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#10 Encount

 夕方の明かりが薄く差し込む紅い教室には誰もいなくて、僕のリュックが机の横に寂しくあるのみだった。亜季子は…いない。当然だ。


 しかし、こういう雰囲気ってなんか切ないよなぁ。喩えようの無いノスタルジックなもの寂しさというか、侘しい気持ちになるのは限りのある時間で成り立つ空間だからか…。


 鞄の中からヘッドフォンと音楽プレイヤーを出して耳に当てようとしたとき、教室の空気が変わった。気体の成分とかそういう話ではなく、もっと概念というか意味合いというか…そう質が違う気がしたのだ。


 なんだ…これ…?


 よく分からないけど、これはマズい。冬の気温がどうとかっていう種類の寒さじゃない。

なんていうか、とにかく違う。重くなるような、黒くなるような! 折れそうになるような雰囲気。

 全身の毛が逆立って、毛穴が開く。頭の中では何かアラームみたいなものがガンガン鳴り響いて僕に警告している。


 窓がガタガタ鳴っているのもすごく怖いし、窓を通した空の色も心なしか重みと深みを増したような感じだ。

 何か脂汗――いやこれは冷や汗か――が噴き出して不愉快気回りない。これは、ヤバイ。


 まさしく危機的状況。それなのにイマイチ思考が着いていかない。考えが纏まらない。

 変調を来す思考と同調するかの様に身体もうまく動かせない。まるで僕の両脚が床に縫いとめられたみたいに。硬い地面と同化したみたいに。今すぐここから逃げ出したいのに言うことを聞かない。脚は動かないのに、身体は心持ち震えている気がする。震えてる? どうして? 何故? 何に?


 夕方の冬の寒さは僕の知らない間にここまで物理的に厳しいものになったのか? 勿論違う。


 これはただの恐怖。圧倒的な恐怖による圧力。

 言葉では表わせない、本能的かつ純粋な恐怖による震え。


 絶対的な恐怖と疑問が僕を支配する。極限の静寂による蹂躙。

 そんな漠然とした現実を認識はしているのだけど、如何せん理解が及ばない。


「                   」


 なにか聞こえた。


 悲しくて、寂しくて、乾いて、冷たくて、怖くて、辛くて、苦しくて、重くて、寒くて、震えていて、切なくて、鋭くて、嘆いていて、叫んでいて。でもどこか懐かしくて暖かい。


 そんな声。


 僕はなんとか聞き取ろうと耳を澄ます。

 そうしなければいけない気がしたから。そんなアテのない直感。


「                        」


 え? 見つけ…た? 何を? あるいは誰を?


 冷たい声が、跳ねて弾む。歓喜に震え、喜びを歌い上げる様な声で告げる。


「ようやく見つけたよ。私の王子様。もうすぐ迎えに行くね。だから待っていて」


 僕の耳には確かにそう聞こえたのだ。

 凍てつくほどに優しく、暖かく全てを包むような声が言う。


 僕を迎えに来ると。


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