104 海南島攻略戦 7
本格的に開始された航空戦の模様をお伝えいたします。
朝日を受けて国防海軍飛行隊と国防空軍の連合編隊が大空を駆けていく。先導する海軍のF-35B一個小隊に空軍のF-15J一個小隊が20マイルの間隔おいて追従していく。双方ともに3機ずつの計6機が1つのチームになって敵機にミサイルを叩き込んでやろうと、その士気は非常に高い。
索敵は後方に展開しているAWACSが主に担当してるが、先導役のF-35もパッシブレーダーで前方の海上を探査しながら音速に近い速度で飛翔していく。
「視界は良好、今のところ敵影無し」
「了解、そのまま索敵を継続してくれ」
本作戦においては、フィリピンのクラーク航空基地から飛び立った120機に及ぶ米軍機が広東省の仙頭空軍基地から飛来する中華大陸連合の攻撃機を抑えている間に、原子力空母ロナルド=レーガンとカールビンソンから発進した100機以上の艦載機が海南島にある永興島航空基地を強襲する予定となっている。当初は広東省の海洲航空基地が敵の後方兵力として懸念されていたのだが、美鈴の大魔法によって街ごと瓦礫に変わってしまったので、現在南シナ海を防空圏として収めている中華大陸連合の大規模な空軍基地は上記の2箇所となっていた。日本軍の帰還者の恐るべき能力が今回の作戦を有利に運べる状況を作り出していたのである。
対する日本の連合飛行隊の殲滅目標は、広西自治区や雲南省の東部にある小規模な航空基地から飛来する敵機を攻撃することであった。小規模な基地といえどもそこに配備されている機体の合計は80機にも及ぶので、手を抜けないところである。更にこれらの基地の戦闘機を殲滅後は海南島の永興島空軍基地攻撃のバックアップも担っているのだった。
本作戦においては米軍海兵隊の強襲揚陸艦の艦載機は予備兵力として温存されている。彼らは上陸作戦が開始されてからその本領を発揮するのであって、今の所は様子見をしながら場合によってその戦力を投入するという役割を与えられている。
大雑把な戦域分布で考えると南シナ海の東側と南側は米軍が受け持って、西側を日本が担当するという形となっている。そのために空母〔いずも〕を旗艦とする国防海軍第一艦隊はわざわざ危険を冒して南シナ海を突っ切ってベトナムに入港したのであった。
話を再び空域を哨戒飛行するF-35に戻す。
「AWACSより広西攻撃隊へ。敵哨戒機と思しき機体が北北西200マイルを南東に飛行中。3機が固まって飛行している点から戦闘機と思われる。警戒を怠るな」
「広西攻撃隊了解した。まずは邪魔な偵察役を片付ける」
「了解した、誘導はこちらに任せてくれ」
「よろしく頼む」
真っ直ぐに北を目指していた計30機の連合航空隊からそれぞれ一個小隊のF-35とF-15が進路を変えて敵の偵察隊の追尾を開始する。
「空軍のF-15は我々から40マイル離れて追尾してくれ」
「了解、距離を開けるぞ」
これは旧式のF-15がステルス機ではないために敵のレーダーに映り込んでしまうのを防ぐためだ。約60キロの距離を開いて、先行するF-35と後ろからゆっくりと進むF-15の合計6機が敵の偵察機へと向かっていく。
「パッシブレーダーで機影を捉えた。敵の偵察機は依然として南東に向かっている」
「おそらく米軍の動きを掴んで偵察に向かっているんだろうな。敵機の前方に回りこんで22式を打ち込め。F-15は退路を塞いでくれ」
「了解」
こうして南東に進んでいく敵機の前方に回りこもうとF-35は急旋回して東へと進路を振り向ける。遅れてF-15はそのまま直進して敵機の退路を絶つ位置に機首を向けていく。しかも敵機のレーダーの探知距離の外側を速度を落としながら慎重に忍び寄ろうという念の入れようだった。
約10分後・・・・・・
「敵機の前方に出ました。まだ我々には気がついていません」
「相対距離30マイル。22式発射しろ」
22式とは短距離用の小型空対空ミサイルの通称だ。従来の04式空対空誘導弾の後継型として開発された重量100キロの軽量ミサイルなので、ペイロードが限られているF-35にも6発搭載されている。
「ロックオン完了、発射」
F-35のウエポンベイが開いてミサイルが放たれる。小隊の3機が1発ずつ中華大陸連合の偵察隊に牙を剥いた。これに対して中華大陸連合側の偵察隊では・・・・・・
「隊長機! 敵のロックオンアラームを確認! 突然前方に現れました!」
「ステルス機か! チクショウ、これだからこの国の機体は役立たずなんだ! レーダーがあっても何の役にも立たないではないか! それよりも各機は個別で退避行動に移れ」
正面から固体燃料ロケットエンジンの炎を噴出して迫ってくるミサイル、当然急旋回で退避するJ-20の姿を追いかけて喰らい付いてくる。急降下して何とか逃げようとするJ-20の1機に22式が追いつく。
ズドーン!
高度7000メートル上空で炎と黒煙が上がった。僅かに退避行動が遅れたJ-20の1機が爆発して空中分解する。だが、残った2機は何とか22式の追跡をかわして基地に戻ろうと飛んで来たコースを逆に辿っていく。そして・・・・・・
「前方に敵の機影! ロックオンされました!」
「先程の退避行動で大量の燃料を使用してしまったぞ。もう1回あんな曲芸飛行をしたら基地まで戻れない」
2機のJ-20の前に立ち塞がったのはF-15Jの3機であった。ハリネズミ化した両翼からそれぞれ2発の25式空対空誘導弾が発射される。合計6発の超音速ミサイルを正面から発射された中華大陸連合のJ-20にはもはや逃げ場はない。
「緊急脱出」
コックピットにあるプラスチックで覆われた赤いボタンを押すと、キャノピーが開いて操縦席ごと空に放り出されていくのだった。その後、慣性で飛行するJ-20にミサイルが命中して大空に炎の花を咲かせる。
日本の連合航空隊側は・・・・・・
「敵機の撃墜を確認。進路を元に戻すぞ。速度を上げて広西攻撃隊と合流する」
大きく予定航路をそれた6機は打ち合わせの地点で合流して、仲間の機影を追っていくのだった。
中華大陸連合、海南島にある三亜航空基地では・・・・・・
「偵察に出ていた第14飛行小隊との連絡が途絶えました」
「レーダーには何も映っていないのか?」
「レーダーの圏外で追尾できません」
海南島には中部から南西部にかけてウーチー山(1840メートル)を筆頭とする山岳地帯が形成されている。中華大陸連合はこの地形を生かして山岳地帯の複数箇所に長距離用周波数を使用したレーダーサイトを構築していた。地表や海面に向けられたレーダー波というのは水平線までの距離が探知の限界となる。したがって高所に設けたレーダーサイトはより広範囲をカバー可能となる。日本でも丹沢や箱根の頂上付近にレーダサイトを建設して広範囲の監視網を展開しているのと同じ理由だ。
そして空域の探査においては高所にあるレーダーはより広範囲でしかもクリアーな情報収集が可能となる。高度が高い程大気の密度が薄くなるので、ゴーストなどの影響を受け難くなるのだ。だが日本の連合航空隊はAWACSからの情報を受けて、海南島のレーダー網の探知限界の外側で行動を起こしていた。周波数の関係でレーダー波には反射する電波の強さに限界が生じてしまうのだ。だからこそその限界を埋めるためには宇宙から衛星で監視する必要があった。しかし中華大陸連合の衛星は度重なる富士駐屯地からの魔力砲の攻撃を受けて壊滅している。これは監視網に大穴が開いているのも同じでであろう。
「これはいよいよ日米の航空戦力による大規模な攻撃の前兆かもしれない。レーダー要員は引き続き情報収集にあたれ。迎撃機を飛ばすんだ」
「当基地に所属する機体は全機稼動可能ですが、後方から飛来した機体はすぐには飛ばせません。いまだ整備に手間取っていいます」
「構わない! 飛べる機体はすぐに上空に上げろ! さもないと滑走路に置いてあるただの標的になってしまうぞ!」
この基地の指揮官である庚文邦中将の判断はこの状況に於いてはまずまず適切であった。ただし日米の連合軍がそれをはるかに上回る緻密な戦術と物量で迫って来るとは考えてはいなかった。というよりも情報が不足しており、判断材料が余りにも少なかったと言えよう。
三亜空軍基地にサイレンが鳴り響き、昼夜を問わずに整備に明け暮れていた要員が機体から離れてパイロットが乗り込んでいく。小隊ごとに滑走路から爆装したJ-20が大空に飛び去る。計27機の最新鋭戦闘機J-20が離陸を終えると、続いては後方の基地から飛来したJ-11BやJ-16、SU-27などの混成の機体が離陸を開始する。
最後に電波妨害機のY-8CBや空中指揮機のY-8Tが飛び立っていく。ただしこの順番は日本を始めとする世界各国の航空防衛関係者から見るとお笑い種であった。日本の国防軍であったら、何はなくとも空中管制機であるAWACSをまずは飛ばしているはずである。というよりも日本の上空は24時間体制でこの機体が交代を繰り返しながら空の監視を行っているのだ。
中華大陸連合が日本のように空からの監視体制を常時取れないのは燃料の不足という背景が大きい。とはいえ、国防の最前線でこの有様は行き詰った国家を象徴しているかのようでもあった。
三亜航空基地、司令室では・・・・・・
「敵の航空兵力をレーダーで捉えました! 機数80以上が東と南からこちらに迫ってきます」
「広東と広西の大陸基地はどうしている?」
「迎撃準備を整えています。これから発進を開始するそうです」
「何をのんびりしているんだ! 我々だけでこの攻勢を受け止めろというのか!」
庚中将の口調に焦りが滲んでいる。最前線となる海南島から見て後方の大陸にある空軍基地から飛び立った増援が戦闘空域まで到達するには約90分を要する。その間は永興島の戦力だけで持ち堪えなければならないのだ。だが朗報もあった。敵の航空戦力が80というのは思いの外少ない数字だ。実はこれにはレーダーに映らないステルス機の数をまだ彼は計算には入れていなかった。そして西側からゆっくりと接近している日本の連合飛行隊もその姿はレーダーの圏外にあった。
「東側の機影はフィリピンから飛び立った米空軍と思われます。こちらではなく真っ直ぐに仙頭航空基地に向かっています」
「それは本当か! こちらとしては助かるが、果たして広東の連中の迎撃準備が整っているかどうかだな」
庚中将の心境としては、今は他の基地を心配する所ではないというのが偽らざる本音であろう。自分たちが大規模な航空攻撃を受けて持ち堪えられるかどうかの瀬戸際なのだ。その時、離陸して高高度まで上昇したY-8Tから連絡が入ってくる。
「こちら空中管制機、レーダーに不鮮明な影を発見した。敵のステルス機の可能性が高い。機数は全く判明しない」
「なんだと! それは不味いぞ!」
庚中将の表情が歪む。空中管制機のY-8Tは国産最高性能の対空レーダーを搭載している。それでも不鮮明な影としか捉えられないとしたら、味方の戦闘機では発見すら不可能だ。どうかレーダーのゴーストであるようにと祈るような気持ちでいた庚中将の元に、Y-8Tと司令室のレーダー要員からほぼ同時に報告が齎される。
「ロックオンシグナルを傍受しました! レーダーに映っている敵機はまだ攻撃距離の圏外です!」
「やはりステルス機がいたのか・・・・・・」
無念の表情で庚中将は唇を噛み締めている。あの米軍が旧式の戦闘機だけをこちらに向けてくる可能性など最初からないだろうと彼にもわかってはいた。でも心の中でその甘い可能性に期待を寄せていたのも事実だ。
「こちらの戦闘機が一斉に回避行動を開始しました」
「見えない敵から先制攻撃を喰らったら、止むを得ないだろうな。何とか振り切ってもらいたいが・・・・・・」
庚中将はパイロット経験もある中華大陸連合統合軍の内部では珍しい叩き上げの司令官であった。空戦における優秀な指揮能力を買われて現在の地位に就いているが、統合軍の首脳からは疎まれてこの辺境とも呼べる海南島に赴任していた。もうひとつ事情があるとすれば、彼は中華大陸連合の国内における少数民族である苗族の出身というのもこの地にいる理由といえるだろう。
「ステルス機の影が空域を離脱していきます! 代わって敵戦闘機が同空域に殺到してきます。ロックオンシグナル多数! 対空ミサイルの飽和攻撃です!」
Y-8Tから悲鳴のような声が伝わってくる。米軍も日本の連合飛行隊と同様の戦法を用いていた。ステルス機で撹乱しておいてから、ハリネズミ化したFA-18で止めを刺しに来たのである。予算に限りがある日本国防軍とは違って米軍は実に気前がいい。FA-18が両翼に抱えている空対空ミサイルを有りっ丈撃ち込んでいた。1機が12発の長距離空対空ミサイルを搭載しているので、予備を多少残してあってもこの場に殺到したFA-18計42機から実に400発以上のミサイルが発射された。
こうして海南島の三亜航空基地を発進した最新鋭のJ-20は、1機について10発以上のミサイル攻撃を受けて全て撃墜されていくのだった。遅れてこの空域に到着した旧式機の混成飛行隊は、目の前で味方の最新鋭機が手も足も出ないうちに全機撃墜された事実に戦きながらも生存者がいないかと哨戒を開始する。この頃にはミサイルを撃ち尽くした米軍機はさっさと引き返して、この空域はもぬけの殻になっていた。
だがこの獲物を見逃す程人の良い米軍ではない。実は先制攻撃を掛けたのはロナルド=レーガンを飛び立った艦載機であった。もう一方のカールビンソンを飛び立った航空打撃部隊は時間差をつけてこの空域に向かっていたのだ。
獲物に襲い掛かる飢えたライオンのようにカールビンソンの艦載機が同様の戦法を用いて中華大陸連合の混成飛行隊にミサイルを放っていく。この結果として三亜飛行基地に無事に戻っていった機体は最後方を哨戒飛行していた7機だけで、出撃した合計52機の約85パーセントが撃墜されるという、航空戦史に稀に見る大惨敗を中華大陸連合は喫することとなった。
こうして南シナ海の北部で勃発した一大航空戦の第1ラウンドは日米連合の圧勝に終始するのであった。
日米対中華大陸連合の航空戦、第2ラウンドの模様はどうなるのか・・・・・・ 次回の投稿は来週の中頃を予定しています。どうぞお楽しみに!
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