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181 香港映画のスタートだよ!

マフィアを拘束したフィオは……

「もしもし、さくらちゃん! こちらは片付いたわよ」


「さすがはフィオちゃんだね! 今どこにいるのかな?」


「大抗敦という、公園のような所ね」


「それじゃあ、橋爪中尉に連絡して迎えに来てもらってよ! 一旦、司令部に集合してから、マフィアの拠点に押し掛けるから!」


 あら? さくらちゃんにしては、ずいぶんのんびりと構えているわね。普段なら、私たちを置き去りにして、一人で突撃していてもおかしくないのに……



「なにしろ、お昼の時間を過ぎているからね! ひとまずは、腹ごしらえが優先なんだよ!」


「なんだか、その理由に納得したわ」


 そうよねぇ…… さくらちゃんが、昼ご飯を犠牲にするなんて絶対に有り得ないわねぇ…… 大賢者の全知識に懸けて誓ってみせるわ。さくらちゃんが、食事を諦めることなど、天と地がひっくり返っても絶対に起こり得ないと! 



「それにね、国防軍の出動準備には、もうちょっと時間がかかるらしいんだよ!」


 おやおや、今度はもっともらしい理由を付け加えているわね。でも、なんだか後付けの理由という感じがプンプンしてくるのは、私の気のせいかしら? それにしても国防軍に出動要請をするなんて、普段のさくらちゃんに比べて、ずいぶん慎重な手順を踏んでいるような気がするわね。



「国防軍が出動するの? マフィアの拠点なら、そんなに人手はいらないと思うんだけど」


「フィオちゃん、今回は場所が場所だからね! ひとまずは司令部で待っているから、早く来てよ!」


「了解したわ。どのくらい時間がかかるかわからないけど、司令部に向かうから待っていてね」


 こうして私たちは、国防軍の迎えを待って、司令部に戻っていくのでした。








 司令部に到着したフィオたちは……


 さくらちゃんと連絡を取ってから1時間以上経過してから、私たちはようやく司令部が置かれているペニンシュラホテルに到着したわ。エントランスの脇には、装甲車と兵員輸送車が何台も並んで、結構物々しい雰囲気になっているわね。日の丸が描かれているから、これらは全て国防軍の車両ね。


 迎えの車を運転してくれた士官の後に付いていくと、レストランでお腹を擦っているさくらちゃんの姿があったわ。すでに昼食を終えて、すっかり満足した表情ね。



「さくらちゃん、お待たせしました」


「フィオちゃんたちは、ずいぶん時間がかかったねぇ。もうすっかりお腹いっぱいになっちゃったよ!」


 それはそうでしょうとも。さくらちゃんの前に積み重ねられているお皿を見れば、どれだけお腹に詰め込んだのか一目両全よ。一仕事を目の前にしているにも拘らず、ずいぶん余裕の態度よね。でも、これがさくらちゃんだし……



「それじゃあ、私たちもお昼にしましょうか」


「なんだか慌ただしい日ですね」


 明日香ちゃんは、楽しみにしていた服の購入がフイになって、ちょっと残念そうな表情をしているわ。でもねぇ、遊びできているんじゃないし、そこは諦めてもらいましょうか。


 私たちがカウンターに昼食を取りに行っている間に、さくらちゃんはすっかり口を開けて寝ているじゃないの! いつでもどこでも、本当に寝つきがいいんだから。



「出発まであと1時間あるから、ゆっくり食べましょう」


「さくらちゃんが目を覚まさないと、どちらにしろ何も始まりませんね」


 いつものことなので、カレンも諦めているようね。寝ている人は見なかったことにして、私たちも食事にしましょうか。






 しばらくして……



「目が覚めたよー! さて、小腹が空いてきたから、何か美味しそうな物をもらってこようかな」


 さくらちゃんはスッと立ち上がると、カウンターに突進していくわ。戻ってくるときには、トレーに麺料理を載せているわね。アツアツの湯気が立ち上っているけど、小腹が空いたにしては、しっかりと一人前食べ切るつもりね。



「あっさりスープの麺だね! 中々美味しかったよ!」


 あっという間にスープまで飲み干しているわ。ドンブリ一杯を軽いおやつ感覚で食べ切る人は、中々お目にかかれないわね。


 ようやくお腹が満足したさくらちゃんが、話を聞く態勢になってくれたわね。



「ところでさくらちゃん、これからマフィアの拠点に行くんでしょう。どこにあるのかしら?」


「そうだったよ! まだ、フィオちゃんたちには何も教えていなかったね! 場所は油麻地警察署だよ!」


「油麻地警察署って…… 確か、明日香ちゃんが連行されたところでしょう?」


「そうそう、明日香ちゃんが逮捕されたところだよ!」


「さくらちゃん! 逮捕なんて失礼です! 私は保護されただけですから!」


 まあまあ、明日香ちゃん! そんなにムキになって否定する場面でもないでしょう。あなたがどう言い繕っても、さくらちゃんの言い分に軍配が上がっているわよ。それはどうでもいいから、肝心な話を前に進めさせてね。



「それで、警察署にどんな用事があるのかしら?」


「フィオちゃんにしては、察しが悪いねぇ! 警察自体が、マフィア組織だったんだよ!」


「なんですって!」


 さくらちゃんの返答があまりに意外過ぎて、ついつい大きな声を上げてしまったわ。警察がマフィアだなんて、そんなことは俄かには信じられないんですけど……



「さくらちゃん、それは間違いないのかしら?」


「間違いないよ! 私を襲撃した男たち全員が、香港警察のIDカードを持っていたからね。多分、フィオちゃんたちを銃撃した連中も、警官じゃないかな」


 これは驚くべき話ね。警察組織がそのままマフィアだなんて、日本では想像すらできない話よね。いいえ、日本どころか、私が転生した世界でも、さすがに考えられないわ。騎士団を率いる貴族が多少の不正やワイロの授受をするケースはあっても、多くの団員は街の警護に対する責任と誇りを持っていたわ。


 それに比べると、香港警察の腐敗ぶりは、いまさら手の施しようがないわね…… 



「それはそうとして、フィオちゃんたちは、尾行していた連中から何か聞き出してくれたかな?」


「そういえば『ボスは日本軍やイギリス軍なんか一捻りだ』と、言っていたわね。なんでも、相当に強いらしいわ」


「ほほう、それは楽しみになってきたよ! 今から腕が鳴るねぇ!」


 いかにもさくらちゃんらしい反応が返ってくるわ。相手が強ければ強いほど、さくらちゃんは燃えるのよね。これはどうやら、私の手には負えなくなってきたようね。燃え上がったさくらちゃんは、誰にも止められないのよ。


 あら! こんな話をしているうちに、橋爪中尉が私たちの席にやってくるわ。



「国防軍の出動準備が完了しました! それから、フィオ特士が確保した10名を取り調べたところ、全員が警官でした」


「やっぱりそうだったんだね。これで、警察署をガサ入れする証拠は十分固まったね!」


「その通りです。今回の件に関しては、イギリス軍も了承しております」


 これはもう、動かしようのない事実のようね。それにしてもさくらちゃんは、この短時間によくぞ真相を突き止めたわね。この件に関しては、心からの敬服に値するわ。



「それじゃあ、出発しようかな。フィオちゃんたちも一緒に来てよ!」


「ええ、行きましょうか」


 こうして私たちは、兵員輸送車に乗り込んで、出発するのでした。









 油麻地警察署に到着したさくらたちは……


 さて、お腹がいっぱいで元気もいっぱいのさくらちゃんは、これから張り切ってガサ入れをするんだよ! 輸送車や装甲車からは、次々に国防軍の中隊が降り立って、隊長の指示の下で警察署の包囲を固めていくね。



「中隊の半数が周囲を固めて、残りの半数が内部へ突入準備を終えております」


「それじゃあ、突入を開始しようか」


 連絡中隊は、富士のレンジャー部隊から抽出されているだけあって、全員がさすがの動きだね。泉州を襲撃したときに一緒に行動した特殊部隊の人たちも相当な力量を持っていたけど、この人たちも全然負けていないよ! しばらくの間、親衛隊をレンジャーの訓練に加えてみようかな。きっと色々と勉強になるはずだね。



「こちら、レンジャー隊長。所定の位置から突入を開始しろ」


 表側に待機している隊員にはハンドサインで、裏口側には無線で指示を与えているね。隊員たちは5人一組になって、小銃を構えながら静かに入り口に入り込んでいくよ。もちろん、入り口に立っていた警官は、とっくに排除してあるんだよ。さて、私も後を付いていこうかな。



「フィオちゃんたちは、最後にゆっくり入ってきてよ」


「ええ、わかったわ」


 こうして私は、建物の内部に入っていくよ。すでに一階は制圧されて、全員が壁側に一列に並ばされているね。警官たちは、小銃を突き付けられて、引き攣った顔をしているよ。


 それにしてもレンジャー部隊というのは、物音一つ立てずに移動していくんだね。感心するよ。ハンドサインだけで、意思の疎通と指示を繰り返しながら、次々にフロアーを占拠していくんだよ。もちろん、私たちもやっているけどね。


 ただし私の場合は、ほとんど単独行動か少人数で動くケースが多いから、こうして40人が統率された制圧行動をする場面は、中々目にする機会がないんだよね。そもそも、与えられるミッションの内容が違いすぎて、こういう機会でもないと一緒に行動できないんだよ。


 署内の制圧は順調に進んでいるようだね。それじゃあさくらちゃんは、打ち合わせ通りに署長室に向かおうかな。橋爪中尉率いる小隊が、一足先に署長室がある5階のフロアーに行っているからね。


 階段を駆け上ると、あっという間に5階だね。中尉を含めた5人が、廊下の各所に散開して鋭い目を光らせているよ。



「中に入るよ」


 中尉に小声で知らせると、さくらちゃんはドアノブを静かに回して、滑り込むように署長室に入っていくんだよ。気配を消しているから、誰も気が付いた様子がないね。私の後に続いて、中尉も入ってくるよ。その時初めて、室内にいた一人が私たちに気が付いたね。今更遅いんだよ!



「動くんじゃないよ!」


 声を出したのは私だけど、署長を含めて、室内にいた3人の目は、橋爪中尉が構えている小銃にくぎ付けになっているね。



「い、一体どうしたことですか?」


 署長が、面食らった表情で聞いてくるねぇ。いきなり銃を突き付けられて、相当動揺しているみたいだよ。



「証拠は挙がっているんだよ! 私たちを尾行して襲撃したのは、油麻地警察の署員だってね! これが動かぬ証拠だよ!」


 さくらちゃんは、馬鞍山で回収したIDカードを見せてやるんだよ。死体になった署員が所持していた分は、きっちりと回収したからね。こうして動かぬ証拠を突き付けると、気分はまるでフナコシさんのようだよ! 実は、さくらちゃんは、火サスのファンなんだ!



「命が惜しかったら、アフロディアの正体を吐くんだよ! 警察署長レベルで、知らないとは言わせないからね!」


「そ、それは……」


 署長は口籠って答えようとはしないね。でも、さくらちゃんの敏感なアンテナは、そんなものよりも重大な変化を捉えたんだよ。なるほどねぇ…… これで、ようやく全体の構図がはっきりとしてきたよ!


 ポケットからスマホを取り出して、フィオちゃんと連絡を取ろうかな……



「フィオちゃん、至急5階の署長室まで来てもらえるかな」


「了解よ、すぐに向かうわ」


 通話をしながらも、さくらちゃんの目は署長の横に立っている一人の男の様子を観察し続けているんだよ。この男こそが絶対にカギを握っていると、睨んでいるからね!


 そうこうするうちに、フィオちゃんたちがやってくるよ。



「さくらちゃん、急にどうしたのかしら?」


「フィオちゃん、この部屋の見張りは頼んだよ。署長たちに変な動きがあったら、その場で殺していいからね」


「なんだか、展開が読めないんだけど」


「まあ、見ているといいよ! これが答えだからね!」


 さくらちゃんは、署長の右に立っている男に殴り掛かるよ。もちろん本気じゃないんだけどね。



 スッ!


 男は、体を開いて、私の拳をかわしたね。これこそが動かぬ証拠だよ!



「上手く隠しているつもりだろうけど、このさくらちゃんはまるっとお見通しなんだよ! 普通の人間が私の拳をかわすなんて、絶対に有り得ないからね! それから、さっきアフロディアの名前を聞いたときに、ほんのわずかに動揺したね! さくらちゃんのレーダーは、その時に漏れ出した魔力を見逃していないんだよ!」


 ビシッと指を突き付けて指摘してやると、男は声を上げて笑い出すね。



「ハハハハハ! よくぞ見破ったな。俺の正体を言い当てるとは、お前も帰還者か!?」


 ほら、やっぱりね! 警察内に巣くっているマフィア組織を統率するなんて、相当な力がなければ不可能なんだよ。力というのは、時には権力だったり、時には暴力だったりするんだけどね。でも、もし帰還者が絡んでいれば、割と容易に可能になるよね。


 さくらちゃんは、司令部のレストランで『ボスは日本軍やイギリス軍を一捻りにする』と聞いたときに、帰還者の可能性を考えていたのだ! どうやら、天才さくらちゃんの勘が的中したようだね。


 

「香港マフィアは、巷に流れている噂を知らないのかな? 世界各地で暴れまわっている、対人戦最強の存在こそが、ここにいるさくらちゃんだよ!」


「ガキが最強とは、笑わせてくれるな! 大した魔力も持っていないようだが、俺に勝てるかな?」


「魔力ねぇ…… フィオちゃん、カレンちゃん、正体を明かしていいよ!」


 私たち3人は、注意深く隠蔽していた魔力の一端を、ちょっとだけ開放するよ。カレンちゃんは、帰還者ではないけど、天使の力を少しだけ開放しているんだよ。もちろん明日香ちゃんは、立っているだけなんだけどね。


 私たち3人が、体から魔力を放つ様子を見て取った男の表情が、変化するね。人数的な不利を悟ったのかな。署長ともう一人の男は、特に反応していないから、魔力を感じてはいないようだね。



「クソッ! 少々分が悪いようだな」


 男は急に身を翻すと、閉じてある窓に体ごと突っ込んでいったよ。どうやら逃亡を図るつもりだね。さくらちゃんを相手にして、そうそう簡単に逃げられると、思わないほうがいいよ!



「フィオちゃん! この場は任せるよ!」


 私も、男の後を追って、割れた窓に飛び込んでいくよ! ようやく、香港映画のような展開がやってきたねぇ! さくらちゃんは、とっても期待しているんだよ!


 警察の建物の5階から身を投じたさくらちゃんは、空中で体勢を整えると、スタっと着地を決めるよ! この程度の高さなんて、全然問題にならないからね。建物を見上げると、明日香ちゃんが手を振っているよ! 



「さくらちゃん! 大丈夫ですかぁぁぁぁ?!」


「全然平気だよ! それじゃあ、行ってくるよぉ!」


 さて、追跡に移るんだよ! 男は歩道をかなりのスピードで走り去っていこうとしているね。さくらちゃんにスピード勝負を挑もうとは、10年早いよ! さくらちゃんは、人が大勢歩いている歩道を、そよ風のようにすり抜けていくよ。通りの人たちは、誰もさくらちゃんの姿を認識していないようだね。


 少しずつ速度を上げていくと、男との距離が次第に縮まっていくね。


 おや! 今度は車道に飛び出していくよ! 何をするつもりかと思って観察していると、走行する車の屋根に器用に飛び移りながら、反対側の歩道に渡るつもりだね。これこそ、香港映画の世界だよ! さくらちゃんの見せ場が始まったようだね!


 でもね、さくらちゃんは、チマチマ車の屋根を飛び移るつもりなんかないんだよ! 


 よく見ているといいよ、さくらちゃんは一気に行くんだよぉ!


 軽くジャンプして、街灯の上に飛び乗ると、大きく踏み切って、一気に反対側のビルの壁まで飛んでいくよ! 体を真横にしてビルの壁を軽く蹴ると、斜め前方に飛んで今度は通りに立っている電柱を蹴りつけるよ。


 どうだね! このさくらちゃんの立体機動は! 電柱を蹴ってから、歩道に突き出している店の看板の上にスタっと着地すると、すっかり男を追い越しているね。


 一歩先にさくらちゃんの姿を発見した男は、急遽方向転換して横合いにある小さな通りに逃げ込もうとするね。そうはいかないんだよ! 看板から軽くジャンプして、また電柱を蹴りつけてから、小さな通りに着地するよ。メインストリートとは違って、人通りが少ないから、追跡がグッと楽になっていくね。



「チクショウ! なんて早い動きなんだ!」


 男は、悪態を吐きながらも、さらに速度を上げていくね。さくらちゃんは、余裕の表情で追いかけていくよ。絶対に逃がさないからねぇぇぇ!


 確かこの先は九龍公園があって、さらに先は人気のない埠頭だったよね。その辺まで追い詰めちゃおうかな。周りに人がいると、戦いにくいからね。一般人を巻き込んだりしたら、後味が悪いでしょう!


 さて、このままもう少し追いかけっこを続けてあげようじゃないかね! ちょっとスピードを緩めてあげようかな。


 こうして、帰還者と思しき男を、人気のない場所まで追跡していくさくらちゃんでした。



帰還者を追跡するさくら、果たして対決の行方は…… 続きの投稿は、週末を予定しております。どうぞお楽しみに!


たくさんの評価とブックマークをお寄せいだだきまして、ありがとうございました。感想もいただいて、とっても励みになります。皆さんの応援が、とっても心強いです!


本当にありがとうございました。今後とも、応援していただけるように、よろしくお願いいたします。 

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