187 悲劇、アゲイン!
アフロディアを倒してから……
甲板上のマリアは……
さくらちゃんが、ついにアフロディアを倒したですぅ! 本当に、凄い人ですぅ! とっても格好いいですぅ!
「カレンさん! さくらちゃんが、バッチリ決めたですぅ! って! いつの間にか、カレンさんが元の姿に戻っているですぅ!」
「マリアさん、あまりあの姿は人前で見せるものではないですから。それよりも、この人たちをどうしますか?」
カレンさんが指さす先には、新魏会の皆さんが一塊になって、天使の姿から普段着に変身しているカレンさんに、目をパチクリしているですぅ! つい今しがたまで、全員手を組んで、祈りを捧げていたようですが、急にカレンさんが私服姿に戻って、驚いているですぅ。
「この人たちは、マフィア組織の新魏会の皆さんですぅ! 16Kに復讐する機会を狙っていたですぅ! 皆さん、そんなに悪い人ではないですぅ!」
「マフィアにいい人がいるのか疑問の余地が残りますけど…… さて、どうしましょうか…… まずはさくらちゃんに確認してもらいましょうか」
「カレンさん! ナイスアイデアですぅ! さくらちゃんたちを船に呼ぶですぅ!」
さくらちゃんは、埠頭のかなり離れた場所にいるので、スマホを取り出すですぅ。通話はすぐに繋がるですぅ!
「もしもし、さくらちゃんだよ」
「マリアですぅ! さくらちゃん、貨物船の甲板に来てもらいたいですぅ! 新魏会の人たちを、放置できないですぅ!」
「新魏会? ああ! マリアちゃんが裏の仕事を請け負った組織だね。わかったよ! すぐに行くから、待ってていいよ」
これで一安心ですぅ。さくらちゃんにお任せするですぅ。
しばらくすると、さくらちゃんは、フィオさんと明日香ちゃんを引き連れて、甲板に姿を現すですぅ。
「さくらちゃん! さすがですぅ! 香港映画みたいにアフロディアを倒したですぅ!」
「マリアちゃん、私も真剣に映画デビューしようかと考えていたところだよ。マリアちゃんは、どこかにコネを持っていないかな?」
「映画関係者の知り合いがいるですぅ! 機会があったら、紹介するですぅ!」
「これは面白くなってきたよぉぉぉ! さくらちゃんは、ついに全世界デビューするよぉぉぉ!」
なんだかさくらちゃんが、一人で盛り上がっているですぅ。でも、横からフィオさんが止めに入ってくるですぅ。このまま放置しておくと、さくらちゃんは、どこまでも突っ走るですぅ。
「さくらちゃん、国防軍の秘匿戦力が、映画に出演できるはずないでしょう。諦めなさい」
「ええぇぇ! フィオちゃん! 香港マフィア相手の大暴れだよ! 絶対にドラゴンさんやジャッキーよりも人気が出るよ!」
「無理なものは無理なの! また、司令から特大の雷を落とされるわよ」
「それじゃあ、止めにするよ!」
「諦め、早っ!」
どうやら、さくらちゃんは諦めてくれたですぅ。あれだけ食い下がっていたのに、司令の話を持ち出されると、直ぐに引いたですぅ! さくらちゃんと司令の間に、どのような遣り取りがあったのか、なんだか聞くのも恐ろしいですぅ。
「ところでマリア、私たちを甲板に呼び出したのは、どんな理由かしら?」
そうだったですぅ! フィオさんが、ようやく本題を思い出させてくれたですぅ。やってきた皆さんに、新魏会の話をするですぅ。
「…… というわけですぅ」
「なるほどねぇ…… 父親だった組織のボスの復讐のために、この場にアフロディアをおびき寄せたのね」
「そういうわけですぅ!」
フィオさんは、何か考え込んでいるですぅ。
でも、その間にさくらちゃんが、つかつかとアリサが座っている場所に近づいていくですぅ。何を始めるつもりか、全然わからないですぅ。
「新魏会のボス、アリサ・リーだね」
「そうだ。私が、アリサ・リーだ」
さくらちゃんとアリサの間に、沈黙が流れるですぅ。もしかして、さくらちゃんは、この際一気に新魏会まで潰してしまうかもしれないですぅ! これから起こることは、まるっきり予想がつかないですぅ! 緊張感漂う様子に、なんだか、体が震えてくるですぅ!
「さくらちゃん友の会に入らないかな? 会費は毎月10万だよ!」
ドテドテドテ!
全員揃ってきれいにコケたですぅ! あの冷静なフィオさんまで、甲板にひっくり返っているですぅ! さくらちゃん! こんな場でお小遣い稼ぎの勧誘をしないでもらいたいですぅ! ビックリしたですぅ!
「あなたは、我らに代わって、アフロディアを倒してくれた恩人だ! 新魏会一同、将来に渡って、あなたの意向に従う」
「話はまとまったね! 違法な薬の販売や殺人は禁止だからね」
「新魏会は、元々キャバレーやカジノの売り上げが収益源だった。古いやり方だと言われているが、我々は従来通りにやっていくつもりだ」
「ふむふむ、それでいいよ。それから、イギリスの司令部で小耳にはさんだ話だけど、マカオのカジノ利権の大半は欧米の業者が落札する予定らしいよ。でもね、地元の資本も一部加えないと不味いという話が出ているんだよ。だから、私から、新魏会を推薦しておくよ!」
「なんだって! もしその話が実現すれば、我々の組織は、以前の勢力を取り戻せるぞ! ぜひともお願いしたい!」
「全部このさくらちゃんにお任せだよ! 2,3日のうちに正式に決まるから、連絡先を教えてもらえるかな」
「もちろんだ!」
さくらちゃんは、私よりも営業が上手ですぅ! カジノの話なんて、どこで仕入れたのか不思議でしょうがないですぅ! でも、イギリス軍にも顔が利くさくらちゃんなら、不可能ではないですぅ。本当に凄い人ですぅ! この様子を見たフィオさんは、もうすっかり諦め顔をしているですぅ。
「それじゃあ、フィオちゃん! 今から証拠隠滅の時間だよ! パトカーや死体は、魔法でパパっと消しちゃってよ!」
「また、さくらちゃんの無茶振りが始まったわ! 美鈴のように、何もかも灰にしてしまうわけにはいかないのよ!」
「でも、何か方法があるんだよね! 早くやっちゃってよ!」
「……もう、本当に仕方がないわね! さくらちゃんに、貸し一つよ!」
「お菓子でもご飯でも、口に入るものなら、何でもいいよ!」
「菓子じゃないでしょうがぁぁぁぁ! 貸しよ! 間違えないでね!」
「わかったよ! フィオちゃんに借り一つでいいよ!」
「話がまとまるまで、時間が掛かってしょうがないわ。まあ、いいでしょう。さて、始めますか。皆の者、大賢者の魔法を照覧あれ! 新たな次元の彼方に、全てを葬り消し去る究極魔法! この場に生じるがよい! アナザーディメンション!」
な、な、な、な、な、何が始まるですかぁぁぁぁ? フィオさんの体から、ものすごい量の魔力が噴き出していくですぅ!
魔力が形を成すと、そこにはまるで薄いガラスのような、別の次元が発生しているですぅ! その次元は、埠頭を右から左に移動しながら、その場に存在する物体を全て飲み込んでいくですぅ!
信じられない光景が、この場に生じているですぅ! これこそが、フィオさんの究極魔法ですぅ! 早く私も教えてもらいたいですぅ!
「さすがはフィオちゃんだね! いい感じに、きれいさっぱり消えちゃったよ! あとは…… そうだ! マリアちゃんは、マシンガンやその他の武器を全部アイテムボックスに収納するんだよ!」
「わかったですぅ! まだ船倉にも残っているから、全部回収するですぅ!」
私は、新魏会が用意していた武器を全部アイテムボックスに仕舞い込むですぅ! これで、証拠は一切残らないですぅ!
「何から何まで、世話になって感謝する」
「これが、さくらちゃん友の会の特典だからね! 今回だけは、アフロディアの正体を突き止めるのに役立ったから見なかったフリをするけど、次から悪事を働いたら、絶対に見逃さないよ! さくらちゃん友の会の掟は、厳しいんだからね!」
「重々承知している。我々は、住民に役立つマフィアを目指している。亡き父親の方針でもあるからな。しっかりと受け継いでいくさ」
「それでいいよ! それじゃあ、会費は月末までに振り込んどいてよ!」
「ああ、もちろんだ」
こうして、全ての話がまとまったですぅ。あとは、国防軍とイギリスにお任せするですぅ。
おや? 明日香ちゃんの様子がおかしいですぅ! そういえば、さっきからぼーっとして、全然話に加わらなかったですぅ。一体どうしたんでしょうかぁ?
「それじゃあ、撤収するよ!」
「さあ、明日香ちゃんも、ボケっとしていないで、帰るわよ」
さくらちゃんの号令に合わせて、フィオさんが声を掛けると、明日香ちゃんが少しずつ現実世界に戻ってくるですぅ! でも、なんだか、まだ様子がおかしいですぅ。
「明日香ちゃん、どうしたの?」
フィオさんが、明日香ちゃんの肩を揺するですぅ。ようやく明日香ちゃんの視線にピントが戻ってきたですぅ。
そして、その口から飛び出たのは……
「フィオさん! どうしましょう?! ついに私も映画デビューですよぉぉ! さくらちゃんの友人としての重要な役回りですから、これはもう準主役といっても過言ではありません!」
「「「「お前は、いつの話をしているんだぁぁぁぁぁ(ですぅぅぅぅぅ)!」」」」
どうやら映画デビューの件で、頭の中にお花畑が咲き乱れたようですぅ! その場の全員から揃ってツッコミを入れられる姿、これこそが明日香ちゃんの真骨頂ですぅ! 最近、明日香ちゃんの妄想が、以前にも増して激しくなっているようですぅ。絶対、お薬を増やしてもらったほうがいいですぅ!
私もかなりフワフワした性格ですが、そんな私でも、心から心配になってくるですぅぅぅぅ! これでも、何とか無事に社会生活を送ってこれたのが、不思議になってくるですぅ! 明日香ちゃん、もっとシャキッとしてもらいたいですぅ!
こうして、私たちは司令部へと帰還するですぅ。
無事に任務を終えて、報告も終えるですぅ。16Kの組織の全貌が解明されて、イギリス軍はとっても感謝しているですぅ。
後日入った情報によると、アフロディアは中華大陸連合政府と結託して、米英軍を全滅させる計画を練っていたらしいですぅ。
さくらちゃんと、あれほどの戦いを演じたアフロディアならば、その計画も現実味があったですぅ。さくらちゃんが香港に現れなければ、十万規模の米英軍が、壊滅的な打撃を受けていた可能性が、高かったですぅ!
これは、香港警察の幹部が自供した情報なので、信ぴょう性が高いですぅ。本当に、危機一髪だったですぅ!
その日の夜……
「明日は日本に戻るから、今夜は豪勢にいっちゃうよぉぉ! 全部さくらちゃんのおごりだからね! みんなが頑張ってくれたから、そのお礼だよ!」
さくらちゃんが、太っ腹なところを見せているですぅ。確かに今回は、全員が本当に頑張ったから、お言葉に甘えるですぅ。
「さくらちゃん、映画デビューが幻に終わったのは、本当に残念でなりません! ということで、今夜はヤケ食いしようと思っています! こちらのお店はどうでしょうか?」
明日香ちゃんは、まだ未練たらたらの様子ですぅ。でも、観光案内のサイトを開いて、お店を紹介しているですぅ。こういう時だけは、しっかりと自分の仕事をしているですぅ。今夜はいっぱい食べて、早く元気になってもらいたいですぅ。
「いいね! その店にするよ! それじゃあ、タクシーで向かおうか」
明日香ちゃんがおすすめしたレストランは、香港島に新たに作られた、イギリス租界の中にあるですぅ。この地域は、香港行政区ではなくて、イギリス政府が直接統治する区域に指定されているですぅ。
到着したレストランは、かなり高級そうな店構えですぅ。中に入ると、タキシードを着こんだボーイさんが、案内してくれるですぅ。
「いらっしゃいませ。5名様でよろしいでしょうか?」
「うん、5人だよ! 一番高級な料理が食べたいんだよ!」
おや? この流れは、いつか来た道のように感じるですぅ。さくらちゃんは、大丈夫なのでしょうか? 一抹の不安が募ってくるですぅ。
高級感漂う個室に案内されて、メニュ-を手渡されるですぅ。コース料理は、一番高くてもお値段は500と書いてあるから、格式の割にはお手頃感があるですぅ。どうやら水上レストランの悲劇は、回避された模様ですぅ。よかったですぅ。
「それじゃあ、この一番値段の高いコース5人分と、北京ダックチャーハン2人前に、伊勢海老入りラーメンを3人前持ってきてもらおうかな」
「かしこまりました」
相変わらず、さくらちゃんの注文は豪快ですぅ! テーブルには、豪華なお料理の数々が、所狭しと並んでいるですぅ!
2時間後……
「もうお腹がいっぱいで、これ以上は無理ですぅ!」
「ヤケ食いに相応しいくらいに、食べまくりでした!」
「みんな、最後のデザートまであと一息よ!」
「無理です! デザートが入りきりません!」
私たち4人は、すでにお腹が限界を迎えているですぅ! 本当に苦しいですぅ! でも、さくらちゃんだけは、まったく別の世界にいるですぅ!
「う~ん、なんだかもうちょっと追加しようかな。すいませ~ん! フカヒレ春巻き10個と、アワビ入り中華ちまきを10個!」
私たちの分まで、相当な量をお腹に入れているにも拘らず、ここにきて追加注文をしているですぅ! これは驚きですぅ! 限界を知らない胃袋ですぅ! 注文が10個単位というのは、絶対に間違っているですぅ!
こうして、香港での最後のディナーが終わったですぅ。本当にお腹が苦しくて、しばらくは歩けないですぅ。
お会計のカウンターにさくらちゃんが、一人で向かっていったですぅ。でも、変な顔をして、フィオさんの所に戻ってきたですぅ。
「フィオちゃん、全部で3500ポンドって言われたんだけど、何の話かな?」
「ま、ま、ま、まさか! てっきり香港ドル表示だと信じ込んでいたけど、メニューの金額はイギリスポンドだったの!」
なんだか、話が悪い方向に進んでいる気がするですぅ! さくらちゃんから話を聞いた、フィオさんの顔色が悪いですぅ!
「さくらちゃん、言いにくいんだけど、3500ポンドって、日本円で約50万よ」
「な、な、な、何だってぇぇぇぇ!」
……思い出したですぅ。ここはイギリス租界だったですぅ。流通しているお金は、ポンドに代わっているですぅ! やっぱり、水上レストランの悲劇、アゲインですぅ!
ポンドの持ち合わせがないさくらちゃんは、涙目になって、大量の諭吉さんを差し出しているですぅ。両肩がかすかに震えているですぅ。心から気の毒ですが、私には払えないですぅ!
この場でさくらちゃんに掛ける言葉は、ただ一つですぅ!
会計を済ませて戻ってきたさくらちゃんに、私たち4人は『せーの』で声を出すですぅ。
「「「「さくらちゃん、どうもごちそうさまでした!」」」」
「うん、別に気にしないでいいよ。私がまた、外国のお金にボッタくられただけだからね。うん、全然気にしないでいいんだよ。本当に……」
さくらちゃんの声には、力がこもっていないですぅ。涙目になっている表情からも窺える通りに、相当なショックを受けているですぅ。無念さを滲ませているですぅ。
でも、さくらちゃんの好意は、ありがたく受け取るですぅ! これは、私たち4人の総意ですぅ!
こうして、香港最後の夜は、過ぎていったですぅ。
翌日、相変わらず解せない表情のさくらちゃんとともに、私たちは輸送機に乗って、日本へと戻っていったのでしたぁ。
後日談が長引いて、日本には戻れませんでした。次回こそ、富士に舞台が移ります。投稿は、週末を予定しております。どうぞ、お楽しみに!
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ランキングからは、しばらくご無沙汰していたので、本当に嬉しかったです。今後とも、読者の皆様の応援を、心からお待ちしております。




