143 強行上陸
接近してくる巡視船は・・・・・・
毎度! さくらちゃんだよ! 今、漁船の船縁に身を隠して、接近してくる中華大陸連合の巡視船の様子を伺っているところだよ。
そうだ! すっかり忘れていたけど、大事な話を伝えていなかったね! 実は私たちと一緒にフィオちゃんも泉州襲撃作戦に参加する予定だったんだけど、出発する直前になって魔力砲の術式に不具合が見つかって急遽参加が取り止めになったんだよ。美鈴ちゃんとどっちが残るかという話になって、結局フィオちゃんが改修で富士に残ることになったんだよね。その分魔法に関する戦力が手薄になっているけど、そこは何とかするしかないね。
一足先に出発する私たちを見送る全員が、フィオちゃんが同行できないのを不安がっていたね。みんなそんなにこのさくらちゃんを信用していないのかな? まったく失礼しちゃうよね! 私がいればどんな困難な作戦でもバッチリ成功に導いちゃうのにね。
兄ちゃんなんか私に向かって『頼むから遣りすぎないでくれ!』って何度も念押ししていたよ。そんなに心配しないでも大丈夫なのにね。まったく兄ちゃんは心配性で困るよ。
「エンジンを停止して、全員甲板に整列しろ!」
おや、私たちの事情を説明している間にずいぶん巡視船が接近してきたね。距離は漁船の右舷200メートルの位置まで来ているよ。それじゃあ、そろそろ開始しようかな。船縁に身を潜めて顔だけ出して、巡視船に擲弾筒を向けるよ。
シュパシュパシュパシュパパーン! ドーン! ドドドドドドドドドドーン!
連射モードで擲弾筒を発射すると、甲板で小銃を向けていた巡視船の乗組員が次々に薙ぎ払われていくね。連射モードでも戦車の装甲を突き抜ける威力があるから、魔力弾の爆発に巻き込まれた乗組員は何の抵抗もできないうちに甲板の向こう側にある海に吹き飛ばされていくね。
甲板上の構造物も殆ど跡形もなくなっちゃったから、巡視船はもう何もできなくなっているよ。あとは証拠を隠滅するだけだね。擲弾筒を徹甲弾に切り替えると、船尾を目掛けて5発発射するよ。
ドドドドドーン!
ほら、船体に大穴が開いて、見る見る船が傾いていくね。船尾から流れ込む海水の重さで船首が持ち上がって、真っ逆さまな姿勢で海に沈んでいくよ。救命ボートを用意する時間もないね。乗組員はこのまま船と運命を共にしてもらうよ。これはさくらちゃんに不用意に銃を向けた人間に共通する運命だから諦めてもらうしかないね。
オンボロ漁船は沈んでいく巡視船の引き波に巻き込まれないように、大慌てでエンジンを吹かしてその場から遠ざかっていくよ。この辺の判断は国防海軍の特殊部隊だから抜かりがないね。船の操縦に関して私は素人だから任せるしかないけど、プロは経験でちゃんとわかっているよね。
「手早く片付けてきたよ!」
「主殿、いつもながらお見事でございますな」
「さすがは妾の主殿じゃ! あのような大きな船を簡単に沈めなさったのじゃ!」
ポチとタマは私が一仕事終える様子を見て大喜びしているけど、通信機を担当している野上少尉はちょっと険しい表情だね。どうしたのかな?
「さくら訓練生、巡視船が沈没する直前にSOSを発信しました。救難信号を受信した当局が捜索を開始すると予想されます」
「船がいっぱい出てくるということかな?」
「海上だけではなくて空からも捜索が行われます。当然この船も発見される可能性が高いと思われます」
「それはちょっと困ったね。しょうがないから近付いてきた順に撃破するしかないかな」
これは上陸するまでの仕事が増えてしまったね。こっそりと潜入する予定だったのに、大幅に計画を変更しないといけないよ。こうなったら開き直って堂々と正面から押し潰してやろうかな。
30分後・・・・・・
漁船が航行する上空を哨戒機が通り過ぎていくよ。当然私たちの姿を上空から発見しているだろうね。さて、どんなお迎えが来るのか楽しみになってきたよ! さくらちゃんがバンバン片付けるからね!
「レーダーに感あり! 11時の方向からヘリの編隊が接近してきます!」
「それじゃあ全部撃ち落とすよ!」
船首に出て待ち構えていると、遠くからヘリが私たちに向かって真っ直ぐに飛んでくるね。まだ10キロ以上離れているけど、この距離なら私の腕を以ってすれば十分射程距離だよ。擲弾筒を構えて景気よく連射すると、遠くで火柱が上がったね。はい1機撃墜! まだまだ後続があるから、私の魔力弾を立て続けに食らわせていくよ! それそれっ!
魔力弾は空気抵抗を受けずに真っ直ぐに進んでいくから、こうして遠くの標的でも届いちゃうんだよね。おや、まだヘリが残っているね。どうやら私たちに向かってミサイルを発射したようだね。目がいいさくらちゃんには音速を超えていようがバッチリ見えているよ! 飛んでくるミサイルくらい撃ち落とすのは簡単だからね。
ドドーン!
よし、ミサイルは空中で爆発したね! それじゃあお返しだよ! 最後のヘリに向かって擲弾筒を放つと、あっさりと撃墜しちゃったね。この程度は簡単過ぎるよ。おや、今度は空から甲高い音が聞こえてきたね。遠くの空に戦闘機のシルエットが見えてくるよ。3機編隊でこちらに向かってくるようだけど、これも撃ち落としちゃおうかな。
相手は高速で飛んでいるから、未来位置を計算してから擲弾筒を猛然と発射するよ。1分間に300発の魔力弾が空の彼方に向かっていくと、ほら見事に当たったよ! 戦闘機は黒い煙を引きながら海に落ちていくね。あっという間に3機の編隊が墜落していったよ。
次々にやって来る戦闘機とミサイルを迎撃していくと、操舵室から声が聞こえてくるね。
「多数のミサイルがこちらに向かってきます! 大型の船舶3隻がレーダーに映っているので、ミサイル艇がこちらに向かっているものと思われます」
これはさすがに参ったね。いくらなんでもこの数はちょっと手に余るよ。しょうがないからポチとタマの力を借りようかな。
「おーい、ポチとタマ! 外に出てきてよ!」
「主殿、いかがいたしましたか?」
「ほら、空からこっちに向かっているミサイルが見えるでしょう。あれを魔法で撃ち落としてほしいんだよ」
「これは主殿に頼りにされて、妾は嬉しいのじゃ! 妾が全て撃ち落としてご覧に入れるのじゃ!」
なんだかタマがやる気になっているね。そういえばポチよりもタマの方が魔法は上手だったね。
「雷雲よ、この場に照覧あれ!」
タマが一声発すると空が俄かに掻き曇っていくね。雷の音が響きだして、あっという間に海上は真っ暗になっていくよ。雷雲が周囲を包んだと思ったら、無数の雷が海の上に落ち始めるね。さすがは私のペットだよ。実にいい仕事をしているね。
バリバリバリバリ! ドドドドドドドドーン!
雷がこっちに向かってくるミサイルに次々に着弾して破壊していくね。時々撃ち漏らして接近してくるミサイルがあるから、それは私が擲弾筒で仕留めるよ。
「ミサイル全機消滅を確認しました!」
「タマは実にいい仕事をしてくれたね。このまま船の前方に雷雲を作り出したまま前に進めるのかな?」
「主殿、九尾の妾には容易い芸当なのじゃ! このまま唐国ごと雷にて攻め滅ぼすのじゃ!」
これはいいね。雷のせいでミサイルや戦闘機は近づけないよ! よーし、タマにはあとでチョコレートを奮発しようかな!
「タマ! ご褒美はチョコレートだから頑張るんだよ! このまま港まで一気に進むよ!」
「なんと! 主殿からチョコレートを賜られるとあらば尚更張り切るのじゃ! さすればこうしてくれるのじゃ!」
さすがは大妖怪だね。妖力を更に込めて漁船の周囲2キロを雷雲で覆ってしまったよ! 私たちの船はポチが結界で覆っているから安全だけど、周囲の海には雷がシャワーのように落ちてくるね。さっきよりも雷の勢いが強まっているから、これは最早誰も近付けないね。このまま一気に港に上陸するよ! 機関全開でゴーだよ!
「港まで距離15マイル! このまま一気に突き進みます!」
野上少尉は雷のシャワーにビックリしているけど、今がチャンスとばかりに船の速度を上げているよ。その分揺れが激しくなって、船酔いでダウンしているメンバーは真っ青な顔色で喘いでいるけど、それは見なかったことにしておこうかな。どうせ上陸したらすぐに治るからね。もうしばらく我慢するんだよ!
オンボロ漁船はそのまま寄港予定の漁港に接近していくよ。陸地が近付くと浅瀬があるから速度を落として慎重に接岸していくね。この辺は操船のプロに任せるしかないよね。周囲は相変わらず雷のシャワーが凄い事になっているから、たぶんこの漁港も全滅しているんじゃないかな。巻き込まれた皆さんはどうか迷わず成仏してください!
「接岸しました! ロープを結び付けるので、そろそろ雷を終わりにしてもらえますか」
「そうだったね! タマ、もういいよ」
「このまま妾の妖術で唐国を滅ぼしてもよいが、主殿の命とあらばこの辺で堪忍してやるのじゃ!」
タマが妖術を終えると、周辺の天候が一気に回復するよ。視界がはっきりしてくると、漁港の被害が目に飛び込んでくるね。建物や停泊していた船はもれなく雷の直撃を受けて、真っ黒に焦げているよ。人の気配が感じられないのは、全員避難したか巻き込まれて死んじゃったかだろうね。
「タマ、これはご褒美のチョコレートだよ。ポチも結界を張ってくれたから、稲荷寿司をあげるよ」
「主殿のお役に立てたばかりか、このような褒美を賜って嬉しいのじゃ!」
「主殿のお心遣いに感謝いたしまする」
ペットたちは大喜びでご褒美を受け取っているね。この調子で頑張ってもらうからね。私たちが漁船を降りると、それに続いて船酔いでダウンしていた親衛隊と新入りもヒーヒー言いながら上陸するよ。
「あれ? まだ揺れているような感じがするぞ!」
「でも船の中よりも全然気分がいいな」
「訓練よりもきつかったぜ!」
「やっとまともに空気を吸える気がする!」
「それにしても港の周囲が真っ黒焦げになっているのはどういう理由なんだ?」
親衛隊はダウンしていた影響でさくらちゃんとペットたちの活躍ぶりをまったく知らないんだね。まあいいか、こんなのは序の口だしね。さあ、それじゃあここから先の案内は国防陸軍の特殊部隊の人たちに任せて、敵基地の攻略を開始しようかな。
予想外の襲撃を受けた福建省の司令部は・・・・・・
「不審な漁船はどうなっているのだ?!」
「どうやら大山崎漁港入港したようです」
「こちらの被害状況はどうなっているのだ?」
「巡視船1隻、哨戒ヘリ並びに攻撃ヘリ合計5機撃墜、戦闘機15機が行方不明、ミサイル艇3隻が航行不能に陥っています」
「行方不明とはどうなっているのだ?」
「突然発生した雷雲によって撃墜されたものと考えるのが妥当です」
「なぜ都合よく雷雲が発生するのだ?」
「理由は判然としません」
司令部の指揮官と参謀は頭を抱えていた。中華大陸連合では帰還者に関する情報が政府の一握りの人間にしか公開されておらず、地方の指揮官レベルでは『そのような存在がいる』程度の知識しか持ち合わせてはいない。海南島の指揮官であった庚中将が帰還者の存在に考えを巡らせたのは、彼は持っている軍人としての秀逸な想像力の賜物だったといえよう。
「とにかく敵兵力が大山崎漁港に上陸したというのは間違いないのだな。このまま放置しておけば我々の立場が危うくなる。全兵力を集中して対処するのだ」
「了解しました」
こうして福建省の司令部は相手の力もわからぬままに、陸軍と空軍の大規模な兵力動員を開始するのだった。
漁港に上陸したさくらたちは・・・・・・・
丸1日船で過ごしてようやく上陸を果たしたね。やっぱり地面に足がついていると安心するよ。船酔いで苦しんでいたメンバーもあっという間に回復しているね。さて、これからどっちの方向に向かえばいいんだろうね?
「本来は漁港で適当な車両を奪って車で移動する予定でありましたが、これほどまでに周囲が黒焦げになっておりますと、まともに動きそうな車両が見当たりません。しばらくは徒歩で北西に進みましょう」
案内役の陸軍特殊部隊の長野中尉が呆れた表情で周囲を見渡しながら今後の方針を伝えてきたよ。魔法や妖術なんて一般の兵員は眼にする機会がないから驚くのは当然だよね。ましてタマが張り切っちゃった結果、漁船の周囲10キロは雷のシャワーが落ち捲くったからね。まだあちこちから燻った煙が立ち上って、焦げ臭い匂いが充満しているよ。
「ボス、こうして黒焦げの景色を見ると、いかにも戦場という雰囲気が伝わってきます」
「うーん、さすがにこれはちょっと遣り過ぎという気もしてくるけど、ここから先はいつ敵が出てくるかわからないから気を張っておくんだよ」
「イエッサー!」
こうして私たちは漁港から歩き出すよ。長野中尉が手にするタブレットには泉州の周辺地図がインプットされているから、画面案内に従って行けば迷わないよね。
さすがに10キロの行軍は船酔い明けのメンバーにはきついから途中で休憩を挟むよ。みんな石垣島を出港してから殆ど飲まず食わずだったからね。胃の調子が回復したら急にお腹が減ってきたそうだよ。私もちょっと空腹だったからね、朝ご飯の時間だから一旦大休止を取るよ。
「教官殿! ようやく生き返ったような気分であります!」
「これから戦闘が始まるかもしれないから、気を抜くんじゃないよ!」
「了解しました! 射撃訓練を積んだ成果をお見せいたします!」
親衛隊と新入りはここに来る前に東富士演習場でみっちりと射撃訓練を繰り返してきたんだよ。それだけじゃなくて、同行している海軍と陸軍の特殊部隊の6人にも臨時に魔法銃が支給されているんだよ。彼らは射撃に関してはもちろんプロ級の腕を持っているんだけど、事前に東富士で射撃訓練した時にはその威力に目を丸くしていたね。小銃サイズで敵戦車を撃ち抜いちゃうからね。
したがってこの場に用意されている私たちの戦力は、魔法銃が12丁となっているんだよ。その他に私の擲弾筒とポチタマの妖術もあるから、これは相当な戦力だよね。あの生意気なカイザーたちは6人でロシア軍基地を壊滅に追い込んでいたけど、単純な火力だけでもこちらは2倍以上あるからね。
ついでに親衛隊と新入りは特殊部隊の人たちとペアを組ませているんだよ。バディとも呼ぶけど、この機会に特殊部隊の動きも学んでほしいね。きっと何か身に着く点があると思うよ。単純な動きとか戦闘力だけなら親衛隊の方が上だけど、気構えとか標的を狙う順番とか、そういう細かい部分に気が付いてくれるといいね。私の教え方とはまた違う点が必ずある筈だよ。
「さて、お腹がいっぱいになったから、時間ももったいないし出発しようか」
「この先5キロに大きな橋があって、そこから更に5キロ進むと武装警察の拠点があります」
「いいんじゃないかな。手頃な相手だし、何よりも車両を手に入れたいからね」
武装警察については兄ちゃんから話を聞いているよ。装備は陸軍と遜色ないらしいね。このまま歩いて移動するのはさすがに時間が掛かり過ぎるから、まずは車両を奪わないとね。
こうして体力が回復したさくらちゃんご一行は第1目標に向かって歩き出すのでした。
ついに上陸を果たしたさくらたち、いよいよ敵基地への攻撃開始となります。その顛末は・・・・・・ 投稿は明日を予定しています。どうぞお楽しみに!
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