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110 制圧

ついに海南島の攻略が最終段階に、その行く先は・・・・・・

 中華大陸連合の海南島統合軍が降伏を表明した翌日のアメリカ軍では・・・・・・


 私は合衆国の帰還者マギーよ。昨日はいよいよ実戦が開始されると意気込んで上陸を果たしたものの、上陸を阻止しようと陣地を構築していた敵の守備兵はミサイル攻撃に怯えて早々に撤退していたわ。おかげで我が軍は全く無傷で上陸をしたんだけど、意気込んでいた分なんだか肩透かしを食ったような気分よ。どうやら中国人というのは愛国心に欠けているみたいね。旗色が悪くなるとさっさと逃げ出してしまうんですから。


 更に驚くべきことはその後日本から齎された緊急連絡よ。その内容は島内の中華大陸連合統合軍が全面的に降伏するという内容だったわ。すでに海兵隊の先遣部隊と三亜市に入る手前で小競り合いが発生していたらしいけど、敵はすぐにその場で白旗を掲げて降伏したそうよ。一体何があったのかしら? 確かに空と海上での前哨戦は米日連合が圧倒的に優位に進めて敵の抵抗力を削いではいたけど、こうも簡単に降伏するのはどうにも信じられないわね。



「マギー、何を考え込んでいるんだい? こうして上陸を果たした段階で僕たちの仕事は終わったも同然だよ」


「ダン、あなたは本当に気楽でいいわね。これでお終いというのはあなたの意見であってリアルな現実ではないわ」


 この脳内お花畑男が! どうしてここまで物事を楽観的に捉えられるのか不思議だわ。これで能力がなかったらただの馬鹿で済むんだけれど、なまじっか優れた戦闘力を持っているから手に負えないのよ。誰かがしっかりと手綱を握っていないと、すぐに怠けて仕事を放棄するんだから。



「ダン、君はどうやら連絡の前半部分しか聞いていないようだ。話によると武装警察と呼ばれる陸軍よりも装備が整った部隊がまだ抵抗を続けているらしいぞ」


「リック、その話は本当なの?」


「マギーは哨戒に出ていたからきちんとした報告を聞いていないんだったね。武装警察が抵抗を続けているのは事実のようだ。三亜市の部隊は日本の帰還者が片付けるから、我々は第1海兵遠征軍と合流して北部にある海口市を目指すそうだよ」


「なんだ、これでグアムでバカンスが取れると思ったのに転戦しないといけないのか」


「ダンは海兵隊キャンプにでもぶち込まれて再教育してもらいなさい! リック、それで出発はいつなの?」


 グアムには大規模な海兵隊のキャンプがあるわ。そこで根性を鍛えてもらったらダンの頭の中に咲き誇っているお花畑も多少はまともになるんじゃないかしら?



「準備が出来次第だけど、朝食をゆっくりと取る時間はあるんじゃないかな」


「それを聞いて安心したわ。でもカイザーと行動を共にするのは気が滅入るわね」


「カイザーの親衛隊の連中が今回は全員従軍している。彼らの動向には注意を向けるべきだろうな」


「そうするわ」


「なんだい? カイザーが何かするのか?」


「ダン、あなたには特別に朝食のホットドッグをその口に捻じ込んであげるから黙っていてちょうだい」


 こうして私たちは朝食後に海南島最北端にある海口市に向けて移動を開始するのでした。









 三亜航空基地を降伏させた聡史たちは・・・・・・



 俺たちは続々と航空基地を出発する中華大陸連合の将兵を見送っている。彼らはここから見て北東の内陸部にある海昌区の陸軍基地へと移動を開始していた。中華大陸連合統合軍はその基地に集結して順次武装解除していくことで昨夜のうちに話がまとまっていた。



「これで軍港と航空基地を押さえたから、日本軍も上陸が可能となったな」


「司令、あとは三亜市内にいる武装警察を片付ければ南部には抵抗する勢力はなくなりますね」


「そうだな、米軍は一斉に北部に向かってそちらの平定に取り掛かるそうだから、任せえることにしよう。我々が全て片付ける必要はないからな」


「司令、本日の行動の優先順位はどうなっていますか?」


「西川訓練生、それはよい質問だ。統合軍が退去を終えたら一旦この航空基地を結界で封鎖してくれ。それから軍港に向かって、桟橋に残っている艦船の残骸を取り除く。その作業にどの程度時間がかかるかわからないが、終わり次第に市内の武装警察を攻撃する」


「司令、俺のアイテムボックスは無限に収納できますから残骸は全部放り込みますよ」 


「それは助かるな。これはかなり早い時間に市内に向かうことになりそうだ」


 桟橋を片付ければ国防海軍の第1艦隊がすぐに入港可能となる。資材や装甲車両の揚陸も容易となるから、すぐに施設を利用して占領政策が開始できるな。ここまで1人の犠牲も出さずに順調にことが運んでいるから、予定通り全艦無事に入港してもらいたいな。


 



 その日の午後・・・・・・


 ドカーン!


 ドドーン!


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!


 爆発音と小銃が弾丸を吐き出す音がそこいらじゅうに響く中、司令と俺は武装警察の基地の内部に侵入を果たしている。『警察』という名前は全くのデタラメだな。20ミリ機銃を2門前方に突き出している装甲車が多数並んでいるぞ。戦車や自走砲こそ所持していないみたいだけど、これはどこからどう見ても軍隊の装備だよ。その他にも隊員が手にする小型の迫撃砲やロケットランチャーなど、下手すると統合軍の守備隊よりも立派な装備を有している。これらの武器が向かう先は一般市民なんだから、これはどうあっても酷い話だな。庚司令官やアイシャが言っていた『弾圧と圧政』という言葉の意味が俺にもようやくわかってきた。



「化け物だぁぁぁぁ!」


「後退しろ! 後退だぁぁぁ!」


「後退して隊形を組み直せぇぇ!」


 でも俺たちの敵ではないな。今まで抵抗する術のない一般市民を相手に好き放題していた報いが来たと諦めろ。治安維持に名を借りた弾圧などクソ喰らえだ! 今回ばかりは容赦しないぞ! 徹底的にやってやろうじゃないか。


 美鈴がいつものように結界で基地全体を覆っているので、攻撃の余波が外に漏れる心配をする必要はないな。行軍用スコップ・改Ⅱ型に少量の魔力を込めてフルスイングで一気に敵兵を薙ぎ払う。


 ありゃりゃ・・・・・・ また遣り過ぎてしまった! 飛び出した俺の魔力が敵兵を吹き飛ばしただけでは飽き足らず、彼らの背後にあった鉄筋製の建物を文字通り粉々にしている。まあいいか! この基地は特に使用する予定がないから破壊し尽くして構わないんだ。



「楢崎訓練生、面倒だからお前の魔力で適当に片付けてくれ」


「司令、いいんですか? 本当に更地になりますよ」


「ああ構わない。周辺に被害が出ないように加減はしろよ」


「了解しました」


 どうやら司令もひと暴れして日頃のストレスをすっかり解消したらしい。実に清々しい表情をしているよ。存分に暴れたからあとは俺に全部やれと言っているんだな。それでは景気良くいってみようかな。おっと、今度こそ魔力の加減を間違わないようにしないと。


 俺が魔力を込めたスコップを合計5回フルスイングしたら、兵員や装甲車、施設などを一切合財まとめてその形が崩れていく。飛び出していった大量の魔力が物体にぶつかった瞬間急激に圧縮されて暴走を開始するんだ。暴走した魔力の破壊エネルギーは超微細振動を引き起こして分子の結合力を失わせる。その結果物体を構成していた分子が離れ離れになって全てが分解されていく。それは人だろうが物だろうが容赦なく襲い掛かり、一瞬で形を失わせて大気に溶け込んだり粉状になって地面に堆積する。


 スコップから飛び出した暴走魔力は全てを破壊してから美鈴が構築した結界すらも分解していくが、そこはさすがは大魔王様だ。結界を重層構造にしているから最後の1枚に到達する手前で俺の暴走魔力は消え去った。どうやら周辺には一切被害はないな。基地の敷地内は草1本生えていない本当の更地になってしまったけど。



「よし、これで三亜市内には主だった抵抗勢力は存在しないな」


「司令、自分でいうのもおかしな話ですが、ここまでする必要があったんでしょうか?」


「気にするな。どうせ皆殺しにするつもりだったから形が残ろうと残るまいと結果は同様だ」


 凄いセリフだな、おい! どうせ皆殺しって、相手は異世界の山賊じゃないんだから! 2000人以上の武装警察隊員がこの世から形すら残さずに消え去ったというのに、この司令は単に一仕事終えただけという平然とした表情だな。するとそこに・・・・・・



「聡史君、ずいぶんきれいに片付けたわね。ここまでやってもらえれば私が後片付けする手間が必要ないわね」


 ああ、ここにも平然とした表情の人物がいるんだった。大魔王様は目の前で何万人死のうとも顔色ひとつ変えないんだったな。自分の仕事を俺が肩代わりして、いかにも助かったという顔をしている。まあこれが異世界で培ってきた俺たちの常識だから仕方がないか・・・・・・



 美鈴が結界を解除して車両に乗り込み俺たちが武装警察の基地であった場所から出ようとすると、正門の周辺に人々が何やら群がっている。彼らは門を塞ぐように集まっているから、俺たちは仕方なしにその手前で車両を停める。するとその中から1人の男が進み出てきた。



「武警は一体どうなってしまったんだ?」


「見てのとおりだ。この世界から消え去った」


 司令が無表情で答えると、男は俺たちの車両の横に回って基地の内部を覗き込む。そして驚いたような声を上げるのだった。



「おい! みんな! 武警の連中が本当にいなくなっているぞ!」


「なんだって! それはどういうことだ?」


「俺にもわからないが本当に影も形もないんだ!」


「ということは俺たちを押さえ付ける連中はもういないのか?」


「どうやらそのようだ」


「こんな嬉しいことはないぞ! おい、よく聞くんだ! 武警がいなくなったぞ! 俺たちはこれから言いたいことが言えるんだ!」


「信じられない話だが、確かに敷地の内部には何もないぞ!」


「俺たちはどうなるんだ?」


「どうなっても今までよりははるかにマシになるさ!」


 門の周辺に集まっている男たちの間では侃々諤々の議論が始まっている。彼らの話の内容は自分たちの生活がどうなるのかという点に尽きるようだ。その中から先程の男が司令の元に再び歩み寄る。



「ところであんたたちは何者なんだ?」


「我々は日本の国防軍だ。この島は日米の統治下に入る。無駄な騒ぎは起こすなよ。騒乱は我々が押さえ込むぞ。平穏な生活を営んでいる分にはお前たちの生命は保証する」


「よくわからんが、この島が日本とアメリカのものになるのか?」


「端的に言えばそうなる。この島の住民は中華大陸連合とは別の政府が統治するだろうな。当面は日米両国が面倒を見る」


「反対する住民はどうなるんだ?」


「嫌だったら大陸に逃げればいいだろう。我々は追わないから好きにしろ。すでにこの島の統合軍は降伏した。市民も抵抗を諦めてこの事実を受け入れるか、それとも中華大陸連合に忠誠を尽くして大陸に去るか二者択一だ」


「俺はこの島に残って日本を受け入れるぞ! あんな何も言えないような重苦しい生活は2度とご免だ!」


「それならそうしろ。逃げたい連中はそのまま逃がしてやれ。それだけだ」


 聞きたいことを聞いた彼らはもう俺たちに対する関心を失ったようで、ひたすら門の前で白熱した議論を交し合っている。このままでは車両が動けないので司令がクラクションを鳴らすと、車が1台通れる道が開く。俺たちはその隙間を縫うようにして航空基地へと向かって戻っていくのだった。


 


 翌日から日本の第1艦隊が入港して本格的な装備や物資の揚陸が開始される。航空基地には米軍の戦闘機や爆撃機、輸送機などが多数飛来して本格的な基地の設営が開始された。日本の国防空軍の機体もその片隅で20機程度飛来してこじんまりとまとまって駐機している。この状況はこれ以上この基地に戦力を割けないという国防軍全体の戦力不足という事情が絡んでおり、航空基地全体の運営は米軍に譲っているのだった。こうして目の当たりにしてみると、軍の予算に関してお金に糸目をつけない国は物量が違いすぎるよな。日米間には人口では3倍、軍事費では8倍の格差があるのは歴然たる事実だ。



 それから市民の動きなんだけど、今日から本格的にテレビやラジオを通じて日米の今後の統治方針が発表されている。何しろ1千万近い人口を抱えている島なので、ひとたび暴動でも発生すると鎮圧に手を焼く。そんな状況に追い込まれないように先手を打って、日米政府がかねてから打ち合わせをしていた統治方針を市民に伝えるようにしたんだろうな。


 その骨子は島内に民主的な政府を作って、日米の経済支援を受けながら最終的に独立を目指すというものだった。中には反対の声を上げてデモを行う事案が発生したらしいが、ごく小規模に留まって鎮圧する必要もなかったそうだ。


 それよりもこの島を脱出しようとする市民が予想以上の数に上っている。彼らはその大半が独裁政権と結び付いてその利権の恩恵を受けていた連中だそうだ。島内が民主化したら過去の犯罪を暴かれて投獄される可能性があるのだろう。海南島の開発を名目にしてこの島に渡ってきた漢族は数百万人に上る。その半数は脛に傷がある身のようで、島内の財産を二束三文で売り払って、運行を再開したフェリーに乗り込んでいるそうだ。このフェリー会社は対岸の広東省政府に賄賂を渡して航行を認められたらしい。戦争状態なのに最早何でもアリだな。通常運賃の5倍くらいのボッタクリ価格で住民を輸送しているそうだ。一応は避難民輸送という名目で赤十字のマークと旗を船体に付けているそうだけど。



 こうして俺たちは国防軍本体に引継ぎが完了するまでの間ひと時の平和な時間を過ごすのだった。









 その頃、米軍が占領を目指す海口市では・・・・・・



「カイザー、日本軍は僅か3人で三亜市をほぼ無傷で占拠したようです」


「日本に先を越されたのは面白くはないが、我らは3万の大軍を以っての移動だ。相応に時間が掛かるのはわかっていたよ」


「今後はどのように行動しますか?」


「海兵隊の出方もあるが、まずは我々が海口市内に残っている武装警察を片付けることになるだろうね」


「ここまでほぼ無抵抗で進軍してきましたから、ようやくまともな戦いが出来そうですね」


「有色人種の弱小な部隊を蹴散らすなど造作もないさ。ただ・・・・・・ そうだね、せっかくだから日本の優秀な帰還者の手を借りようか」


「何故ですか! 我々だけでも十分な戦力です!」


「戦力的にはね。でもちょっとした罠を仕掛けてみようかと思っただけだよ。日本が乗ってくれば面白いことになりそうだ」


「罠ですか? それはどのような?」


「まだ明かせないな。君は海兵隊の作戦司令官に日本軍の帰還者の招聘を承諾させて欲しい」


「わかりました。手筈を整えます」


 カイザー親衛隊に所属する帰還者にその内容を命じると、彼は周囲からは窺い知れない表情で自らの思考の中に埋没していくのであった。




何かを企むカイザーの狙いとは・・・・・・ この続きは週末に投稿します。どうぞお楽しみに!


たくさんの閲覧数を記録しておりまして、読者の皆様心から感謝いたします。それから評価とブックマークもたくさんいただきましていありがとうございました。感想をお寄せいただいた方も感謝申し上げます。


こうして反応があると、書いていて気持ちがとても前向きになれます。どうか今後も応援いただけるようにお願いいたします。

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