138 マギー、日本の奥深さを学ぶ
感動の対面を目撃した周囲では・・・・・・
リディアとマリアの感動の対面もあって、食堂の中は周囲の一般兵を巻き込んで『いい話だ!』という雰囲気が溢れている。ナディアは小さかったので孤児院に身を寄せていた頃の記憶はないそうだ。2人は依然として手を取り合いながら涙ながらに思い出話に浸っている。その時・・・・・・・
「おーい、兄ちゃんたち! みんなでまとまって来たよ!」
食堂の入り口辺りで馬鹿デカい声が響くと思ったら、妹がなにやら大勢引き連れて中に入ってくる。天孤と玉藻の前は大妖怪とは思えないピカピカの笑顔で愛想を振りまいているぞ。その後からは妹の親衛隊までドヤドヤ入ってくるじゃないか。
「聡史! さくらが引率している集団は一体何なのよ? 着物を着た2人からは私以上の魔力を感じるし、後ろの5人も何気に魔力を持っているじゃないの!」
マギーが疑問に感じるのはもっともだよな。でも色々と訂正しておく必要があるだろう。
「マギー、天孤と玉藻の前が着ているのは着物じゃないぞ!」
「そこなの! 聡史が食いつく点は着物なの!」
俺の隣でフィオが声を上げているが、白衣に袴といういでたちは日本神道古来から伝わる格式ある装束だからな。アメリカ育ちのマギーに区別がつかないのは当然だろうけど。それじゃあマギーの疑問の後半部分に解答を出そうか。
「袴姿の2人は人間ではないんだ。日本に古くからいる大妖怪で、かれこれ1000年以上生きているそうだ」
「妖怪? アニメに時々登場するけど、それが本当に実在するというの?」
「現に目の前にいるだろう」
「ファンタスティックよ! 日本はなんて素晴らしい国なのよ! 妖怪が人と一緒に生活しているなんて、アニメの世界そのものじゃないのよ! これだから私の日本に対する興味が尽きないのよね。きっとまだまだ色々な秘密がある筈だわ!」
妖怪が実在すると聞いたマギーのテンションが凄いことになっているな。メーターの針が振り切れてマックスを遥かに越えているぞ! このまま日本に住むとか言い出さないか不安になってくる。
「それから5人の女子は妹の親衛隊、チェリー・クラッシャーだよ。元々は普通の子たちだったんだけど、魔力を得た結果ここで訓練するようになったんだ」
「なるほど、だから魔力がまだ少ないのね。彼女たちが例の魔力を増やしている子たちという訳ね」
マギーが納得した表情になっている。チェリー・クラッシャーの話は以前どこかで話したら、魔力が増えていくという現象に関してマギー自身大きな興味を惹いていたんだったな。
「あともう1人元大妖怪がいるんだけど、姿が見えないな。美鈴、レイフェンはどうしたんだ?」
「聡史君、それがね・・・・・・」
美鈴は肩を落としながらレイフェンが消えた経緯を話す。なるほど、隠岐に出現した怨霊とともに黄泉の国へと向かったのか。レイフェンの漢気に溢れた行動には敬意を表する他ないな。たしかレイフェンは俺の魔力を吸収して復活を遂げたそうだから、ここは是非とも一肌脱ごうじゃないな。いや、どうか俺にやらせて下さい!
「よし、早速レイフェンの復活に取り組むとしよう」
「聡史君、お願いするわ」
美鈴が元気がなかったのはどうやらレイフェン絡みだったようだ。俺の提案にぱっと表情が明るくなる。両手を組んでお願いするポーズだな。大魔王様からお願いされるのは珍しいな。命令されるのはしょっちゅうだけど。
ということで昼食後、俺たちは人目に付き難い魔力砲が設置してある駐屯地の一番北側に向かう。マギーも一緒に来たがったが、さすがに彼女に魔力砲まで公開する訳には行かないので、俺と美鈴とフィオの3人だけで極秘エリアに向かう。魔力砲に関して俺は魔力の充填と発射担当だし、美鈴とフィオは術式の開発担当なので、フリーパスでこのエリアに入れるのだ。
「すいません、魔力砲が設置してある場所の奥にある北側の一角を立ち入り禁止にしてもらえますか」
「了解しました」
魔力砲のエリアの警備をしている部隊に申し入れると、あっさりと了承された。そこに一先ずフィオが結界を張って内部を完全に遮断する。
「聡史君、これがレイフェンが残した剣よ」
「奈良で見た時と形状が変化しているな」
「大嶽丸とレイフェンでは装備も形を変えるのよ」
「そういう訳か」
美鈴から受け取った3本の剣を地面に突き刺すと、俺は結界の内部に魔力を充填していく。どの程度の量が必要なのか全く不明なので、取り敢えずは1億程度の魔力を結界の内部に放出すれば完了だ。
「1億の魔力をこうも気軽に放出するんだから、聡史はやっぱり怪物ね」
「他に取り柄がないからな。俺だってフィオや美鈴のように自在に魔法を使ってみたいんだぞ」
「聡史君が自在に魔法を操ったら、私たちの存在感がゼロになってしまうわ」
まあそうだよな。俺は魔力を大量に持ってはいても、満足に使えない不完全な存在だ。魔法の第一人者である美鈴とフィオが常に補ってくれるから、俺たちはこうして強大な戦力を異世界でも日本でも維持できているんだ。
「明日様子を見に来よう。何か変化があるかもしれない」
「そうしましょう。レイフェンが復活してくれないと私が一番困るのよ。大魔王には側に仕える魔公爵が必要なんだから」
そうだよな。供が1人もいない大魔王じゃ格好がつかないよな。その点レイフェンはいざとなればその命すら投げ打つ忠実この上ない執事役だ。俺としても美鈴同様になるべく早期に復活してくれるのを望んでいる。
俺たち3人はフィオが結界の一部を開けた場所から外に出て、そのまま魔力砲の点検をしている技官たちに合流する。現場は2号機の残った一方の砲の術式構築に取り組む作業が継続しているのだ。といっても、俺はバッテリーに魔力をチャージするだけで、術式に取り組むのは美鈴とフィオだけなんだけど。どれ、今日もお仕事頑張ろうか! 美鈴とフィオが・・・・・・
その頃、食堂を出た場所では・・・・・・
「さくら、何で私は聡史たちと一緒に行けないのよ?」
「マギーちゃん、駐屯地には一般隊員が立ち入り禁止の場所がいっぱいあるんだよ! 兄ちゃんたちが向かっている場所は私でも簡単には入れないからね」
「さくらが入れない場所なんてあるの? そこには何が置いてあるのよ?」
「フフフ、それは国防軍の重大な秘密だよ! その代わりマギーちゃんはもっと面白い場所に案内してあげるよ」
親衛隊が『訓練を始めよう!』とうるさいし、マギーちゃんも放置できないから、私は全員を引き連れて地下通路に向かっているんだよ。あそこなら黙っていても妖怪が湧き出してくるから、思う存分訓練し放題だよね。親衛隊の腕がどこまで上がったかこの目で確認できるしね。
「さくら、それにしても親衛隊の子たちはフル装備じゃないの! これが日本軍の魔法銃ね! どんな性能なのか楽しみだわ」
「この子たちが持っているのは初期製造バージョンだね。まだ訓練期間中だから威力は控えめだよ」
私の魔力擲弾筒なんか見せたらビックリしちゃうかもしれないよね。だからまだ公開はしないよ。そもそも射撃訓練以外で私が擲弾筒を使用する機会なんて、今のところ日本国内ではないんだけどね。
「ここから先が危険なエリアだよ。武器の点検は大丈夫かな?」
「ボス、完璧です!」
「それじゃあ中に入るよ! ポチとタマは入り口で待っているんだよ。2人が一緒だと肝心の妖怪が姿を現さないからね」
「主殿、承知しております」
「妾もじゃ。主殿の早いお戻りをここで待っているのじゃ!」
こうして準備が整ったのを確認すると、私はカードキーを差し込むよ。厳重に封鎖してある扉がゆっくりと左右に開くと、その先にはダンジョンのような景色が広がっているんだよ。
「さくら、ここは何なのよ? まるでダンジョンじゃないの!」
「マギーちゃん、ここはダンジョンと似たようなものだよ! 次々に妖怪が現れてくるから、好きなだけ倒していいよ」
「そんな施設があるなんて、日本軍はどれだけ帰還者部隊に力を入れているのよ! あなたたちの強さの一端が窺えるわね」
マギーちゃんが呆れているね。でもマギーちゃん、それは大きな勘違いだよ! 私たちは最初から強かったからね。異世界での経験レベルが違うんだよ! あっちで戦った相手と比べると、ここの妖怪なんかオモチャのような物だからね。
「ボス、子鬼を発見しました! 自分たちから行きます!」
「いいよ、なるべく魔法銃を使わないようにして、手にする武器と魔法で倒すんだよ」
「了解しました!」
親衛隊が5人揃って隊形を組んで前進していくね。私がヨーロッパに発つ前でも子鬼程度だったら十分に倒せるレベルだったからね。今回はどんな倒し方を見せてくれるか楽しみだよ。
「後衛、援護射撃開始! 前衛は射撃終了後に突進する!」
「「「「了解!」」」」
弓から3連射で矢が放たれて、その後からはファイアーボールが飛んでいくね。子鬼は矢に気を取られている所にいきなり火球が飛んできて胴体に直撃を食らっているよ。頑丈な皮膚を持っていても火は熱いからね。着弾箇所を押さえて反射的に蹲るよ。こちらからするとまたとない攻撃のチャンスだね。もちろんそんな好機を見逃すような親衛隊じゃないよ。私がそんな甘い育て方なんかする筈ないからね。
「美晴! 初手を譲るわ!」
「任せろ! 私の一撃を食らえぇ!」
真っ先に子鬼の前に殺到した美晴が、思いっきり頭上に振りかぶった戦鎚を蹲っている頭の上にフルスイングしていくよ。
グシャッ!
そうだったよ! 親衛隊にはタマを討伐した時に実戦用の装備を渡してあったんだ。美晴が手にする大型ハンマーは重さにして50キロくらいあるやつなんだよ。それを上からフルスイングしたもんだから、たったの一撃で子鬼を潰しちゃっているね。それにしてもあの時から比べるとパワーがかなり上がっているよ。
「ボス、掃討完了しました!」
うんうん、ここに来た最初の頃は子鬼1体倒しただけで大喜びしていたんだけど、今は表情も変えずに冷静に報告してくるね。この子たちもずいぶん成長したもんだよ。
「さくら、次は私の順番でいいかしら?」
「いいよ」
親衛隊の活躍を見てマギーちゃんが燃えているね。もちろんマギーちゃんの方がずっと格上なんだから、無様な姿なんか見せられないでしょう。どんな倒し方をするのかちょっと楽しみだね。
「CQCにおける私の武器はこれよ!」
マギーちゃんがアイテムボックスからメリケンサックを取り出しているよ。しかもナックルが当たる部分には3センチ以上はある金属の棘がついている凶悪バージョンだね。おやおや、準備が完了したところでちょうどいい感じに次の子鬼の気配が現れたよ。でも敢えて何も指摘はしないでそのまま通路を進んでいくよ。いざとなったらこのさくらちゃんがちょっと動けばいいだけだから、この場はマギーちゃんと親衛隊に任せているんだよ。
「ボス、角を曲がった先40メートルに気配を捉えました!」
「マギーちゃん、出番だよ!」
「任せてよ!」
斥候役の渚が気配を捉えたのは私よりも10秒後だったね。それでも優秀な方だよ。以前はもっと接近しないと敵の気配なんかわからなかったからね。そして張り切った様子のマギーちゃんは単独で前進していくね。私たちも何かあった時に援護が可能なようにその背後を付いていくよ。
「ギギャー!」
「私の全力を食らいなさい!」
マギーちゃんの姿を見て威嚇する声を上げる子鬼、それを恐れる様子もなく彼女はダッシュしていくね。中々いいスピードを持っているよ。瞬時に子鬼の前に到達すると、右のコブシを引いて打ち出していくよ。
グシャッ!
子鬼の顔面が潰れる音が響くね。吹き飛んだ子鬼はもう動かないから、たぶん即死しているね。さすがは全米最強の帰還者だけのことはあるよ。
「さくら、私の攻撃はどうかしら?」
「いい感じの踏み込みだったよ。マギーちゃんは近接戦闘タイプなのかな?」
「そうね、どっちかというと万能型かしら。元々は魔法使いだったんだけど、近接格闘が好きだったから重点的に鍛えたのよ。その分時間が足りなくて魔法は中途半端にしか取得できなかったの」
「普通なら元々与えられた魔法の力を伸ばしていくでしょう?」
「それだけじゃ満足できなかったのよ! 私は全てに於いて最高を目指したかったの」
なるほどねぇ、マギーちゃんは1つのことでは満足できなかったんだね。私みたいに最初から魔法を諦めて物理特化しているのとも大分事情が違っているね。どんなことに於いても高い目標を持っているのはいいことだよね。特に私はご飯に関しては絶対に妥協はしないという高い目標を掲げているんだよ! でもイギリスではこの目標が実に危うかったよね! 今度あそこに行く時は要注意だよ!
「それじゃあ子鬼は適当に討伐してもっと先に進むよ!」
「ボス、了解しました!」
「どんな相手が出てくるのか楽しみだわ!」
こうして私たちは更なる強敵が出現する通路の奥へと向かっていくのでした。
市ヶ谷の統合作戦本部では・・・・・・
「神埼大佐、出頭しました!」
「わざわざ呼び立てて申し訳ないね。香港攻略戦の概要が決まった。今回も特殊能力者部隊には活躍してもらうから、君も作戦の最終決定に立ち会って欲しかったんだよ」
「参謀総長殿、気を使っていただいて恐縮であります」
陸、海、空の最高指揮官と参謀総長、更には統合作戦本部長まで居並ぶ席に、特殊能力者部隊指揮官の神埼真奈美が呼び出されていた。さすがにこれだけお偉方が並んでいる席では、あの大佐殿も態度と口調を改めている。
「空いている席に掛けてくれ。それでは香港攻略戦の概要説明を開始する」
緊張感漂う席上は、具体的な作戦の説明が開始されるとあって、否応なく緊張の度合いが増していく。その中にあって神埼大佐は冷静な意識を保ったまま、作戦内容をどんな細かいことも片っ端から頭に叩き込んでいくのだった。
統合作戦本部ではどのような作戦がまとまるのか、会議に参加する司令官が果たして黙っているか・・・・・・ この続きは週の中頃にお届けします。どうぞお楽しみに!
今後の見通しとしては、次回作戦が決定して、もう一回駐屯地の話を挟んでから香港攻略戦開始の予定です。スケジュール通りに進めばという条件が付いていますが。なるべく脱線しないようにスムーズに話を進めていきたいと考えております。
それから引き続きたくさんのブックマークをお寄せいただいてありがとうございました。読者の皆様の応援を心からお待ちしております。




