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109 意外な展開

市内に突入した聡史たち、次の展開は意外なことに・・・・・・

 中華大陸連合三亜航空基地では・・・・・・



「庚司令官! 三亜市内に移動した陸上部隊との連絡が突然途絶えました」


「なんだと! 一体何があったというのだ?! 3000人もの部隊が突然連絡を絶つとは考えられない。敵側の通信妨害の可能性もあるぞ」


 庚中将の発言の次の瞬間、基地全体を揺るがすような大音響が建物を振るわせる。それは窓枠がビリビリと振動して今にもガラスが割れてしまいそうな凄まじい音量だった。



「これは一体何の音だ?!」


「不明です。念のために哨戒ヘリを飛ばしましょうか?」


「うむ、それが良かろう」


 米軍の大規模な上陸を許した時点で、この航空基地に所属しているヘリは全機警戒飛行から戻って待機している。基地司令部はそのうちの1機に市内に展開する部隊の様子を確認するための発進命令を下す。航空基地と市内は直線で約20キロ程なのでヘリからの連絡はすぐにやって来る。そしてその連絡は司令部を暗い空気に包み込む効果があった。



「哨戒ヘリから司令部へ、ただいま陸上部隊が集結しているホテル上空を旋回していますが、大規模な攻撃を受けて跡形もなく吹き飛ばされています。今のところ生存者は確認できません」


 すでにこの時点で航空基地からも巨大なきのこ雲が空高くに立ち上るのを観測していた。そして陸上部隊が全滅したというヘリからの報告はそこで何が起こったのかを裏付ける形となる。



「海昌区から移動した陸上部隊が全滅したとは・・・・・・ これで三亜市内はがら空きだな」


「本格的に上陸を開始したアメリカ軍の先遣隊がどうやら市内に迫っている模様です」


「この基地への増援の部隊はまだ到着しないのか?」


「米軍の先遣隊とぶつかって市内に入る手前で足止めを受けています」


「八方塞だな。もっともまともに稼動する航空機がないこの基地を守る意味は薄いか」


「残念ながらそのとおりです」


 すでに所属する戦闘機の80パーセントを失って航空基地としての機能は風前の灯であった。かといって島内にあるもうひとつの海口飛行場も同様の状況に置かれている。しかもレーダー機能を失って空から進入するミサイルや爆撃機に対応するのが非常に困難な状態だ。司令官が頭を抱えて項垂れるのも無理はなかった。しかもあの大爆発で1度に3000人の陸上部隊が装備もろとも消え去った。同じ攻撃がいつこの基地を襲ってもおかしくない。このような現状で司令官として決断すべきことはひとつしかなかった。


「打つ手はもうないようだ。これ以上犠牲は出したくはない。島内の全軍に通達せよ! 速やかに降伏する。これ以上の抵抗はいたずらに犠牲を増やすだけである」


「しかし司令官! それでは・・・・・・」


「島内に居住する1千万の住民を巻き添えにするつもりかね?」


「それは・・・・・・ 已むを得ません。庚司令官のご判断に従います」


 海南島司令部としては市内に篭ってゲリラ戦で対抗する目論見が一瞬で瓦解したのが決定打になった。肝心の立て篭もる戦力が僅か一撃で全滅してしまっては、これ以上抵抗しようという意思を失うのは当然だといえよう。すでに南シナ海の制海権と制空権を失っている以上、この島を命懸けで守る意味合いが薄れているのも戦略上の理由として挙げられるかもしれない。



 航空基地内には緊急放送で降伏する旨が通達されると、ここまで空海ともに一方的に追い立てられて敗色濃厚だった基地の要員たちには明らかにほっとした表情が宿る。兵士といえども人間としての感情を持っている。自らの血を流す不安を必死に押し殺して上官の命令に従っていたが、もう戦わなくて済むとわかれば誰もが安堵するのは当然だろう。


 ちょうどその放送が終わった時、1つの報告が司令部に齎される。



「司令官、基地のゲートを警備する部隊から連絡が入っています。所属不明の車両が1台こちらに向かって走行してくるそうです」


「ゲートに白旗を掲げよ! 一切の攻撃を禁ずる。今から私が向かうから車両はゲートの手前で待ってもらうんだ!」


 庚司令官にはピンと来ていた。たった1台で航空基地に向かってくる車両こそが陸上部隊を壊滅に追い込んだ張本人だと。そしてその正体はおそらくは帰還者、彼らに手を出すことはこの航空基地に破滅を齎すであろうと。だからこそ彼は自らその車両を出迎えにゲートまで行く決心をしていた。彼は幕僚を従えて慌ただしく司令部を後にする。







 同じ頃、航空基地に向かっている聡史たちは・・・・・・



「司令、なんだか様子がおかしいですね。基地全体が静まり返っているようです」


「楢崎訓練生、あそこをよく見ろ! ゲートに白旗を掲げようとしているぞ。どうやら降伏する決心がついたようだな」


「きっと聡史君の魔力バズーカを見て、これ以上抵抗する意思を失ったのよ」


「それだったら犠牲になった兵士たちも浮かばれるかもしれないな」


 こうして俺たちは閉じられているゲートの前に車両を止めて相手の出方を伺っていると、まもなく門の向こう側に1台の車両がやって来て、その中から階級が高そうな将校が数人降りてくる。そして彼らは門の外にいる俺たちに歩み寄ってくる。



「私はこの三亜航空基地の司令官である庚文邦中将だ。貴官らの所属と階級を確認したい」


 これは驚いたな! 基地の司令官自ら俺たちを出迎えに出てきたぞ。彼が俺たちに話し掛けてから警備担当部隊に合図を送ると重そうな鉄製のゲートが開いていく。どうやら降伏するのは本当のようだな。



「庚中将、私は日本の国防軍大佐、神埼真奈美だ。ゲートに白旗を掲げるということは降伏する意思があると受け取ってよいのか?」


「我々は潔く降伏する。ついてはこれ以上将兵に対する攻撃を止めていただきたい」


「それは今からの貴官らの態度如何に懸かっている。まずは基地全体の武装解除を開始してくれ」


「いいだろう。ここは航空基地だから航空機以外には小火器しか置いていない。全てこの場に集めよう」


 庚司令官が指示を出すと基地の内部から部隊ごとに将兵がゲートの前にやって来て、小銃や拳銃、小型のロケットランチャーなどを置いていく。俺はせっせとその武器類をアイテムボックスに放り込んでいく。武器を置いていく兵士たちの表情を見ていると、負けたという悲壮感よりは助かったという喜びの感情がはるかに上回っているように見受けられるな。これが国民性というものなんだろうか?



「よし、降伏の意思は受け取った。私から日米の本隊に連絡するから、庚中将は島内にいる隷下の部隊に連絡を徹底してくれ」


「承知した。それでは司令部でいくつか話をしたいが、私についてきてもらえるか?」


「いいだろう。案内して欲しい」


 俺たちは庚司令官と彼の幕僚の後を付いて基地の司令部へと向かう。日本の駐屯地との違いは内部が雑然としていて掃除が行き届いていない点かな。壁の隅に埃が溜まっているんだよ。こんな光景を日本では目にした記憶がないぞ。もちろん俺たち特殊能力者であっても駐屯地で毎朝の掃除は日課となっている。精魂込めて部屋や廊下をピカピカにしているんだぞ。





「こちらのソファーに掛けて欲しい。ああ、人数分の飲み物を用意してくれないか」


「お待ちください」


 司令官ともなると従卒が付いて細かい世話をしてくれるんだな。うちの司令官にはそんな存在はいないけど・・・・・・ 小さな組織だから仕方がないか。でも秘書官の皆さんは綺麗どころが揃っているという噂が実しやかに流れているな。実際には結構年配のベテラン女性秘書官もいるんだけど。



「この島特産のジャスミン茶です。味と香りは最高級とされております」


 従卒の人が丁寧に温かいお茶を給仕してくれる。日本とは違って冷たいお茶を飲む風習がないそうで、常夏の海南島では温かい茶が供されるのが当たり前のもてなしらしい。どれ、一口飲んでみようか・・・・・・ ふーん、独特の香りがするけど思ったよりも飲み易いな。



「お気に召してもらえたかな? この島は作物が豊かに育つから、本土とは違って食料やこうした嗜好品が豊富に出回っているんだよ」


「そうだったんですか。一口に中華大陸連合といっても地域によって事情が異なるんですね」


 俺の口からつい本音が飛び出ちゃったよ。ニュースでは深刻な食糧不足が発生していると報じられているから国中が大変なのかと思ったら、この島は例外なんだな。それにしてもこの庚中将という人は俺たちを目の前にして全く動じていない様子だな。懐が広い人なのかな?



「実はここにやってきた貴官らが日本人と聞いて私が一番安心しているんだ。この島が第2次大戦中に日本によって占領されていたのを知っているかね?」


「ほう、ずいぶん昔の話を持ち出してくるとはどのような意図があるんだ?」


 司令は疑い深そうな目を庚中将に向けているな。歴史問題とか持ち出されたら話がややこしくなるぞ。



「私の祖父は当時日本軍の軍属として働いていたんだよ。子供の頃からずっと祖父の話を聞いていてね、日本の兵隊がどんなに素晴らしい人たちかを叩き込まれてきたんだよ。私はこの国では少数民族の苗族の出身だ。こうして統合軍に所属しているものの心の中ではこの島を中華大陸連合から切り離して、日本の援助を受けながら独立した国家を建設したいと考えていたんだ」


 ほえぇぇぇぇ! ずいぶんと壮大な話が出てきたぞ! 海南島を独立した国にするって、そんな話は俺の想像のはるか上をいっているな。国軍の幹部ですらこんな考えを心の中に抱いているとは、中華大陸連合というのは思っている程一枚岩ではないんだな。こういう綻びをうまく利用していくのがおそらく政治家の手腕なんだろう。



「さすがにその件に関しては私たちは窓口にはなれない。一応日本政府にはこのような話題が出たことは伝えるが、アメリカの意向もあるだろうし、日本だけでどうこうする訳には行かないだろうな」


「当然その件は承知している。我々少数民族は長らく抑圧されてきたから、今回の件が最大のチャンスと私自身は捉えている。急がないから良い話が舞い込んでくるのを待っているよ」


 あれ? なんだかこの話題はどこかで聞いたことがあるぞ。抑圧された少数民族っていうのはアイシャと一緒だな。彼女もいつかは自分たちの独立した国家を建設するために日本に亡命を求めてきたんだったよな。それにしてもこの人は面従背反で政府に従っていたんだな。だからこそこの変わり身の早さなんだろう。



「さて、実はこの件とは別にもう1つ懸案が残っているんだ」


「懸案とは?」


 今度は庚中将の表情が真剣味を帯びているぞ。一体何の話なんだ?



「中華大陸連合には統合軍とは別のもう1つの軍事組織がある。それが武装警察だ」


「国内の治安維持を目的とした組織だな。治安維持を名目にして住民を武力で弾圧していると聞いている」


「そのとおりだ。我々統合軍が降伏しても彼ら武装警察は絶対に同意はしないだろう。むしろ躍起になって島内の治安維持に邁進すると考えられる。彼らは人々から恨みを買い過ぎているんだ。素直に武装解除などに応じれば住民から命を狙われるとわかっている」


「貴官たちは武装警察と対峙する意思はないんだな?」


「我々は進んで武装解除に応じるから、具体的に武装警察に対抗する手段を失う」


「それもそうだな。そのくらいならばアメリカと相談しなくてもいいだろう。今日は間もなく日が暮れようとしているから、明日にでも片付けておく」


「なんとも頼もしい限りだ。やはり貴官らは例の帰還者という特殊な人間なのか?」


「その件はノーコメントだ。今日はこれ以上の攻撃を控えるように日米連合軍には伝える。貴官は隷下の部隊の武装解除を進めて欲しい」


「承知した」


 こうして一応の話がまとまって俺たちの司令と庚中将が握手をする。まだ正式に決定した訳ではないが、海南島統合軍と日米連合軍との間に一時的な休戦の協定が結ばれた。あとはもっと軍の偉い人たちが出てきて正式な話をまとめるだけだ。俺がこの手で陸上部隊を3000人程吹き飛ばしたけど、これ以上犠牲者が出ないようになったから結果としては良かったのかな? まあそれは結果論だからいまさらどうこう言っても仕方がないな。


 さあ、あと一仕事でこの島での任務は終わりそうだぞ! この調子で明日も頑張ろう!










 海南島統合軍が降伏したという報告を受けたホワイトハウスでは、マクニール大統領と腹心の補佐官が・・・・・・



「大統領、意外と短期間で終結しましたな」


「思いもよらない幸運だと考えようか。それにしてもこの報告にあるとおり、日本軍の帰還者というのは相当に強力な力を持っているようだ。今回も彼らの力の前に中華大陸連合の統合軍が降伏したようなものだからな」


「これからも彼らを警戒するに越したことはありませんな」


「元より警戒はしているよ。ただしたった1人で謎の魔法を用いて500キロも離れた場所にある空軍基地を広域に破壊したり、戦術核兵器並みの威力を持った能力を発揮する帰還者をどのように警戒すればよいのか皆目見当が付かないよ」


「頭の痛いことですな。それよりも大統領、あの男が果たして黙っているかどうか私は一抹の不安を感じます」


「カイザーのことかね? あの男の性格ならば必ず日本の帰還者に何らかの形で手を出すだろうね」


「全て承知の上で彼を海南島に送り出したということですかな?」


「私はこれでも政治家を長くやっているからね、人を見る目は養っているよ。あの男はアメリカがこれから先々も民主主義の国家として運営されていく上では危険すぎる。内部で強力な独裁者の素質を持った人材が権力を持つのは国家として好ましい状態とは言えないのではないかと考えている」


「ではカイザーと日本の帰還者と潰し合いを目論んでいるのですか?」


「表現は悪いがそうなると理想的だ。日本の帰還者が勝てば我々は独裁者の誕生を阻止できる。仮にカイザーが勝ったら日本の危険な帰還者を排除できる。どちらに転んでも我々に損はないはずだ」


「そのために彼にある程度の裁量を与えているのですね」


「そうだ、だがカイザーはその裁量の範囲を必ず踏み外す。そこからどのような展開になるのか注意して見てみよう」


 こうしてホワイトハウスでは帰還者を巡る様々な思惑について大統領と補佐官の間で長い遣り取りが続くのであった。


 


残っている武装警察と米軍の帰還者カイザーの動きが気になるところです。果たしてどうなるか・・・・・・ 投稿は週の中頃を予定しています。どうぞお楽しみに!


引き続きたくさんのブックマークをお寄せいただいてありがとうございます。皆様の暖かい応援のおかげでこうして連載ができます。本当にありがとうございます。

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