103 海南島攻略戦 6
皆様がたくさん閲覧してくださるので、お盆休みを返上して書き上げました。舞台は再び南シナ海です。
2日後のベトナム、ダナン軍港では・・・・・・
俺たちが乗船している国防海軍第1艦隊はあれから無事に最短距離でダナン軍港に到着して、2日間に渡って補給を行っている。安全空域であるフィリピンの東側を迂回して飛んできたC-2輸送機や同様の航路で先に到着していた輸送船から食料や軍事物資の搬入作業が行われている真っ最中だ。
クレーンでコンテナごと吊り上げて船内に運び込む作業を見つめながら、俺たちは軍港に設けられた兵員食堂で昼食を取っているところだ。
「それにしてもさくらちゃんには呆れたわね」
「中学生の頃から何度もヤ○ザの事務所に押し掛けてはパトカーが出動する騒ぎを起こしているとはいえ、本部を壊滅に追い込んだのは今回が初めてだな」
「何を他人事のように冷静に分析しているのよ」
「出来れば他人事だと思い込みたいんだ。両親の心労が今更ながらにわかってきた気がする」
俺と美鈴は昼食を取りながら日本から送られてきた情報に頭を抱えているのだった。ちなみに昼食のメニューは基本的には日本食なのだが、スープは米粉で作られた麺のフォーが入ったあっさり味のご当地風となっている。鶏ガラから取った出汁とパクチーの香りが東南アジアらしさを際立たせているな。
「それよりもいよいよ明日から本格的な上陸作戦が開始されるわね」
「そうだな、なるべく穏便に済ませたいな」
「それはどうでしょうね? 聡史君がいつものようにやり過ぎるんじゃないの」
「好きでやり過ぎている訳じゃないぞ! 威力の加減が上手く効かないだけだ」
「それこそがまさに〔破壊神〕の本領よね。今回はどんな破壊振りを見せてくれるのか楽しみだわ」
「大魔王様は相変わらず物騒な物言いだな」
今日一日は特にすることもなく、俺たちは軍港の施設で明日以降に備えて英気を養うのだった。
同時刻の南シナ海海上では・・・・・・
「こちらカールビンソン所属第21航空隊、中華大陸連合の水上艦をレーダーで発見。これより攻撃に移る」
「こちらAWACS、攻撃を許可する。確実に沈めてくれ」
「了解、ロックオン完了。ミサイル発射」
第21航空隊の現在位置は海南島の南150マイルの地点、海上の哨戒に出動してきた敵の駆逐艦に向かってハープーンミサイルがFA-18スーパーホーネットの翼から切り離される。切り離されたミサイルは重力に従って自由落下してから数秒後にターボプロップエンジンに点火する。オレンジ色の火を噴出しながら音速に近い速度で海面すれすれを飛翔して、目標である敵艦に向かっていくのだ。
同航空隊の僚機からもミサイルが発射されて、合計6発のハープーンが一斉に敵駆逐艦に襲い掛かっていく。日本製のX-SAMミサイルがマッハ3で飛翔するのに比べると性能的には数段劣るが、その分は数で補えばよいというのがアメリカ軍の基本的な考え方だ。実は米軍でもすでに後継のLRASAMミサイルの配備が開始されており、これは旧式ミサイルの在庫処分という背景もあるのだった。
中華大陸連合江凱Ⅱ型駆逐艦〔慶州〕の艦橋では・・・・・・
「敵航空機のロックオンシグナルを感知! 本艦に向かってミサイル発射の兆候あり!」
「迎撃準備に入れ!」
艦内の動きが慌しくなっていく。レーダー要員は目を皿のようにして画面を見つめてミサイルの機影を探す。甲板では側舷に設置してある3基の対空機銃に要員が2人1組で取り付いて固唾を飲んでミサイルが到達してくるのを待ち受ける。当然艦内の全員がこれは実戦であると百も承知しているので、誰もが緊張と不安で自然と呼吸が浅くなっているのだった。
「レーダーにミサイルの機影発見! 9時の方向、距離20マイル、数6! 着弾まで2分40秒!」
「なんとしても機銃で撃ち落とせ!」
衛星による早期監視システムが破壊されているので、艦に搭載されているレーダーだけが頼りという心許ない状況で、駆逐艦〔慶州〕では命懸けの応戦が開始される。海面ギリギリを飛翔するミサイルをレーダーで捕捉可能な距離は約30キロ、それから射程に入ったミサイルに照準を合わせて撃ち落とすにはほんの僅かなタイミングしかないのだ。
「9時の方向、水平線にミサイル発見! 対空機銃試射よし! 射程に入り次第撃ち落とせ!」
士官の指令が甲板に響き、大型機銃に取り付いて照準機を見つめる甲板員の背中にはじっとりと汗が滲む。撃ち漏らしたら艦諸共海に沈む運命が待ち受けているから彼らはいやが上にも必死だった。
「艦に近づけるな! 弾幕を張れ!」
対空機銃が唸りを上げる。1秒間に50発の弾丸が曳航弾と共に猛烈な勢いで吐き出されていく。遠目に火柱が上がってミサイルが次々に撃ち落とされる。だが海面すれすれを飛翔する6発のミサイル全てを撃ち落とすにはなんとしても時間が足りなかった。これは日米の艦船が装備している通称〔ファランクス〕と呼ばれる近接防御火器システムがレーダーと連動しているのに対して、中華大陸連合の技術がまだそこまで達していなかったことに起因する。
「2発迎撃に失敗! 真っ直ぐにこちらに向かってきますー!」
見張り員の悲鳴のような声が上がる。甲板にいる乗組員は我先に海へと飛び込んでいく。こうなったら艦の運命よりも自分の命が大切なのだ。
ズドーーン!
高々と火柱が上がり、駆逐艦〔慶州〕の艦橋にハープーンが着弾、続いて2発目が側舷の装甲を突き破って弾薬庫に飛び込んみ艦体が真っ二つに折れる大爆発をする。そのまま慶州は轟沈して海面からあっという間に消え去っていくのだった。
海南島攻略戦開始から3日間かけて、日米連合は南シナ海に配備されている中華大陸連合の水上艦や潜水艦を順次駆逐していった。日本の国防海軍に所属する第1潜水艦隊とダナン航空基地に配備されていたF-2戦闘機の働きは殊に見事なもので、海上と海中において敵の艦船を次々に撃破していくのだった。
もちろん米軍も負けずに、有り余る攻撃機と対艦ミサイルの猛攻で南シナ海の制海権を中華大陸連合から奪い返していく。こうして南シナ海は中華大陸連合の支配から切り離されていった。
日米の猛攻の結果、現状中華大陸連合が保有しているこの海域の艦船は沿岸警備用の小型ミサイル艇や海洋警察が保有する巡視艇のみとなっている。南シナ海の制海権を日米に奪われた中華大陸連合の統合軍幹部たちは、この状況に慌てふためいていた。
北京の中華大陸連合統合軍司令室では・・・・・・
「いかんぞ、これは非常に不味い状況だ」
人民解放軍を引き継いだ統合軍の幹部たちは青褪めた表情で額をつき合わせて対策を考えている最中だ。だが日米の想像以上に効果的な攻撃を受けて、これといった有効な対策を見つけられぬままに南シナ海の制海権を手放してしまう状況に苦慮していた。
「ロシア方面沿海州の兵力を振り向けるのはどうだろうか?」
「現状では陸上戦力は動かせないが、航空戦力をある程度振り向けるのは可能だろう」
沿海州方面の戦局は本格的な冬の訪れを前にして拮抗している。ロシアもシベリア経由でヨーロッパ軍団を本格的に沿海州に投入して、これ以上中華大陸連合が自国の領土に侵入してくるのを必死で防いでいる。中華大陸連合の頼みの綱である帰還者によるロシア軍基地への強襲も、低温と吹雪の前では見合わせざるを得なかった。
だが航空機は別である。積雪と強風で滑走路が近いうちに閉鎖される前に南方に振り向けるのは、今の時点ならばギリギリ可能であった。
「どうせすぐに飛べなくなるのだったら、今のうちに南方に移しておこう。長春航空基地と牡丹江航空基地の航空機の半数を広東省の仏山と海南省の永興島に転進させる方針でよろしいか?」
「米軍の戦闘機だけで300機以上が南シナ海に展開されている。小日本を加えれば350機だ。これだけの戦力に対抗するにはまだ不足ではないのか?」
「現状平穏を保っている天津、重慶、成都から航空機を引き抜けばよいだろう」
「それしかあるまい。こちらも数を揃えて日米を撃破するしか道は残されていない」
こうして何とか航空機の数を揃えて日米の連合軍を迎え撃つ方針を急遽まとめる幹部たち、そしてこの方針は独裁者である劉国家主席に上奏されて正式にその許可を得るのだった。
ダナン軍港では・・・・・・
午後になって、第1艦隊やダナン航空隊の幹部が集まってブリーフィングが開始されている。俺たちは司令官さんを含めてその会議に出席しているのだった。
「衛星からの情報では中華大陸連合は内陸部から航空機を掻き集めて空軍力を増強して我々に対抗する算段のようです」
モニターには海南島の航空基地や大陸沿岸部に集結している多数の戦闘機や輸送機の姿を映し出している。
「中華大陸連合が南シナ海に動員可能な戦闘機は250機、爆撃機は60機程度と予想されます」
「機種は判明しているのか?」
「半数は最新鋭のJ-20ですが、残りは型落ちの機体です」
「寄せ集めの数だけ取り敢えずは揃えたということか。アメリカさんは戦闘機をフル回転させると言ってきたな。こちらも作戦通りに準備をしておこうか」
遠征軍の幕僚の皆さんは余裕の表情をしているな。過信は禁物だけど、敵の戦力を過大に評価するのもよくないことだ。こうしてモニターに映し出される敵の航空戦力を分析した上で相応の評価をしているんだろうな。
さて、ちょっと小難しい話をしてみようか。これは俺が軍オタなりに考えたことだ。経済力、言い換えると生産力は軍備の強弱に直結する。経済力がない国は新兵器の開発が難しくなるし、国軍の維持に財政面で大きな負担を強いられる。アメリカは2018年から一貫して当時の中華人民共和国に経済戦争を仕掛けてきた。それと同時にフィリピンにおいて軍事基地を復活させて、南シナ海の対岸から軍事的な圧力も掛け続けた。中華人民共和国はアメリカと軍備拡張競争によってその経済が疲弊して、ついに国家として崩壊を迎える末路を辿る。
言ってみれば、軍は何も生産しない金食い虫だよな。維持するだけで膨大な予算を食い潰していく。だがこの予算が不足すると目に見えて保有する装備に影響が生じてくるんだ。戦車や航空機を常時稼動していくための整備には常に必要な部品を数多く揃える必要がある。この部品は交換してしまえば2度と使えない消耗品が多い。1台の戦車を動かしていくためには最低でも2台分の予備パーツを必要とするのが通説となっている。
更に軍は何も生み出さないにも拘らず膨大な燃料を消費する。石油の輸入国であった中華人民共和国を引き継いだ中華大陸連合は、国内の需要を満たすために膨大な石油資源を必要としていた。だが東南アジアに強引に侵攻したことが原因で石油を含む一切の貿易が遮断されて物不足が深刻化している国内状況では、満足な量の燃料を軍に回すのは困難だった。何とかやりくりしながら兵器を動かすだけの最低限の燃料を配給してはいるが、このような状況下では部隊が満足に訓練が出来なくなる。特に内陸にある航空基地は部品や燃料が後回しにされているという情報を得ているので、新たにこの部隊が到着した沿岸の基地では機体の整備に手を焼くこととなると予想される。
そして翌日の早朝から俺がモニター越しに見ているさなかに、ついに南シナ海を巡る一大航空戦が勃発するのだった。
翌日の早朝、ダナン航空基地では・・・・・・
隅々まで整備された滑走路には発進を待っているF-35Bが16機勢揃いしている。いずれの機体も国防海軍の空母〔いずも〕の艦載機だ。機体のウエポンベイには空対空ミサイルを搭載して今か今かと発進の指示を待っている。
「こちらダナン管制、海軍航空隊、発進許可が出た。小隊ごとに発進してくれ」
「いずも第1飛行隊了解しました。これより発進します」
いずもの艦載機はダナン到着の前に全て航空基地に着陸を済ませていた。この基地で万全の整備とミサイルの補給を受けて、これから始まる一大決戦に臨もうとしている。本職の国防空軍に負けずに3機が編隊を組んだまま一体となって離陸していく。
「ほう、海軍さんもいい腕をしているな」
その姿を見つめる空軍の管制官が思わず呟く程の見事な離陸だった。機体後部の排気ノズルからアフターバーナーの炎を上げながら急上昇していくその姿は『我こそが帝国海軍飛行隊の伝統を受け継ぐ者たち、零式艦爆の後継者である』と雄弁に語っているように彼の目には映っている。
海軍航空隊は発足してすでに6年の歳月が経過していた。当初は空軍のベテランパイロットや整備員を招聘して飛行訓練を行っていたが、今では教導から整備まで一切を自分たちで賄えるようになっている。そこには血の滲むような過酷な訓練があったのは言うまでもない。しかも空母への着艦や発進という戦後70年以上誰も行ったことがない未知の技術への挑戦でもあっただけに、その努力は並大抵では語れないであろう。
こうして5個飛行小隊のF-35が順に飛び立って、最後に1機だけ単独で司令機が発進する。これはF-35を日本が独自に魔改造して複座にした機体で、他の機体よりも通信やレーダー機能を充実させてある。AWACSからの通信をいち早く解析して、各小隊に的確な指示を出す役割を担っている。
F-35の各小隊が飛び立った後から国防空軍のF-15Jの5個飛行小隊が続々と滑走路から飛び立つ。F-15Jは1972年から日本で配備を開始された機体で、すでに50年間という時間が経過している。だが長期間国防の最前線に立って、制空戦闘機として日本の大空を守ってきた優秀な機体でもある。そしてこのF-15は度重なる近代改修と製造元のボーイング社によるアップグレードプランによって第4世代の戦闘機として究極の姿に変貌していた。
そのアップグレード振りは驚くばかりで、豊富なパワーと高い運搬性能を生かして機体をハリネズミ化したのである。具体的に説明すると、両翼には14基の25式対空誘導弾と2基のサイドワインダーを取り付けて、従来のF-15の2倍のミサイルを運ぶ文字通りのミサイルキャリアーとなった。
ステルス性の高いF-35が索敵並びに情報収集を行って、その後方からF-15がミサイルを発射するという分業体制を担うフォーメーションを国防海軍と空軍は共同で推し進めていたのである。これはF-35が格納庫に2発の25式対空誘導弾しか搭載出来ないという欠点を補うべく製造元のボーイング社が提案したプランで、実際に運用してみると驚くばかりの高い空戦性能を発揮していた。
滑走路脇にはF-2が3個小隊がスタンバイしている。その腹には普段ならば空対艦ミサイルを搭載しているのだが、今回の出撃に際してはあまり見かけない形状のミサイルを抱えている。果たして攻撃目標は何だろうか? おそらくは重要な任務を担っているのであろうが、作戦遂行上の理由で内容はまだ公表されていない。
そしてこの双方合わせて500機以上の戦闘機が動員される、日米連合軍と中華大陸連合の一大航空戦の行方が一体どうなるのであろうか? 結果は神のみぞ知ることかもしれないのであった。
航空決戦の行方は、そしていよいよ日本の秘密兵器である主人公たちの出撃があるのか・・・・・・ 注目の次話は今週末に投稿します。どうぞお楽しみに!
本当にびっくりするほどたくさんの方がこの小説に目を通していただいて、心からお礼を申し上げます。それから評価と感想もいただきまして、ありがとうございました。感想の返しは遅くなりますが、どうかお許しください。




