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105 海南島攻略線 8

制海権と制空権を巡る前哨戦がそろそろ終わりを迎えて、いよいよ・・・・・・

 輸送艦〔ひゅうが〕の艦内では・・・・・・


 俺たちはダナン軍港を出港した国防海軍第1艦隊の輸送艦ひゅうがに乗り込んで戦況を見守っている。



「米空母ロナルド=レーガン艦載機群、敵の迎撃機を80パーセント撃破しました」


「仙頭航空基地に向かっているクラーク空軍基地の飛行大隊、敵航空機を発見。ミサイルを発射しました」


 レーダー担当者から戦況を知らせる報告が相次いでいる。日米連合の共同作戦なので、こうした情報は常に共有しているんだ。その内容によると、どうやら南シナ海の制空権を巡る決戦の火蓋を切ったのは米軍のようだ。それにしても中華大陸連合の航空機の損耗率が80パーセントを超えているのは驚きだな。日米が中華大陸連合の航空戦力を想定して準備してきた装備が効果を発揮しているんだな。


 しかも中華大陸連合は経済破綻の影響で新たな装備への更新が大幅に遅れているから、現状は10年前の戦力を辛うじて維持している状態だ。航空戦の勝敗は何も戦闘機の機体性能やパイロットの技術だけで決まるわけではない。常にレーダー性能をアップデートして、より性能の高いミサイルを装備しなければならない。そしてそれらを運用する戦術コンピュータのバージョンアップが今の時代は勝敗の鍵を握っているといっても過言ではない。


 戦闘機の機体重量の2割はコンピューター関係で占められているといわれるくらいに、最新のCPUやパワーデバイス、そしてそれらを動かしていくソフトの研究開発が必要となっているのだ。聞くところによると最新型の戦術コンピューターにはAI知能が大幅に採用されていて、10年後には無人で戦闘を行う機体の開発が進んでいるらしい。そこまでいくともうなんだかSFの世界だよな。でもパイロットの人命を失う心配がなくなるのはいいのかもしれない。破壊神の俺が人命云々言うのはおかしな話だけど。



「いずもの艦載機、広西から飛来した敵戦闘機の機影を発見。順次迎撃に移ります」


 日本の航空隊も戦闘を開始したらしい。姿を発見され難いステルス機の後方にミサイルを満載したF-15が待ち構えているなんて敵からしたら悪夢のような光景だろうな。しかも日英で共同開発したミーティアミサイルの改造版、マッハ4近い速度で100キロも飛ぶ鬼畜ミサイル25式を搭載しているから、ロックオンされた時点で撃墜確定だし。


 モニターに映し出されるレーダー画面では大陸から飛来してきた機影が次々に消えていく。ミサイルの餌食となって爆発、空中分解しているんだろう。こうしてモニターを見ている限りだと現実感がなくてまるでゲームのようだが、実際には炎や爆発音が空中に撒き散らされているんだろうな。


 さすがに空の上は俺の管轄外だから頭の中で戦闘機同士の戦いを想像するしかない。いや、俺もその気になったら航空機の大群を迎撃可能だったな。ただし魔力を全開放して、スルトを次元ごと吹っ飛ばしたあの時みたいな形態を取る必要がある。あの人の形をした魔力の塊だったら、戦闘機どころか宇宙戦艦でも撃ち落せそうだぞ。1度試してみようかな・・・・・・ いやだなぁ、もちろん冗談に決まっているじゃないか。



「敵戦闘機の掃討完了。制空権を確保しました」


「ダナン航空基地からF-2の3個小隊が間もなく発進します」


「いよいよ我々の出番が近付いて来たな」


 そうか、制空権を確保したら作戦は次の段階に進むんだな。ということは俺たちの出番も近付いてきたということか。今までは殆んど戦況をモニターで見ているだけだったけど、本格的な地上戦が間もなく開始されるわけだ。俺たちの働きが今回の作戦の成否を左右するだけに責任重大だぞ。いつ出撃の命令が下ってもいいように今から準備を整えておこう。







 ダナン航空基地では・・・・・・



「こちらダナン管制。ダナン飛行小隊、お待たせした。制空権を確保したから発進してくれ」


「こちらダナン第1飛行小隊、発進します」


「第2飛行小隊準備完了」


「第3飛行小隊、順次発進します」


 翼下には2発の大型ミサイルを抱えたF-2が3個小隊、合計9機が滑走路から離陸していく。一気に高度1万メートルまで上昇してから水平飛行に移る。



「ダナン第1飛行小隊、リーダー機から各位へ。今回の目標は対艦攻撃ではないぞ。敵基地上空を飛び越えて目標に突っ込んでいくから気を引き締めろ」


「ゼロ-2、了解しました」


「ゼロ-3、了解しました」


 轟音を響かせてF-2は海南島に機首を向けて一直線に飛行していく。そして約90分後・・・・・・



「リーダー機から第1小隊へ、海南島まで150マイル、間もなく敵のレーダー探知範囲に入る。高度を落として海面ギリギリを飛ぶぞ」


「「了解」」


 F-2飛行小隊はレーダーで探知され難い海面上30メートルの高度を進み、大胆に海南島に接近していく。そして陸地が視界に入る距離まで接近すると、アフターバーナーの炎を吹き出しながら一気に大気圏を超えて高高度まで上昇する。警戒をしていた中華大陸連合のレーダー網は、突如飛び出してきたかのようにモニターに映る機影に混乱をきたす。その結果として迎撃機の発進や対空ミサイル発射のタイミングを逃し、島の内部に侵入を果たすF-2を見送るしかなかった。殊に対空ミサイルは全てが南側を向いていたので、突如現れて一気に基地の北側に駆け抜けていった航空機に対して為す術がなかった。これは自衛隊時代から長年培ってきた国防空軍の優れた技術と戦術の賜物であろう。



「こちらリーダー機、迎撃機の発進並びに対空ミサイル発射の兆候なし。無事に島内に侵入を果たした。各員、警戒を厳として目標に向かえ」


「ゼロ-2了解、視界は良好、間もなく山岳地帯に入ります」


「ゼロ-3、すでにレーダー波を探知しています」


「リーダー機、間もなく射程距離に入る。ミサイル発射用意」


「「了解」」


 F-2小隊が目標としているのは、山岳地帯に配備されているレーダーサイトだった。翼下に抱えているのは米軍から供与を受けているAGM88HARM対輻射源ミサイルで、照射されるレーダー波を逆に辿ってレーダーの破壊を目的とする。上陸作戦を敢行するに当たっては敵のレーダーを潰しておけば作戦を優位に進めることが可能となり、味方の被害を最小限に留めることができるのだ。



「射程圏内に入った。攻撃分担マップに従ってミサイルを発射せよ」


「「了解」」


 翼下に取り付けられている対レーダーミサイルが点火されて炎の尾を引きながら山頂付近にあるレーダーサイトに一直線に向かっていく。複数個所にレーダーが配備されているので、合計9機のF-2が今回は出撃して全てのレーダーに攻撃を加えるのであった。



「攻撃対象のレーダーの破壊を確認。山頂から照射されるレーダー波なし」


「よし、目的は果たした。引き返すぞ」


 こうしてF-2の3個小隊は監視の目を失った中華大陸連合の基地を眼下に見下ろしながら、悠然とダナンに向けて引き返していく。対空ミサイルはレーダー誘導型なので発射できず、僅かに基地の高射砲が繰り返し火を吹いているが、F-2はその砲弾が届かないはるか高度を飛び去っていくのだった。







 海南島にある中華大陸連合の永興島空軍基地では・・・・・・



「山岳地帯にあるレーダーサイトからの画像が途絶」


「こちらのレーダー監視網を潰すのが狙いだったのか。おそらくは大規模な上陸作戦が行われるぞ。車両搭載型のレーダーを海岸線に配備して敵の侵入に備えるんだ」


「現状大型車両搭載レーダー4台、小型車両搭載レーダーが7台使用可能ですが、海岸線全てをカバーし切れません」


「南部の海岸線に集中配備しろ。大陸側と北部はこの際諦めるしかないだろう」


 庚中将は苦渋の決断を強いられている。仮に敵の大軍が上陸するとしたら、遠浅で長い海岸線が広がっている箇所というのが戦術の常識である。第2次世界大戦のノルマンディー上陸などが有名だが、砂浜に上陸するのが最も大量の人員と物資を効率良く揚陸可能だ。問題は海南島の周囲には比較的なだらかな海岸線が至る所にあるので、全ての箇所を移動式レーダーで監視するわけには行かなかったという点にある。



「海岸には監視を行う陸上部隊を等間隔で配置しろ。なんとしても水際で敵の上陸を阻止するんだ」


「陸軍基地に通達します」


 庚中将は航空基地だけでなくて島内の陸上守備隊の司令官も兼任している。彼が下した命令に従って陸軍基地から半数の人員が海岸の警戒に動員されるのであった。





 



 輸送艦ひゅうがの艦内では・・・・・・



「敵のレーダーサイトの破壊を確認しました」


「いよいよ本格的な上陸作戦が始まるな。神埼大佐と彼女の部隊を呼び出してくれ」


「了解しました」


 俺たちは艦長の呼び出しにしたがって艦橋へと向かう。内部に詰めている人の表情が明るいから、おそらく作戦は上手くいっているんだろうな。



「神埼大佐、海南島のレーダーサイトが我々の攻撃によって機能を停止しました。今夕から本格的な上陸作戦が開始されます」


「ようやく特殊能力者部隊の出番か。ずいぶん待たせれたから体が鈍ってしまったぞ」


 うちの司令官さんは相変わらずだな。元々事務仕事よりも最前線で活躍するのが好きな人だから、こうして俺の妹同様な感想が口をつくのだろうな。



「海南島の陸上部隊は南岸の海岸線を防衛しようと移動を開始しております」


「そうか、予定通りだな。我々は夜陰に乗じて警戒が手薄な反対側から上陸して、敵の守備網を混乱させればいいんだな」


「そのとおりです。あとは米軍の上陸部隊と一緒に中華大陸連合の統合軍を一気に海に押し出してしまいましょう」


 これは事前に俺たちにも説明されていたから、特に目新しいことは何もないな。ただし海南島は九州と同じくらいの広さがあるから、一気に押し出すのはちょっと無理かもしれない。



「ひとまずは先鋒の我々に任せて欲しい。第1艦隊が引き連れている上陸部隊は安全が確保されてからゆっくりと上陸してくれ」


「了解しました。しかしながら米軍は指を咥えて待ってはいないでしょうな」


「それはあちらに任せるとする。さて、具体的な上陸地点を検討しようか」


 こうして司令官さんは地図を眺めながら海南島の地形を確認しているな。確か最南端の三亜市には原子力潜水艦の基地があると聞いているぞ。この基地を押さえるのも今回の俺たちの作戦に含まれているから、一番効率がいい上陸箇所を探しているんだろうな。



「よし、決めたぞ! この岬の先端から北に5キロにある海岸にする」


 司令官さんが指差したのは西部にある八所港という港の先にある海岸だ。港の周辺には建物があるが、ちょっと離れると道路だけが通っているような場所のようだ。暗闇に紛れて上陸するにはいい場所かもしれない。


「割と市街地が近いみたいですね。それから付近には小さな飛行場があるようです」


「気にするな、適当に車を奪って素早く移動するから、上陸するのはどこでも構わない」


 あーあ、いかにも司令官さんらしい荒っぽいやり方だよ。どこでも構わないって言うのは考えるのが面倒になって適当に決めたということなんですね。司令官さん、絶対にそうですよね!



「ということで2100から行動を開始するぞ。それまでは必要装備の点検と休養に当てろ」


「「了解しました」」


 俺と美鈴は『えっ、事前の打ち合わせはこれだけでお終いなの?!』という疑問を残しながらも返事をする。要は行き当たりばったりの出たとこ勝負というわけだな。ああ、今回の出撃は司令官、俺、美鈴の3人だけだ。勇者はひゅうがに乗っている上陸部隊と一緒に行動することになっている。ということで今夜に備えて宛がわれた自室で一休みしておこうかな。







 その日の夜・・・・・・


 俺たち3人はドライスーツに着替えて格納庫にやって来ている。美鈴の話だと済州島に出撃した時もクレーンで吊り降ろされた特殊艇で暗闇の海を突き進んだらしい。それにしても格納庫には10式や90式の戦車をはじめとして、16式機動戦闘車などが格納されている。整然と並んでいる車両の数々は軍オタの夢だぞ。あっちにある長い砲身は203ミリ自走榴弾砲だよな。


 俺が念入りに装甲車両の見学を終えた頃、ひゅうがの後部ハッチが開いてクレーンに吊られた特殊艇が暗い海面に降ろされていく。俺たち3人はすでに乗り込んで司令官さんは操縦席にスタンバイしている。船体が海面に着水する振動を感じると、クレーンのワイヤーは切り離される。真っ暗な海には船体5メートル程度という心細い大きさの特殊艇に俺たちだけが取り残されたかのようだな。そして司令官さんがエンジンを始動する。



「さあて、ここから先は後戻りはできないぞ。覚悟はいいな?」


 コクリと頷く俺と美鈴を見て司令官さんはアクセルレバーを操作して出発するのだった。


 

特殊艇で島への上陸を目指す主人公たち、果たしてその行方は・・・・・・ 次回の投稿は今週末を予定しています。


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