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14 スクランブル交差点の戦闘

今回のお話は敵国の帰還者と遭遇した主人公たちは都心のど真ん中で戦いを始めます。果たして彼らの力は異国の帰還者に通じるのか・・・・・・



 スクランブル交差点の端っこで睨み合う俺と中華大陸連合の帰還者2人、そこにすっかり妖怪を片付けた妹がやって来る。



「なんだかなー、せっかく強そうな魔物が現れたと思ったのに、どれもこれも見掛け倒しでガッカリしちゃったよ!」


「なんだと! あれほどの数の私の遣い魔を倒したというのか!」


 目にした記憶がない変な姿の魔物を呼び出した男が今更うろたえているよ。近付いて来る俺に気を取られて、妹が大暴れしているのに気がつかなかったみたいだな。妖怪の皆さん、せっかく登場したのに何もしないうちに倒されてどうもご愁傷様でした。妹がちょっと暴れたら大体こんなもんだよ。



 2対2で睨み合っている所に空から美鈴が降ってくる。正確には重力を操ってビルの屋上から優雅に舞い降りてきたと表現するべきだろうな。スタッと着地すると同時にマントを翻して芳しいポーズを取っている。左手でマントを広げて、右手は天を指差しているよ。



「自らの力を知らぬ者たちよ、この大魔王を前にして逃れる術は無いと知れ! この世に愚者は生きる価値なし!」


 天に掲げた手を今度はビシッと2人に突き付けている。大魔王モードが発動しているようだけど、これってどこから見ても立派な厨2病だよな。素面に戻って身悶えするほど恥ずかしい思いをするのは自分なのについついやっちゃうみたいだ。普段は大人しい優等生なのに・・・・・・



 先に動いたのは相手の帰還者のうちの女の方だった。まだ指を突き付けている美鈴に向かって飛び出すと、がら空きの胴体目掛けて拳を放つ。どうやら拳法の使い手のようだ。



 パリン!


 だがその拳が美鈴に届くことは無かった。体を覆うシールドが拳を受け止めている。戦闘時は何10枚ものシールドを常に展開しているから、表面の1枚2枚割られても美鈴はビクともしない。これも大魔王の強さの一端だ。



「ほう、この大魔王に手を上げるとは良い心掛けをしているな。その心根に敬意を表して礼をしておこう」


 ズバーーン!


 美鈴が右手を女が立っている地面に向けただけで、アスファルトと敷石に覆われた歩道が垂直方向に爆発したよ! 敷石の破片が弾丸のような速度で女目掛けて飛び出すが、辛うじて体を翻してその爆発を避けている。



「まだまだ甘いぞ! 我に手向かった罪はこの程度では帳消しにはならぬと知れ!」


 美鈴は続け様に女の足元を爆発させていく。まるで地雷原を逃げ回るように女は爆発の兆候があるとそこからヒラリと身をかわす。すでに歩道には穴がいくつも空いてボコボコになっているよ。美鈴さん、公共物はもっと大切にしないとね。



「このままでは埒が明かないな」


 女はジャンプすると身軽に街灯の上に立つ。そのまま街灯から街灯へジャンプしながら距離をとっていく。不利を悟ってこのまま逃げるつもりだろうか。



「さくら、追ってくれ」


「よーし、どこまでも追い詰めちゃうよー!」


 街灯から街灯に飛び移る女を妹が猛スピードで追いかける。女も中々の速度で遠ざかっているが、妹には敵わないだろう。追いつかれるのはたぶん時間の問題だ。 



「ふん、小賢しい魔法だな。我らを分断したからといっていい気になるなよ!」


「一応名前くらいは聞いといてやろうか。俺は国防軍のスサノウ、こちらの偉そうなお方はルシファーだ」


「主席直轄帰還者部隊所属、セカンド。女の方はシックスだ」


 なるほどね、これで相手は中華大陸連合の帰還者だとハッキリしたな。こんな都心でテロを起こしただけでも問答無用で処断してかまわないが、俺の家に侵入した連中の片割れだとわかったからには一切容赦しない。でも一応は人道的な配慮というやつをしておこうか。



「投降するなら命は助けてやる。捕虜として人道的な扱いを受ける権利を認めてやるぞ」


 これは昨日の座学で学んだ交戦規定の内容をそのまま言葉にしているだけだ。相手は絶対に投降しないとわかっているが、こう言っておけば殺したとしても申し開きが成り立つ。あっちの世界と違って日本は色々と面倒な手続きが多いよな。



「誰が投降などするか! 貴様たちを倒してこの私が東京を地獄に変えるのだ!」


「そうか、あくまで抵抗するんだな。いい覚悟だ」


「死ぬのは貴様だ!」


 セカンドと名乗った男はかなり大柄で身長175センチの俺よりも上背がある。その上相当鍛えているようで全身の筋肉が隆々としている。その大柄な体躯に似合わないくらいに軽いステップで接近すると、俺に向かって左右から掌打を放ってくる。俺は特に身動きしないでセカンドがやりたいままに放置して、結果がどうなるか様子見の体勢だ。



 ガシン!


 左右の掌打は俺の胸板に当たっているが、子供に触れられたくらいの衝撃しか感じていない。どうやら心臓に衝撃を与えるのが目的だったらしい。この程度の衝撃じゃ、どう足掻いても俺を倒すのは無理だな。ちなみに俺の防御力は数値で表すと『99999999』となっている。これ以上表示できなくって、1億の手前で止まったまま上昇しなくなった。本当は2億、3億かそれ以上あるかもしれないが、それは俺自身にも全くわからない。


 それにしてもこの男は妖怪を呼び出す術者だったはずだ。さっきの女といいこいつといい、中華民族というのは拳法を全員が標準装備しているのか?



「バカな! 確実に当たっているのになぜ立っていられるのだ?!」


「だから言っただろう。投降するなら今のうちだって。すでに手遅れだけどな」


 俺は呆然として立つ尽くしているセカンドの鳩尾に軽く拳を入れる。これが俺のいつもの戦い方だ。敵の一切の攻撃を無効にする防御力に物を言わせて力技で押し潰していく。妹に言わせると『戦いの美学とは程遠い反則級の戦闘』という言葉が返ってくる。



「グエーー」


 軽く当てただけの一撃にセカンドは体をくの字にして苦しんでいる。ほら、これでちょうどいい高さまで頭が下がってきたぞ。俺はその頭を鷲掴みにすると、掴んだ手からセカンドの体内に魔力を流し込んでいく。



「何だ、膨大な何かが俺の中に、うわーーーーー!」


 体内に許容量を超えた魔力を無理やり流し込まれるのは地獄の苦しみを伴う。強制的に口から大量の水を流し込まれるよりも苦しいだろうな。何しろ体内で行き場を失った魔力が暴走を開始するから、体中の筋肉や組織が細胞ごと壊れていくんだ。ちなみに俺の攻撃力と魔力も防御力と同じ数値になっている。



「まあこのくらいでいいだろう」


 すでにセカンドは体中から血を噴き出して断末魔の痙攣に身を震わせている。このまま放って置けばあと1分以内に死亡するだろうな。今更助けてやるつもりは無いからこのまま路上に投げ捨てて放置しておく。



 ドサッ!


 路上に転がされたセカンドはしばらく痙攣を繰り返していたがすぐに動かなくなる。せっかく異世界から戻ってこれたのに、俺の前に立ったのが不運だったな。来世では平穏な生活を送れるように5秒ほど祈ってやろうか。



「聡史君、相変わらず容赦しないわね」


「えーと、俺の幼馴染の美鈴さん、あなたの口からそんなセリフが飛び出るとは、俺史上最大の驚きですよ!」


「ふざけている場合じゃないでしょう! さくらちゃんがもう1人を追っているんだから、そちらが気にかかるわ。もちろんあの子が無茶をして街を壊さないかという意味なんだけど」


「ああ、そういえばそうだった! まあ大丈夫だとは思うが、一応連絡を取ってみようか。おーい、さくら! 今どの辺りにいるんだ?」


 スマホに繋がるイヤホンから返答が返ってくるのを待つが、一向に音沙汰が無い。その間に美鈴は市ヶ谷駐屯地にいる司令官さんに連絡を取っている。



「聡史君、司令官たちがこの場の片づけをしてくれるそうだから、私たちはさくらちゃんを追いましょう!」


「それがさくらから何の返事も無いんだ。あいつは何をやっているのか心配になってきたぞ」


「敵国の帰還者を追っているんだからそんな無茶はしないと思うけど、何しろあの子の性格だから心配は尽きないわね。急いで2人が向かった方向に行ってみましょう!」


「そうしようか」


 こうして俺と美鈴は現場を放置して井の頭通りを代々木公園の方向に向かうのだった。






 一方その頃、中華大陸連合の帰還者を追うさくらは・・・・・・


 シックスを追う私は代々木公園の近くにやって来ている。街灯から街灯に身軽に飛び移って移動している相手に対して、私は歩道の人混みを縫いながら追いかけている。井の頭通りをNHKの建物を横に見ながら、人の波をヒョイヒョイ縫って追跡している。歩道を歩く通行人は自分の脇を抜けていく一陣の風を感じるだけで、気配を消して人混みを抜けていく私の姿を目で追うことはできない。


 なーんてね! ちょっと真面目な口調でしゃべってみました! このさくらちゃんもその気になれば真剣な雰囲気を醸し出せるんだからね! 私は見ての通りに遣ればデキル子なのだ!



「まったく器用に電柱や街灯をピョンピョン跳んでいくね! それにしても路上よりも障害物が少ないんだからもうちょっとスピードを上げてもらわないと、私がちょっと早めに走っただけで追い抜きそうだよ!」


 街灯から街灯へと飛び移っているシックスよりも、人混みを抜けながら追いかけている私の方が圧倒的に速かった。って、この口調はもう止めたんだった。調子に乗るとつい出ちゃうのは私の知性の為せる業かな? まあこの程度のスピードは何の自慢にもならないけどね! 追いかけっこでこのさくらちゃんから逃げ遂せるとは思わないでほしいな。



「むむ、この先には大きな公園があるね。あそこに逃げ込むつもりかな? おや、この匂いは・・・・・・・」


 視線の先には公園の入り口に停車しているピンク色のワゴン車がある。そこには数人の客が並んでいる。そして芳しいこの香りの正体は・・・・・・



「これは!! あんなヘッポコ帰還者の追跡よりも大事なもの発見!」


 一切の躊躇い無く列に並んで、順番が来ると一気加勢に注文する。



「チョコバナナアイス入りとイチゴホイップで! アイスとホイップはダブルにして!」


 そう、クレープの屋台を見逃す程このさくらちゃんは甘くないんだよ! クレープは甘くて美味しいけどね! 早くできないかな! おっと、ついヨダレが垂れそうになるよ! 


 出来上がったクレープを受け取って周囲を見回すと帰還者の姿は消えている。ふむふむ、どうやら並んでいる間に見失ったようだね。でも大丈夫だよ! ちゃんと気配は捉えているからね! 公園内の木の枝に登って身を隠して休んでいるみたいだね。このくらいのちょっとした運動でヘバるとは帰還者として情けないんじゃないのかな?



「うほほー! このクレープ屋さんは大当たりだね! おや、あの車は・・・・・・」


 そのワゴン車には『ドネリケバブ』という看板と香ばしい肉を焼く香りが・・・・・・ まだ食べたことが無いけど、これは美味しそうだね! 寄るしかないでしょう!



「お薦めの味で2つちょうだい!」


 クレープを手にしたまま注文を伝えると、屋台のお兄さんは愛想の良い表情で丸焼きにした肉を削いで野菜と一緒に生地に包んでくれたよ! うんうん、これは美味しそうだね!


 クレープは一旦アイテムボックスにしまって、ドネリケバブを一口・・・・・・ これも大当たりだよ! でもちょっと喉が渇くから飲み物がほしいね。おお、あそこに都合よく自販機があるじゃないの!



 自販機に立ち寄る途中でホットドッグの看板が目に入ったからそこでも控えめに2つ購入して、片手にジュースを持って色々な味を楽しみながら公園の中に入っていく。おや、そういえばイヤホンが外れていたよ! 兄ちゃんたちはどうしているのかな?



「あーもしもし! 兄ちゃんですか?」


「さくら、お前はどこをほっつき歩いているんだ?」


「今大きな公園の中に居るよ! ここは色々売っていて楽しい公園だね!」


「色々売っているって? お前! 肝心な追跡はどうしたんだ?」


「大丈夫だよ! 今帰還者が潜んでいる場所に向かっているからね! あと5分くらいで到着するよ!」


「わかった、相手は動かないんだな。俺たちが到着するまで待っていてくれ」


「いいよ、食べながら待っているからね!」







 さくらの行方を追う聡史たちは・・・・・・


 通話を終えて俺と美鈴は呆れた表情で互いを見遣る。美鈴は肩を竦めて首を左右に振っている。テロを起こそうとする帰還者を相手にして一刻も早く解決しなければならないこの緊急事態のさなかに、ノンビリ買い食いをしている妹の神経があまりに想像を絶しているためだ。まあそれでも街を破壊するよりはマシだろうと2人とも何とか気を取り直す。



 俺たちは足早に代々木公園に向かう。入り口を入るとそのすぐ先に妹がクレープを手にして立っている。おい! 口の周りがクリームで汚れているぞ! 年頃なんだからそういう細かいエチケットに気を配りなさい。いや、細かいエチケットではないな! 小学生でもわかる程度の問題だぞ!



「兄ちゃん、美鈴ちゃん! 待ってたよ! あっちの木に隠れているよ!」


「わかったから早くそのクレープを全部食べるんだ。口の周りをちゃんと拭くんだぞ」


「美味しいから早く食べるのがもったいないんだよ! もうしょうがないなー!」


 今俺たちが抱え込んでいるこの重大な懸案に対して妹の優先事項は全く別の次元にあるようだ。いいから早く食べちゃいなさい!



「それじゃあ行くよ!」


 ようやく全部食べ終わった妹を先頭にして、俺たちは帰還者が潜む公園の奥に進んでいくのだった。




次回は残るもう1人の敵の帰還者を巡って意外な展開が・・・・・・ どうぞお楽しみに!

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