145 中華大陸連合の選択
泉州の街中では・・・・・・
街中での市街戦に入ったさくらたちは・・・・・・
さくらちゃんたちは今、敵の機甲師団と交戦の真っ只中だよ。私は後方から輸送トラックに乗り込んだ歩兵を始末しながら進んでいるんだ。今のところ順調にトラックを半分以上破壊したんだけど、生き残っている前方の車両から次々に兵士が飛び降りてくるから、この分だと掃討に時間が掛かりそうだよ。
車両の陰から小銃やロケット弾を私に撃ち込もうなんて小癪な真似をしてくるから、擲弾筒を威力全開にして強烈な一撃を食らわしてあげるよ!
ドカーン!
爆発の炎はビルよりも高く上がっているね。車両ごと爆発しているから陰に隠れていても無駄だよ! 今度は思いっきりジャンプして、ビルの屋上に飛び上がってから連射だ! それそれっ!
ドドドドドドドドドドドドドドドドカーン!
いい感じで歩兵たちがバラバラになって飛び散っていったね。私の移動が早過ぎて全員どこから攻撃を受けたのかわからずに周囲をキョロキョロ見回しているよ。これじゃあ何人いたって私の敵にはならないね。再び連射を食らわせてから、隣のビルに飛び移るよ。私が走り去った跡は真っ黒になったトラックとバラバラになった死体の山が出来上がっているね。私に銃なんか向けるなんてバカな真似をするから、こうなる運命は最初に決定していたんだよ!
さて、ちょっと前方の親衛隊たちに目を向けてみようかな。おやおや、かなり苦戦している様子が映るね。下から猛烈な機銃の砲火を浴びせられて、どうやら守勢に回っているようだね。ちょっと新入りと連絡を取ってみようかな。通信機のスイッチをポチンと。
「おーい、さくらちゃんだよ! 新入りは調子はどうなな?」
「教官殿! 今手が離せないです!」
「道路に停車している装甲車から思いっきり狙い撃ちされているね」
「その通りです! 今から移動を開始いたします!」
「新入りは魔法は使えないのかな?」
「教官殿、自分の魔法は1,2秒相手を正面で確認する必要があります。その間無防備な的になります」
「それじゃあしょうがないね。私が到着するまで何とか頑張るんだよ」
「教官殿! 装甲車が何台か裏道に回り込もうと動き出しました! 退路を塞がれそうであります!」
これは不味いね。いくらなんでも初陣で一個師団と鉢合わせになるのは荷が重かったようだね。仕方がないから奥の手を使うよ。新入りとの通信は切って全チームに通信を繋ぐよ。
「さくらちゃんだよ! R-1とM-1はその場で引き続き敵の注意を引くこと! 私の指示があったらポチたちが待っている駐車場に退避するんだよ。囮役で大変だけどその場に踏み止まってね! 残りの全員は建物内に一時退避して安全を確保! 合図があったら屋上から発砲開始だよ!」
「了解しました」
全員に指示を終えると、今度はポチとタマに連絡を入れるよ。
「おーい、ポチとタマ! 私の声が聞こえるかな?」
「これはどうしたことであろうか? 耳につけておるカラクリから主殿のお声が聞こえてまいるぞ」
「妾も聞こえるのじゃ! 主殿のお姿は見えぬのに、まことに怪しいばかりじゃ!」
ポチタマは機械に慣れていないから通信機に戸惑っているね。そんなことはどうでもいいから、早く作戦を伝えないといけないんだったね。
「これは遠話の術なんだよ。さくらちゃんの声が聞こえたら指示に従うんだよ!」
「おお、これはまことに主殿なり!」
「遠話をお使いになるとは、さすがは我が主殿なのじゃ!」
ようやく話が通じたようだね。ここから大事な作戦だから、しっかりと聞いてもらいたいよ。
「ポチはその場に残って、帰還する親衛隊たちを結界に収容するんだよ。タマは通りに停まっている装甲車に雷のシャワーを落として欲しいんだよ!」
「それならばお安い御用じゃ! 妾の妖術を主殿にご覧に入れるのじゃ!」
再びタマが張り切っているね。ここはしっかり注意しておかないと、街ごと黒焦げにしそうだよ。
「建物の中には親衛隊が残っているから、通りの装甲車にだけ上手に雷を落とすんだよ! 上手くいったらご褒美を出すからね!」
「わかったのじゃ! 主殿から賜られる褒美が楽しみなのじゃ!」
「それじゃあタマは移動を開始するんだよ。妖術を放つ準備ができたら私に教えてよ」
「承知したのじゃ。主殿には少々お待ちいただきたいのじゃ」
よしよし、これで準備はできたね。駐車場に近いビルの屋上から敵の注意を引き付けるために発砲しているR-1とM-1には撤退の指示を出しておかないとね。
10分後・・・・・・
「主殿、位置についたのじゃ」
「タマ、ちょうどいいタイミングだったね。装甲車だけに雷を落とすんだよ」
「路上の鉄の箱だけを狙えばよろしいのじゃな。妾にお任せなのじゃ! 雷雲よ、照覧するのじゃ!」
さくらちゃんはタマが到着するまで後方から敵に向かって攻撃を仕掛けていたんだよ。歩兵の輸送トラックは全て撃破して、装甲車や自走砲を撃ち抜いていたから、殆どの車両が私に向かって方向転換している最中だったんだよ。おかげでタマが私とは反対側に姿を現したことに誰も気がついていないね。
ほら、タマの妖術で生み出された雷雲がビルの谷間から僅かに見えている空を覆い尽くしたね。タマの妖術がフィオちゃん不在の穴を十分に埋めてくれるよ。
バリバリバリバリバリバリバリバリズドドドーーン!
おお! 漁港を黒焦げにした時と同じ規模の雷のシャワーだね。でもさっきよりも細長くて狭い範囲に稲妻が集中したから、威力は上のような気がするよ。
車というのは通常は雷の電流が外殻構造を通じて地面へ逃げるように設計されているんだよ。車内はしっかり絶遠しておないと乗員に危険が及ぶからね。さて、中華大陸連合の戦車や装甲車がしっかりと絶遠してあるのかな? 結果は・・・・・・
ブッブー! 残念でした! こういう細かい部分をしっかりと詰める技術が足りないんだよね。雷の電流が僅かでも内部に入り込むだけで、電気系統が焼き切れるからね。その時点で戦車や装甲車は動かないただの箱だよ。中には黒焦げになって煙を吹き上げている車両もあるから、予想通り絶遠がしっかり出来ていなかったんだね。もっとも日本の戦車でも、あれだけ大量の雷を一気に浴びたら保障は出来ないけどね。たぶんアンテナ関係から電流が入り込んじゃうだろうね。ほら、落雷でテレビが火を吹くのと同じ現象だよ。さくらちゃんはとっても賢いから、何でも知っているのだ!
「タマはご苦労だったね! ポチの所に戻ってていいよ」
「お役に立てて何よりなのじゃ!」
タマにはあとで欲しい物をご褒美にあげようかな。さて、まだ生き残っている車両には最後の仕上げの掃討を開始するよ!
「ビルに待機中の各チームは屋上から攻撃再開だよ!」
「了解しました」
再びビルの屋上から魔力銃での狙撃が始まるよ。タマの妖術から生き残っている車両は10分の1もないから、もう私が手を貸さなくても大丈夫だね。その間に私は裏道に回りこんだ車両を撃退しようかな。
「ボス、全車両撃破完了しました」
「お疲れさんだったね。こっちも掃討が終わったから、駐車場で合流するよ」
「了解しました」
こうしてさくらちゃん軍団は泉州での最初の戦闘を無事に終えるのでした。
その頃、北京の中華大陸連合統合軍作戦本部では・・・・・・
「済州島へ向けて発射したミサイルが全て迎撃された模様です。着弾ゼロ!」
「これほど双方の技術力に差があるとは・・・・・・」
本部内の幹部たちの表情に影が差す。武器の性能差がこれほど如実に現れようとはあまりにも予想外であった。本来ならば海南島を失った時点で原因の究明が為されていなければならなかったのだが、幹部たちが責任逃れと戦果の捏造に終始した影響で、有効な対策が何もとられなかった結果である。
日米が最初に攻略を進めたのは海南島だった。この島は南シナ海を内海化するに当たって戦略的に最重要な意味を持つ場所であったにも拘らず、統合軍の幹部は『影響は限定的』と強弁していた。確かに地理的には北京から見れば遠い辺境の島である。だが1箇所の綻びは次から次へと連鎖していく。その意味で言えば、実は日本国防軍が中華大陸連合への最初の攻撃として実施した済州島攻略戦こそが、より深刻な影響を統合軍幹部に齎していた。
何しろ今回同島からミサイル攻撃を受けた天津は北京から100キロの位置だ。ミサイルの射程があと100キロ伸延すれば、首都が攻撃の対象となりかねない。それだけではなくて、上海から大連までの沿岸部にある大都市が、いつでもミサイルの標的になるという日米連合からのメッセージが彼のミサイル攻撃に込められていたのであった。
「ミサイルが通用しなかった以上は、航空機による攻撃に期待するしかないな」
「まだ戦況に関する報告が入ってきません」
幹部たちは祈るような気持ちで結果を待つ。だが、勝利の女神は彼らに背を向けた。その証拠に、結果を報告する通信担当の将校の声が僅かに震えている。
「各基地から発進した航空機はほぼ100パーセント撃墜された模様です」
「そんな馬鹿な!」
「何かの間違いではないのか?!」
「いくらなんでも全機撃墜など有り得ない筈だ!」
声を揃える幹部たちに、通信担当の将校は黙って横に首を振るしかなかった。彼らが期待するような内容の通信は一切届かなかったのだ。日本国防軍の最新型地対空ミサイルが猛威を振るった結果である。打つ手がなくなった統合軍幹部が呟く。
「残るは戦略核兵器か」
「衛星が破壊された影響でGPSが有効に働きません。その上、これまでに放った弾道ミサイルは完全に迎撃されております」
参謀が現実的な意見を述べるが、追い詰められた幹部の耳には入らない。手元にある弾道ミサイルを全弾用いてでも日本を屈服させる、それしか現時点で残された方法はなかった。
「すぐに発射可能な弾道ミサイルはどれだけあるのだ?!」
「蘭州基地に50基、泉州基地に同じく50基であります」
「四川基地は復旧の目途は立たないか?」
「残念ながら地下施設の大半が壊滅しています。救助作業を行っておりますが、新たに建設した方が早いと申し上げるのが適切な状況です」
四川省の山間部に建設されていた戦略ミサイル地下基地は、米軍のバンカーバスターによって7割方破壊されていた。周辺は地下基地から漏れた放射能で現在立ち入り禁止措置が取られている。被害調査は行われているが、実際の救助活動は放射能の影響で未だに実施されてはいなかった。担当の幹部は調査を救助と言い換えただけである。
「それでは蘭州基地と泉州基地に戦略ミサイル全基発射を命じろ」
「了解しました。標的は日本本土でよろしいですか?」
「東京に半分の50基を集中して、残りを地方都市に分散させるのだ」
「弾道計算におよそ5日を要します」
「何故そんなに掛かるのだ?」
「GPSが働きません」
「2日で済ませるのだ!」
「了解しました」
こうして統合軍幹部の保身のために日本に向かって核弾頭搭載の戦略ミサイル攻撃が決定した。過去に何度も日本へ向けてのミサイル攻撃に踏み切った中華大陸連合であるが、これ程の規模の核攻撃に踏み切るのは2度目である。しかも今回は稼動可能なミサイルを全基打ち出すという、後がない覚悟を決めた最後の切り札であった。
北京でそのような話が決定したとは知らないさくらたちは・・・・・・
「全員無事で何よりだね」
「ボス、実戦の怖さを知りました」
「教官殿の手助けがなかったら、我々は全滅していたかもしれないです」
ほうほう、ずいぶん殊勝なことを言っているね。まあ、今回は想定外の師団規模の敵だったから、この結果は仕方がないかもね。要は次に頑張ればいいんだよ!
「戦いは自分だけでやるものじゃなくって、相手がいるからね。この経験を生かして次は頑張るんだよ! 結果からすると15人で一個師団を壊滅に追い込んだんだから、大戦果だと胸を張ってもいいんだよ」
「ボス、自分たちは納得できません!」
「そうであります! もっとやれる筈、いえ、もっとやらないとダメなんであります!」
おや、ほのかの口調がいつの間にかカエルの軍曹のようになっているね。でも言っていることはとっても前向きでいいよ。特殊部隊の皆さんは、雛鳥が一生懸命に羽ばたく練習をするのを見つめる親鳥のような目をしているよ。きっとこの人たちもこういう経験を潜り抜けて今があるんだろうね。
「さてさて、次の目標はどこにするかだね。装甲車が手に入ったから、武装警察は後回しでいいとして・・・・・・」
「さくら訓練生、陸軍基地は人員と装備の大半を失っているから放置して、空軍基地に襲撃を仕掛けるのはどうだろうか?」
案内役の長野中尉がいい意見を申し出てくれたね。確かにその通りだから、中尉の意見に乗っちゃおうかな。
「そうだね、空軍基地を破壊してから最後にミサイル基地を攻撃すればいいかな。それじゃあこのまま空軍基地に向かって出発するよ。途中でお昼ご飯はちゃんと取るよ!」
ご飯の時間は何よりも大切だからね。何は置いても確保するんだよ。全員が装甲車に乗り込んで、私とポチは屋根の上で索敵する体制で、空軍基地に向かって出発していくさくらちゃんでした。
一方香港攻略に臨む特殊能力者部隊の本隊は・・・・・・
ここは冬を迎えた富士駐屯地と違って日差しが眩しいな。俺たちは香港攻略の前線基地である海南島にやって来ている。約1ヶ月ぶりにまたこの島に足を踏み入れたな。
島内は日米連合の統治をあっさりと受け入れて、平穏に治まっているようだな。ずっとこの島を牛耳っていた漢族は大半が大陸に去って、残っているのは少数民族の人たちが殆どだそうだ。彼らは中華人民共和国から続いた抑圧された支配から解放されて、日米政府による民主的な統治を歓迎しているらしい。
日米間の交渉がまとまった結果、政府は日本が主体となって運営して、軍はアメリカが主体となって整備する方針が決定したそうだ。アメリカもアフガニスタンやイラクで政府の運営に悉く失敗した教訓が残っているようで、日本的な統治を持ち込んだ方が効率的だと判断したのだろう。アジアにはアジアの遣り方があるんだってわかっただけでもアメリカにとっては進歩じゃないかな。
日本政府が実施したのは新紙幣の発行、民主的な地域自治体の発足、貿易の解禁、言論の自由化など多岐に渡る。中でも食料以外の物不足が深刻だった島内では、輸入されてきた燃料や消費財が大歓迎されているそうだ。今まで原油が不足していたせいで、夜間は真っ暗だった街中にも豊富に電力が供給されるようになっている。日本からは政府関係の人材だけでなくて、インフラに関わる技術者が大勢派遣されて、島内の生活基盤再建に力を注いでいるそうだ。
このような日本の努力が喧伝されたおかげで、住民の日本に対する感情は高い好感を得ている。日本の国防軍の軍服姿を見掛けると、子供たちだけでなく大人までもが笑って手を振る光景にあちこちで出会うそうだ。早く南国の楽園らしい姿を取り戻してもらいたいな。何しろハワイにも負けない豊かな自然環境がこの島にはあるから、実際に日本人注目のレジャースポットになりつつあるんだ。
海南島の現状はさて置いて、俺たちは南亜市近郊の海軍基地に駐留している。今日は会議室に集まって、作戦全体の進行状況の説明が行われるところだ。司会は俺たちの司令官さんで、特殊能力者部隊だけではなくて国防軍の関係者や米英の将官と帰還者も出席している。
「それでは陽動作戦の進行状況について説明する」
司令の言葉に黙って頷いて聞き入る俺たちだった。
次回は香港攻略戦の開始と泉州襲撃作戦が同時進行する予定です。核兵器の使用に踏み切った中華大陸連合に対して、それをさくらたちは阻止できるのか・・・・・・ 続きは週末に投稿します。どうぞお楽しみに!




