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17 アメリカの情勢

お話は少し時間を遡って再び渋谷に舞台が戻ります。スクランブル交差点の事件をたまたま目撃した別の視点からの話になります。果たしてそこに居合わせたのは・・・・・・


バトルが中心の物語のはずですが、ここまで意外と戦いのシーンが少ないと感じている方がいらっしゃるのではないでしょうか? 単純な個人の戦いでなくて、国家という大規模な組織が関わるお話なので、そこに生じる様々な人間の思惑が絡みます。そのためこの辺から世界各国に話が飛んでいきますので、あらかじめご承知置きください。その分本格的なバトルが始まると嫌という程戦闘シーンの連続になる予定です。

 話は遡って、その日の昼前・・・・・・



「秋葉原は本当に楽しい街ね! もう少し見て回りたかったけど今日は渋谷に向かうわよ!」


「昨日1日見て回ってもまだ飽きないのかい?」


「飽きる訳ないでしょう、アニメの聖地よ! たった1日じゃ回り切れるはずないでしょう! でも渋谷も捨てがたいのよね。日本発のファッションは渋谷に行けば何でも揃うわ。お店を回るのが今から楽しみよ!」


 私はマギー、合衆国の帰還者。大統領からの密命を受けて日本に現れた帰還者の調査を行っている最中よ。帰還者調査の名目で秋葉原は一回りしたので、場所を替えようと現在渋谷にタクシーで向かっているわ。


 私に同行しているダニエルは口喧しいったらないの! 絶対に彼氏にはしたくないタイプの男ね。そんなに仕事がしたいのなら1人で色々調べればいいじゃない。私を巻き添えにしてほしくないわ。これから渋谷でジャパニーズガールたちのファッションに関する重要な調査をするんだから。これはすでに決定事項なのよ、誰も覆せないからね!




「お客さん、この先のスクランブル交差点が混んでいるみたいだね。歩いても大した距離じゃないし、降りた方が早いよ」


 なんて親切なタクシーの運転手なんでしょう! これはチップを弾まないとね。えっ、日本にはチップの習慣がなかったの? シラナカッタワ!


 タクシーを降りて教えてもらった通りを渋谷駅方面に歩いていく。それにしてもニューヨークの5番街よりも人が多いわね。でも様子が違うのは、舗道を歩く人が整然と歩いていることかな。これだけ人が多いのにスムーズに人の流れが進んでいくわ。


 どうやらあの鉄道のガードの先に有名な交差点があるみたいね。そしてその先には109の建物が見えてくるはずよ! なんだかワクワクしてくるんですけど! 秋葉原はファンタスティイックだったけど、渋谷はファッショナブルという表現がピッタリね。



「マギー、そろそろ仕事の方をだな」


「ダニエルはうるさいのよ! 仕事はいつでもできるけど、かわいい服が売切れたら2度と手に入らないんだからね!」


「服ならニュ-ヨークでもユタでも手に入るだろう」


「ユタはさすがに無理ね。あんなド田舎に私に似合う服が置いてある訳ないでしょう! でもここには絶対にあるはずよ! チャーミングな服がね・・・・・・ ちょっと待って! 何よあれは!」


「どうかしたのかい?」


「ダニエルは気が付かないの? 膨大な魔力がこの先で発生している。この気配は帰還者に違いないわ!」


「急ごう!」


 私とダニエルは通りを足早に魔力の発生地点に向かう。数値にして5000を超える魔力がこの場に集中している気配が私の勘に伝わってくる。


 そしてスクランブル交差点が見てくると、そこには異世界でお目に掛かったような魔物が魔法陣から湧き上がってくる最中だった。



「逃げる人たちがこっちに向かってくるわ! 全体を見渡せる場所に行くわよ!」


 初めて魔物を目にして呆然としているダニエルの腕を引っ張って駅の構内に入り込む。階段を駆け上がってスクランブル交差点全体を見渡せる窓がある場所を確保すると、魔法陣から出てきた大蛇に小柄な少女が襲い掛かっている場面だった。



「あの女の子はクレージーだ! あんな馬鹿デカイ怪物に向かっていくぞ!」


「ダニエル、ちょっとは落ち着きなさいよ! あんな動きを普通の人間ができるはずないでしょう! 彼女こそがおそらく日本に現れた新たな帰還者よ。まさかこんな場所で直接能力を観察する機会が巡ってくるとは思っていなかったわ! 私って超ラッキーよね」


「なんだっていうんだ! 蛇の怪物だけではなくて次々に何かが出てくるぞ!」


 魔法陣から現れてくる魔物たちを目撃したダニエルが完全に狼狽している。全く素人じゃあるまいし、本当に真面目に訓練しているのかしら? ダニエルはヘタレ男とマギー様が認定して差し上げるわ。


 それにしても大蛇を殴り続けている女の子の力は信じられないレベルね。完全に一方的じゃないの! あんな大きな大蛇の体がパンチを受けるごとに左右に吹き飛んでいるって、どういうこと? あの大きさの相手に対しては普通なら魔法で挑んでいくのが当たり前なのに、いきなり肉弾戦で向かって行ってしかも圧倒しているなんて常識では有り得ないでしょう! あれ、ダメージで頭が下がってきた大蛇の顎下にアッパーが決まったと思ったらその姿が消え失せたわ。



「オーマイゴッド! あんな化け物を倒したっていうのかい? 信じられない光景だ!」


「ダニエル、忘れずに報告しなさい。あの帰還者は危険よ。少なくとも合衆国が擁している帰還者の中に入ってもダントツのトップになる能力を持っているわ」


「なんだって! あの小さな女の子がそんな力を持っているのか?!」


「ええ、間違いないわね。私の個人的な意見を言えば彼女とは絶対に対戦したくないわね。私が最高に善戦してようやく相打ち、普通に戦えば10回中9回は負けてしまうわ」


「マギー! 全米トップクラスの君がそこまで言うのか! なんて帰還者なんだ!」


 ダニエルの驚きが終わらないうちに空から高速で何かが降ってくる。そしてその未確認物体は1体の魔物の頭の上に着地したと思ったら、魔物の体はグシャグシャになって飛散する。



「また何か現れたぞ!」


「おそらく帰還者の仲間でしょうね。どこから飛び降りてきたのかわからないけど、完全に魔物の頭上から狙い撃ちだったようね。遣る事がクレージーだけど、あの帰還者からも危険な香りがプンプンしてくるわ。というよりも小柄な女の子よりも更に危険よ」


「何かの間違いではないよな」


「間違う訳ないでしょう。私のスキル『能力鑑定』が働いている以上は対象の能力は正確に把握できるはず。ただし、あの2人に限って言えば上限が全く見えないのは困りものよね」


「上限が見えないとはどういう訳だ?」


「100キロまでしか計れない体重計に150キロのデブが乗ったらどうなるのよ」


「そういうことか・・・・・・ 彼らは君の目から見ても能力の全貌が把握できないんだな」


「ええ、特にあの男の方は危な過ぎるわね。私の目に映る能力のパラメーターは山のような感じで表示されるのよ。ふもとの領域が広大な程、山の高さが高くなる感じといったらわかってもらえるかしら。2人とも目にした記憶がないくらいに広大な裾野があって、高さがどこまであるのか全くわからないわ。それでも両者を比較すると2の無限乗と3の無限乗くらいの差があるわね」


「どういう差なのか私には理解し難いな。どっちも無限なんだろう」


「ええ、でも無限に近付く程両者の差は広がって行くのよ。これは理論ではなくて感覚でしか捉えられない違いね」


「どうやら動きがあるぞ」


 私とダニエルが話をしている間にもスクランブル交差点での戦闘が続いている。女の子は手近な魔物を一撃で倒し、男は目の前に居る魔物を訳のわからない力で消し去って行く。やがて彼はビルの脇に立っている男女の元に歩み寄って何か話をしている様子だ。



「ダニエル、あなたは双眼鏡で様子を観察しなさい。私の目狂いがなければ壁際に立っているのは中華大陸連合の帰還者だとその能力を識別しているわ」


「何だって! この事件の背後にはチャイナの連中が介入しているのか!」


 ダニエルは慌てた様子で双眼鏡を取り出して2人の男女の姿を確認している。合衆国の諜報機関はすでに中華大陸連合の帰還者を全員炙り出しているから名前や顔立ちなどの資料が全て揃っている。ダニエルはスマホにある顔写真と照合を開始する。まったく仕事がまどろっこしいわね、早くしなさいよ!



「わかったぞ! やつらは〔セブンス・ドラゴン〕のセカンドとシックスだ。私たち同様に日本に潜入していたようだな」


「確か資料によるとセカンドは魔物を召喚できたはずよね。この騒ぎを引き起こしたのは彼らということで確定ね」


 何の目的で渋谷でこんな騒ぎを起こしたのか理由はわからない。それはもっと資料を集めて諸々の情勢と付き合わせてから判断するものだし、今回の私の任務は情報の収集に限られている。せっかく日中の帰還者同士がこうして顔を突き合わせた機会なので、どのような成り行きになるか注目しましょう。



 小柄の少女は魔法陣から出てきた他の魔物に次々と片付けて行く。その圧倒的な戦闘力は目を見張るものがあるわね。相手は帰還者が召喚した魔物、それをゴブリンのように蹴散らして行く様はこうして外野から見ているだけでも圧巻よね。全ての魔物をあっという間に片付けて女の子は2人と対峙している男の元に駆け寄って行くわ。


 その時私は新たな衝撃に包まれたのよ。空からもう1人降って来る存在を発見したせいでね。それはゆっくりと舞い降りてきたという表現がしっくりくる程に優雅な姿。この世界に神が降臨すればこのような姿でやって来るに違いないわ。私は完全にその姿に見とれてしまう。



「なんだ! もう1人現れたぞ!」


 ダニエルの驚きの声に私はようやく再起動を果たす。冷静になって最後に現れた帰還者を観察すると、長い髪の女性でどうやら魔法使いタイプのようね。



「えっ!」


 私はそこで意表を突かれた。シックスがいきなり最後に現れた帰還者に殴りかかったせいよ。異世界の常識では魔法使いは直接攻撃に脆いはず。体を守る頑丈な防具を身に着けていないのが大抵だからね。どうなるのか見ていると、シックスの拳はその女性の体の手前で止まっているわ。


 もしかしたら強固なバリアーでも展開しているのかしら? でも直接攻撃を防ぐバリアーは膨大な魔力を使用するはずで、普通に維持しているだけでも魔力をガンガン削られるわ。しかも攻撃を加えたのは帰還者で、攻撃力だって相当の水準を持っているはずよね。それを当たり前の表情で受け止めている3人目の魔力は、先程能力鑑定をした2人同様に全く底が見えないわ。この3人は一体どうなっているんでしょう?



 さらに信じられないことに、女性が地面を指差しただけで爆発が生じるわ。いくらなんでも魔法行使の方法として常識から懸け離れすぎよ。体内の魔力を集めてエネルギーに変換するタイムラグなしに、指を差した瞬間地面が次々に爆発して行くなんて有り得ないわ。


 どうやらシックスはその攻撃にたまりかねて逃げ出すようね。私でもあんな魔法を受けたら即座に撤退の方法を考えるでしょう。


 逃げ出したシックスをつい今まで魔物を相手に大暴れしていた少女が追跡していくけど、なんて速さでしょう! あれだけの通行人の隙間を縫ってあっという間に姿が消えていくわ。


 そして1人残ったセカンドは対峙している男に殆ど抵抗しないままに瞬殺されたわ。どのような方法で倒したのか、ここから見ている限りでは判別できないわね。瞬間的に100万を超える信じ難い膨大な魔力が観測されたので魔力を用いて殺害したのでしょうけど、あまりに馬鹿げていて自分が観測した事実をまだ受け入れられないわ。だって100万を超える魔力よ! 誰がそんな馬鹿げた量の魔力を保持しているのよ?! 私の魔力の数値は精々8万くらい、これでも合衆国の帰還者の中ではトップクラスよ。その10倍では効かない魔力を軽々と操るなんて、もうそれは神の領域なんじゃないの?



「ダニエル、今回の仕事は全て終了よ。日本に現れた新たな帰還者は想像を絶するレベルにあるわ。敵対は無意味、合衆国の帰還者が全員で掛かっても10分も保たないでしょうね。悔しいけどこれが現実よ。あなたはこの現実を包み隠さずに報告しなさい。報告が私たちの国を誤った方向に導かないように細心の注意を払ってよ」


「オーケーだ! 私も自分の目で信じられない出来事を目撃してしまった。君の意見も添えてありのままに報告しよう」


 こうしてたまたま事件を目撃した2人からの報告がホワイトハウスにもたらされるのでした。




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