137 たった1人の友達
この小説にしては珍しい内容です。
ハワイから厚木飛行場に向かう米軍輸送機の機内では・・・・・・
「当機はあと30分で厚木基地に着陸します」
機内にパイロットの事務的な連絡が入る。でもこうして日本の地名を聞いただけで、ようやく戻ってきたという実感が湧いてくるな。
「兄ちゃん! 早く日本のご飯が食べたいよ! お米の神様が私を呼んでいるんだよ!」
妹よ、お前は帰国が決まった時点からその一点張りだな。他に何か言うことがないのか? 待っている人とかペットのこととかもっと何かあるだろうに! ダメだ! どうやらその他一切眼中になさそうだ。
「ついに日本に到着ね! この前は短い滞在だったから今度こそ思いっきり日本を堪能するわよ!」
「マギーはどこの米軍基地に配属になるんだ? 沖縄か? 三沢か?」
「聡史は何も聞いていないのかしら? しばらくは富士駐屯地でお世話になるのよ」
「なんだってぇぇぇぇ! どうして米軍所属の准尉殿が俺たちの駐屯地にくるんだよ?!」
しらっと返事をするマギーに対して俺は動揺の色を隠せない。そもそも国防軍の特殊能力者部隊って日本からしたら秘匿部隊の筈だ。それを米軍将校に一般公開するなんてどういうつもりなんだ?
「あなたたちだって散々米軍基地に出入りしたでしょう! これでお相子よ!」
「うーん、なんだ・・・・・・ そう言われるとなんだか納得してしまうな」
「そうでしょう! それにもう両国の上層部で話はついているのよ。私的には聡史の魔力を吸収すればもっと能力が高まるから色々な意味で言うことなしよね!」
「色々な意味? 何だそれは?」
「聡史は気にしなくていいのよ!」
「わかった、気にしない」
「ちょっとは気にしなさいよ!」
どっちなんだい! これだから女子というのはややこしいんだ。その心の内は魑魅魍魎が跋扈する世界になっているんだろう。こういう場合は話題を逸らすに限るな。
「期間は決まっているのか?」
「何よ、急に! まあいいわ。当面は中華大陸連合との戦争が終結するまで私の日本滞在は決定事項ね。ああ、本当に楽しみだわ! カレン、絶対に秋葉原を案内してよ!」
「任せてください! 穴場中の穴場を教えますから! 絶対にマギーも満足しますよ」
マギーが富士に滞在するのは何とか納得するとしても、一体何が目的なのかわからなくなってきたぞ。アニメか? アニメがそんなに大事なのか? 更に俺たちの後ろのシートでは・・・・・・
「さくらちゃん、日本はスシやテンプラが有名ですが、その他に美味しい物はありますかぁ?」
「マリアちゃん! それは実にいい質問だよ! このさくらちゃんがバッチリ紹介するから楽しみにしていいよ!」
「とっても楽しみですぅ! 私たちの国でも日本はミステリアスな国として紹介されていますぅ! 友達のみんなも凄く興味があるんですぅ! 自慢できますぅ!」
こうしてまるで修学旅行のようなノリのまま、俺たちが搭乗する輸送機は厚木飛行場に降り立つのだった。
2時間後・・・・・・
厚木飛行場からヘリに乗り換えて俺たちはようやく富士駐屯地に到着した。副官さんをはじめとして大勢が出迎えてくれるのは嬉しいな。
「マーガーレット・ヒルダ・オースチン准尉、富士駐屯地へのお越しを歓迎いたします。特殊能力者部隊副官の安田少佐です。日米の同盟がより強固ななるよう願っておりますぞ」
「わざわざ出迎えていただいてありがとうございます。当分お世話になりますのでよろしくお願いします」
何だよ、俺たちの出迎えかと思ったらマギーへの歓迎の挨拶のためだったのか。米軍から派遣された賓客だから当然といえば当然だよな。
「楢崎訓練生、さくら訓練生、両名とも今回の任務ご苦労だった。それからマリア訓練生は東中尉が案内するから付いていくように」
「わかりましたですぅ! よろしくお願いするですぅ!」
マリアは中尉と一緒に装備品の受け取りや宿舎の割り当てなどがあるので総務課の部署に一度顔を出すそうだ。彼女はテロリストの片棒を担いだ件などすっかり忘れているかのような表情で東中尉の後を付いていく。調子のいいヤツめ! まあそれでもニーシの街で懸命に救助活動に汗を流していたから、それでチャラにしてやろう。俺は残ったマギーに話を振る。
「マギーの部屋は決まっていないよな?」
「開いている所を使わせてもらうわ」
「私の右隣の部屋が空いていますよ」
「カレン! それはナイスよ! 暇な時間に思いっきりアニメに浸れるじゃないの!」
マギーの表情が今迄で一番生き生きしているように感じるぞ。どれだけアニメが好きなんだろう? まあいいんじゃないかな。話が合う者同士で仲良くしてもらえるに越したことはないだろう。
「それではカレン特士はマーガレット准尉を案内してもらえるかな」
「副官殿、了解しました」
こうして俺たちは宿舎へと向かう。その途中で・・・・・・
「兄ちゃん! 私はポチとタマを迎えにいってくるよ」
「しばらく顔を見せていなかったから喜ぶだろう。行ってこい」
妹は俺たちから離れてダッシュで地下通路へとむかう。あっという間にその姿が見えなくなっていくぞ。何もそこまで急ぐ必要もなかろうに。
「聡史、さくらは誰を迎えに行くのかしら?」
「見てのお楽しみだ。ビックリするなよ」
マギーは頭の上に???を浮かべているな。まさか日本の大妖怪をペットにしているなんて今ここで話しても信じないだろうからな。現物を見て盛大に驚いてもらおう。ああ、そうだ! 美鈴とフィオもすでに隠岐から戻っていると連絡があったんだ。あの2人にもマギーたちを紹介しないとな。
それにしてもしばらく富士を離れていたからようやく帰ってきたという気持ちになるな。実家よりもここの生活に馴染んでいる自分がいるぞ。個性的な仲間が大勢いるから居心地がいいんだろうな。さて、宿舎はもう目の前だ。皆さんただいまぁ!
地下通路では・・・・・・
「おーい、ポチとタマ! 迎えに来たよー!」
「そ、そのお声は我が主殿ぉぉぉぉぉ!」
「なんと! 主殿のお声が聞こえてくるのじゃ! こうしてはおれぬ! 早う支度を済まさねばならぬのじゃ!」
祠の中から声が聞こえたと思ったらポチが飛び出してきたね。タマはまだ支度に時間が掛かっているようだね。
「主殿! 天孤は主殿にこうして見えて嬉しゅう御座いますぞ!」
なんだか大袈裟だね。地面に両手を付いて大泣きしているよ。そんなに私に会えるのが嬉しいのかな? ポチが泣き伏している所にタマも出てくるよ。相変わらず神社の巫女さん姿だね。
「主殿! 妾も主殿にお目通りが叶って嬉しいのじゃ!」
タマも袖を目に当ててよよよと泣いているね。2人ともペットとしてこれだけ懐いてくれると私も嬉しいよ! しばらく会えなかった分今日は大サービスしちゃおうかな。
「2人ともいつまでも泣いているんじゃないよ! これから外に行くからね! 今日は好きな物を思いっきり食べていいよ!」
「なんと主殿のお優しきお言葉! 我は心から感激しておりますぞ! 久しぶりにキツネうどんをご相伴に預かりたく存知まする」
「主殿! 妾は〔ちょこれーと〕なる物を食したいのじゃ! あの甘き香りは妾の心を大いにくすぐるのじゃ!」
「よし、決まったね! それじゃあ売店に寄ってから食堂に行くよ!」
久しぶりにペットの顔を見ると帰ってきた実感が沸いてくるね。イギリスではご飯で苦労したからこれから日本の味をいっぱいお腹に詰め込むよ! ほらほら、いい感じにお腹がグーグー鳴ってきたからね。ポチとタマを連れて外に出ると今度は・・・・・・
バサバサバサッ!
「ウサギの神様戻ッテキタ! 今日ハ焼肉定食食ベタイ!」
おやおや、カラスまで登場したね。私の姿をどこで見ているのか知らないけど、こうしていつの間にかやって来るんだよ。それにしても食べ物の名前をどこで覚えるのか不思議だね。
「今日は大サービスだからカラスも好きな物を食べていいよ!」
「今日ハイイ日! オヤツニ大福モツケル!」
カラスは甘い物も食べるんだね。大福が好きとは知らなかったよ。まあいいか。それじゃあ食堂に行こうか! おや、今度は遠くの演習場の方から声が聞こえてくるね。
「ボスー! お帰りをお待ちしていましたぁぁぁ!」
「やっと帰ってきたぞぉぉ!」
「また稽古をつけてもらえるぞ!」
「やっぱりボス直々の訓練が一番だぜ!」
「挨拶は基本だからな! ビシッと決めるぞ!」
親衛隊の子たちが私目掛けて全力でダッシュしてくるね。そんなに慌てなくてもいいのに。元気があるから別にいいか・・・・・・
「「「「「ボス! お帰りをお待ちしておりました!」」」」」
「私がいない間に訓練は進んだかな?」
「限界突破が涼しい顔で出来るようになりました!」
「それはよく頑張ったね! 毎日その調子で取り組むんだよ! 努力は裏切らないからね」
「「「「「恐縮であります!」」」」」
ふむふむ、言葉通りに動きが以前よりも心なしかキビキビしているね。私から見ればまだまだヒヨッ子だけど、少しずつ形になってきているよ。これは中々いい傾向だね。
「それじゃあ、全員一旦食堂に集合だよ!」
「「「「「了解しました!」」」」」
久しぶりの日本のご飯が目の前だよ! 今から楽しみでしょうがないね! とまあこうして、私たちは駆け足で食堂へと向かうのでした。
その頃、食堂では・・・・・・
「聡史君、お帰りなさい」
「聡史、報告で聞いたわよ! カイザーとかいう帰還者と遣り合ったんでしょう」
「美鈴、フィオ! 2人ともただいま。ずいぶん久しぶりという気がするな」
美鈴は珍しく言葉少なに俺を出迎えている。対照的にフィオは冬なのにヒマワリが咲いたような笑顔だ。美鈴はどうしたんだろうな? なんだか落ち込んでいるような感じがしてくるぞ。あの大魔王様が落ち込むことなんかあるのかな?
「聡史君、実は力を貸して・・・・・・」
「美鈴、その件はもっと落ち着いた場所で話した方がいいわ。それよりも聡史と一緒にいる女性はどなたかしら?」
ああ、そうだった! マギーを紹介するのをすっかり忘れていた。マギーそっちのけで2人と話していたから待たせてしまって申し訳なかったな。
「この人は米軍帰還者部隊のマーガレット准尉だ。海南島とヨーロッパでは色々と協力してくれたんだ。しばらくこの駐屯地で国防軍の中に入って研修することになった。マギー、美鈴とは海南島で顔を合わせているよな。それからこちらのブロンド美人はフィオだよ」
「はじめまして、マギーです。聡史の周りには何でこんな美人ばかり集まるのか不思議でしょうがないわ。しばらく一緒に過ごすのでよろしくお願いするわね」
さしものマギーも大魔王と大賢者の2人が無意識に放つオーラに圧倒されているようで、挨拶に普段のキレを感じない。でも俺に対しては結構ズケズケと物を言うのは何故だろうな?
「久しぶりね、マギーさん。改めて自己紹介すると、聡史の幼馴染の西川美鈴です。コードネームはルシファーよ」
「こちらこそよろしくお願いするわ。私はフィオレーヌ・ド・ルードライン。どうぞ気軽にフィオと呼んでください。コードネームは賢者よ」
美鈴はやや固い表情で、フィオはいつも通りの飄々とした表情で挨拶をしている。美鈴が『幼馴染』の部分を強調したのはどういう意味だろうな?
「ルシファーと賢者か。聡史、日本軍には天使がいるかと思えば悪魔の王まで存在するのかしら? バリエーションが豊富過ぎて呆れるわね」
「その他にも個性的な人員がいるんだ。ほら、噂をすれば・・・・・・」
俺の視線は食堂の入り口から入ってくる姉妹の姿を捉えている。そして俺の姿を発見するなり、その小さなシルエットが駆け出してくる。
「聡史お兄ちゃん!」
ポフッという音を立ててナディアが俺に抱きついてくる。久しぶりの対面に俺の鳩尾の辺りに顔を埋めて一向に離れようとしない。ナディアの頭をいつものようにポンポンしながら、俺は遅れてやって来たリディアに尋ねる。
「2人とも俺が留守中に変わったことはなかったか?」
「ええ、それ程変わったことはありませんでした。それよりも聡史さん、ナディアが離れなくてごめんなさい。母を亡くしてから一緒にいる人がいなくなるのをすごく怖がるんです」
「気にしなくて大丈夫だ。ナディア、安心していいぞ。ナディアは俺がちゃんと守ってやるからな」
俺の声を聞いてナディアはようやく顔をあげる。その瞳には薄っすらと涙が溜まっている。きっともう会えなくなるのではないかと不安だったんだな。
「聡史お兄ちゃんが守ってくれるの? ずっと私と一緒?」
「うーん、時々仕事で出かけないといけないからずっとは無理かもしれない。でもこうしてちゃんと帰ってくるから心配するな」
「ちゃんと帰ってきてくれるの?」
「ああ、ナディアがここにいる限り俺は絶対に帰ってくる。だから安心しろ」
俺の言葉にナディアもようやく安堵の表情を浮かべる。帰ってこないかもしれないという不安が多少は晴れたようだ。まだぎこちないながらも口元が緩んでいる。あとは涙を拭いてやればとびっきりの妖精のような笑顔になってくれだろう。ハンカチを取り出してナディアの涙を拭くとすっかり元気を取り戻している。
「そうだ! 聡史お兄ちゃんに報告があります! せくはら男を怖いお姉ちゃんが成敗しました! 次こそはナディアが串刺しにします!」
「ナディア、その串刺しの件はちょっと待とうか。何があったんだ?」
俺は美鈴を振り返る。ナディアにとって『怖いお姉ちゃん』はもちろん大魔王様のことに他ならない。対する美鈴は何のことだかわからなかったようだ。それほどまでに大魔王からすれば大した事件でもなかったのだろう。ようやく彼女の中で何らかの合点がいった様子が伝わってくる。
「たぶんあの件ね。例の新人君が調子に乗ってまたリディアに言い寄ろうとしたの。大魔王が裁きの鉄槌を下したわ。そのせいでかれこれ1週間自室から出てこなくなったわね」
「引き篭もるまで追い込んだのかい!」
この大魔王様は何をしたんだろう? 当の美鈴はフィオとアイコンタクトしながら・・・・・・
「あのくらいどうってことないでしょう」
「大魔王にしては至極穏便な処置よね」
と、小声で話している。大魔王の穏便な処置というのは帰還者1人を引き篭もりに追い込むレベルを指すらしい。これはまた頭が痛いな。でもどうせあの新人が悪いんだし、まあいいか。当面放置に決定!
そうだった! リディアに引き合わせたい人物がいるのを忘れていたぞ!
「リディア、知り合いが来ているから再会を楽しみにしてくれ」
「私の知り合いですか? 誰でしょう?」
どうやらリディアにはまったく心当たりがないようだ。その時、東中尉に伴われて食堂にマリアが入ってくる。
「マリア訓練生、食事は決まった時間にここで取るように」
「わかりましたですぅ!」
どうやら宿泊棟の各施設を案内されているようだな。そしてマリアの姿を見たリディアの表情が急変する。その目には涙を浮かべてリディアに駆け寄って思いっきり抱きつく。
「マリア! なんて懐かしいんでしょう! 小さな街の教会で一緒に過ごしたあのひと時を一瞬も忘れなかった! あの時が私たち親子3人に与えられた最後の安息の日々だった。マリア、マリア・・・・・・」
「リディア、こうしてまた出会えたのは神様のお導きですぅ! また仲良くして欲しいですぅ!」
マリアに抱き付いたままリディアは今まで誰にも見せてこなかった涙を流している。それは様々な組織に追われてホンのひと時も気の休まる暇がなかった逃亡の果てに得た短い安らぎの時間と、そこで出会った気を許せる友の思い出が一気に蘇ったかのようだった。妹の前では絶対に涙など見せないように頑張っていたリディアだったが、マリアの姿を目にするなり過去の辛かったり楽しかったりした記憶の数々が意識の表層に浮かび上がってきたのだろう。
「マリア、私のたった1人の友達・・・・・・」
「そうですぅ! 私とリディアはいつでもどこでも友達ですぅ! これからずっと一緒ですぅ!」
「マリア、ありがとう・・・・・・」
その先はもう声にならない。リディアはマリアに抱きついたままでひとしきり涙に暮れるのだった。
週末の投稿を体調不良で飛ばしてしまい申し訳ありませんでした。思わぬマリアとの再会で涙を流すリディア・・・・・・ この小説には全くなかったちょっと感動の場面でした。
あと2,3話駐屯地の中での話が続いて、その先からは香港攻略戦開始の予定です。戦闘はしばらくお預けになりますが、よりレベルアップした戦いぶりをお届けできたらと。ここでハードルを上げてどうするんだ! という気もしますが、どうぞお楽しみに!
次の投稿は週末を予定しています。今度は飛ばさないように体調をしっかりと整えてアイデアを練っておきます。どうぞ応援してください!




