179 チャーミングなさくらちゃん
4人を倒したさくらは……
「ナメた態度のガキだな! 俺たちは反政府運動をしていた連中を、何人も殺しているんだぜ!」
「男は銃でその場で殺して、若い女だけは事情聴取の名目で署に連れ込んで、散々楽しんでからバラバラに切り刻んでやったんだよ!」
なんだかなぁ…… 聞いているほうが嫌になってくるよ。さくらちゃんの脳内では、またまた死刑判決が下ったんだよ!
最初の4人を景気良くブッ飛ばしてからしばらく待っていると、新たに3人の男たちが坂を登って現れたんだ。で、今は、その連中を相手にしているんだよ。
それにしても、色々と手遅れな連中だよね。澱み切っている目に、こいつらの人格が映し出されている気がするよ。きっと、人殺しを何とも思っていないんだよね。もしかしたら、薬物を使用している可能性もあるのかな?
さらに輪をかけて呆れるのは、さくらちゃんに向かってこんな脅し文句を口にしても全然逆効果だって、気が付いていない点だね。これから執行される刑が、益々重たくなるだけだよ。
あっ、そうだった! 死刑なら、これ以上は重たくならないか……
さてさて、この男たちは、さくらちゃんに銃口を向けて勝ち誇った表情をしているけど、先に到着した4人がどうなったか、気にならないのかな? こんな大事な件を見逃しているなんて、脳みその作りが心配になってくるよ。ちょっとこの件を丁寧に指摘してあげようかな。さくらちゃんは、とっても気が利くからね。
「本当にバカな連中だね! さっきこの場に現れた4人が今どうしているのか? という想像が働かないのかな」
ほら、さくらちゃんの丁寧な指摘に、3人は怪訝な表情を浮かべているよ。もっと頭を働かさないと、死ぬ時間が早まるだけだからね。死刑が決まっている以上は、さくらちゃんは絶対に生かしておくつもりもないよ!
「おい…… そういえば、郭たちが先に到着しているはずだが、あいつらは何をしているんだ?」
「大方、道に迷っているんだろう」
「でも、ここまでくるまでは一本道で、脇に逸れる枝道はどこにもなかったぞ!」
ようやく現実と向き合う気持ちになったかな。それじゃあ、このさくらちゃんが、回答を教えてあげようか。
「あそこに木が折れている場所があるよね。何があるのか、見てくるといいと思うよ」
男たちは、さくらちゃんが指し示す方向に顔を向けているね。一人が、端っこにいるヤツに目で合図をすると、その男は面倒げな表情で倒木の方向に歩き出していくよ。
50メートル先にあるその場まで歩いていくと、男は無言で立ち竦んでいるよ。どうやら、そこに転がされている物体を発見したようだね。
「お、おい! 大変だぞ!」
おやおや、今度は泡を食って走ってくるよ。現状の深刻さを理解したのかな。その間、さくらちゃんは、余裕の表情で待っているよ。
「郭が倒れていた。おそらく息はない」
「なんだと! 誰がやったんだ?」
3人は頭の上に???を浮かべているね。そのうち何かに気が付いたかのようにギギギと音を立てて、私のいるほうにゆっくりと首を向けてくるよ。気が付くのが遅いんだよ!
「まさか…… おい、そこのガキ! お前がやったのか?」
口の利き方がなっていないなぁ。誰がガキなのかな? 全員正座で、懇々と説教してやりたい気分だよ!
そもそもさくらちゃんは、この通りとってもチャーミングなレディなんだよ!
道行く誰もが、思わず私に見とれてしまうんだよ。特に、ご飯を食べに入ったお店では、店中から注目の的だしね。きっと、さくらちゃんの美しさに心を奪われて、目を離せないんだよ。
時々、私を見つめるお客さんから『物凄い食べっぷりだ!』という声が聞こえてくるけど、それはきっとテレ隠しに違いないね。もっと積極的になりたいんだけど、みんな恥ずかしがり屋だから、面と向かってさくらちゃんの美貌を誉めないんだよ! さくらちゃんは、そう睨んでいるよ!
さて、話は横道に逸れてしまったけど、ボケっとしている3人に、さくらちゃんからありがたい神託を下してあげようかな。きっと、飛び上がって喜んで涙を流すに違いないよ!
「ほら、あそこと、あそこと、あそこ! 全部で4か所、木が折れている場所があるよね。何でだか、わかるかな?」
「まさか……」
3人揃って、固まっちゃったよ! 4か所に死体があって、私がこの場に立っているということは、結論は一つしかないよね。ちゃんとわかったのかな? これだけ丁寧に教えてあげれば、どんなニブい頭でも理解できるでしょう。
「おい、郭たちは全員このガキにやられたぞ! 手加減なしで、銃をぶっ放せ!」
「やっと正解に辿り着いたんだね! でも、もう遅いんだよ!」
3人が懐から銃を取り出す前に、さくらちゃんは動きを開始しているよ。目にもとまらぬ素早さで男たちの前に立つと、3連発でボディにパンチを入れていくよ!
ボスっ! ボスッ! ボスッ!
「ぐえっ!」「ごぼっ!」「げほっ!」
よしよし、簡単にその場に倒れこんだよ。全員仲良く内臓が破裂して、口から大量の血を吐いているね。痛みで呻いているけど、次第にその声も弱まっていくよ。
さて、ポケットの中身のチェックだよ…… やっぱり! 全員が警官だったよ。IDカードで確認したから間違いないね。
おっと、坂の下から気配が伝わってくるよ! やってくるのは一人のようだね。死体はこのままにしておいて問題ないでしょう。敢えて見せつけたほうが、現在の状況が相手にもわかりやすいからね。
耳を傾けなくても、馬鹿デカい声が聞こえてくるよ。
「おーい、孟、延、楊、どこにいるんだーー!」
どうやら、仲間がどこにいるのか探しているみたいだね。全員この場に寝ているよ。もっとも、永遠に目は覚まさないけどね。
「チクショウ! どうして俺が山なんか登らないといけないんだ! おーい、郭! どこにいるんだー!」
声が次第に近づいてくるえねぇ。おお! 来た来た! 待っていたんだよ!
「おーい! 楊…… って、なんだ! 一体何があったんだ!」
「ほほう、なんだか見覚えのある顔が、わざわざ来てくれたよ!」
最後に姿を見せたのは、私が16Kに対する情報提供を求めたときに、対応に現れた捜査官だったよ。どうりでいくら聞き出そうとしても、何も情報が出てこないわけだよね。犯人に手掛かりを聞いても、普通は何も答えないよね。
それにしても、この男にはなんだかバカにされたような気がしてくるね。きっと、手掛かりを聞いてくるさくらちゃんを、腹の中で笑っていたに違いないよ!
頭にきたから、一思いにシメちゃおうかな…… ああ、でも証人が必要だから、しばらくは生かしておくとしよう。そうと決まったら、即座に行動開始だね。呆然として突っ立っている男に急接近するよ。
「な、なんだ!」
「抵抗したら死ぬよ!」
目の前に突如現れたさくらちゃんを発見した男は、反射的にその場から逃げ出そうとするね。でも、このさくらちゃんから逃げようなんて、甘い考えは抱かないほうがいいよ。そんな考えは、砂糖の塊にハチミツをぶっ掛けた物よりも、何倍も甘いからね……
ピコーン!
さくらちゃんは急に思いついてしまったよ! もしかして、甘いものが大好きなタマなら〔砂糖の塊、ハチミツトッピング〕を大喜びで食べてしまいそうだよ! 妖怪だから、味覚が人間とは違うかもしれないよね。でも、試してみるのは止めておくよ。そんな物が好物になったら、飼い主として恥ずかしいからね。
話が大幅に横道に逸れてしまったよ! これもきっと、さくらちゃんのペット思いの優しさが為せる業だね。
逃げようとする男の胸倉と右の手首を掴むと、足を払って地面に寝転ばすよ。柔道の大外刈りの要領だね。
ドサッ!
「グエッ!」
転がした瞬間に、軽く腹に拳を入れると、男は呻いたまま動きを止めるね。そのままじっとしていないと、死ぬからね!
男の懐に手を突っ込むと、やっぱり拳銃が入っているね。ホルダーから引き抜いて、手に取ってみるよ。駐屯地で何回かSFP9で射撃練習したけど、さくらちゃんの腕を持ってすると百発百中だったね。天才さくらちゃんに掛かると、拳銃の射撃なんて実に簡単なもんだよ。
安全装置を確認してから、シリンダーを外して弾を全部抜き出すよ。シリンダーが空の拳銃なんて、ただの鉄の塊だからね。必要がなくなったから、遠くに放り出しておこうかな。ポイっと!
おもむろに立ち上がったさくらちゃんは、爪先で男の横腹を軽く蹴るよ。
「ぐおっ!」
男は蹴られた衝撃で息が詰まっているね。唇が紫色になっているから、呼吸ができなくてチアノーゼを起こしているのかな。なに、ちょっと我慢していれば、そのうち少しづつ呼吸が戻ってくるよ。
その間に、さくらちゃんは、抜き出した銃弾を薬莢から外しているよ。中に入っている火薬がちょっとした拍子に爆発すると、面倒なんだよ。必要なのは、弾薬ではなくて弾だからね。薬莢はその辺にポイ捨てして、弾だけポケットに仕舞っておくよ。
さて、これから尋問の時間だね。腹這いになっている男の背中に足をのせて、動きを封じるよ。
「これから話を聞き出すけど、その前に面白いことをするから、寝っ転がったままで見ているんだよ!」
男をその場に残して、さくらちゃんは20メートル離れた位置まで歩いていくよ。ポケットに入っている弾を1個取り出して、右手の親指と人差し指でつまんで持っているんだよ。その間に、男は力が入らない腕で、必死に立ち上がろうと虚しい努力をしているね。そのまま地面に転がっている男と正対すると、一応警告を発してあげるよ。さくらちゃんは、実に親切だね!
「動いてもいいけど、下手に動いたら死ぬからね」
さくらちゃんが狙っているのは、男の顔から50センチ右にある、地面から突き出した石だよ。狙いを定めると、親指で弾くようにして撃ち出すよ。それっ!
チュン!
ほほう! 見事に命中したよ。
火花を散らしながらぶつかった弾は、石にヒビを入れて内部に食い込んでいるね。自信はあったけど、こんな具合に鮮やかに決まるとは、思っていなかったよ! 兄ちゃんが最近ちょくちょく使用している、デコピン弾のような威力はないけど、あんなロケット砲のような高威力は、私からするとかえって使いにくいんだよね。石を砕く程度が、ちょうどいいんだよ!
「な、何が起きたんだ?」
石の破片が飛んで、男の頬から血が流れているね。私を尾行していた他の連中に比べると、流した血は極少量だから、痛がったりしたら罰が当たるよ。
「簡単だよ! ここから銃弾を指で弾いただけだよ! 額の真ん中に打ち込むのも可能だからね」
「まさか! 指弾を使いこなすのか?!」
ふむふむ、さすがは香港の人間だよ。カンフーの技を知っているみたいだね。男の言葉通り、これは〔指弾〕という技だよ。さくらちゃんは、5歳の時に見たカンフー映画に憧れて、小学校に入る前から小石で練習していたのだ!
さて、これだけ脅かせば、情報を引き出せるでしょう。
「どうかな、知っていることを何もかもしゃべる気になったかな?」
「こんなことをしておいて、タダで済むと思うなよ! 組織は必ず報復をするぞ!」
チッ! せっかくさくらちゃんが気を使って、敢えて小技を見せたにも拘らず、まだ素直になれないんだね。しょうがないから大サービスで、もっとド派手なデモンストレーションを公開してあげようかな。
さくらちゃんは、アイテムボックスから擲弾筒を取り出すよ。
「一度しかやらないから、よく見ておくんだよ!」
さくらちゃんは、離れた森に照準を定めて、引き金を引くよ。ちなみに、威力は一番弱くして、単発で放つよ。
シュパン!
ドカーーーン!
うんうん、いい感じに派手な火柱が上がっているね。30メートル四方の森が、すっかり姿を消してしまったよ。またまた自然を破壊してしまったけど、これは必要経費だと考えてもらおうかな。その場に生えていた植物の皆さん、どうもゴメンナサイ。
「さて、人間に直撃すると、肉片も残さずに消滅するからね!」
さすがに、この光景を見た男は、真っ青になってガタガタ震えているね。擲弾筒の威力に屈しない精神なんて、普通の人間だったら持ち得ないからね。
「頼むから、その銃を引っ込めてくれ! 何でも話す!」
「いい心掛けだね。黙秘権なんか認めないよ。沈黙には、擲弾筒で応えるからね」
いい感じで警告してから銃口を下に向けると、さくらちゃんは、男に近づいていくよ。
「名前は?」
「桃だ」
「16Kは、香港警察内に存在するマフィア組織なんだね」
「そ、その通りだ」
「構成員は警察の何割かな?」
「約半数だ」
これは厄介だね。半分はまともな警察で、残りの半分はマフィアになっているんだね。署内の誰が、どちらに所属しているのか、判別が難しいよ。しょうがないから、この辺の調査はイギリス軍に丸投げしようかな。
まだまだ、尋問は続くよ。
「アフロディアの居場所を知っているのかな?」
「知らない」
「正直に白状しないと、もう1発ぶっ放すよ!」
「本当に知らないんだ! どうか信じてくれ! 俺たちのような下っ端は、ボスの顔さえ見たことがないんだ!」
どうやら本当に知らないみたいだね。さくらちゃんも鬼ではないから、痛めつけてまで自白を強要するつもりはないんだよ。取り調べは、公明正大なじゃいとダメだよね! 自分からしゃべりたくなるような気持になってもらうのが、大切なんだよ!
「それじゃあ、質問を変えようか。署長クラスだったら、アフロディアの居所を知っているのかな?」
「俺にはわからない。署長本人に聞いてみないと、俺の口からは何も言えない」
やっぱり、そうなんだね。警察という縦割り組織がベースになっているから、16Kの上層部がどうなっているのか、下っ端には知る由もないんだ。これは、直接乗り込むしかないようだね。
「これから署長に会いに行くよ! 逃げ出そうとしたり、余計なことを口にしたら、その場で命がなくなるからね!」
「なんでも言うことを聞くから、助けてくれ!」
さくらちゃんは、尋問を終了して、桃を引っ立てて山を下りていくよ。桃は、証人として油麻地署に連行するんだ。抵抗したら、その場でご臨終だからね!
ポケットからスマホを取り出してみるけど、ここは電波の状態が悪いから、山を下りてから連絡を取ろうかな。そのまま30分くらい坂を下っていくよ。
桃を監視しながら麓まで下りてくると、どうやら電波の状況がよくなったみたいだね。司令部と連絡を取ってみようかな。
「こちらは、橋爪です」
「富士駐屯地のさくらちゃんだよ!」
「16Kの情報は掴めましたか?」
「構成員を確保したよ。これから敵の拠点に乗り込むから、車を用意してもらえるかな?」
「わかりました。場所はどちらですか?」
「今、馬鞍山にいるんだよ」
「登山道の入り口に迎えに行きますから、待っていてください」
中尉は話が分かるね! 富士駐屯地から詳しい話を受け取っているんだろうね。細かい話をしなくて済むから、大助かりだよ!
「それから、山中に死体が転がっているから、収容してもらえるかな? さすがに放置はできないからね」
「了解しました。ヘリで収容しましょう。場所はどの辺ですか?」
「爆発の跡があるから、上空からでもわかると思うよ。近辺を探して7人収容してね」
「わかりました」
あともう一つ、大事なお願いがあったね。
「今すぐに、国防軍の出動態勢を整えてもらえるかな?」
「どこに出動するんですか?」
「油麻地警察だよ。完全包囲して、内部を制圧してもらいたいんだ」
「かなり人数が必要になりますね」
「その辺は、任せるよ」
「了解しました」
こうして中尉との通話を終えると、登山口で桃を監視しながら、迎えの車を待つよ。
そうだ!
暇だから、フィオちゃんたちはどうなっているか確認しておこうかな。もう一度スマホを取り出して、それ、ポチっと……
「はい、フィオです」
「さくらちゃんだよ!」
「さくらちゃん、今、こっちは色々と取り込んでいるんだけど」
「うん? どうかしたのかな?」
「マフィアと銃撃戦の真っ最中よ!」
おやおや、フィオちゃんたちもなんだか楽しい成り行きになっているみたいだよ! でも、忙しそうだから、邪魔したら悪いよね。
「そうなんだね。じゃあ、終わったら連絡をもらえるかな?」
「わかったわ。また後でね」
明日香ちゃんさえ足を引っ張らなければ、きっと大丈夫だよね。それはそうとして、早く迎えの車が来ないかなぁ。
30分近く待っていると、ようやく迎えが来たよ。まだまだお楽しみの時間はこれからなんだよ!
こうして、桃を連れて車に乗り込んでいくさくらちゃんでした。
銃撃戦に巻き込まれたフィオたちは…… 次回の投稿は、明日を予定しています。どうぞお楽しみに!
評価とブックマーク、ありがとうございました。引き続きお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
新型肺炎は世界各地で流行が拡大しているようです。日本でも、各地で感染者が確認されておりますので、読者の皆様も、お気を付けください。
昨日、パンと飲み物を買いにドラッグストアに行ったところ、トイレットペーパーの棚が空っぽになっていました。デマに惑わされた人が買いだめに走った結果、こんな状況になってしまたのを目の当たりにして、なんだか空しい気持ちになってしまいました。
この後書きで繰り返しお伝えしたように、非常時に最も恐ろしいのはパニックに陥ることです。偽の情報に惑わされた人が、パニックを起こした結果がこの有様でした。
マスコミやネットでは、この病気に関して、真偽の定かでない情報が、繰り返し流されています。しっかりと真偽を見定めて、適切な行動を心掛けないと、同じような現象が再び引き起こされる可能性があります。
どうか皆様も、情報に振り回されずに、正しく行動していただければ、幸いです。




