表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/52

#11 No Idea

 超常現象に巻き込まれた直後では流石に音楽など聴く気にはなれず、ヘッドフォンは首に掛かった無駄にデカいオブジェ兼アクセサリーになっている。

 故に店内放送と耳障りな喧騒をBGMにして、僕は大して良くもない頭をフル動員し、現状と今後について考えを巡らせていた。


 先程教室で体験した出来事を繰り返し反芻。

 あの招き声が消えるのと同時に震えも寒さもなくなった。身体はコントローラブルな状態になった。

 まるで、初めからそこには無かったかのように、違和の全ては霧か霞の如くさっぱりと消えたのだ。


 現在の僕は帰宅途中、まっすぐ家に帰ることはなく全国にチェーン店を展開するハンバーガーショップで栄養補給をしている。

 チーズバーガーとセットで注文したポテトを齧りながら、色々と考えていたわけだ。これ、塩かかりすぎだな。塩分の過剰摂取は健康に良くないらしいのに…。


 まぁジャンクで好きなんだけど。


 僕は無添加で味気ない食事を毎日摂って長生きするぐらいなら、添加物たっぷりで明らかに身体に悪いと思われるが美味しい食事を摂取したい。例えそれが原因で短命になろうとも構わない。今の所僕はそういう心意気で生きている!


……ごめんなさい、盛大に脱線しました。すみません。列車がこんな感じで脱線したのなら大事故です。ごめんなさい。


 気を取り直して、真面目に懸案事項を処理していこうか。


「彼女」は僕のことを「王子様」、そして「迎えに来る」とか言っていた。

 ちなみに僕が「彼女」を女性だと判断したのは、声質、雰囲気が男のものではなかったことと、もう一つ。


 彼女は僕を王子様と呼んだ。僕は男なので、同性からそう称されて欲しくないという一般常識からだ。というか同性には言って欲しくない。だってそんなの気持ち悪いだろ? 男性からのそんな声援は断固お断りします。ここは譲れませんのであしからず。


 ポテトと同様セットで付いてきた氷の多いコーラを一啜り。残量あと三分の一。


 どうやら彼女は僕をようやく見つけ、いつかは知らないが迎えに来るらしい。

 と言う事は、顔見知りで旧知なのか? いや、もしかしたら知らないからこそ探すのに時間がかかり、『ようやく』と言ったのかも知れない―――違うな。僕のことを知っているけど、単に見付け出す行為に時間が掛かっただけかもしれない。


 あー、だめだ全然分かんねぇし、絞り切れない。そもそも使える情報が少なすぎる。仮定はいくらでも出来るけれど、妄想的で正解を絞れない。こんなのいくら考えても意味がない。益体の無い妄言の域を出ない。


 考えがまとまらなくて、頭をボリボリ掻いていた僕はひとつ思い出した。彼女?


 僕と亜希子があの時出会ったのは確か女の子ではなかったか? 幼い僕らが桜の木の下で出会い、一緒に遊んだあの子は、確か女の子だ。


「アホらしい」


 余りにしょうもない妄想をしてしまった。名前も思い出せないあの子は、あの日遊んだだけの彼女は、今も何処かで元気に暮らしているだろう。

 あの冬の日にたった一回遊んだだけだが、きっと適当に幸せにやっているさ。学校で面白くもない授業を受けて、放課後や休日に友達と遊んで、家に帰れば暖かい家族とご飯があってさ。彼女は僕と同い年か、少し上ぐらいだったし今は高校生か大学生、おそらくは恋人だっているだろう。だからそんな彼女はきっとこの件に無関係な一般人だよ。


「疲れているのかもな」


 思わず弱音とも愚痴ともとれる言葉を独りごちる。


 なんせ今日はなかなかに非日常的だった。

 亜季子のこと。教室での恐怖体験のこと。固い背もたれに身を預け、ため息をひとつ。


 そう言えば、ため息をつくとその分幸せが逃げていくと良く言うけれど、一体僕は今日だけでどれくらいの幸せを逃がしたのかな? そして人生全体ではどのくらい?


 くだらない。

 そう吐き捨てると、再びため息が出る。あれ? やっぱり、ヤバいのかも。

 この短い時間の中で習慣化してしまったか?


 少しだけ不安になり、そんな俗説はくだらない都市伝説めいた寓話であり、科学的根拠など皆無であって欲しいと結構普通に強く思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ