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122 英国面

共通の話題を発見したアニオタたちは・・・・・

「この間アニメ○トに行って大人買いを決行してきました!」


「カレン、あなたは何を手に入れたのよ? 早く教えなさい!」


「マギーさん、良くぞ聞いてくださいました! 秋山殿の限定フィギュア〔雪の進軍仕様〕です」


「なんだと! 秋山殿の限定フィギュアだと! カレン様、俺の全財産を差し出すから譲ってくれ!」


「ジェームス! あなたは引っ込んでいなさい! さあカレン、いくらなら私に譲るか具体的な金額を提示しなさい!」


「お二方とも、あの金額は私が聖地に納めた清らかなお布施です。その結果として得た収穫を他人に譲るとは神の御心に叛く行為です」


「譲る気はないようね。カレンの心がこれ程までに狭いとは思わなかったわ」


「ぐぬぬ、秋山殿ぉぉぉ!」


 イギリス軍が用意した大型バスの車内はアニメ好きたちがまるで遠足のような騒ぎを引き起こしている。ロンドンからポーツマスまでの所要時間はおよそ3時間、その間3人はこの調子で騒ぎ倒すつもりらしい。妹とマリアはシートを倒して夢の世界に入り込んでいる。路面から伝わる心地いい揺れが睡魔を誘うんだよな。俺もひと寝入りしようかと目を閉じ掛けると、つかつかという足音と共にマギーが俺の席にやって来る。



「聡史、カレンは秋山殿のフィギュアを絶対に譲る気はないのよ! 酷いと思わない?」


「個人の趣味に口出しできる程アニメは知らないからなぁ」


「聡史、あなたは人生を損しているわよ! 日本人だったら絶対にアニメを見るべきなのよ!」


「いや、俺はアニオタじゃなくて軍オタだから」


「何を言っているの! 今話題になっているのは戦車のアニメよ! あなたも参加する義務があるわ!」


「俺は古い戦車じゃなくて最新型が今後どんな形に進化していくかに興味があるんだよ。そのアニメは何度か見たけど俺の守備範囲じゃないな」


 俺の扱いが余りに取り付く島もないのでマギーはぐぬぬ顔で元の席に戻っていく。彼女が戻るとアニメ好きの話題は別の作品に移っているようで、再び和やかな笑い声が響いてくる。



「スティーブ、海軍基地に到着するのは夕方になるのか?」


「そうだな、この時期は夕暮れが早いからすっかり夜になっているかもしれない。それよりもポーツマスの手前にソールズベリーという街があるんだが、そこで1泊できないか中佐に掛け合ってみよう」


 ソールズベリー? 全然聞いたことがない地名だな。そんな場所に何の用事があるんだろうな?



「聡史、中佐からオーケーが出たぞ! 今のところはドイツに目立った動きはないそうだから、ソールズベリーにある陸軍訓練場に行こう。そこで君たちに見てもらいたい物があるんだよ」


「訓練場があるのか。いいだろう、立ち寄ってみよう。俺たちはイギリスの地理がわからないから案内は全て任せるよ」


 地図を見るとロンドンからほぼ西に80キロ進むとソールズベリーがあって、ここから折れ曲がって南に40キロの場所に目的地のポーツマスがある。途中下車になるけど回り道する訳ではないからいいんじゃないかな。こうして俺たちを乗せたバスは今日はソールズベリーの街で1泊することとなった。






 翌日・・・・・・


 時差というのは中々体が慣れないものだな。ハワイとロンドンは北半球の正反対だから昼と夜が逆転する。途中のフィラデルフィアで1泊したけど、かえって体内時計が狂ってしまったようだ。状態異常無効化のスキルも時差ボケには効果がない。


 ところが時差などものともせずに元気に動き回っている人物がいる。言わずと知れた俺の妹だ。飛行機の中だろうがバスの車中だろうが所構わず眠っていたから元気が有り余っている。


 だがそんな妹でも昨夜の夕食メニューにあったフィッシュシチューには白旗を揚げていたな。一口口をつけたかと思ったらそっと脇に追いやってそれ以降見向きもしなかった。これがイギリスの洗礼というものなのだろうか。俺も試しに食べてみたが、魚臭さが全然抜けていなくて表現のしようがない味だったと言っておく。これはあくまでも個人の感想だからフィッシュシチューが好きな方には申し訳ない。


 でも肉料理は美味かったぞ! 特にハーブを利かせたチキンのステーキは俺の好みに合っていた。ホントウダヨ(棒)!



 朝食を終えて俺たちは訓練場のミーティングルームに集まっている。全員が揃うとスティーブがわざわざここに立ち寄った目的を説明し始める。



「日本から情報提供を受けて我が国でもようやく魔力銃が完成したんだ。日米共にすでに魔力銃を実戦投入していると聞いている。そこで我々の試射の様子を見てもらって意見を聞きたい」


「ドイツが構築した術式を基にして試行錯誤しながらようやく完成したのよ。まだまだ改良の余地があると思うから細かなことでもいいから気づいた点を指摘して欲しいわ」


 スティーブとメアリーが真剣な表情で俺たちに目的を明かしている。果たしてどんな銃が出来上がったのかこれはちょっと楽しみだな。



「試射の前に実物を見せてもらえるか?」


「ああ、構わないよ。これが実物だ」


 スティーブがアイテムボックスから取り出した魔法銃をテーブルに置いた。



「何でマスケット銃なんだぁぁ!」


 しまった! 声を特大にして突っ込んでしまった。それにしても21世紀になって登場したのがマスケット銃というのはどうなんだろう? 銃身は銀色に輝いているな。無駄に装飾の細工が細かいじゃないか。それにしてもこの光り方は独特でどこかで見たことがあるような気がするぞ。



「ねえ、この銃は銃身にミスリルを使用しているのかしら?」


「さすがはマギーだね。その通りだよ。我が国の帰還者の中にはミスリルの鉱石を大量に持ち帰った者がいたんだよ。ご存知の通りにミスリルは魔力との相性がいいから銃身に使用したんだ」


 ああ、そうだった! うんうん、俺のアイテムボックスに入っているミスリルの剣と同じ輝き方だった。ずっと仕舞いっ放しにしていたからついつい忘れるところだった。それにしてもミスリルを使用するとはイギリスも中々考えたな。



「実は鉱石の精錬とミスリルを加工する工程を作り上げるのに大幅に時間がかかったんだよ。紆余曲折を経て完成したのがこの銃だ」


「兵器開発には紆余曲折がつき物でしょう。合衆国は既存の技術に術式を組み入れる方法で対応したけど」


 うんうん、この辺は英国面が良く現れているな。紆余曲折を経た結果がマスケット銃というわけか。どうでもいい装飾なんか省いてもっとシンプルな形状にした方が良かったんじゃないのか?



「実はこの銃床と銃身の装飾には術式が組み込まれていてね、発射された魔力弾の速度を増すように作用しているんだ」


 すいませんでした! 無駄な飾りと言って本当にゴメンナサイ! 俺は術式とか全然わからないからてっきり貴族趣味の装飾だと思っていました! 英国面とか偉そうに言ってサーセンでした。



「私も術式の解析は苦手だから外見だけでは判断できないわね。実際に撃ってみてよ」


「もちろんだ! さあちょっと移動してもらうからついて来てくれ」


 材質が思い掛けない異世界の希少金属だった点に高評価を得た雰囲気を察してか、スティーブが自信たっぷりに俺たちを射撃場に案内する。そこは東富士よりももっと広大な戦車砲でもぶっ放し放題のエリアだった。約500メートル先には土を積み上げた的が設置されている。



「それでは1人ずつ射撃してくれ」


 スティーブの指示に合わせてまずはジェームスが射撃台に立つ。さて、イギリス製の魔法銃はどんな出来だろうか。



 シュパン!


「遅っ!」


 思わず声が出てしまうくらいに銃口から飛び出していった魔力弾はゆっくりと進んでいく。プロ野球のピッチャーが投げるボールよりも若干速いくらいだな。確かドイツの帰還者が俺たちを狙った魔力弾は時速300キロは出ていた。技術の手本となったドイツ製よりも弾の飛翔速度が遅くなってどうするんだよ!



 ズドーーン!


 その代わりに威力は十分あるようで派手な火柱が上がっている。戦車程度は十分に吹き飛ばせるだろうな。そして代わる代わる3人が交代しながら試射をしていく。



「連射性能はどうなのかしら?」


 マギーの質問に対して丁度発射台に立っていたスティーブが銃床の切り替えスイッチを操作する。すると今まで左右の銃身から同時に飛び出ていた魔力弾が片側から順番に飛び出していく。



「1分間に40発程度ね。現段階では実用的ではないわね」


「やはりそうか」


 マギーの厳しい指摘に対してスティーブの返事はやや力なく感じるな。やはりまだ改良すべき点があるという自覚があるんだな。もちろん俺もマギーと同意見だ。あの速度ではある程度の距離があれば飛んでくる軌道を見て一般の兵士だって避けられるぞ。当初の予定通りだな、英国面恐るべし!



「仕方がないわね。同盟国のよしみだから合衆国が開発した魔法銃を見せてあげるわ。よく見ていなさいよ!」


 マギーは発射台に立つとアイテムボックスから大型の銃を取り出す。あれはどうなっているんだろうな? アメリカ製の魔法銃なんて初めて見たぞ。



 ビシュ、ビシュ、ビシュ、ビシュ、ビシュ、ビシュ!


 中々の連射性能だな。おまけに魔力弾の飛翔速度がイギリス製とは段違いだ。半分以下の時間で500メートル先の的に到達して火柱を上げている。



「これが合衆国の開発力よ! どうかしら?」


「我が国はまだまだ足りないようだ」


 魔法銃の性能差をこれでもかという具合に突きつけられてイギリス勢は完全に意気消沈している。ともかくは魔力弾の飛翔速度を上げないとどうにもならない状態だった。



「アメリカ製の魔法銃の発射機構はどうなっているんだ?」


「高出力のエアコンプレッサーよ。圧縮した空気の勢いで魔力弾を飛ばしているだけ」


「その発想はなかったぁぁぁぁ!」


 スティーブは白目を剥いている。いやいや、誰もが最初に思いつくんじゃないかな。エアガンと一緒だし。



「魔力弾は魔力で飛ばさなければならないと思い込んでいた! 圧縮空気を利用するなんて目から鱗が落ちる思いだよ!」


「最初に気がつきなさいよ! だからイギリスの兵器開発はいつも暗礁に乗り上げるのよ!」


「まあまあマギーさんや、そのくらいにしてあげようじゃないか。スティーブたちにこれ以上ダメージを与えるのも気の毒だ」


 俺もマギーと同じ意見だが、これはドイツの魔法銃の実物をその目で確かめてメカニカルな機構をつぶさに分析したアメリカと、魔力を撃ち出す理論の提供を受けただけのイギリスとの差でもあった。だからといってイギリス式が劣っているとは一概には言えない。現に日本製の魔法銃は術式で魔力を飛ばしているのだから。ここは少々スティーブたちをフォローしてやろうか。



「術式を用いて魔力を飛ばすのは間違いではないぞ。現に日本の魔法銃はその方式を用いているからな。むしろ1からスタートしてここまで魔力銃を開発してきたイギリスの力は侮れないと思っている」


「なんですって! 日本は術式で魔力を飛ばしているって言うの! 聡史、あなたもこの場で実演してみなさいよ! ネタは上がっているのよ! あの空中に現れた巨人を倒す前に莫大な威力の魔力弾が飛んでいったでしょうが!」


 ああ、スルトを倒した時に魔力砲を発射していたな。動画がネットに上げられて誰もが見られるからマギーも知っているんだろう。



「そうだよ! 我々も日本の魔法工学には興味がある。ここはぜひとも試射をしてもらいたい」


 俺のフォローによってちょっとだけ立ち直ったスティーブたちもこの場での実演を求めている。かといって魔力バズーカを大っぴらにするのはさすがに不味いし・・・・・・ 仕方がないから妹に頼るか。



「おーい、さくら! ちょっと来てくれ!」


「兄ちゃん、どうしたの?」


 暇だったから広い演習場を走っていた妹は俺の声を聞いてすっ飛んで戻ってくる。今瞬間時速は300キロを越えていたよな。お前はどこまで速さを追及するつもりなんだ?



「さくら、敵弾筒の試射をしてくれ」


「兄ちゃん、ここでやっていいの?」


「司令から事前に許可を得ている。それに実戦でいきなり見せるよりはこの場で披露しておいた方が連携を取り易いだろう」


「よーし、それじゃあサービスで普段の訓練よりも多目にいっちゃうよ!」


 妹は発射台に立つとオリハルコンの篭手を嵌めて魔力擲弾筒を装着する。



「聡史、さくらは左手に小さな筒を取り付けているけど、あれで何をするつもりなのよ?」


「それは見てのお楽しみだ」


 マギーが聞いてくるが俺は敢えて彼女の質問を取り合わなかった。実際にその目で確認すればはっきりするからな。さて、どうやら妹の準備が整ったようだ。



「それじゃあ派手にいってみようか!」


 掛け声一閃、右手で引き金を引くと・・・・・・



 シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパパーン!


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドババーン!


 僅か3秒間に15発の魔力弾が飛び出して正確に的を捉えて土台ごと吹き飛ばした。開発当初は1分間に180発だった妹の魔力擲弾筒だが、度重なる改良の末に現在は1分間300発を達成している。飛翔速度も音速にほぼ並んでいるな。これはもう武器としてひとつの完成形だろう。


「一体何なの・・・・・・」


「これが日本なのか・・・・・・」


「何世代も先に進んでいるのね・・・・・・」


「さすがは僕が愛する日本だよ! アニメで描かれそうなことを確実に現実に変えていくね。この調子だとあと20年で本当にガンダ○を完成しそうだよ!」


 マギー、スティーブ、メアリーの3人が絶句しているのに対して、ジェームス1人が何故かドヤ顔をしている。これこれ、お前の手柄ではないだろうが!



「兄ちゃん、こんな感じでよかったかな?」


「ああ、さくらご苦労だったな」


 妹にはこの場の雰囲気などどうでもいいようだ。自分の仕事が終わるとまた広い演習場を高速で走り回る。己の体を鍛えるという点では一切妥協をしない性格をしている。



「聡史、格闘術だけでも1個旅団を壊滅に追い込みそうなさくらにあんな武器を持たせてどうするつもりなのよ?!」


「見ただろう。これが日本の強さだ」


「強さ?」


「ああ、だから我々は帰還者3人だけで済州島と海南島を攻略した。まあそういうことだ」


「本当に手に負えないわね。初めてあなたたちを見たあの時の印象よりも恐ろしいわ。日本が同盟国で良かったと心から思うわね」


 マギーの声が届いていたようでスティーブとメアリーは首を高速で縦にカクカク動かしている。その横では相変わらず自分のことではないのにドヤ顔を続けるジェームスの姿があるのだった。




次回こそドイツの帰還者が・・・・・・ 投稿は週の中頃を予定しています。


誤字報告ありがとうございました。とても助かります。

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