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132 隠岐の島

舞台は一旦日本に戻ります。


本日はこの話の前に131話を投稿しております。まだそちらをご覧になっていない場合は131話にお戻りください。

 時間を遡る事1週間、美鈴たちが任務で向かった隠岐では・・・・・・



 コンコン!


 部屋のドアをノックする音が響くわね。



「どうぞ」


「失礼いたします。大魔王様、使いの者がやって来ております」


「ありがとうレイフェン、通してちょうだい。いつものようにフィオも呼んでもらえるかしら」


「承知いたしました」


 任務で隠岐に派遣された私たちはこの1週間殆どホテルで過ごしているわ。最初の2、3日は退屈を紛らわせようと島内を観光したけど、それほど大きな島ではないから名所巡りもすぐに終わってこうして忍者部隊からの連絡を待っているだけの日々が続いているのよ。


 大魔王の忠実な執事を務めるレイフェンが夕暮れ時の来客を告げるわ。もちろんそれはこの島に入り込んでいる鬼道を操る男、山吹を尾行している忍者からの連絡よ。彼らは1日に1回こうして決まった時間に私たちの元を訪れて山吹の様子を報告してくれるの。しばらく待っていると部屋にはメンバーが揃うわ。



「皆様お揃いのようなので報告いたします」


 私たちの目の前に姿を現している黒尽くめの人物は忍者部隊の副隊長でコードネームは〔才蔵〕という20代後半の男性よ。隊長の服部少尉には及ばないものの、部隊内ではナンバー2を務める実力者らしいわ。本名その他の詳しい話は全く明かさないけど。



「お願いするわ」


「山吹はこの島に到着の翌日以来、毎日全く変わらぬ日々を送っております。本日も連絡船に乗り中ノ島に向かった後、島内を一巡して戻ってまいりました」


「目的は判明していないのかしら?」


「未だその行動の目的は定かではございませぬ」


 私たちは島後と呼ばれる隠岐諸島で最も大きな島に滞在しているわ。中ノ島は海峡を挟んだ西側にある島前と呼ばれる群島ね。才蔵は漁船をチャーターして連絡船の後を付けて、中ノ島に渡った山吹を毎日尾行しているのよ。



「不可解な行動はおみくじを木に結んでいる点だけかしら?」


「左様です。ただし日ごとに結ぶ木を変えており、とある史跡をぐるりと取り囲むようにすでに7枚のくじを結びました」


 山吹は中ノ島を散策するような風体でブラブラ歩き、1日に1枚道路脇の木におみくじを結び付けているそうなのよ。そしてくじを結びつけた木がぐるりと取り囲んでいるのは・・・・・・



「やはりあの場所かしら?」


「西川訓練生殿がご想像の通り、後鳥羽上皇御火葬塚にございまする」


 なんだか匂うわね。仮に何らかの術式がおみくじに隠されていて、御火葬塚に何らかの作用を齎すとしたら・・・・・・ これはもう嫌な予感が伝わってくるわ。ちなみに後鳥羽上皇というのは鎌倉時代に幕府に反旗を翻した承久の乱の首謀者で、敗北後隠岐に流配となってこの地で没した第82代天皇よ。日本史の教科書に出てくるわね。必ずテストに出るから覚えておくといいわ。



「魔法ではなくて呪いとか祟りという言葉がしっくり当て嵌まりそうね」


 ここで今まで黙って成り行きを静観していたフィオが口を開くわ。さすがは大賢者ね、私もその意見には同感よ。



「あら、フィオもそう思っていたのね。鬼道というのがどのようなものか具体的にわからないけど、魔法よりも呪いに近いかもしれないわね」


「ある程度様子見で泳がしたけど、そろそろ山吹本人に直撃してもいいんじゃないかしら」


「そうね、私たちもかなり退屈してきたし、明日は中ノ島に渡ってみましょうか」


「それでは早朝に渡る船を用意いたします。山吹よりも先に中ノ島に渡って待ち伏せるのが何よりと存じます」


 船の手配は才蔵に任せましょう。蛇の道は蛇よ。色々と慣れている人に任せるのが一番だわ。



「そうしてもらえると助かるわね。今のところは具体的な作戦は何も決められないわね。相手の出方次第で何とかするしかないわ」


「大魔王には珍しく、まるでさくらちゃんのような行き当たりばったりの行動ね」


「フィオ、こう見えても私は結構短気なの。あなたのように何日でも引き篭もって生活できなのよ!」


「はいはい、明日は大賢者がお供しますから」


「なんだか馬鹿にされている気がしてくる」


 フィオとは長い付き合いだけど、こうして2人の会話になるとなんだか彼女の方が年上に感じるのよね。やっぱり転生前の記憶がある分だけ精神年齢が高いのかしら? 今度年下扱いされたら『オバサン!』と呼んでみるのも面白そうね。ショックを受ける大賢者というのも滅多にない光景だわ。



「それでは私は明朝9時に参ります」


「お願いするわね」


 こうしてこの日も平穏に過ぎていくのでした。

 





 翌日・・・・・・



「ふあ~! まだなんだか眠いわ」


「本当にフィオは朝が弱いわね」


 7時にホテルのレストランに現れたフィオはいきなり口元も隠さずに欠伸をしているわね。夜更かし癖が抜けないのよ。でもさくらちゃんのように寝癖をそのままにして人前に現れるような真似はしないわ。そこは異世界の伯爵令嬢、身嗜みには人一倍気を使っているのよ。



「そんな目が開き切っていない状態で大丈夫なのかしら?」


「たぶん昼までには目が覚めると思うわね」


 レイフェンも一緒に軽めの朝食を取るともう一度身支度を整えてロビーで才蔵を待つわ。そろそろ姿を現す頃ね。



「大魔王様、あの者が間もなく現れます」


「わざわざ気配を消して私たちの前に現れなくてもいいと思うんだけど」


 レイフェンには忍者の気配がわかるようね。私とフィオは全く何も感じないんだけど。やがて私たちの目の前の空間に陽炎のような揺らめきが湧き立つと、その中から才蔵が姿を現してくるわ。



「皆様、おはようございます。手配は滞りなく済んでいまする故、どうぞあちらの車へ」


 私達のほうが部隊での階級は下なんだけど、才蔵は元々こういう言葉遣いらしいのよ。あまり命令口調で言われるのは大魔王として受け入れられないから、この人選は思いの外適任じゃないかしら。隊内でのパワハラなんてご免被りたいわ。もっともこの大魔王自身がパワハラの塊のような存在だけど。



 漁港から小型の漁船に乗り込んで30分で中ノ島に到着するわ。一先ずは山吹がおみくじを結んだ木がどうなっているのか見に行きましょうか。



「巧妙に隠してあるわね」


「一見しただけでは見つけられませぬ」


 杉の木の枝に折り畳まれたおみくじの紙が結んであるのだけど、どうやらこれは視認阻害の術式が篭められているようね。微量の魔力を放っているから存在に気がついたけど、普通の人には発見できないでしょうね。



「何が描かれているか確認しますか?」


「止めておきましょう。このまま山吹の企みに乗ってやるわ。正面から打ち砕いてこそ大魔王のあるべき姿よ」


 私は才蔵の提案を断るわ。仮に何らかの企みを解くヒントがこの紙にあったとしても、全てこの大魔王が打ち破って差し上げるわ。



「さすがは私めが敬愛する大魔王様でございます。その揺るがぬ姿勢こそが私めの主に似つかわしく存知まする」


「レイフェン、あまり褒めないでいいわ。作戦や対策を特に何も考えていない証ですからね」


「恐れ入りまする」


 こうして私たちは7箇所の木とその中心にある後鳥羽上皇の御火葬塚を見て歩くのよ。いずれも外観上は特に何も感じられないわね。わからない以上は山吹に直接聞いてみるしかないわ。あの男は毎日昼過ぎの連絡船でここに来るらしいから、しばらくは待機ね。私たちは港が見渡せる民宿の部屋を借りて一休みするわ。フィオなんか布団に包まってスヤスヤ寝ているじゃない。これじゃあさくらちゃんを笑えないわよ!



 昼食を終えて窓から港を眺めていると連絡船が入港してくるわ。行楽シーズンにはかなり遅い季節だから乗客は疎らのようね。その中には見るからに周囲から浮いている人物の姿があるわ。あれが山吹に違いないでしょうね。



「もうこちらの正体を隠す必要もないでしょう。船を使わないと外に出られない小さな島の中ですからね」


 私たちは前を歩く山吹の50メートル後方を固まって歩いていくわ。当然相手もすでに私たちがいると気付いている筈よ。でも全く何も変わったことがないように山吹は平然と歩いているわね。そして懐から紙を取り出すと、道路沿いの木に結び付けているわ。さて、私たちは更に距離を詰めていくわ。果たしてどんな反応を見せるかしら?



「ククク、ようやく食いついてきたか」


 私たちに向かって振り返った山吹は低い声で笑いながらこちらを見ているわ。なんだか気味の悪い笑い方ね。



「さて、あなたは何者かしら?」


「山吹だ。それ以外の何者でもない」


「あなたが用いる怪しげな術の正体が知りたいわ」


「正体? 知ったところでどうにもなるまい」


 何でしょう、山吹のこの余裕は? 私たちを前にしても全く態度を変えないわね。



「そう、では聞き方を変えましょうか。この島で何をしていたのかしら?」


「お前たちを誘き出して始末する。あの小柄な女がいないのは残念だな」


 きっとさくらちゃんの事を指しているのね。あの子はどこで何をしても本当に目立つのよね。それよりも山吹の強気の返事に対してフィオが横から口挟むわ。


「まあ、この前は尻尾を巻いて逃げ出したのに、今日はずいぶん強気なのね」


「あの時は俺も色々と抱えていたからな。その点今日は準備万端だ。お前たちが何人掛りだろうが相手にはならない」


 なんでしょうね、この自信は? さてこちらの聞きたいことに答える気はないようね。こうなると残されたのは実力行使以外にないわ。



「どうやら話し合いは無駄のようね。好きに掛かっていらっしゃい」


「悪いな、遠慮なく命をもらうぜ。荒御霊御力あらみたまおんちから急急去来給きゅうきゅうにきたまえ遣降天邪鬼つかわしくだせてんのじゃき!」



 山吹が呪文を唱えると俄かに雲が翳りだして突然空から幾筋もの雷が落ちてくるわ。そして落雷があった場所には背丈が5メートルを超えるような大きな影が姿を現す。なるほど、これは確かに鬼ね。駐屯地の地下通路に湧き出る鬼とは全く姿は違うけど。なんていうのか・・・・・・ 異世界の巨人の魔物に近いかしら。一つ目の巨人が全部で5体私たちの前に立っているわね。



「グオォォォォォ!」


 5体の怪物が雄叫びを上げながら私たちに突進してくるわね。さて、どうやって片付けましょうかしら?



「大魔王様、この場はこのレイフェンめにお任せくださいませ」


「ほほう、魔公爵よ! そなたから申し出るとは珍しきこと! 良かろう、相手をしてやるがよい!」


 しまった! ついレイフェンに釣られて魔王モードが発動してしまったじゃないの! フィオが『また私を笑い死にさせる気か!』という表情で見ているじゃないの。



「有り難き幸せ。それでは魔公爵レイフェン、推して参りまする!」


 レイフェンがどのような戦い振りを見せてくるか楽しみね。魔法で戦うつもりかしら?



「スリースターソードよ! 我が手の内に!」


 執事副姿のままだけど、レイフェンの両手にそれぞれ1本ずつ、背中にも更にもう1本の剣が現れたわ。確か大嶽丸の時には『三明の剣』と呼んでいたらしいけど、魔公爵姿だと横文字に変わるのね。



「月光の剣、明星の剣、天狼の剣が我が手にあらば、即ち無敵! 魔公爵レイフェンに滅ぼされるがよかろう!」


 両手に剣を煌めかせてレイフェンが怪物に果敢に挑んでいくわ。一方の怪物は雄叫びを上げながらレイフェンを薙ぎ払おうと手を伸ばすわね。



「笑止!」


「ガアァァァァァ!」


 右手の月光の剣が月の光のように朧げに輝きながら振り切られると、人の胴体よりも太いその腕は断ち斬られてズドンと音を立てて地面に落ちているわね。怪物は斬り落された腕から緑色の血を流して絶叫を上げているわ。



「明星の光るは月光すらも凌ぐ怜悧な輝き! 青き光を以って一太刀に斬り伏せようぞ!」


 レイフェンは怪物の背丈よりも高くジャンプをすると、その脳天から一息に左手を振り下ろす。明星の剣はその巨体を鮮やかに2つに断ち斬っている。


 レイフェンは一旦両手の剣を腰の左右にある鞘にくるりと回転させて収めると、今度は背中の剣を引き抜くわ。



「天狼は空を駆け巡りて闇を纏いながら全てを切り裂く。その速き事は疾風すらも及ばざるが如し!」


 腰の剣よりも一回り長い剣を両手持ちにして残った怪物に襲い掛かっていくわ。その動きはさくらちゃんにこそ及ばないでしょうけど、怪物を完全に翻弄しているわね。普段は魔法の腕しか見せないけど、こうして剣を振るっても相当なものよ! こうしてレイフェンはあっという間に5体の巨人を倒していくわ。



「レイフェンよ! そなたの戦い見事である! この大魔王も只今の姿を胸に刻もうぞ!」


「大魔王様、そのお言葉はレイフェンめにとっては何よりの栄誉でございます」


 胸の前に天狼の剣を捧げて礼の姿勢を取っているわね。その姿は大魔王から見ても中々の頼もしさよ! しかしその時・・・・・・



「ククク、そんな余興程度でいい気になるな! 時間稼ぎは終わってここからが本番だ。黄泉御霊よみみたま急急去来給きゅうきゅうにきたまえ怨霊招来おんりょうしょうらい!」


 山吹の呪文とともに後鳥羽上皇御火葬塚からどす黒い瘴気が噴き出して来る。さながら怨念のコールタールのような濃厚な瘴気に包まれて火葬塚から姿を現したのは、衣冠束帯に身を包んだ極めて高貴な人物であったわ。だがその目は禍々しさに満ちてこの世の全てを滅ぼさんが如くに赤い光を湛えているのよ。



「見たか! これこそが隠岐に流されて無念の死を遂げた後鳥羽上皇の怨霊だ。こいつを黄泉から引き上げるのに丸々1週間を要したぞ。その分恨みと憎しみの力は強大だからな。このまま放置しておくと隠岐の島々を滅ぼして山陰に上陸するぞ。そして向かう先は京都だ!」


「なんとも始末に悪いものを呼び出してくれたわね。怨霊が発する瘴気で近くにある木が枯れ始めているじゃないの!」


「精々頑張って調伏してくれ。俺は呼び出すだけで調伏する方法など知らないからな。あとは任せるぜ!」


 こうして山吹はこの場から逃げ去っていくわ。後鳥羽上皇の怨霊を放置したままではさすがに不味いから、私たちはやつを追いかけるのを断念するしかなかったのよ。今度出会ったら顔を見た瞬間に最強の魔法を放ってやるわ。それまでは命を預けてやるわよ!


 こうして私たちは瘴気を噴き出しながら今にも塚の内部から外に出ようとする怨霊と対峙するのでした。 



怨霊となって現世に蘇った後鳥羽上皇、果たして美鈴たちはその魂を調伏できるのか・・・・・・ この続きは週末にお届けします。


【悲報!】日刊ランキングから陥落しました! まだ週間と月間ローファンタジーランキングは70位前後をキープしていますが、日間は圏外へと・・・・・・ あと数ポイント足りなかったのだ残念です。


どうか読者の皆様! この小説のランキング復活に力をお貸しください! 評価とブックマークでポイントが入ります。目指せ、100位以内! 復活のためにどうぞ応援してください!

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