135 無双とは・・・・・・
舞台はヨーロッパに戻って・・・・・・ かなり長いです。
ロシアでは・・・・・・
ロシア大統領ブーニンは大統領府の執務室で右腕とも言われる首相を招いて内密の話し合いを行っている。
「首相、此度のドイツの帰還者によって我が国が蒙ったクリミア半島での被害の詳細はまとまったかね?」
「大統領、その後の調査でクリミア駐留軍を中心に被害者数が上昇する一方です。同地に展開しておりました8個師団が壊滅しており、人員の損傷は7万に近くに上っております。同様に戦車、装甲車両、ミサイル発射車両、火砲などの装備の大半がウクライナ側に渡ってしまいました」
「由々しき事態だ。陸軍の再建にどの程度の時間がかかりそうか?」
「参謀本部では3年と見積もっているそうです」
失った兵器は生産設備さえあれば比較的短時間で解決可能だ。だが新たに兵を1から訓練して前線に送るには相応の時間がかかる。特に指揮官や士官も含めて全滅するという状況では、作戦指示を出せる人員を育てるには更に長い期間が必要となってくるのだった。
しかもロシアは沿海州を巡って中華大陸連合と果てしない消耗戦を展開している。この地にヨーロッパ軍団の5分の1に当たる10個師団を振り向けている以上、いかに多くの陸上戦力を抱えているロシアといえども殆ど余力がない状況であった。
「しばらくはクリミアに手を出すのを控えねばならないようだ。国際社会から不興を買いながら支配を進めてきた努力が水泡に帰したか」
「大統領、その通りです。先日発表したドイツに対する非難声明はアメリカやヨーロッパ各国とも同調する動きを見せましたが、それ以上踏み込んだ発言をした国はありませんでした」
ロシアは2014年から開始したクリミア侵攻作戦で国際的な非難を浴びた。その結果G8からの除外や経済制裁によるルーブルの大幅下落といった打撃を受けて国民生活に深刻な支障を来たしてきた。このような国内情勢の混乱も中華大陸連合が対ロシア開戦を決意した一因と考えられる。ところがこれまでの苦労がカイザーの手によって僅か1週間で無になってしまった。今回の出来事はロシア首脳部にとって大きな打撃だ。何よりも世論調査での支持率が記録的な下落を示している。
「おまけに3都市が甚大な被害を受けて死傷者数は未だに集計も出せない状況だ。これだけの痛手を蒙りながら、我が国はドイツに対して何も手を出せないというのは腸が煮えくり返る思いだ」
「大統領のお気持ちと私も同様です。更に国民の間からはドイツに対する攻撃を求める声が日に日に強まっております」
ブーニン大統領と首相はこの困難な状況に頭を抱える。その時、執務室のドアがノックされて1人の人物が入室してくる。彼は対外情報庁の長官であった。この対外情報庁とはソビエト連邦時代に悪名を馳せたKGB第1総局を引き継いだ組織で、ブーニン大統領の出身母体でもあった。この長官も本日の秘密会議のメンバーとして招かれていた。
「大統領、遅れて申し訳ありませんでした。思いがけない重要な情報が飛び込んできたので、その確認に手間取っておりました」
「クリミア派遣軍が全滅した以上の情報があるのかね?」
ブーニンは予定時間に遅刻した嫌味を込めて長官に話の続きを促す。
「カイザーが我が国を出国してからの足取りの続報です。彼らはトルコを経由してセルビアに入国して、南部最大の都市ニーシを壊滅させた模様です」
「なんだと! ドイツは手当たり次第にヨーロッパ中に騒乱を引き起こして何をするつもりなのか?!」
さすがのブーニンもロシアを出たカイザーがバルカン半島で暴れ始めるというのは予想外であった。というよりもそこで騒乱を起こすべき理由やメリットが全く見当たらない。それが『ドイツは何をするつもりか?』という発言に込められていた。
もちろんロシア首脳部はカイザーによるニーシ襲撃がサン・ジェルマンの手によって引き起こされたなどと知る由もなかった。
「大統領のご発言通りにドイツの行動目的があまりにも不可解です。ですがこの事件を我が国としては積極的に利用するべきではないでしょうか」
「確かにドイツの目的は知れないが、相手の失点を有効利用するのは良い提案だと思います」
「首相も賛成のようだ。具体的なプランを情報庁として考えているのかね?」
たった今話を聞いたばかりのブーニンはまだ考えがまとまってはいなかった。だが彼はこの情報庁長官を信頼している。彼がこの会議に遅刻したのは齎された情報を精査して何らかの案を考えていたのではないかと見破っていた。
「直接的にはセルビア国内の過激派に働きかけてドイツ国内でのテロ活動を支援しようかと考えております。そしてもうひとつ大きな仕掛けを立案しました」
「大きな仕掛け? 話してくれ」
ブーニンはソファーから身を乗り出して長官の案に興味を示している態度を表す。
「我が国が直接ドイツに手を下すのは現状の軍の損耗具合を考慮に入れると困難です。まさかいきなり戦略ミサイルを撃ち込む真似など不可能でしょう。ですから他国に働き掛けるのです」
「他国とは?」
「主にドイツと国境を接している国です」
「なるほど・・・・・・ その手はあるな。情報庁でより具体的にプランをつめてくれ」
「承知しました」
ブーニンの瞳にはドイツに対する復讐の炎が燃え上がっている。常々事あるごとにEUの盟主気取りでロシアと対決姿勢を見せてきたドイツに一泡吹かせる道筋が一筋の光明の如く浮上してきたのだ。しかも自らの手を汚さないというおまけが付いている。懸念事項があるとすれば、各国が誘いに乗ってくるかという点だけだ。
その点ブーニンには勝算があった。現状の足並みが乱れたEUはちょっとだけ背中を押せば容易に崩壊する非常に危険な瀬戸際にある。カイザーによって引き起こされたセルビアでの事件はその背中をハンマーで殴り付けるような衝撃をもたらすであろう。一旦火が付けば戦火が際限なく燃え広がるのがヨーロッパという狭い地域の歴史なのだ。
「ドイツが地図から消えるひも意外と近いかもしれないな」
「それでは早速各国への工作を開始します」
その後の話題は中華大陸連合へと移り、この日の話し合いは更に長い時間続いていくのだった。
ヨーロッパの各地では・・・・・・
新聞やテレビニュース、更にネット上ではカイザーによるセルビアででの蛮行を非難する内容で埋め尽くされていた。各国は揃って無関係な市民を虐殺したドイツ政府の責任を問う論調で溢れ返っている。その声はロシアが大きな被害を出したと公表した時よりもはるかに大きなうねりとなっていた。
殊にドイツの近隣諸国は警戒感を隠そうともせずに露骨な反ドイツ的な態度を強めている。何故ならば次にドイツが自国にカイザーを送り込むという危険をどの国も認識しているのだ。1箇所で発生すれば次がある。ロシアから始まってセルビアに飛び火したカイザーという悪夢が次はどこに向けられるのか? そのように考えると、ヨーロッパ中がドイツに猜疑の目を向けるのが当然であろう。
さて、ドイツの東隣にポーランドという国がある。中世においては東欧一の大国であったが、オーストリアのハプスブルグ家の隆盛やプロイセンを中心としたドイツの統一によって領土を次々に切り取られて存在感を失っていったという歴史がある。
更にポーランドは第2次世界大戦ではナチスドイツとソビエト連邦に分割されて地図の上から消え去ったしまうという悲劇を迎えた。絶滅収容所として悪名高いアウシュビッツ収容所はドイツ国内ではなくて占領地であるポーランドに設置されて、そこでは多数のユダヤ人だけではなくてポーランド人も命を落としていた。
このような歴史的な経緯を持つポーランド人のドイツに対する国民感情は複雑なものがある。それが高じた結果2020年代になって総額90兆円に上る第2次大戦の賠償要求をポーランド政府がドイツに付き付けるなどといった事態が発生した。
だがポーランド人にはドイツ以上に忌嫌っている国がある。それは自国の東側に広がるかつての大国ロシアだ。そはもうポーランド人の魂に刻み付けられたレベルといっても過言ではないかもしれない。だが冷戦時代にソビエト連邦が東欧を衛星国家として支配してきた関係上、政府や軍部内には秘かにパイプが築かれているという国民レベルとは乖離した事情もある。そしてその関係は未だに命脈を保っているのだった。
ポーランドの高官の元をロシアの政府関係者が訪れている。
「我が国がドイツに宣戦布告をするだと! 現状では我が国にそのような余裕はない!」
「もちろんロシアが装備や燃料に関して十分な援助を約束します。貴国だけではなくてフランスやイギリスと歩調を合わせるというのはいかがでしょうか?」
確かにドイツに対しての懸案があるのは事実だ。だがそれと宣戦布告といった事態は話の次元が全く別だ。確かにロシアからの援助というのは魅力的な提案だが、それだけではポーランドの命運を懸けるのはあまりにも無謀な冒険だった。だがこの話にフランスやイギリスが加わるとなると風向きが変わってくる。
「仮にその両国がドイツに対する戦争に加わったとしても、ドイツ国内にある米軍基地はどうするのだ? あそこに配備されている戦力だけでも我が国など簡単に吹き飛ぶぞ」
「米軍は同盟国同士の紛争には手を下しませんよ。様子見を決め込むか、場合によっては撤収すると予想されます」
アメリカはドイツの国内に北大西洋条約機構(NATO)軍の基地を構えている。その動きがはっきりとわからない以上、場合によってはアメリカを敵に回しかねないのだった。だがロシアの関係者の発言にあった通り『アメリカは中立を保つ』という状況も現実的に考えられなくもない。ただし現時点では何の確証もないが。
「この件は簡単には決定できない内容だ。より時間をかけて協議していきたい」
「もちろんです。我が国としても英仏に様々なルートで接触を試みます」
こうしてロシアの政府関係者は席を立っていく。この件はしばらく放置して様子を見ながら情勢の変化に敏感に動いていくしかないと判断したものの、頭の痛い問題を持ち込まれて苦悩の表情を浮かべるポーランド高官だった。
その頃、セルビアのニーシでは・・・・・・
「兄ちゃん! ここの瓦礫の下から生きている人の気配を感じるよ!」
「よし、すぐに助けるぞ!」
ニーシの街で救援活動を開始して2日目の朝を迎えた。俺たちは僅かな仮眠を取っただけで瓦礫をアイテムボックスに放り込みながら地下に生き埋めになっている人々の救援を急ぐ。すでに救助の第一の目安となる事故発生後36時間を経過している。時間の経過とともにここから先の生存率が大幅に下がっていくのだ。
とは言っても人口20万の大きな街で崩壊した全ての建物を捜索するのは俺たち帰還者の能力を用いても容易ではない。まだ街の10分の1も片付けてはいないだろう。それでも何とか助けてやりたいから、必死で瓦礫を掻き分けて地下室に通じる箇所を見つける。よし! 生存者を発見したぞ! 救助はセルビア軍に任せて俺たちはすぐに別の建物へと向かう。災害救助に従事する日本国防軍の隊員は毎回こんな状況の中でベストを尽くしているんだろうな。自衛隊時代からの彼らの表に出ない苦労を考えると本当に頭が下がる思いだ。
早朝から開始した救援作業は短い昼休憩を挟んで午後も同じように続いていく。マギーとマリアも気温が低い中で額に汗を浮かべながら次々に瓦礫を片付けている。そしてそんな時・・・・・・
「兄ちゃん、あっちの方から魔力の気配が近づいてくるよ!」
妹が街の南側の入り口を指差している。まだ相当に距離があるから俺の魔力探知では何も捉えられないな。
「マギー、マリア! まだアイテムボックスに余裕はあるか?」
「ぜんぜん余裕よ! 街中の瓦礫が入るわ!」
「大丈夫ですぅ! 街の人のために頑張るですぅ!」
「そのまま捜索を続けてくれ。俺が様子を見てくる。さくら、お前もここに残るんだ! 生存者を発見するにはお前の気配察知が必要だからな」
「兄ちゃん、わかったよ! もし何かあったらすぐに駆け付けるよ!」
「それじゃあこの場は任せるぞ」
俺は現場を後にして街の入り口へと向かって走り出す。すでに路上の瓦礫は大方片付けられて重機やトラックが行き交うのを横目にして町の南に急ぐ。そしてちょうど街の入り口に到着すると、3台のワゴン車から10人以上の男たちが降りてくる。そのうちの何人かは見覚えがあるな。間違いなくバチカンの守護聖人の連中だ。
「バチカンが何の用件だ? 救援活動に来たんだったら歓迎するぞ」
「異端者の命など我らには興味はない。貴様は日本の帰還者だな。我らに天使を引き渡してもらおう」
こいつらは何考えているんだ? この非常事態に押し掛けて来てカレンを引き渡せだと?! 重傷者を救うためにはカレンはこの場になくてはない存在なんだぞ。人命を何だと思っているんだ?
「現在住民の救助作業で手一杯だ。混乱を招かないようにこの場での騒動は遠慮してもらえないか?」
「我らの使命は天使を取り戻すことのみ! それ以外には何も目に入ってはいない。すぐにこの場に天使を連れてくるのだ。これは我らからの警告だ」
「いくら宗派が違うとはいえ人の命が懸かっている現場だぞ! その話は後からにして協力してもらえないか?」
おそらくこいつらも帰還者であろう。もし10人以上いる彼らが協力してくれたら、救助活動が大いに捗る。俺は一縷の望みを託して彼らにこの街の現状を伝えて説得を試みる。それにしてもこうしてやって来たのが外国の救援隊ではなくてバチカンの守護聖人たちだったとは、巡り合わせの皮肉というのは思わぬ所で起きるんだな。
「繰り返し我らの要求を伝える。天使を引き渡せ。それ以外にこの場で貴様に伝える言葉はない」
「よーし、戦争だ! その代わり俺が勝ったら足腰が立たなくなるまで扱き使ってやるから覚悟しろ!」
「いくら大きな力を持っていようがこの人数を相手にして何ができるというのだ? これだから愚かな異教徒は手に負えないな」
いちいち頭に来るやつだな。軽くぶちのめしてやるから覚悟しろよ。だがその時別の男が代わって俺の前に立つ。
「パウロ、君が前に立ったらまとまる交渉も簡単に決裂するだろう。しばらく後ろに控えてくれないか」
「ヨハネ、ここは俺が・・・・・・」
「いいから下がりたまえ!」
「出過ぎました。申し訳ありません」
なんだ? このヨハネというやつが守護聖人の中で一番偉いのか? まあいいか、多少は話がわかりそうだな。
「パウロが失礼した。私はバチカンの守護聖人ヨハネだ。よかったら名前を聞かせてもらえるかな?」
「日本国防軍のスサノウだ」
「我らは無駄な騒乱を起こすつもりでこの場に来たわけではない。何とか話し合いで解決できないかと考えている」
「天使の件に関して答えはノーだ。それよりもこうしている間にも多くの人命を見殺しにしているという自覚はあるのか?」
「その点は申し訳ないと思っている。我々も目的を果たしたら救援活動に手を貸すのは吝かではない」
ああ、よくわかりました! 言い方こそ穏やかだがこいつも基本的にさっきのパウロと一緒だ。もうこれ以上の話は無駄だと判断していいだろう。
「俺の答えはノーだ。この場は諦めて退散するか、さっさと掛かってくるか早く決めろ! 時間が惜しい」
「ずいぶん自信があるようだね。交渉は決裂したと見做すしかないか。全員戦闘体勢に移行しろ! 各自は聖遺物に魔力を込めるんだ」
「了解しました!」
なんだか守護聖人全員がアイテムボックスから様々な物品を取り出して魔力を込め始めているぞ。ある者は杖だったり別の者は鏡だったりするけど、一番多いのは磨き込まれた古い骨だな。これがどんな意味を持った誰の骨なのかなんて全く興味はないけど。おやおや、ヨハネが手にしている頭蓋骨を両手で高々と掲げている。何をするつもりだろう?
「我が声に応えて異教の民を焼き滅ぼし給え! 洗礼者ヨハネよ、同じ名を持つこのヨハネの呼び掛けに天から応え給え!」
ほう、ずいぶん大量の魔力が両手で掲げた頭蓋骨に集まっているな。2,30万くらいかな? 俺から見ると子供のお駄賃くらいの魔力量だけど、どんな効果があるのかちょっと楽しみになってきたぞ。それよりも何らかの術式を発動するのにおのおのの守護聖人がかなりの時間をかけている。この場に妹がいたら全員3回ずつぶっ飛ばされているぞ。良かったな、相手が俺で! 最初の1発はお前たちに花を持たせてやる。
「神の意に逆らう者を罰せよ! ヨハネが齎す神威の光よ!」
なんだか光が俺に向かって飛び出してきたな。感想は・・・・・・ 眩しい! 以上!
「これで終わりか? ずいぶんチャチな神様だな。どれどれ」
骸骨から飛び出した光を眩しいとしか反応しなかった俺を見てヨハネが口をパクパクしているぞ。何を言っているのかと思って近づいて行くと、ようやくその内容が俺の耳に届いてきた。
「バ、バカな! 異教徒に絶大な効果がある洗礼者ヨハネの光が・・・・・・・」
効果はあったぞ。確かに眩しかったからな。俺は頭骸骨を掲げているヨハネに無造作に近付くと右手を伸ばしてその骨を奪い取る。ヨハネは俺の動きに付いてこられずに何の抵抗もしないうちに奪われている。それにしても古い頭蓋骨だな。手にはしたもののなんだか気持ち悪いな。再びヨハネに使われると眩しいから壊しておくか。
グシャッ! バキバキ! パリン!
俺が両手で左右から挟みこんで力を込めると頭蓋骨は小さな破片となって地面に落ちていく。
「バチカンの至宝を!」
「聖遺物を壊したとは・・・・・・」
「神を冒涜する異教徒に死を!」
この様子を見ていた守護聖人は口々にクレームを入れてくるな。タチの悪いクレーマーか! 確かにお前たちには物凄い宝物かもしれないが、俺にとっては気持ち悪いドクロなんだよ。それにこんな姿になってまで見ず知らずの他人から崇めていたら、死んだ人も安心して成仏できないだろうが。ヨハネなんてどんな人か知らないけど、これを機会に安らかに天国に行ってくれ。
どうやら守護聖人の方のヨハネはショックで戦闘不能に陥っているようだな。こいつはボンボン育ちなのか? このくらいで落ち込んでいたら戦いなど遣っていられないぞ。まあいいか、このまま放置しておこう。他の連中はまだファイティングポーズを取っているようだな。特にパウロと呼ばれていたやつは俺を憤怒の表情で睨み付けている。
「おい、バチカンの守護聖人というのは想像以上に温いな。もっと真面目にやれよ!」
「貴様! これ以上の神に対する冒涜はこのパウロが許さんぞ! 喰らえ、聖パウロが齎す信仰の光!」
今度はパウロが掲げた杖からなんだか眩しい光が飛んできたぞ。効果はなんだろうな?
「ハハハ! この信仰の光はどんなに頑なな異教徒であろうとも神の威光にひれ伏す効果を与えるのだ! さあ我が前に跪くのだ!」
ふーん、どうやら精神攻撃系の効果があるんだな。俺はパウロの前に進んでいく。やつはすっかり俺の精神を支配したものだと思って勝ち誇った表情をしている。バカなやつだな、こうも簡単に俺の接近を許すとは。俺はパウロが掲げている杖を奪い取る。そして・・・・・・
バキッ!
半分にへし折ってやった。そのままコロンとパウロの足元に転がしてやる。パウロは信じられないという表情でアワアワと何か呟いているな。こいつも戦闘不能かな。はい、時間が惜しいから次の人!
「今こそ日本での屈辱を晴らす! 我が名はマルス! 我が剣〔ハプテスマの雷〕に切り刻まれよ!」
今度は剣士が大上段に振りかぶって迫ってくるな。こいつは妹に足を折られたやつだったような気がするぞ。まあいいか! はい、行軍用スコップ改Ⅱ登場! 剣とスコップが火花を散らしてぶつかり合う。
カキーン! ボキッ!
金属音が響いたと思ったら、マルスが手にする何とかの雷が簡単に折れちゃった。ちょっと! 材質が弱過ぎじゃないか? いい加減にしろよな。
「そんなバカな! 聖釘を溶かして混ぜ込んだハプテスマの雷が・・・・・・」
マルスは半分に折れた剣を見て茫然自失の状態だ。はい次!
「日本では貴様の魔力に驚かされたが、今回は俺の勝ちだ! 聖クリスティーナの奇跡よ! この場の神を冒涜する者に処断を齎せ!」
こいつは確かアンブロシウスだったな。手にするのは腕の骨かな? そこから無数の矢と炎と大きな口を開いた毒蛇が俺に向かって飛んでくるな。バチカンには面白い魔道具があるんだな。どれ、処分処分と!
「バ、バカな・・・・・・ 以下略」
俺が腕の骨を取り上げてパキンと折るとアンブロシウスは・・・・・・ 以下略。
「俺はフランチェスコ! 以下略」
バキン! 以下略。時間が惜しいからここから俺のターン開始だ。
「お前らは真剣さが足りないな。俺が少しだけ教育してやる。この街で回収した瓦礫を投げるから命懸けで逃げるんだぞ。当たったら本当に痛いからな」
俺はアイテムボックスから無数の瓦礫を取り出すと守護聖人たちに手首のスナップだけで投げ付ける。唸りを上げて飛んでくる瓦礫をやつらは必死の形相で避けている。
「よーし、レッスン1は終了! 次の段階に移るぞ!」
俺は手にする30センチくらいの瓦礫に魔力を流す。大体300万くらいの量で止めておかないと周辺が大変な爆発に巻き込まれるから注意しないとな。
「それ、しっかりと耐えるんだぞ!」
超危険な砲弾と化した瓦礫は逃げ惑う守護聖人たちの傍で地面に着弾して大爆発を引き起こす。地面が50センチくらい抉れているな。良い感じに3人が大空に向かって飛んでいくぞ。あっ、頭から落ちた!
「1発では終わらないからな!」
続け様に俺が瓦礫を投げるとまとめて数人が爆発の勢いで空中散歩に出掛けている。どれどれ、多少は反省したか?
「まだやるか?」
「「「「「「もう勘弁してください!」」」」」」
半数が返事をして残りの半数は地面に倒れたまま意識を失っている。良い薬になっただろう。そこで俺は厳かな口調で守護聖人に申し渡す。
「許して欲しかったらこの街の瓦礫を片付けろ! 1人でも多くの命を救え! 救助が終わるまでバチカンには戻るな!」
「「「「「「了解しました!」」」」」」
こうして立ち上がれる連中は街中に送り込んで、気絶している方はカレンを呼んで治癒してから救助作業に放り込んでやった。街全体の片付けが終わるまで休憩なしの奴隷労働だからな。覚悟しろよ!
「我が神よ、あなた様の慈悲深き行為をこのミカエルは胸に刻みまする」
「命を救うのもまた神と天使の務めだ。まだまだ仕事は残っているからしっかりと頼む」
「我が神の仰せのままに」
こうして俺はカレンと一緒に街に戻っていくのだった。
何とかこの投稿でヨーロッパ編を終わらせたかったので、相当に長い文となりました。どうかゆっくりと読んでください。
次回から再びお話が日本へと移ります。投稿は週末を予定しておりますので、どうぞお楽しみに!
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