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126 調査の末に・・・・・・

本日2話目の投稿になります。まだ125話をご覧になっていない方はそちらを先に読んでください。

 何も知らないままドイツに帰国した帰還者たち3人は・・・・・・



 俺たちは形式上はイギリスでのミッションが不発に終わって已む無く帰国した態を装ってフランクフルト空港に戻ってきた。ここからアウトバーンを使えば本拠地のニュルンベルクまでは目と鼻の距離だ。迎えの車に乗り込んで特殊作戦訓練センターへと向かう。


 基地へ到着すると俺たちを出迎えたのはイエーガーだった。こいつは根っからの研究畑の性格で一年中研究室に閉じ篭っているのだが、こうして姿を見せるとは珍しいこともあるなと俺たちは出迎えの礼をする。



「博士、わざわざ出迎えてくれるとはどういう風の吹き回しなんだ?」


「ベルガー、よくない知らせが飛び込んできたから何は置いても君たちには知らせなくてはと思ってね。すまないがそこの小部屋に入ってもらえるか?」


「いいだろう」


 深刻そうな表情のイエーガーの後を付いて俺たちはエントランス脇の小部屋に入る。ここは主に他の部隊から訪問者があった際に面談で利用される部屋となっている。



「博士、よくない知らせとは何だ?」


「昨夜我々の上官が運河で死体となって発見された」


「何だと!」


「なんですって!」


「冗談はやめろよ!」


 つい1週間前に俺たちに密命を与えてイギリスに送り出してくれたあの上官が殺されただと! 帰国して早々悪い冗談は止めて欲しい! だがイエーガーの表情は真剣なままだった。



「まさか本当なのか?」


「ああ、これは公式に発表された事実だよ。疑いの余地はない」


 どういうことだ?! 俺たちはイギリスでの行動には細心の注意を払っていた。もちろんイギリスの情報部から監視の目が光っていたのは重々承知していたが、本国から俺たちの行動を監視する動きは全くなかった筈だ。だが上官が何者かの手によって殺害される理由としては、今回のミッションが関係していると考えるのが妥当だろう。これはもうあからさま過ぎてそれこそ疑う余地がない。



「全責任は自分が取ると言っていたが、まさかこんな形で・・・・・・」


「半分以上は私たちが原因ね」


 ハインツとイエーネは沈痛な表情で俯いている。もちろん俺もあの日の上官の真剣な祖国を思う気持ちを振り返って涙が零れてくる。



「俺たちの手で上官殿の仇を討つぞ!」


 俺の声には強い殺気と強固な意志が滲んでいる。俺たちの予想以上にこの国は腐っている。命令違反は確かに問題だが、その命令自体が間違っている時に抗議の声すら上げられないのか! あまつさえこうも簡単に有能な指揮官の命を奪うなんて、議会や連邦軍首脳部は何を考えているのだ! こうなったら我々の手で政府の腐り切った横暴を暴いて国民に知らせる義務がある。



「ベルガー、くれぐれも行動は慎重にすべきだ」


「イエーガー、忠告をありがとう。だが俺は君のように何でも簡単に割り切れる人間ではないんだ」


「私もベルガーと同じ意見よ」


「僕も上官の仇を討つよ!」


 慎重な態度を崩さないイエーガー、彼は元々争いごとには不向きな人物だ。もっぱら頭の中にある魔法理論によってこの国に貢献している。以前本人が話していたが、実戦は異世界でも数える程しか経験していないそうだ。異世界に召喚される前の職業が研究者で機械工学の専門家だからな。



「イエーガー、安心してくれ。いきなり無茶はしないさ。先ずは現在の政府がどうなっているのか地道な調査から始める。行動を起こすのはしばらく時間がかかるだろう」


「そうならいいが、くれぐれも身辺には注意して欲しい」


 こうして彼は再び研究室に向かう。出不精な彼が私的な理由で俺たちに顔を見せただけでも最大限の好意を示す態度だ。この緊急事態に当たって俺たちが突発的に何か仕出かさないように忠告しに来たのだろう。



「ベルガー、一体どこから手を付けるつもりなんだい!」


「先ずは現在の閣僚を1人1人洗い出していく。これまでの議会や公的な場での発言を調べていくんだ。特に新たな内閣が発足してから入閣した人物は要注意だろう。もちろん一番怪しいのは首相本人だろうがな」


「政府の官僚はどうするのかしら?」


「そこまでは手が回らないな。後回しにしよう」


 こうして俺たちは過去の議会証言や発言についてネットの記録を引っ張り出して洗い出す。その結果、前内閣から継続して閣僚に就任した人物からは目新しい事実は浮かび上がってこなかった。



「やはり首相を含めて新たに大臣に就任した11人の誰かが何らかの策動をしていると考えていいのかしら?」


「早急に判断するのは止めておこう。もっと時間をかけて細かい発言まで調べ上げるぞ!」


 こうして俺たちは帰国したその日から日常の訓練の合間に閣僚の発言を調べ上げる日々を続けるのだった。










 同じ日の夜、ベルリンでは・・・・・・



 私はサン・ジェルマン、こうして外相に成り代わって現在ドイツ政府を操っている最中だ。この屋敷に住んでいた者たちは配下の吸血鬼によって全員処分されて、我が手で灰も残さずに燃やし尽くしてやった。有象無象の人間など私の邪魔になるばかりの取るに足りない存在だ。


 さて、イギリスから戻ってきた帰還者どもはあの警告が薬になったのか基地の中で大人しくしているようだ。念のためにバンパイアを1人監視に当たらせてはいるが、今のところは特段変わった動きは見せていない。私はいつものように執事を務めるバンパイアと話をしている。



「問題は天使をどのように我が手にするかであるな」


「旦那様,それこそが偉大なる魔女様がお望みでございます」


「うむ、幸いにもカイザーという面白い手駒がある。ひとつこれを有効に活用しよう。現在こやつらは何処に居るのだ?」


 私が問うと仲間内の念話で居所を確認している。カイザーにもバンパイアを密かに付けておるから、たちどころにその所在地は明らかになる。



「旦那様、カイザ-は黒海を渡ったロシア領のグラスノタールにおります。彼の街で住民もろともロシア人の虐殺を繰り広げている模様にございます」


「そうか、そろそろロシアを引き上げてもよい頃合であるな。次は何処の場所がよいか・・・・・・ イギリスにこやつらを直接送り込むのはさすがに難しいであろうな」


「日本の帰還者が待ち受けております場に送るには些か力不足と存じます」


 我が最大の秘術によって召喚したスルトすら倒した怪物が待っている国にカイザーを送り込んでも、返り討に遭うのは火を見るよりも明らかであるな。さすればこちらがより有利な場に引き込んでこそ勝ち目が出てくるであろう。



「よろしい、カイザーはセルビアに送り込む。彼の地で騒乱を引き起こすならば、日本の帰還者の注意を引くであろう。のこのこと誘き出されれば私の思う壺であるな」


「御意」


 こうして翌日、国防大臣からカイザー宛に『セルビアへ転進せよ』という新たな指令が齎されるのであった。










 5日後、特殊作戦訓練センターでは・・・・・・



 俺たちはこの5日間に渡って政府の閣僚を徹底的に調べ上げた。その中で浮かび上がってきたのは外相だった。その発言はオブラートでくるんではいるが、かなり過激な汎ゲルマン主義に凝り固まった内容で埋め尽くされている。だがこれだけではどうにも決め手を欠いていたのは事実だ。政治信条は個人がそれぞれに持っているもので、我が国では思想の自由が認められている。公人があまり過激な主張をするのは問題視される場合が多いが・・・・・・


 だが確証となる話は思い掛けない所から俺たちの元へと転がり込んできた。それは昼食時に隣の席に居た他の部隊の将校たちの何気ない会話だ。



「例のカイザーたちがセルビアに向かったらしい」


「あんな場所で火種を振り撒いたらたちどころに戦争が勃発するだろうに。上層部は何を考えているんだ?」


「それが外相の強い意向で国防大臣が押し切られたそうだ」


 この会話が耳に入った瞬間、俺たち3人は顔を見合わせる。カイザーを動かしている黒幕が判明したのだった。実は俺たち帰還者部隊は軍の上層部からの情報が入り難い。だが他の部隊は知り合いや先輩後輩のコネクションによってある程度上層部の話が聞こえてくるのだ。



「この場では不味いから食後に俺の部屋に集まろう」


 俺の提案にイエーネとハインツが頷く。部屋に入ってから今後の作戦の相談開始だ。



「やはり外相が何か企んでいるのね」


「でも軍を動かす権限は最終的には首相が握っている筈だけど」


「どうやって自分の意見をごり押ししているのかはまだこの時点ではわからないな。どうだろう、俺たちでベルリンに乗り込んで外相の身辺を探ってみるのは?」


「そうね、何らかの手掛かりがあるかもしれないし」


「それじゃあ2,3日休暇を取っておいた方がいいね」


 こうして俺たちは翌日から3日間の休暇を申請してからベルリンへと向かうのだった。











 翌日の深夜・・・・・・


 俺たち3人は休暇を取ってベルリンへと来ている。そして現在外相の私邸がある高級住宅街に闇に紛れて潜入している。周辺はすでに寝静まって人っ子一人歩いてはいない。警戒せずとも誰かに姿を見られることはないだろう。注意すべきは街頭に設置されている監視カメラくらいか。



「この先が外相の邸宅よ」


「かなり広い敷地なんだな」


「可能ならば敷地内に潜入しよう」


 こうして俺たちは進入経路を探して敷地をぐるりと1周するが、周囲はレンガ造りの外壁と丈夫な門で閉ざされていた。



「このまましばらく様子を伺おうか」


 俺に同意したハインツとイエーネが頷く。その時だった、俺たちの背後に突然魔力の気配が湧き上がるのを感じた。










 屋敷の書斎では・・・・・・


 うるさいネズミ共が私の周囲に姿を見せたな。大人しくしているならばこのまま見逃してやろうかと思っていたが、こうなると面倒は片付けるに限るであろう。



「旦那様、いかがいたしましょうか?」


「今この屋敷には何人待機しておるか?」


「私を含めて3人でございます」


「そうか、ならばあやつらの尾行をしている者に加えて2人追加せよ。3人掛りで抹殺してまいれ」


「御意」


 愚かな帰還者よ、この場で無残にその命を散らすがよいぞ。そなたたちは果たして不死の存在であるバンパイアにどう対処するのであろうな。これは中々良き暇潰しであるな。精々足掻くのだ。私は興に駆られて屋敷全体を包んでいる結界を開いて事の成り行きに注視するのであった。








 屋敷の外では・・・・・・



「なんだこれは! 大きな魔力が同時に3体こちらに向かってくるぞ!」


「ベルガー、戦闘体勢に入った方がいいね」


「ハインツ、暢気なことは言っていられないわよ! 死にたくなければ戦うしかないわ!」


 どう考えても俺たちに友好的に近付いているとは思えない。それにしても急に現れたこの魔力の持ち主は一体何者なんだ? ただの帰還者とは思えないぞ。しかもそのうちの一体はまだ空中に存在している。空を飛べる帰還者など未だ耳にしていない。だが確実にヤバい気配だけは伝わってくる。



「うわぁぁぁぁ!」


 叫び声を上げたのはハインツだ。彼の体は何者かによって持ち上げられて、邸宅を取り囲んでいる高い壁の中に放り込まれた。同時に俺とイエーネも何か強力な力に持ち上げられて敷地の内部に放り込まれる。



 ドズン!


 痛てててて・・・・・・ バランスを取れないままケツから着地してしまった。目から火花が飛び散る衝撃だぞ。俺の隣にはイエーネが横たわっている。彼女は身体能力が高くないから放り込まれた衝撃で意識を失っているようだ。辛うじて戦えるのは俺とハインツだけだな。これはいきなり不味い状況に追い込まれた。



「クックック! 闇こそがわれらの最大の味方! 闇の中では我らは無敵。この屋敷に足を踏み込んだが最後、貴様らには死あるのみ!」


 何者だ? まだ立ち上がれない俺たちを見下すように3人の男が立っているぞ。随分闇が好きなやつらだな。強い魔力を感じるから帰還者には違いないが、体の奥底から湧き上がるこの違和感は何だ? その時屋敷を包み込むようにして透明な何かが閉じていく。注意していないと気が付かないがこれはどうやら結界のようだ。



「騒ぎが外に漏れるのは不味いからな。こうして結界が閉じられれば物音など誰にも聞こえぬ。貴様らは我ら闇の一族の手にかかって死ぬのだ」


「闇の一族だと! まさかお前たちはバンパイアなのか?!」


 どうやら俺が感じていた違和感の正体が明らかになったな。噂だけは耳にしていたが、まさかこうして本物のバンパイアと対面するとは思っていなかった。クソッ! 3人揃って薄ら笑いを浮かべやがって! 俺たちを獲物だと確信しているな。だがこちらも生憎と帰還者だからな。そう簡単にお前たちに負けはしない!



「ハインツ、お前は早くイエーネを起こしてくれ! 彼女の力が絶対に必要だ!」


「ベルガー、君を援護しながらイエーネを守ってみせる。頼んだよ!」


 一声掛けると俺はアイテムボックスから魔法銃を取り出してバンパイアに向ける。そして容赦なく引き金を引く。こうなったら俺の魔力が尽きるまで撃ち捲くってやる。



 シュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバ!


 ドドドドドドドドドドドドドガガーン!


 魔法銃から撃ちだされた魔力弾はバンパイアに命中して大爆発をする。体のパーツが千切れて吹き飛ばされるが、地面に転がった頭が不気味に笑い出す。



「ハハハハ! この程度の攻撃で不死のバンパイアが痛手を蒙ると思うでないぞ」


 笑い声が収まると3体のバンパイアは何事もなかったかのように元の姿で立ち上がっている。どうやら不死の存在というのは嘘ではないようだな。こうなったら時間稼ぎだろうが何だろうが構わない。とにかくイエーネが目を覚ますまで持久戦だ!



「ベルガー、今度は僕に任せて!」


 ハインツも魔法銃を手にしてバンパイアに発砲を開始する。もちろん着弾すると体はバラバラに飛び散るのだが、直後には再び復活していく。これは相当不味い展開だな。だがその時・・・・・・



「お待たせしたわ。まだちょっとフラフラするけど、私を放り投げてくれたお礼をしないとね。さあ、聖女イエーネの力を御覧なさい! ホーリーレイ!」


 イエーネの体が純白の光に包まれると、三筋の光線がバンパイアに放たれる。さすがは聖女様だ、バンパイアの体が焼き尽くされていくぞ。この戦い俺たちの勝ちだな。だが・・・・・・



「何ですって! 聖女の神聖魔法が効果がないっていうの!」


 イエーネの魔法で体を焼き尽くされたバンパイアたちは白い灰の中から再び復活していた。まさか俺たちの切り札だったイエーネの魔法が効果がないとは・・・・・・ これではさすがに打つ手なしの状況だ。



「中々の魔法だったが我らには効果はない。次は我らの番だぞ! 貴様らは絶望の中で死んでいくのだ!」


 バンパイアたちはその長い爪を月光に煌かせながら俺たちに襲い掛かってくる。背中の翼を広げて宙を飛ぶように直線的に迫ってくる。その速度はとてもではないが魔法銃で照準を付けられる限界を超えていた。もうこれまでかという絶望感が俺たちを捉える。そしてそれは突然の出来事だった。



 ズバーン!


 バンパイアの爪が俺たちに届くことはなかった。横合いから飛んできた強烈な衝撃がバンパイアを3体まとめて彼方へと吹き飛ばしている。何が起きたんだとその衝撃が飛んで来た方向に顔を向けると、そこには肩にバズーカ砲を担いだ女性が立っている。



「お前たちはドイツの帰還者か? まだまだ実力が伴っていないな。現に私が敷地の中でずっと様子を見ていたのに全く気が付かなかっただろう。まあそこに寝転んでいるバンパイア共も同様だがな」


「あ、あなたは何者ですか?」


 ヤバい! この人はバンパイアなど比較にならないくらいにヤバい! 俺の全身の毛穴が総毛立っている。間違いない、この人は俺たちとは何桁も違う絶対的な強者だ。



「これは申し遅れたな。私は日本国防軍特殊能力者部隊司令官の神埼真奈美だ」


 日本の特殊能力者部隊の司令官だと! そ、それはもしかして・・・・・・ その二つ名を〔神殺し〕と呼ばれる、かつてはヨーロッパで大暴れをした人物なのか! 最早伝説に残る帰還者の先駆けの人物がこうして目の前に立っているとは・・・・・・


 俺は信じられない思いを抱えながらこれから開始される信じられない戦いに目を向けるのだった。



ドイツの帰還者の前に突如現れた我らが司令官! 果たして戦いの行方は・・・・・・ 続きは明日投稿します。どうぞお楽しみに!


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