144 市街戦
漁港が黒焦げになった・・・・・・
漁港を出発しようとしたさくらたちは・・・・・
「タマの雷は中々の威力だね。港が全部丸焦げになっているよ」
「主殿に褒められて嬉しいのじゃ!」
シャレや冗談じゃなくて本当に漁港全体が真っ黒焦げになっているんだよ。さすがは大妖怪、タマが本気を出すと凄い被害になるね。さっさとこんな場所は後にして目標に向かおうと私たちは歩き出しているんだよ。その時・・・・・・
「遠くからサイレンの音がしてくるね」
「ボス、これだけの被害が出ていますから警察や消防が出動しても不思議はないです」
「それもそうだね。騒ぎに巻き込まれると面倒だから、ちょっと離れた場所で様子を見ようか」
真美の意見に従うことにするよ。さくらちゃんは独裁者じゃないからね、誰の意見にもちゃんと耳をかすんだよ。こうして私たちは自分たちがこの騒動を起こした件をすっかり棚に上げて、駆け足で漁港から離れて、近くの建物の陰から様子を伺うことにしたんだよ。
「ボス、ずいぶん警察と消防が集まりましたね」
「あっちには装甲車も到着しているね。あれが武装警察なのかな? テロでも発生したのかと調べに来たのかもしれないね」
「ボス、我々は日本国防軍です。テロリスト扱いされるとは不本意です」
真美は真面目だからね。自分たちがテロリスト扱いされるのは我慢できないのかもしれないね。ここはさくらちゃんが真剣な回答をしてあげようかな。
「細かいことはいいんだよ! やっていることは大規模なテロ活動と大した違いはないからね」
「さすがはボスだな! 短い言葉に説得力がある」
ほらほら、親衛隊が私を尊敬の目で見ているよ。ここで私は更に畳み掛けていくよ!
「戦いというのは始まってしまえばコントロールが難しくなるから、流れを見極ることが一番重要だね」
「さすがはボスだ! 含蓄を含んだ教えです!」
親衛隊の瞳がキラキラに輝いているね。私の教えを真剣に受け止めているんだね。この際だからあれも教えておこうかな。
「だからデカ盛り自慢のお店に行ったらしっかりとペース配分を考えないと、攻略が難しくなるんだよ!」
「素晴らしいお言葉です!」
「主殿、いささか話が脱線しているように感じまするぞ。ここで3段オチを持ってくるという意図でもございましたか?」
なんだかポチから突っ込まれているような気がするよ! 別に意図したわけじゃないからここは深く掘り下げないでもらいたいな。どうにも褒め殺しをされているような気分になってきて、私が居た堪れなくなってくるじゃないかね。冗談がわかるペットというのは、場合によっては扱いに困るよね。ここは話題を転換して誤魔化す方向で考えようかな。
「あそこにある装甲車を奪って移動すれば楽チンだね!」
「さすがはボスだ! 目の付け所が違う!」
いやいや、そこに置いてあるんだから誰でも気が付くでしょう! 武装警察の人員は真っ黒焦げになった現場に散って調査を開始しているね。装甲車の付近には2,3人しかいないから、今なら簡単に奪えそうだよ。
「私が見張りをぶっ飛ばしてくるから、その隙に全員乗り込むんだよ! 人数が多いから2台に分乗しようか」
「ボス、了解しました」
ということで、さくらちゃんは気配を消して装甲車に近付いて行くよ。見張りは全然私に気が付く様子がないね。よーし、一気にスピードを上げて襲い掛かっちゃうよ!
ガッ!
「うわぁぁぁ!」
ドゴッ!
「ひぃぃぃl!」
ガキッ!
「ぐわぁぁぁ!」
あっという間に片付いたね。私が手招きすると、建物の陰に隠れていたメンバーたちが一斉に駆け寄ってくるよ。そのまま車内に飛び込んでエンジンをかけるね。私も屋根に飛び乗って、動き出した装甲車に気が付いた武装警察に擲弾筒を乱射するよ。ほら、いい感じに全員吹っ飛ばされているね。
2台の装甲車が幹線道路を北西に向かって走っていくよ。ハッチが開いてポチが車内から顔を覗かせるね。
「主殿は中に入られないのですか?」
「私はここで見張りをしているよ。いつ敵襲があるかわからないからね」
「それでは我もお側におりまする」
「それじゃあ一緒に見張りをしようか」
私とポチが前を走る装甲車の屋根で見張りをしていると、ポチの耳がピクリと動くね。もちろん私も遠くから響いてくる音を捉えているよ。
「ポチ、ヘリが接近してきたね。私が撃ち落とすからそこで見ているんだよ」
「主殿にお任せいたします」
上空から3機のヘリがこっちに向かっているよ。相手に攻撃の意図があろうがなかろうが、問答無用で擲弾筒を構えちゃうからね。それ、発射だよ!
大サービスで30秒間撃ちっ放しにしていたら、3機とも炎に包まれて市街地に墜落していったね。地上で火柱が上がって、たぶん墜落現場は大騒ぎになっているよ。
「主殿、今度は地上からなにやら物音が近付いてまいりますな」
「そうだね、戦車が来たみたいだよ」
私は周囲を見渡すよ。せっかく親衛隊にも実戦経験を積ませるチャンスだからね、迎え撃つのに一番良さそうな場所を探しているんだよ。そうだね、この辺だともうちょっと先のビルが立ち並んでいる界隈がいいかな。
「装甲車はあそこにある駐車場に入るんだよ! 全員建物に散開して上から地上軍を攻撃するんだよ!」
「了解しました!」
通信機から応答があると、装甲車は幹線道路脇の駐車場に入っていくね。入り口のゲートなんかお構いなしに圧し折って、場内の開いている場所に停車するよ。荒っぽいやり方だけど、急いで配置に付かないといけないからね。
「ポチとタマはここで結界を張って装甲車を守っているんだよ。その他のメンバーはビルに入って、上から敵の車両を狙い撃ちにしてよ。親衛隊は実戦経験が少ないから、特殊部隊の指示に従うんだよ」
「了解しました!」
こうして私たちはポチとタマをこの場に残して配置に散っていくよ。私は遊撃役だからね、自在に動き回って敵を混乱させていくよ。街中はけたたましいサイレンが鳴り響いて、通りを歩く人は一人もいなくなっているね。緊急事態の発生が告げられているのかな? この方が一般市民を巻き込まないから私たちとしては助かるね。
「ボス、全員配置に付きました! R-1~R-3は通りの右側のビルに、M-1~M-3は左側のビルに展開しています」
「オーケーだよ! 私は敵の背後に回りこむからね。各自の判断で攻撃を開始して構わないよ」
「了解しました。通信終了」
R-1というのはレンジャー-1の略だよ。陸軍の特殊部隊員とペアを組んでいる親衛隊のチーム名だね。M-1はマリーンの略だね。米軍では海兵隊の呼び名だけど、日本では海軍の特殊部隊を指しているんだよ。したがってM-1は海軍特殊部隊員とペアになっているチーム名だよ。ちなみに新入りはM-3となっているよ。
まだ車両がやって来るまで時間の余裕があるね。さくらちゃんは1本外れた別の道を走ってビル街の先の方向に進んでいくよ。適当な場所で建物の陰に体を隠して待っていると、戦車を先頭にした一団がこちらに接近してくるね。車列の後方が見えないから、これはひょっとしたら師団規模の兵を動員しているんじゃないかな? でも何人で向かってきても一緒だからね。さくらちゃん軍団がペロリと平らげちゃうよ!
「こちらM-3、接近してくる装甲車両群を目視で確認しました。射程に入り次第攻撃を開始しますか?」
「こちらR-1、ビル街のこちら側まで侵入させてから攻撃を開始する。先頭の車両が行動不能になれば敵の足が止まるからな」
これは特殊部隊同士の遣り取りだね。さすがはわかっていらっしゃる。先頭を足止めして動きが止まったところを狙い撃ちするんだね。道路を進む敵への攻撃法としては基本といっていいよね。もちろんさくらちゃんもちゃんと知っているんだよ! なんと言っても私は賢いからね、効率のいい戦い方くらいちゃんと学んでいるのだ!
前方を足止めしてくれれば、後ろから攻撃を仕掛けるさくらちゃんと挟み撃ちが可能だよね。これは巧く嵌まったら敵の全滅もありうるよ。もっともさくらちゃん一人でも全滅させちゃう自信はあるんだけどね。でもここは新入りと親衛隊が実戦を経験する場だから、ある程度みんなに任せようと思っているんだ。私は今回だけは脇役でいいかな。
「R-1から全チームへ! まもなく敵車両が攻撃想定位置に入る。こちらの攻撃を合図にして一斉に仕掛けろ!」
「了解!」
R-1は長野中尉と真美のペアだね。今回の作戦ではリーダー役を務めているんだよ。長野中尉は細かな部分にも気が付く優秀な尉官だからね。こうして指揮を執るのも上手なんだよ。特殊能力者部隊には面白い面子が揃っているけど、こうして実際に接してみると国防軍の他の部隊も中々侮れないね。いい人材が豊富にいるよ。
おっと、そろそろ始まりそうだから私も準備しないとね。車列は今私が潜んでいる位置から更に後方まで続いているから、もっと後ろ側に回り込まないとね。裏道から車列を逆に辿っていくと、ようやく最後部が見えてきたよ。こんな大軍を市街地に入れても満足に身動きが取れないだろうにね。敵の首脳部は何を考えているのかわからないよ。
ドーン! ドーン! ドガガガーン!
前方から火柱が上がるのが見えてくるね。それじゃあ行動開始だよ! さくらちゃんが回りこんで狙いをつけているのは幌付きの輸送トラックだね。済州島でも陸上戦力とぶつかったけど、あの時同様に歩兵を真っ先に片付けるのが鉄則だからね。続け様に擲弾筒をぶっ放していくよ。
ズズーン! ドドーン! ドガガーン! ちゅどーん!
トラックは炎に包まれて、中から火達磨になった歩兵が転がり落ちてくるね。でもさくらちゃんは容赦しないからね。火を噴いたトラックにはそれ以上構わずに、お次の車両を目掛けて擲弾筒を放っていくよ。
ズズーン! ドドーン! ドガガーン! ちゅどーん! ズゴゴーン!
まだまだ歩兵車両がいっぱいあるね。全部で150両くらいかな。中には歩兵が飛び出して小銃を構えているトラックもあるけど、私が素早く位置を変えているから、どこから狙われているのかわからないようだね。面倒だから連射で片付けるよ!
シュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバババン!
擲弾筒の連射に巻き込まれた歩兵が次々に吹っ飛んでいくね。まるっきり人形みたいだよ。ついでに魔力弾が直撃した車両も一斉に火を吹き上げながら爆発するから、辺りは火と煙に包まれた凄惨な光景が広がっているね。半分くらい歩兵輸送車を撃破したけど、前方の様子はどうなっているのかな?
「こちらR-2、戦車5両を撃破した。場所を変えて引き続き攻撃を行う」
「R-1了解した。まだまだ敵戦力は優勢を保っているから急いでくれ」
「了解、行動を急ぐ。通信終了」
通信が飛び交っているね。今のところこちらに被害なく順調に敵の兵力を削っているようだね。それじゃあさくらちゃんは歩兵が全滅するまでこの場でちょっとだけ頑張りましょうか。
ビル街を移動中の二瓶少尉と親衛隊の蛯名ほのかは・・・・・・
「少尉殿、なぜ場所を変えるのでありますか?」
「一つの所にいると場所が判明して狙い撃ちされる危険がある。時々こうして場所を変えると、敵に察知されにくいんだ。よく覚えておけ」
「ありがとうございます。参考にさせていただくであります!」
あまり登場する機会がなかったですが、自分はチェリー・クラッシャーの蛯名ほのかであります。こうして現代兵器を撃ち合う戦場に出たのは初の経験であります。二瓶少尉は聞くところによると入隊してから10年のベテラン隊員だそうで、これまで培ってきた経験には目を見張るものがあります。戦場とは細かな点を見逃すと本当に命取りになるのだと、口を酸っぱくして教えてくれたであります。
「敵の車両は表通りに気を取られている。裏口から出て隣のビルまで突っ走るぞ」
「了解であります」
単純な体力ならば魔力が使用できる自分の方が二瓶少尉よりも高いのでありますが、やはりレンジャーの称号を得るために猛訓練を経てきた少尉の動きと判断力は伊達ではありません。参考にすべき部分がたくさんあります。特に警戒をする際にどこに視線を配るのかという状況判断が本当に的確であります。自分がうっかり見逃しそうになる所にもしっかりと視線を配っているであります。
「外に出る際は絶対に周囲を確認しろ。自分だけでなくてチーム全体の命が懸かっているんだからな。特に流れ弾の可能性を考慮するんだ」
「了解であります」
流れ弾の可能性までは自分は考えていなかったであります。十分に確認してから行動を開始する、これは本当に重要だと実際に戦場に立ってみてわかることであります。こうして一つ一つ学んで少しでもボスに追いつくことが、現在の自分の目標であります。もちろんボスは自分如きが手の届かない遥かな高みにいらっしゃるのでありますが、そこにほんの少しでも近付きたいであります。
「よし、このまま走るぞ!」
「了解であります」
少尉と一緒に裏道を全力で走るであります。周囲に気を配りながら走るというのはこれは結構大変ですが、チームの命が懸かっているから絶対に手を抜けないであります。
「内部の安全を確認してから、入り口に飛び込むんだ!」
「了解であります」
ビルの裏口は幸いにも鍵が掛かっておりません。ノブを回してドアを細めに開くと、内部を確認するであります。よし、敵影なし!
「物陰に敵が潜んでいるのを前提に考えるんだぞ」
「了解であります」
魔法銃は威力が大き過ぎるので、自分はナイフを構えてビルの内部を確認していくであります。エレベーターは使用せずに、階段を一気に昇っていくであります。屋上に繋がるドアを蹴破って、外に出るであります。
「いい動きだったぞ。新兵レベルだったら合格だ」
「恐縮であります。まだまだ自分は足りないであります」
こうしてそっと屋上の縁に進むと、相変わらずビルの上から攻撃を加える他のチームと、狙い撃ちされて右往左往する敵の装甲車両の姿が映るであります。
「そろそろ敵も最初の混乱から立ち直って反撃してくる頃だからな。砲口や銃口がどちらを向いているのか注意するんだ」
「了解であります」
こうして自分たちは屋上からの狙撃を開始するであります。眼下の敵は次々に屋根部分の装甲が吹き飛んで撃破されていくであります。ですが、後方に停止している戦車や装甲車が機銃を次々にこちらへと向けるであります。
「敵が照準を合わせだしたぞ! 機銃が上を向いている順に魔力弾を撃ち込め!」
「了解であります」
こうなったら時間との戦いであります。敵が照準をつけるのが早いか、こちらが車両ごと撃破するのが早いかの命懸けの勝負であります。
「顔を引っ込めるんだ!」
「退避であります!」
自分と少尉が顔を引っ込めた瞬間、我々がいるビルの屋上に向かって機銃が火を噴いたであります。間一髪顔を引っ込めた先を、唸りをあげて20ミリ弾が通り過ぎるであります。
「いいか、銃撃が止んだら別の場所から下を狙うんだ」
「了解であります」
こうして自分らはひたすら銃撃の合間に狙撃を繰り返すという持久戦に突入していくのでありました。
激戦の模様を呈する市街戦、行方を左右するのは・・・・・・ 続きの投稿は週の中頃の予定です。どうぞお楽しみに!




