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153 思いがけぬ成り行き

香港に戻る聡史たちは・・・・・・

 深センと東完の両基地を攻略し終えて、一旦戻ってきた俺たちは、中華大陸連合の本土と香港を結ぶ道路上にある入境検査所へと向かっている。深センに潜入するときは、鉄道の入境検査所を俺たちの手で占領したが、こちらはすでにイギリス軍の特殊部隊が占拠を終えている。


 捕虜を詰め込んだ輸送トラックが検問所に接近すると、小銃を構えたイギリス軍が『止まれ』と、大声で警告しているな。この入境施設は現在閉鎖中なので、付近には国境越えを待っている車両が何十台も停車している。俺たちはその間を縫うように、ゲートの手前まで進んできていた。



「何者だ? このゲートは許可が出るまで閉鎖中だ」


 小銃を構えたイギリス兵が、俺たちが乗るトラックを取り囲んでいるな。そりゃあそうだろう。形状はどこから見ても立派な軍用トラックだからな。それが香港に入境を企てていると知ったら、警戒ムード満点で取り囲んでくるのは当然だ。いきなり発砲しないだけでも、彼らが理性を保っているという証になるだろう。



「日本軍だ。東完で捕らえた捕虜を輸送中だ」


 運転席の司令がIDカードを見せると、ゲートを守備していた兵士はビシッと敬礼している。味方の日本軍が捕虜を捕らえてきたのだから、丁重に出迎える必要を感じたのだろう。



「念のために荷台を確認してよろしいでしょうか?」


「ああ、うちの隊員も警護で乗車しているから、もし何か聞きたかったら彼らに聞いてくれ」


「ご協力感謝いたします。荷台を確認してくれ!」


 隊長の指示で後ろ側に回りこんでいた兵士が、幌を上げて内部を確認する。一応挨拶しておこうかな。



「どーも、日本軍です」


「任務、ご苦労様です。捕虜は何人ですか?」


「10人です」


 兵士は詰め込まれている人数を確認している。俺と美鈴が荷台の最後部に座って、二人が発する無言の威圧感(特に大魔王様の)を恐れた捕虜たちは、運転席側に肩寄せあって座っているのだった。


  

「ご協力ありがとうございました。お気をつけて輸送してください!」


「どうもお手数おかけします。警備頑張ってください」


 笑いながら握手を交わして、荷台の確認は終了した。トラックは兵士の誘導にしたがって、香港へと入境する。


 1時間しないうちに、臨時司令部が置かれているホテルに到着する。もちろん司令の性格からして、輸送トラックはメインのエントランスに横付けしている。司令はそのまま運転席から降りて、誰かに連絡しているな。



「勇者か、イギリス軍の帰還者を全員引き連れて、玄関まで来てくれ」


 なるほど、一般の兵士では何かあっても取り押さえられないから、この場に帰還者を集めて護送するんだな。というか、捕虜になった連中は、美鈴のオーラにビビらされて、誰一人声もあげられなくなっている。今更反抗する気もなくなっていると思うけど、一応念のための警戒態勢だろう。それにしても相変わらず、大魔王様は半端ないッス! 



「レイフェンよ、そなたもこの場に残り、この者たちを監視せよ。何かあらば結界で取り囲み、その身動きを封じよ」


「承知いたしました」


 美鈴から命を受けたレイフェンは恭しい態度で頭を下げている。この場にレイフェンが残ってくれたら安心だな。大魔王の右腕にして魔公爵に任せておけば、捕虜くらい一捻りで取り押さえてしまうだろう。


 そうだった! レイフェンは普段どおりの執事服姿なんだ。『魔公爵が戦闘服を着込んでも似合わない』という、大魔王様のご意見が優先されて結果だ。もちろん大魔王様も黒のロングスカートに、ローブ姿だぞ。この格好で威圧感を全開にすると、誰もがその御前にひれ伏してしまうだろうな。



「司令、お待たせしました。イギリスの帰還者を全員招集してきました」


 勇者がエントランスにやってくる。彼の後ろに続く顔触れは、イギリスで出会った、スティーブ、メアリー、ジェームスの3人だ。気心が知れている面々だから、俺たちが気軽に何でも頼める間柄だ。



「このトラックに捕虜を乗せている。富士に連行するから、送還の準備が整うまでここに収容してくれ」


「了解しました」


 捕虜は荷台から降ろされて、ホテルの一角に収容されるそうだ。帰還者とレイフェンが交代で監視に当たるので、逃げ出したり反乱を起こす心配もないだろう。


 結局この日は夕暮れが迫っていることもあって、無理をせずにこのままホテルで一夜を明かす。





 翌日……


 昨日は中途半端な形で、広東省南部の敵基地の攻略作戦が中断してしまった。仕切り直しで、今日は頑張ろう! ただひとつ、気になることがある。それは依然として妹たちの消息が不明な点であった。



「聡史君、まださくらちゃんたちからは何の連絡もないのかしら?」


「予定では今日中に海上に出て、駆逐艦に収容される手筈になっている。まだ心配する時間ではないだろう」


「そうね、あのさくらちゃんですからね」


「心配するだけ無駄だから、気にするな」


 とは言うものの、俺自身心の片隅で心配しているのは、紛れもない事実だ。いくら妹でも核爆弾の直撃を受けていたら、さすがに不味いだろう。早く連絡が来ないものかと気を揉んでいるが、心配する表情をなるべく顔には出さないようにしているんだ。



 本日は、昨日掃討を終えた東完基地の東50キロの地点にある恵州基地と、さらにそこから北に50キロにある河源基地を攻略する予定だ。殊に河源基地の近くには、新華江という大きな水源地があって、ここを押さえるのが香港を長期に渡って確保するためには、絶対に必要だった。


 レイフェンが臨時司令部に残るので、司令、俺、美鈴、カレン、マギーの5人がワゴン車に乗り込む。昨日通った入境施設から、中華大陸連合に入り込む予定だ。


 ワゴン車は、道をよく知っている香港のガイドが助手席に乗って案内してくれる。彼は香港の反政府組織の一員だと自己紹介してくれた。こうした地元の人たちの協力があるからこそ、今回の香港占領はここまでスムーズに運んでいる。街中に潜入している中華大陸連合のスパイや工作員の摘発にも、彼らの協力は欠かせないらしい。



「任務、ご苦労様です」


 入境施設の警備兵に見送られて、俺たちは中華大陸連合の本土に再び乗り込んでいく。入境施設の兵士たちは、少人数での潜入だから、俺たちのことを絶対に偵察だと思っているだろうな。まさか5人で敵の基地を殲滅してくるなんて、誰も信じないだろう。でもそれが可能なのが帰還者なんだ。


 ただ、昨日捕虜にした連中のように、中華大陸連合にはまだ隠し玉があるかもしれない。気を引き締めて臨まないと、足元を掬われかねない。でも、司令がその辺は絶対に見逃さないだろうな。つくづく頼りになる存在だと思うよ。



 午前中のうちに恵州基地は攻略を終えて、現在大魔王様がヘルファイアーで焼き払っている。何もかもが灰になっていく光景はもうすでに見慣れたものだ。本来ならば恐ろしい光景であるはずにも拘らず、何も感じない自分がいる。どうやら戦いが体の一部になっているようだ。破壊の模様が体に染み付いているんだろう。


 そして昼食を取った午後……



 俺たちは予定通りに河源に向かっている。案内役の反政府組織の人は、何度も本土に潜入しているから、この辺に地理にも明るいので助かる。道案内に従って、基地に向かうと、そこには……



 基地の敷地の内部から濛々とした煙が上がっている。火災にしては範囲が広すぎるぞ! 基地全たちから高々と煙が上がっているんだ。これは一体全体どうしたことだろう?



「司令、何があったのでしょうか?」


「まだここからではよくわからないな。もう少し接近してから、様子を観察しよう」


 ワゴン車がさらに基地へと接近していくと、次第に内部の様子が伝わってくる。どうやら何らかの戦闘が行われているようなのだ。



「司令、何が起きているのでしょうか? 爆発音が車内にも響いてきますよ」


「どう見ても戦闘が発生しているようだな。問題は誰が戦っているかだ」


「反乱があったのでしょうか?」


「そうとも限らないぞ。まあいい、ひとまずは車を置いて、内部に踏み込んでみよう」


 安全な場所に車を置いて、俺たちは警戒しながら徒歩で正門へと向かう。相変わらず爆発音が響いてくるが、戦闘に付き物の小銃を発砲するタタタという連続音が聞こえてこないのが不思議だ。


 正門付近には、すでに事切れている中華大陸連合の兵士が大勢倒れている。これはよく見る光景だな。ついさっき、俺たちが恵州基地を襲撃したときにも、こんな状況が広がっていた。大魔王様がきれいさっぱり灰にしてくれたけど。



 正門を通り過ぎて、内部に入っていくと、その先に数人の人間が基地の奥に向かって立っている。なんだか見覚えのある姿だぞ。なぜ中華大陸連合の基地のど真ん中に、白衣はくえに白袴と緋袴を召した怪しげなシルエットがあるんだ?


 そしてその二人に挟まれたように立っている、一際小さな後姿は…… これはもう間違いないぞ!



「さくら! 何でお前がこんな所にいるんだ?!」


「おや、兄ちゃんたち! ずいぶん遅かったね! この基地は私たちが先に仕掛けちゃったよ」


 振り向いたその顔は、間違いなく消息が不明になっていた我が妹様であった。ここで出会えたのは、嬉しくて、心の底からほっと安心できる出来事だった。だがそれと同時に、頭の中に疑問が浮かんでくる。



(なんでこんな場所にいるんだ?)


 もちろん、俺だけじゃないぞ。美鈴やマギーも頭の上に???を浮かべている。それどころか、あの司令すら、言葉を失っているじゃないか! よくここまで斜め上の行動を仕出かすな! あの冷静な司令がフリーズするって、とんでもない出来事だぞ!



「さくら、なんでここにいるんだ?」


「兄ちゃん、今戦況を観察している最中だから、こう見えても忙しいんだよ! 何かあったら助けにいかないとならないからね!」


「さいですか」


 妹に注意されてしまったよ。それもキッパリした口調で、言い切られてしまった! これは甚だ遺憾だ。兄としてではなくて、一人の人間としても遺憾である。心の底から遺憾だ。どうしようもなく遺憾だ。だがこれだけは聞いておこう。



「お前がここにいて、誰が戦っているんだ?」


「兄ちゃん、私は今忙しいんだよ! なんで一度でわからないかなぁ? 新入りと親衛隊に任せているんだから、ちょっとは静かにしてよ!」


 妹に怒られてしまった。心の底から忸怩たる思いがこみ上げてくる。世を儚んで首を括りたい…… 


 それよりも、妹はなんと言っていたかな? 確か『新入りと親衛隊に任せている』と、言っていたな。そうか、滝川訓練生と5人の女子たちにお任せで、妹たちは見ているだけなのか……



「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 思わず馬鹿デカイ声を張り上げてしまった。確かに滝川訓練生はそこそこの実力を持っている。おまけに妹に鍛え上げられて、今では人間兵器のような顔付きに変わっている。だが、親衛隊は一般人をちょっと強化した程度だぞ! それを戦場に放り込んだというのか? さすがに、これはどうなんだろう? 彼女たちの無事を祈らずにはいられないな。おや、妹の魔力通信機に何か連絡が入ってきたようだ。



「うんうん、それじゃあ正門前に集結するんだよ」


 妹は頷きながら返事をしている。集結を指示しているところを見ると、どうやら戦闘は終わったようだな。言われてみれば爆発音が鳴りを潜めている。



 基地の奥には、倒壊し掛けた建物から相変わらず真っ黒な煙が上がっている。そちらの方向から、一人、また一人と、銃を手にして人影がこちらに向かってゆっくりと進んでくる。その人影は常に二人一組になって、一人が後方を監視している間に、もう一人が前進して、前進した人影が振り向いて後方の警戒を開始すると、もう一人が追いつくという、撤退戦における基本行動を完璧に実行している。


 しんがりを進むやや大柄な人影は、どうやら滝川訓練生だな。一番危険なしんがりを、自ら買って出たのだろう。それにしても全員がきっちり統率された一糸乱れぬ行動だな。これはどうやら、妹が率いる軍団を過小評価していたらしい。これだけの行動ができれば、妹が任せてしまう気持ちも理解できるな。


 やがて軍団員は全員揃って、妹の前に整列する。



「ボス、掃討を完了いたしました!」


「教官殿、建物の内部にも生存者は確認できません。それから燃料庫には軽油が保管されておりました。この場で給油が可能です!」


「ご苦労だったね。それじゃあ、装甲車に給油してから出発しようかな。中尉ちゃんは、新入りと一緒に給油してきてよ」


「さくら訓練生、了解したよ。2台とも満タンにしてくる」


 妹がアイテムボックスから装甲車を取り出すと、特殊部隊の人と滝川訓練生は、素早く乗り込んで基地の内部に入っていく。どうやらこの装甲車に乗って、泉州からここまで陸路を進んできたんだな。


 一通り基地の掃討を報告すると、残った親衛隊は司令の方向に姿勢を正す。



「司令官殿、わざわざ出迎えていただきまして恐縮です!」


「「「「恐縮です!」」」」


 司令が苦笑いしているな。出迎えに来たわけではなくて、この基地の攻略にきたら、こうして出くわしてしまったというのが真実だ。



「泉州での活躍、ご苦労だった。我々と一緒に香港に向かってから、日本へ戻ってもらう。しばらくは富士で英気を養ってほしい」


「「「「「お褒めいただいて恐縮であります!」」」」」


 五人の返事が一糸乱れていないぞ。ここまで訓練しているからこそ、完璧な連携を築けるんだろうな。駆け出しのヒヨッ子が、こうして実戦を繰り返して、いつの間にか本当の戦士になっている。相当厳しい経験をここに来るまでの間に繰り返していたんだろう。本当にお疲れ様でした。ここから先は俺たちが引き継ぐから、安心して富士に戻ってくれ。



「さくら訓練生、予定になかった陸路を進んで、ここまでやってきた経緯を報告してくれ」


「おお、司令官ちゃん! すっかり忘れていたよ! 泉州のミサイル基地がすでに発射体勢に入っていたんだよ。仕方なくメインサーバーを壊したら、自爆装置が起動しちゃってね、派手な核爆発が起きたんだよ! おかげで、海上は封鎖されて、仕方なく陸路で香港を目指したんだよ!」


 なるほど、自爆装置なんていう代物を仕込んでいたのか。これが世界中を大騒ぎに巻き込んだ、今回の核爆発の真相だな。そして、その原因はやはり俺の妹だったというわけだ。まさか、ここまで大きな騒動を引き起こすとは思っていなかったぞ。でも、こうして無事に戻ってきてくれて、本当に良かった。安心したぞ!


 こうして、俺たちは2台の装甲車を引き連れて、香港の臨時司令部に戻っていく。入境施設を警備していたイギリス兵が、行きには姿がなかった装甲車を見て、驚いた顔をしていたのは言うまでもなかった。




次回で香港攻略戦は完了する予定です。投稿は今週末を予定しています。どうぞお楽しみに!


評価とブックマークをいただいてありがとうございました。いつもの一言を述べさせていただきます。


「評価と、ブックマーク、いっぱいほしいお!」


感想もお待ちしております!

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