#0 Prologue
それは、とても星の綺麗な夜だった。
十二月の夜の空気は身を裂くように張り詰めていて、時折吹く厳しい風は僕の頬を誹謗中傷の様に容赦なく通り抜けていった。
加えて、日付が変わったばかりという時間帯ということもあってか、人の影はまばらで、というかほとんど見えなくて、そのせいか少しばかりの孤独と寂寥と、そして高揚に似た感情が僕をほんのり包む。
口から吐き出される呼気は白色に溶けて、そしてすぐに存在を常闇に隠してしまう。
僕はジャケットのポケットからしわくちゃになった煙草を取り出し、蛍火をつけて何の気無しに透明な夜空を見上げる。
「あれが冬の大三角ってやつかなぁ」
僕は若干微温くなった缶コーヒーを片手に、煙草をふかしながら多分そんなことを呟いたと思う。
ひょっとしたら全然違う星だったのかもしれない。僕は大して星には詳しくないから。
でも、その時の僕は冬独特の澄んで鋭い空気に包まれて、そして夜空を見上げてセンチメンタルな気分でロマンチックに浸っていたはずだ。
誕生日を約二週間後に控えた僕は、そんなありふれた日常のヒトコマの中で、少しばかりの非日常という日常を経験し、その後十六年と十一ヶ月強の生涯に幕を閉じた。
有り体に言って、僕は死に、絶命したのだった。