180 秘宝探しと襲撃
一方、フィオたちは……
『なろう』の運営から、投稿している他の小説に関して修正を求められていた件に時間を取られまして、こちらの小説の進行が大幅に遅れました。続きを待っていた読者に皆様には、ご迷惑をおかけいたしました。
やや時間は巻き戻って、同じ日の朝、ホテルのロビーでは……
「フィオさん、今日こそは服を見て回りましょう! 昨日はちょっとしたアクシデントで、中断されましたから!」
これから出発しようというところで、明日香ちゃんは私にキラッキラの目を向けてくるわ。明日香ちゃんには、ちょっとだけ待ってもらって、お話の時間を取りましょうか。
「えーと、明日香ちゃん…… 警察に連行されたのは、アクシデントだったの?」
「旅にはトラブルがつきものです! ちょっとしたアクシデントですから、気にする必要はないです!」
明日香ちゃん! あなたは、本当にすごい子よ! 『気にする必要はない』というのは、私が言うべきセリフだと感じるのは、間違っているのかしら? 世間一般にアンケートを取ってみたくなったわ。
聡史が常々繰り返しているように、明日香ちゃんの遣らかし振りは、さくらちゃんと双璧を成しているわ。しかも、警察に補導された事実を、これでもかというくらいに矮小化している自分に早く気づきましょうね。記憶の回路が、都合よく簡単に書き換えられている点に関しては、どうやら聡史の言う通りで間違いないようね。
これは思っていた以上の強敵ね! 改めて課題の大きさを悟ったわ。今日は、絶対にはぐれないように厳重に監視しましょう!
「フィオさん、昨日は時間が足りなかったので、海賊版の調査が不十分でした。日本語版は発見できずに、字幕版を数枚確保したのみです!」
「カレン、あとどのくらい必要なのかしら?」
「タイトル数でいえば、50作品は確保するべきだと、強く主張します!」
カレンのアニメに懸ける情熱は、尋常ではないわね。私も日本人だった頃は暇なときに見ていたけど、そこまで熱心ではなかったから、理解が追い付かないわ。
でも今日は、マフィア組織の監視の目があるから、別行動するのは不味いわね。どうしましょうか……
「カレンさん! 海賊版は画質はいいんですか?」
「昨夜のうちに、さっそく鑑賞…… ゲフンゲフン…… 実態調査を行ったところ、原版と遜色ないレベルでした。これは由々しき事態です。回収を急がないと、大変なことになります!」
「それでしたら、私も手に入れたいです! 海賊版の買い出しを先にしましょう!」
「明日香ちゃん、買い出しではなくて撲滅運動の一環ですから、その点だけは私の立場を踏まえた発言をしてください!」
カレン、もういい加減に取り繕うのは止めたほうがいいんじゃないかしら? 現に、たった今『鑑賞』と、言い掛けたわよね。この期に及んでは、説得力がゼロどころか、マイナスの領域に入っているわよ。
それはそうとして、明日香ちゃんもアニメ好きだったわね。しょうがないから、二人に合わせて行動しましょうか。
こうしてわたしたちは、メインストリートから外れた裏道に入り込んでいくわ。煌びやかで人通りで賑わう表通りの明るさから一転して、一歩路地に踏み込むと、そこには雑多で猥雑な雰囲気が広がっているわね。カレンは、よく平気でこんな通りを一人で歩いたものよね。
「カレン、昨日は危ない目に遭わなかったの?」
「アニメのためでしたら、少々のリスクなど、問題ではありません。危険の果てに、得がたい秘宝が手に入るのです!」
「秘宝? 撲滅運動じゃなかったのかしら?」
「な、中には正規版が格安で置いてありますから!」
苦しい言い訳ね。こんな怪しげな通りに並ぶ店が正規版なんか扱うはずなんでしょう。置いてあるとしても、品質の定かでない中古品か、包装まで巧妙に偽造されたフェイク品ね。
こうして私たちは、午前中いっぱい、裏通りでDVDを扱う店を巡っていくわ。カレンと明日香ちゃんは夢中になって買い漁っているけど、私は尾行してくる人間の気配察知に専念しているのよ。
ホテルを出た時点で、尾行者二人には魔力を飛ばしてマーキングしてあるから、こちらを追跡する様子が手に取るようにわかるわね。現在は3軒離れた店の陰から顔を覗かせて、こちらを窺っているみたいね。
カレンと明日香ちゃんは、二人ともお目当てのDVDが手に入ってニコニコ顔ね。明日香ちゃんはもとより、カレンも顔を綻ばせて会計をしているわ。調査だの撲滅運動だのって、表向きの理由をすっかり忘れているわね。
さて、どうやら満足してようだし、次はどうしましょうか?
「フィオさん、DVDを15枚も買っちゃいました! これだけ色々買っても5千円でお釣りがくるんですよ!」
「本当にけしからん店です! 大量のDVDを押収しました!」
カレン、もうその設定はいいから…… 明日香ちゃんのように、素直になっていいのよ。
「フィオさん、ちょっと早時間ですけど、お昼にしますか?」
明日香ちゃんが急に話題を変えてくるわね。まだ11時前だけど、昼の混み合う時間の前に移動したほうがいいかしら? カレンは、お任せという表情で私を見ているわね。
「そうね、それではお昼にしましょうか」
「今日の昼ご飯は、この店がお勧めです!」
明日香ちゃんのスマホには、店の案内が表示されているわね。略図によると、中心街から東に3キロくらい離れた場所よ。地下鉄の駅からもちょっと離れているし、タクシーで移動したほうがいいのかしら?
私たちは表通りに出てタクシーを拾うわ。ドライバーにスマホの案内を見せると、目的地をすぐに理解してくれたみたいね。私たちが乗ったタクシーは、走行車線に強引に割り込んで、スピードを上げて走り出すわね。尾行している連中を、これで撒いたかしら?
その時、尾行する男たちは……
「おい、タクシーに乗り込んだぞ! どうする?」
「HXタクシーの26号車だな。タクシー会社に連絡して、無線で例の場所に誘導させろ」
「わかった。人数を集めてくれ」
こうして男たちは、それぞれが連絡を取ると、彼らを回収する車に乗り込んで、どこか別の場所へと走り去っていくのだった。
タクシーの車内で、フィオたちは……
「フィオさん、なんだか運転が怖いです!」
「話には聞いていたけど、これは想像以上ね!」
一般道でも普通に80キロ近くスピードを出しているのよ。これが香港流の運転なのかしら? 危なっかしくて仕方ないじゃないの! 信号が黄色でも、絶対に止まろうとはしないし。そんなに急ぐ必要もないのに、何でここまでするのかしら?
この調子だったら、10分もしないうちに目的地に到着するはずなんだけど、タクシーはいつまでも走り続けているわね。景色は次第に街中から外れて、人気のない場所に向かっていくわね。これはどうやら、悪い予感がしてくるわ。
「フィオさん、なんだか全然知らない場所ですね。どうなっているんでしょうか?」
「心配しないで大丈夫よ。私に任せていてね」
明日香ちゃんを安心させるように声をかけると、カレンに振り返るわ。
「カレン、いざとなったら、力を貸してね」
「フィオさんはいれば、私の出る幕なんか、なさそうですが」
不測の事態に備えた保険よ。カレンの力を借りるのは思いもよらない危険が付きまとうから、手軽に使用できないのは重々承知の上だけど、この場は安全第一ですからね。
タクシーは海沿いの道をかなりの速度で飛ばしているわね。ドライバーに話し掛けても、無言でハンドルを握っているわ。私たちをどこに連れていくつもりかしら? 仕方がないから、このまま付き合いましょうか……
40分以上走ったタクシーは、大抗敦という表示がある公園のような場所に停車するわ。車が止まると同時にドライバーは車外に降りて、走って逃げ去っていくわね。いよいよこれは、荒っぽい展開が待っている状況ね。
置き去りにされた私たちも、タクシーの外に出るわ。念のため、全員を防護結界で包んでおきましょうか。それにしても周囲には、人っ子一人いない寂れた場所ね。待ち伏せにはちょうどいいじゃないの!
「フィオさん、変な所に連れてこられましたね」
「大丈夫よ! もう結界で包んであるから、心配はいらないわ」
「フィオさんは手回しがいいですね」
明日香ちゃんは心配そうな表情だけど、カレンは至極落ち着いているわね。さすがは、大天使様よ!
外に出てから1分もしないうちに、3台の車が連なって到着するわね。一斉にドアが開くと、中から合計10人の男が外に出てくるわ。全員が拳銃を手にしていて、一人は短機関銃を構えているじゃないの。これは本格的に、さくらちゃんが喜ぶ展開になってきたわね。
私たちが立っている場所に、一人の男が近づいてくるわね。自信たっぷりに拳銃をひけらかして、ニヤニヤした表情で舐め回すように私たちを見ているわ。温厚な私でも、なんだか殺意が湧いてくるじゃないのよ!
「お前らが、組織を嗅ぎまわっていたんだな。大した力もない若い女が、馬鹿げたことに鼻を突っ込んだものだ。相手が悪かったと思って素直に死ね! 陶! やるんだ!」
男が短機関銃を持っている陶と呼ばれた男に合図を送ると、構えているマシンガンは連続した発射音を奏でながら、私たちに向かって銃弾吐き出していくわね。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ!
無駄よ! 全ての銃弾が、私の防御結界に阻まれて地面に落ちていくわ。大賢者の結界が、この程度の子供騙しの攻撃で破れるとでも思っているのかしら?
銃弾を吐き出す連続音が止むと、男たちはその結果に目を見開いて驚愕の表情を浮かべているわね。
「そ、そんな…… マシンガンが効果がないだと……」
ちょうどその時、私のスマホから呼び出し音が響くわ。
「はい、フィオです」
「さくらちゃんだよ!」
「さくらちゃん、今、こっちは色々と取り込んでいるんだけど」
「うん? どうかしたのかな?」
「マフィアと銃撃戦の真っ最中よ!」
さくらちゃんは、凄いタイミングで連絡を寄越してくるわね。何かあったのかしら?
「そうなんだね。じゃあ、終わったら連絡をもらえるかな?」
「わかったわ。また後でね」
どうやら事情を理解したさくらちゃんは、あっさりと通話を切ってくれたわ。こちらが片付いたら、改めて連絡しましょう。
さて、それでは大賢者が、真剣にお相手しましょうか。
「相手が悪かったと思って、どうか諦めてくださいね。なるべく命が助かる方向で善処しますが、当たり所が悪いと不幸なことになるかもしれません」
一応警告を出しておくわ。だけど私の警告は、彼らには届かなかったようね。とっても残念だわ。
「何かの間違いだ! 全員撃てぇぇぇぇ!」
拳銃を構えた男たちが、一斉に銃口をこちらに向けるわね。マシンガンの男も、気を取り直して引き金に指を掛けているわ。
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ!
無駄な努力ね。それでも、男たちは必死の形相で、引き金を引き続けるわ。彼らには、それしか手立てがないのだから。
でもねぇ…… 弾数には、限りがあるのを忘れていないかしら? ほら、拳銃も短機関銃も全ての弾を撃ち尽くして、すでに何の役にも立たなくなっているじゃないのよ!
「もう、終わりかしら? それでは、受け取りなさい。シャイニング・エクスプロージョン!」
私の両掌から、合計10個の光が宙に浮かび上がって、男たちの頭上にゆっくりと移動していくわ。彼らはその光の正体が掴めなくて、何事が起きたのかと宙を見上げているわね。
パチン!
私が指を鳴らすと光が破裂して、小さく分裂した光点が男たちの頭上から降り注ぐわ。
パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!
大量の光点が男たちに着弾すると、小規模の爆発を繰り返すのよ。もうこれは、お馴染みの光景ね。
「痛ぇぇぇぇ! 助けてくれぇぇぇぇ!」
「逃げても、追ってくるぞ!」
「誰か、助けてぇぇぇぇ!」
「死ぬ! 死んでしまうぅぅぅぅ!」
大袈裟ねぇ…… ロケット花火よりもちょっと威力が強いだけだから、軽い火傷を負うくらいで済むはずよ。ご要望があったら、もっと強力な魔法を用意してもいいんだけれど。
「フィオさん、見ているほうが気の毒になってきますよ」
「さくらちゃんに殴られるよりは、全然マシだと思うんだけど」
「ああ、それは正解ですね!」
明日香ちゃんが、変な部分で納得しているわね。それよりも、男たちは地面を転がりながら、必死に助けを求めているわね。さて、そろそろいいでしょう。
「クレイ・バインド!」
地面からうねうねと触手が生えてきて、転がっている男たちの体を拘束していくわ。しばらくは、そのままの姿でいるのよ!
「さすがはフィオさんですね! 全員を生かしたままで、捕らえました!」
「カレン、相手はただのマフィアなんだから、このくらいはあなたでも可能でしょう?」
「私の場合は、魂に直接攻撃を加えますから、運良く生き残っても廃人確定ですよ!」
良かった! カレンに手伝わせないで、本当に良かったわね。『魂に直接攻撃』なんて、大賢者でもそんな方法を思いつかないわ。天使のみが振るえる、天界の術式なのでしょうね。
「離せ! 俺たちを解放しないと、組織がお前たちを必ず殺しに来るぞ!」
本当に口が減らない連中ね。自分たちがここまで追い込まれているのに、まだ組織が助けてくれると思っているのかしら?
「それはそれは、あなた方の組織は、とても力を持っているようね」
「当たり前だ! 俺たちは、香港最強のマフィア組織16Kだぞ! 後から後悔するなよ!」
マフィアの組織ねぇ…… どの程度の力を持っているのか知らないけれど、私たちが何者であるかを、もっと考えるべきじゃないかしら。
「あなたたちが16Kの構成員だというのは、理解したわ。ところで16Kというのは、日本の国防軍に対抗可能な戦力を持っているのかしら?」
「そ、それは……」
もう少し、物事を真っ当に捉えられるだけの思慮を持ちましょうね。明日香ちゃんを引き取りに行ったときに、私たちは国防軍に所属しているのを告げていたはずよ。それでも敢えて攻撃を仕掛けてきた以上は、何らかの勝算を考慮していたのかしら。その辺を、聞き出してみましょうか。
「本当に日本の国防軍を相手にして、勝つつもりだったのかしら?」
「知らない!」
強情ね。しょうがないから、ちょっと手荒な手段を用いましょうか。
パチン!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私が指を鳴らすと、件の男が絶叫を上げているわ。骨が軋むくらいに拘束を強めてみたのよ。全身がギシギシと潰されていく恐怖に耐えられるかしら?
「助けてぇぇぇぇ! 何でも言う! 助けてくれぇぇぇぇ!」
「あら、もう音を上げたの。はい、これで元に戻ったわ。それじゃあ、話してね」
額から脂汗を流している男は、観念したような表情に変わっているわね。さあ、キリキリ白状しなさい!
「ボスは本当に強いんだ! 日本軍だろうが、イギリス軍だろうが、ボスの手に掛かれば一溜りもないからな!」
「そうなの…… それはそれで大喜びする人がいるから、こちらは問題ないわね。あなたが言うボスが、早く現れるといいわ」
「ボスがいる限りは、お前たちに勝ち目はないぞ!」
ずいぶん自信ありげな様子ね。どんなボスなのか、楽しみにしておくわ。もちろん、さくらちゃんが大張り切りで相手をするでしょうから、どうなるのか見物ね。
さて、この場は解決したし、連絡を取りましょうか。
私は、スマホを取り出して、さくらちゃんとの通話を開くのでした。
マフィアの一人が口にした〔強いボス〕とは…… 次回の投稿は、週の中頃を予定しています。どうぞお楽しみに!
評価とブックマークをお寄せいただいて、ありがとうございました。皆さんの温かい応援を心からお待ちしております。
中国では、新型肺炎の感染疑いがある人を隔離していたホテルが、倒壊したらしいですね。70人程が生き埋めになるという痛ましい事故(?)のようです。
場所は、この小説でも登場した、泉州市です。そう、さくらが大暴れした挙句に、核爆弾が炸裂した場所です。なんだか奇妙な因縁を感じています。
それはそうとして、実は中国政府は、2月いっぱいで新規感染者をゼロにするように、各省に通達を出していました。感染よりも、経済の立て直しを優先するためには、封じ込めに成功したという事実が、どうしても必要でした。
でも実際には、新たな感染者は発生している。数字を誤魔化そうとしても、どこかで綻びが生じてしまう。
だったら、感染者ごと居なかったことにしよう…… まさかとは思いますが、そんなことを仕出かしたのではないですよね? 中国政府並びに福建省政府は、やましい点はないですよね?
中国は、もう何でもアリのヒャッハーな国になっている気がするのは、作者だけでしょうか?
それとは別に、日本ではマスクやトイレットペーパーの買いだめ騒ぎが起きていますが、所変わってアメリカでは、銃弾の購入量がここ数日大幅にアップしているそうです。
アメリカさん! ワイルドすぎるだろうが! おそらく暴徒を恐れての一般市民の自衛だと思いますが、思いも掛けない処に、今回のウイルスの影響があるんだなと、痛感した次第であります。
皆様も、どうか健康に留意して、お過ごしください。




