを開始していたらしい。足音を立てないまま猛スピードでマシンガンをぶっ放している相手の居る場所に向かっているようだ。妹の素早さは異世界でも十分にその力を発揮して役立ったけど、司令官さんもほぼ互角の動きをしているな。さすがは特殊能力者部隊のトップに立つ人だけのことはあるよ。俺のスピードじゃあ絶対に追いつけないな。



 疾風のような速さで左右に分かれて敵に迫っていく2人の影、妹は投光機を操作している側、司令官さんはマシンガンを撃ち捲くっている側に猛スピードで迫っていく。それにしても妹もさることながら司令官さんの動きには全く無駄がないな。弾幕を巧みに掻い潜りながら敵の側面に迫っていくよ。マシンガンを手にしているのは3人、投光機を操作しているのは2人みたいだね。



 ガシッ!


 司令官さんの拳が顔面を捉えたと思ったら、マシンガンの音はピタリと止んだ。ほぼ同じ頃に妹がもう1人を拳で吹き飛ばしているな。続け様に大した抵抗もなしに司令官さんと妹は敵を沈めている。あの様子じゃ、相手は一撃で死亡確定だろうな。



「2人ともなんだか暗闇とは思えないような動きでした。それに目で追えない程に速く動いていました。一体あの2人はどうなっているのですか?」


「俺の妹はこういう動きが得意だからともかくとして、あの司令官さんは只者じゃないな」


 アイシャは目にしたばかりの2人の動きに相当な衝撃を受けている様子だ。彼女も異世界を経験した帰還者にも拘らず、妹と司令官のレベルの高さに目を丸くしている。俺たちにとってはこの程度は当たり前の毎日だったからどうってことないけど、召喚された世界ごとに環境が違うから驚くんだろうな。とは言っても俺たちが居た世界にもさすがにマシンガンはなかったぞ。


 

「おい、こっちに階段がある。速く来い!」


「兄ちゃんたち! こっちだよ!」


 倉庫の反対側の壁際まで一気に移動した2人から俺たちを呼ぶ声が響くと、俺たちはその声にしたがって移動を開始する。アイシャは暗闇でもある程度は見えるので問題はないが、美鈴は全く夜目が利かないので俺が手を引く。大魔王様は暗かったら魔法で明るくして戦えばよいので、暗闇を見渡せるスキルなど無用の存在だった。でも今はあえて俺の手に自分を委ねている様子だ。気のせいかもしれないけど、俺の手を嬉しそうにギュッと握っている。小さな頃から数え切れない程手を繋いできたのに今更何が嬉しいのかな? 



「さくら訓練生、私についてくるとは中々いい動きだな」


「うほほー! ここは狭いからね、まだ半分くらいしかスピードを出していないよ!」


 負けず嫌いの2人が言葉を交わしているよ。妹は素早さに超特化しているからこのくらいは当たり前だろうな。もちろんスピードだけじゃなくってパワーも十分に持ち合わせている。稀に見る天才的な体術と合わせてこの3つが妹の戦闘を支えているといっても過言じゃない。もしこれらがなければ大食いだけが取り柄のアホの子だ。


 

「集まったか、それじゃあ2階に行くぞ」


 そう指示を出す司令官さんの手には4.6ミリ短機関銃が握られているよ。たぶんベルギー製のMP7だな。帰還者だからアイテムボックスかマジックバッグを持っているんだろうな。きっと他にもっとヤバイ武器が収納されているんだろう。



 階段に繋がる入り口にも鉄製の扉が取り付けられているが、当然のような顔で蹴破って司令官さんは階段に踏み込む。そして短機関銃を構えると上にある踊り場に向かって乱射する。って、あれ? 全く銃声がしないぞ。それなのに短機関銃から飛び出した何かが壁や手摺を破壊していく。



「驚いたわね、機関銃から魔力の銃弾が発射されているわ」


「機関銃から魔力だって?!」


 美鈴の分析に驚いた俺は思わず聞き返してしまった。近代兵器と魔力の組み合わせなんて考えもしなかったからだ。そうか、だから銃声が全くしないのか。ちょっと納得した。



「どうやら階段での待ち伏せはなさそうだな。私の武装に関する質問は後回しだ。一先ずはこの施設の制圧に集中しろ」


「了解しました」


「うほほー! 頑張っちゃうよ!」


 妹よ、お前も特殊能力者部隊の訓練生なんだからもう少し返事の仕方を考えような。相手は一番偉い司令官さんだぞ!



「このまま警戒しながら2階に進む。先頭は私が務めるからついて来い」


 後ろについていって2階に上がると、そこには大量の木箱の中に小銃や機関銃、弾薬の数々を発見する。主にロシア製の装備をコピーした中華仕様のポンコツ銃だ。現にあの大使館では半分以上がジャムって使い物にならなかったからな。


 ただし違う箱にはカールグスタフやパンツァーファウストといった個人が携帯できる無反動砲や対戦車砲が発見された。おそらくは国際的な武器の闇市場で手に入れたものだろう。ああ、そういえばドイツは中華連合と仲良しだったっけ。もしかしたら正規のルートで売却されたのかもしれないな。



 結局このフロアーにあった武器類は司令官さんがまるっと収納にしまいこんで押収することになった。ここにある武器だけでも5個中隊の装備を十分に賄える。500人の部隊に行き渡るだけの武器を中華連合の地下組織はここに隠し持っていた訳だな。こんな物騒な物を使ってゲリラ戦を仕掛けられたら、一体どれだけの被害が出るのか想像もつかないよ。



「ここだけでなく、全国の各地にある同じような施設が国防軍の手で一斉にガサ入れされているからな。主要な武器庫を押さえられて、連中も頭を抱えているだろう。あとは芋づる式に身柄を押さえるか、抵抗したらその場で処分すれば国内の懸案事項が1つなくなるわけだ」


「こんなに中華大陸連合は日本国内に拠点を作っていたんですか?」


「その通りだな。膨大な量の輸入商品に紛れて、こんな武器を時間を掛けて搬入していたんだ。その苦労はこれで水の泡となったが、まだ我々ですら把握していない拠点が残っているかもしれないから引き続き注意を払う必要があるな」


 こうした近代兵器に対して一般市民はなす術がない。それを大量に他国に持ち込むのは侵略の意思があると受け取られて当然だろうな。昨日の総理大臣の会見で『交戦状態に入った』と言っていたが、なんだかその意味が実感として伝わってくるよ。



「聡史、これが憎むべき中華大陸連合のやり方。あなたも覚えておいてほしい」


「そうだな、他国に侵略の手を伸ばすにしたって、これはどうにも許せないやり方だな」


「アイシャちゃん! 安心していいよ! 私が一切合財ブッ飛ばしてやるからね!」


「さくらちゃん、今日はもうその辺にしておきなさい。そろそろお腹が空いてくる頃でしょう」


「そうだよ! 暴れていてすっかり忘れていたよ! この近くにどこかお腹がいっぱいになる場所を探さなくっちゃ!」


「さくら訓練生、この場は陸軍の普通化部隊に引き継いで我々は富士に戻るぞ。食事はそれまで我慢するんだ」


「そ、そんなぁ・・・・・・ ムリ! 私には絶対にムリ!」


 つい今しがたまで活き活きとしていた妹が急に死んだ魚のような目になっている。食事のお預け程こいつにとって堪える事態はないからな。暴れたご褒美がこれじゃあ相当に気分がヤサグレそうだ。



「仕方がないな、引継ぎにしばらく時間がかかるから、着替えてからその辺で何か食って来い。車の中でずっとこの調子では私の気分が滅入ってくる」


「うほほー! いってきまーーす!」


 妹はダッシュでワゴン車に戻って中で着替えを開始する。俺たちが車に戻る頃にはもう着替え終わって外で待っているよ。どれだけ腹が減っているんだ? まだ朝食を取ってから4時間しか経っていないぞ。


 手が掛かる妹を野放しにはできないから、俺たちも順番に車内で着替えをする。運転手の下士官さんが気を利かせてワゴン車を運転して回転寿司の店に連れて行ってくれたから助かったよ。一皿100円均一のお財布にも優しいお店だ。



『食べ放題!! 2480円』


 店内に入るとお店の死亡フラグのようなポスターが張ってある。これは妹にとってはヘブン状態だぞ。お店は大赤字に苦しみそうだな。



「さくら、喜べ! どうやらこの店は食べ放題のようだから、好きなだけ食べるんだ」


「兄ちゃん、私はこういう店を待っていたんだよ! ネタを全部食べ尽くすよ!」


「ただし俺たちは羞恥心に耐えられないからお前だけは別の席だぞ」


「大丈夫だよ! 1人回転寿司は何度も経験しているからね!」


 こいつはコッソリと1人で回転寿司に顔を出していたらしい。そういえば家に居るときに時々『お腹が空いた』と言い残してどこかに出掛けていたな。たぶん行き先は回転寿司か焼肉バイキングのどちらかだろうな。


 別行動を申し渡した妹だけは空いているカウンター席に案内されてすぐさまお茶の準備を開始する。猫舌なので熱いお茶が飲めないのだ。こうして戦闘態勢が完了するとすかさずレーンに流れている寿司が乗った小皿に手を伸ばす。まて! いきなり6皿取ってテーブルに並べやがったぞ! それもネタなんて全く見ないで、目の前に流れてきた皿に無造作に手を伸ばしている。あっ、6皿を瞬殺したと思ったらまた6皿並べやがった。



「お待たせしました、3名でお待ちのお客様」


「はい」


 客席への案内を待っていた俺たちは店員さんについていってテーブルの席に座る。横目でカウンターの妹の様子を見ながらその後ろを他人のフリをして通り過ぎていく。ヤバイぞ、すでに20皿以上積み重ねているよ。ヤツが本気モードになっているぞ。店長が辞職を申し出なければいいが・・・・・・



「聡史、美鈴、この店はお皿がレールの上を走っています! とっても面白いです!」


「アイシャはこういうお店は初めてかしら?」


「ネットで見たことはありますが、本当に自分がこうしてお店に来るとは思いませんでした! おスシは初めて食べますがとっても楽しみです!」


 アイシャの目が子供のようにキラキラと光っている。まるでテーマパークに連れてきてもらったような魅惑に溢れた店内の光景に目を奪われているのだ。



「アイシャ、これが日本のお茶だ。ちょっと飲んでみろ」


「聡史、ありがとうございます」


 お茶を受け取ったアイシャが一口湯飲みに口を付けると、たちまちその表情が歪む。



「日本のお茶はとっても苦いです! 私たちはお茶に砂糖とミルクをたっぷり入れて飲むのが当たり前の習慣です」


「国が違えば習慣も違うのね。生の魚は大丈夫かしら?」


「内陸なので魚は食べたことがありません。どんな味か楽しみです」


「それじゃあまずは食べやすい玉子焼きから口にしてみなさい」


「玉子は大丈夫ですよ! これは甘くてとっても美味しいです」


 こうしてアイシャは日本の文化の一端に触れた。特に最初に口にした玉子焼きが後に彼女の大好物になる。お茶だけは最後まで苦そうにしていたが・・・・・・




「うほほー! 食べまくるよーー!」


 その頃妹はすでに100枚以上の皿をうず高くテーブルに積み重ねていて、店長さんを真っ青な表情に変えているのだった。





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