142 迎撃戦
舞台は済州島からお話がスタートします。
中華大陸連合とミサイルの打ち合いの様相を呈している済州島の国防軍司令部では・・・・・・
「敵ミサイル、当基地の防空圏内に侵入しました!」
「迎撃ミサイルを発射せよ」
「ミサイル連隊に告ぐ。敵ミサイルが防空圏内に到達! 戦術コンピューターの割り振りに従って迎撃を開始せよ」
司令部からの命令を受けて今か今かと待機していたミサイル連隊が即座に行動を開始する。アメリカが開発した多連装ロケットシステムMLRSを国防軍が改造した自走発射機M270に搭載した迎撃ミサイルが、炎の帯を後方に引きながら西海上を目指して飛び出していく。
開発当初は地上戦に於いて遠隔地への平面制圧を目的とした攻撃が想定されていたMLRSだが、日本の場合は周囲を海で囲まれているために地上戦が実際に行われるという想定は現実的ではないし、仮にその場合は敵国軍がすでに日本へ上陸を果たしている場合に限られてくる。
自衛隊時代に数は揃えたものの、有効な運用先がなかったM270に、ミサイル迎撃システムと専用の小型ミサイルを搭載したものが、天岩戸システムの中核を担う23式ミサイル迎撃車両となっている。
このシステムは発射筒から同時に12基のミサイルシーカーを発射して、そのシーカーから小型の迎撃ミサイルが1基あたり3発に分かれて飛び出していくという強力な防御兵器だ。小型ミサイルは22式短距離地対空誘導弾と命名されており、マッハ3の最高速度と200キロの航続距離を持ち、GPS慣性誘導と熱源追尾センサーによって飛来するミサイルを破壊する。
済州島に向かってくる100基の中華大陸連合が放ったミサイルに殺到していく22式短距離誘導弾、標的をレーダーで認識すると、大きく後方に回りこんでから速度を上げて1基また1基と海上で撃墜を重ねていく。
「12基の敵巡航ミサイルが迎撃網を掻い潜りました!」
「対空機銃準備せよ」
基地に設置してある多数の機銃が一斉に銃口を敵ミサイルへと向ける。これらはイージス艦に搭載されているファランクスと基本的なシステムは共通している。衛星とリンクしているコンピューターが自動で照準を合わせて標的を的確に破壊するように設計されている。
「対空機銃発砲開始!」
断続的な機械音が響く。銃口から炎と黒い煙を噴き出しながら20ミリ弾を視認不可能な速度で撃ち出していく。1秒間に75発というあまりに速い発射速度のせいで、その発砲音はチェーンソーを動かす時のようなモーター音にも聞こえる。10秒にも満たない発砲音は突然終わりを迎えて、機銃の周辺には火薬の匂いだけが立ち込める。
「敵ミサイル、全基撃破!」
「一先ずは被害なく敵の攻撃の第1波は凌いだな、次は航空機が来る。対空ミサイル旅団は気を緩めるな」
「了解しました」
すでに敵ミサイル迎撃の役目を終えたMLRSとは別の車両が横並びで待機している。こちらはF-15やF-35が搭載している25式対空誘導弾を陸上配備型に仕様変更した26式地対空誘導弾を搭載している。海南島攻略戦で中華大陸連合の戦闘機を相手にして記録的な戦果を挙げた例のミサイルとほぼ同型の代物だ。戦闘機搭載型の25式に比べると、ミサイルの全長が約1メートル延長されており、その分最高速度はマッハ3.2と控えめになっているが、搭載燃料が増えたおかげで航続距離が2倍になっている点が大きな変更点である。
「すでに国防空軍機は全機上空で待機しております」
「ミサイル発射後に敵機に襲い掛かれ。タイミングを間違わないように各機に通達しておけ」
「了解しました」
中華大陸連合の航空機が刻一刻と迫る中で、司令部には張りつめてはいるものの、努めて冷静な空気が流れている。その理由はこの2段構えの迎撃網を中華大陸連合の航空機が突破するのは不可能という自信の表れでもあった。
中華大陸連合が経済破綻とその後の貿易の途絶で武器の装備体系を維持するのがやっとの状態であったこの10年、日本国防軍は日々新たな装備の研究に余念がなかったのである。ひとつ問題があるとすれば、それは予算が中々増えないというジレンマだったが、限られた予算をやりくりしながらこうして最新装備への更新を怠らなかった。
「敵機、当基地まで200キロに接近!」
「150キロまで引き付けるんだ!」
「了解、180,170、160,150、攻撃圏内侵入を確認!」
「対空ミサイル発射せよ」
「了解」
MLRSから再び炎の尾を引いて合計120基の地対空ミサイルが発射されていく。当ミサイルはその性能が完全にベールに隠されており、発射実験すら米軍の協力で極秘裏に行われていた。こうしてその全貌を明らかにするのは今回が初となる。そしてこのミサイルを発射された中華大陸連合の多くの航空機にとっては、今回が最期となるのだった。
済州島を目前としている中華大陸連合の山東省斉安第103航空隊は・・・・・・
「隊長機から各機へ、目標の済州島まで距離200キロ、そろそろ敵の迎撃機が姿を現す頃だ。各機レーダーに注意しておけ」
「了解しました」
山東省にある基地を飛び立って編隊を組んで飛行することおよそ30分、ここまでの飛行は順調だ。黄海の3分の2を横断して、そろそろ水平線に済州島の島影が見えてくる頃、突然レーダーに多数の飛翔体が映りこむと同時に、けたたましいロックオンアラームがコックピットに響き出す。
「敵機の姿・・・・・・ 違うぞ! 速度が速過ぎる! これは対空ミサイルだ! 各機、右に旋回して回避しろ!」
「早過ぎます! このままでは回避が間に合いません!」
「フレアを撒け! 囮に食い付かせろ!」
「画像誘導のようです。フレアに反応しません!」
「全速で振り切れ! 海面ギリギリまで高度を落すんだ!」
「敵ミサイル、なおも食いついてきます!」
「ミサイル接近! もう間に合いません!」
「脱出しろ!」
コックピットを覆うキャノピーが開いて乗員を座席ごと空中に離脱させる。真っ白なパラシュ-トが大空に花を咲かせたように広がり、戦闘機のパイロットは海上にゆっくりと下降していく。その頃自分が搭乗していた機体はミサイルの直撃を受けて爆発の炎と煙を上げながら、パーツがバラバラになって海上へと落下している。一先ずは直撃を逃れたパイロットたちだが、下は冬に入った波がうねる海上、救助の手が及ばなければ万に一つも助かる道はなかった。
こうして26式地対空誘導弾の洗礼を浴びた中華大陸連合の戦闘機並びに爆撃機は次々と撃破されて、命からがらミサイルを掻い潜った機体は、追い討ちを掛けるように空域に殺到した国防空軍のF-15並びにF-3にミサイルを雨のように浴びせられて撃墜されていくのだった。
同時刻、石垣島を出発した国防海軍あきづき型駆逐艦ふゆづきでは・・・・・・
「教官殿、先程から気合を入れておりますが、なぜか腹の奥の方から込み上げるような吐き気を感じます。気合を入れているから、船酔いになる筈ないのにおかしいです」
「それはまだ気合が足りないんだよ! その辺で筋トレでもしていればすぐに良くなるよ」
泉州基地の攻撃に向かっているさくらちゃんだよ! 新入りがなんだか青い顔をして私に不調を訴えてくるから、軽くアドバイスをしてみたんだよ。筋肉は裏切らないからね。どんな場所でもこうして鍛えていれば気分が良くなって来る筈なんだよ。おや、新入りは甲板に出て行ったと思ったら、またすぐに戻ってきるよ。本当に騒がしいやつだね!
「教官殿、腕立てと腹筋を100回ほど行いましたが、益々気分が悪くなってきました」
「きっとまだまだそのくらいじゃ足りないんだよ! もっと回数を増やしたらいいと思うよ」
「ではもう1セットやってみます」
新入りは青い顔をしてまた甲板に出て行くね。艦内では運動をする場所なんかないから、甲板の端の邪魔にならない場所で筋トレをやっているそうだよ。私はポチとタマの3人でのんびりとお茶を飲みながらおやつの時間だからね。あんまりつまらないことで邪魔をされたくないよ! 本当に!
「主殿、海の上でいただく稲荷寿司はまことに格別な味でございますな」
「妾も〔ろーるけーき〕なる物を初めて食したが、これはまことに美味なる物じゃ! 富士に戻ったおりには再び食したいのじゃ!」
ポチのおやつは相変わらず稲荷寿司一辺倒だけど、タマは色々な物が気に入っているようだね。中でも甘い物が大好きなんだよ。飼い主としてはこうしてペットのおやつにも気を配らないといけないから中々大変だよね。
おや、また新入りが食堂に駆け込んできたね。今度は一体なんだろうね?
「教官殿! 益々気分が悪くなってきました! 本当に自分の気合が足りないのでしょうか?」
「そうだね、気合不足だね」
「もう1セットやってきます!」
新入りはまた甲板へと消えて行ったよ。落ち着きがなくて困るよね。でもしばらくするとまた食堂に駆け込んでくるよ。
「教官、気分が悪くてこれ以上のトレーニングは無理なようです。なぜ自分はこうも気合が足りないのでしょうか?」
「その辺は個人差があるからね。そういえばうちの兄ちゃんも海南島に船で上陸する時気分が悪くなったと言っていたよ」
「それって、まさか・・・・・・」
「確か兄ちゃんは船酔いしたと言っていたね」
「あの怪物ですら船酔いには勝てなかったんですか・・・・・・ ということは俺の気分が悪いのは?」
「たぶん船酔いじゃないのかな」
「そうなのか! やっぱりただの船酔いだったのか・・・・・・ ムリ、これ以上耐えるの絶対ムリ!」
新入りはまた甲板に駆け出して行くね。この程度の揺れで船酔いとは片腹痛いよ。鍛え方が足りないんだよね! さくらちゃんは富士に戻ったらトレーニングメニューを2倍にしようと決心したよ。それはそうとして、親衛隊も5人揃って青い顔をして食堂の床に転がっているよ。今回の遠征で最大の敵は船酔いだったようだね。おや、新入りが少しマシな顔をして戻ってきたよ。
「教官殿、少しだけスッキリしてきました」
「おやおや、船酔いを克服するいい方法が見つかったのかな?」
「克服はできませんが、この辺の海に住む魚が良く育つと思います」
「そうなんだ。この辺で獲れた魚を美味しく食べられるといいね」
「いえ、自分はあまり口にしたくはありません」
それだけ言い残すと新入りはそのまま床に転がったよ。どうやら立っているのがもう限界のようだね。でもどうして少しだけスッキリしたのか、その方法が良くわからないね。まあいいか、このまま漁船に乗り換えるまでは放置しておこうかな。
夕方になると駆逐艦は台北沖に到着するよ。ここからは例のオンボロ漁船に乗り換えて、暗闇に紛れて上陸する予定なんだよ。私とポチたちは全然平気なんだけど、残りのメンバーは相変わらず青い顔をしているね。船酔いなんか気合次第でどうにでもなるのに。
漁船の居住区は狭い3段ベッドが並んでいるよ。我慢してここで一晩過ごすしかないね。
「国防海軍特殊部隊の野上少尉であります。約8時間で泉州湾にある小さな漁港に到着する予定であります」
「わかったよ。何かあったら起こしてくれればいいよ」
漁船を操船する海軍特殊部隊の人が3人と、上陸してから私たちを案内する陸軍特殊部隊の3人がこのオンボロ漁船に乗り込んでいるんだよ。私たちを合わせると合計15人も乗っているから、中は人がぎっしりになっているね。船酔いしている新入りと親衛隊はベッドに横になってこのままでは使い物にならないね。
私とポチとタマの3人で晩ご飯を食べてから特にすることがないからそのまま寝ちゃうよ。私の代わりにポチとタマが見張りをしてくれるから安心だね。妖怪は一晩くらい寝なくても全然平気らしいよ。富士では祠の中に入って寝ているのは妖力の回復のためなんだって。さて、私も眠くなってきたからね、それじゃあおやすみなさい。
翌日の夜明け前・・・・・・
「主殿、目を覚ましてくだされ」
「うーん、もうちょっと寝ていたいんだよ」
「大きな船が近づいてまいります。いかがいたしましょうか?」
「おお、それは大変だね! 見つかっちゃったのかな?」
ポチの声でパッチリと目が覚めたよ。ドライスーツ姿のままで寝ていたから、着替えの手間が要らないね。そのまま操船室に入って海軍の人に様子を聞いてみるよ。
「どうやら海洋警察の巡視船が接近してくるようです。あちらの方が船足が速いので、30分後に接舷されます」
「それは不味いね。しょうがないからこのさくらちゃんがパパッと片付けちゃうよ」
巡視船くらいだったらどうってことないからね。さくらちゃんにお任せだよ。旧式のレーダーを見ながら巡視船がやって来る方向に目を凝らすさくらちゃんでした。
中華大陸連合の海洋警察所属巡視船、海警243号では・・・・・・
「船長、泉州沖50マイルに漁船を確認しました」
「今は禁漁期間中なのにおかしいな」
「船体識別ビーコンが発する電波によりますと、大山崎漁港に所属する遠洋漁船2879番となっております」
「船体自体に不審な点はないのだな?」
「ですがこの船は日本の海洋当局によって3ヶ月前に拿捕された記録があります」
「それがこの時期になって戻ってきたというのか? どうも話が上手過ぎるな。臨検して内部を確認しよう」
「了解しました。進路変更!このまま漁船を追いかけるぞ」
こうして舵を切った海警243は泉州へと向かう不振な漁船を追跡するのであった。
約1時間後、さくらたちが乗り込む漁船では・・・・・・
「巡視船6時の方向から更に接近! 約20分で追いつかれます」
「沿岸から見えない所で始末するから、わざと速度を落とすんだよ!」
「了解しました」
甲板に出ているさくらちゃんの目はすでに水平線に浮かぶ巡視船の白いシルエットを捉えているんだよ。漁船が速度を落とすと、見る見るその姿が近づいてくるね。私はそのまま右舷に体を隠して様子を伺うよ。すでに左手には擲弾筒を用意して迎え撃つ準備は万端だね。
「そこを航行する漁船はエンジンを停止して乗組員全員甲板に整列せよ! 警告に従わない場合は発砲する!」
来た来た! スピーカーで警告を発しながら、私たちの船の右側に並んでくるよ。そっと船縁から顔を出して様子を伺うと、船首にある速射砲がこちらを向いているね。それだけじゃなくて、甲板には小銃を構えた乗組員が20人くらい並んでいるよ。この程度でさくらちゃんをどうにかできると思わないほうがいいよ!
いきなり接近してきて銃を構えているんだから、これはもう私たちに対する敵対行為と受け取っていいよね。今は平和な時代じゃないから、不用意に近付いてくる方が悪いんだよ。
さくらちゃんは敵弾筒の切り替えスイッチを連射モードに切り替えて、発砲のタイミングを窺うのでした。
接近してくる巡視船にさくらはどう対処するのか、そして潜入は無事に成功するか・・・・・・ 続きは週末に投稿します。どうぞお楽しみに!
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