097.国境越え大作戦~国境到着~
『聖斗会』と別れたクロロたちは再び国境に向けて動き出した。
といっても、もうすぐそこに関所が見えている。
リュックの操る馬車には先ほどと同じ配置で、奥側にハイル・ギル・マジョリカ、手前側にショル・クロロが陣取っている。
「それにしてもさっきはビックリしたぜ。『聖斗会』の双子がここを覗いたときには完全に俺らが男だとバレたかと思ったぜ。なのにあいつら、あんまりこっちに注目してこなかったな。やっぱこの馬車すげぇよ。これならあの厄介なルベスも気付かねぇだろうな」
ギルが明るい声で言った。
「油断するなギル。まだ国境は越えてないんだ」
ハイルは外を警戒するように声を潜める。
「でも、本当不思議よね。こんな仕掛けで私たちの身体が小さく見えるなんて」
マジョリカは今朝の出来事を思い出す。
今朝がた…。
「お、おい…。あんたこれ一晩で作ったのか!?」
ギルが大幅に模様替えが行われた馬車を見て驚いた。
「ええ。クロロ君にも手伝ってもらいましたけどね」
「僕、この仕組み知ってたんだ!昔お父さんがこれで手品をしてくれたから」
クロロは懐かしそうな表情で明後日の方向を見る。だから、そっちは村の方じゃない。
「ギルさん。早速ですが、この馬車の一番奥に座ってくれますか?」
ギルは頷いて恐る恐る馬車に乗り込んだ。
「うわっ!奥の方は傾斜になってるのか…これは乗ってる時もちょっと踏ん張らなきゃだめだな…」
ブツブツ言いながらも、彼は言われた通り奥の席に座った。
「じゃ、僕は一番手前に座るね」
クロロはひょいっと身軽に手前に座った。
「おお!これはすごい!ギルが小さく見える!」
「本当ね!何よこれ!どうなってるの!?」
ハイルとマジョリカも驚いた声を上げる。
後ろで見ていた他のメンバーも口々に信じられないと言う。
オズは彼らの反応に満足して、解説を行った。
「簡単な事です。馬車の手前には小さ目の物を置いてさらに座席を狭く配置しました、奥には逆に大き目の物を置いて座席を広めにした。ただ、それだけでは弱いので、少し傾斜もつけています。所謂目の錯覚を起こしやすくしているのです」
オズがまるで大したことがないように言う。
「あなたは一体何者なんだ…。こんな仕組み聞いたこともない…」
「とある地域ではよく知られている方法ですよ。クロロ君だって知ってましたしね」
ニコっと笑いながらオズはクロロに話しかけた。
クロロもニコニコしながら頷く。
そこだけふわふわした空間が出来上がってしまった。
「ま、というわけで体格の問題は解決したわね。さぁ、ここからは男性陣の女装タイムよ!皆、気合を入れていくわよ!」
メリーが女性陣達に号令をかける。
すると「オー!」という元気の良い返事とともに女性たちがあれよあれよと言う間に男性陣を取り囲んでいく。
「きょん!やめてくれー!やめてー!!」
クラッチがじゃっかん女性っぽい叫び声を上げる。
「しくしくしくしく…」
リュックはめそめそ泣いている。
「うわーっ!そこはダメだー!頼む―!」
ギルはなにやらきわどい場所をどうにかされているようだ。
「そんないきなり脱がさないでくれ!私にも尊厳というものが!」
オズは尊厳を服と共に剥がされそうだ。
「さあ!好きにするがいいさ!」
ハイルは両手を広げて全てを受け入れている。しかしながら、瞳は岩穴の空高くを見つめている。
「えーっと、顎をもっとシャープにしないとぉ」
マジョリカは自分で自分をカスタマイズしている。
「僕これがいい!それから、それとあれと…あ、その扇子もちょうだーい!」
クロロは自分の好みの服を選ぶのにウキウキだ。だがしかし、ちょっぴり趣味が悪い。
そんなこんながあって、全員がカツラを被って帽子やベールなどで目元が隠れるようにした女装が完成したのだった。
出来上がったとき、女性陣達は「いい仕事をした」感が凄かった。
男性陣は「やってしまった」感が凄かったが…。
だが、その甲斐あって『聖斗会』は無事欺けた。
その自信を胸にとうとう国境に到着した。
すると一人の警備兵がやって来た。
「止まれ。…ずいぶんと大人数だな。お前たち何の目的でエルベス王国に行く」
それに対応したのはハティだ。
「私たちは商人と旅人です。最近はここまでの道中賊の襲撃が増えているということで、なるべく大人数で移動していたのですが、最終的にはこんな人数にになっちゃって」
ハティが苦笑して言う。
「なるほどな。確かにお前たち以外にも同じ理由で固まって動くも者も多い。…だが…。なぜ全員顔を見せず、同じような髪型なんだ?…明らかに男が混じってるだろ、それ!」
門番が一行を指差しながらわなわなと震えている。
するとリュックがその視線に耐えられなくなったのか、前に出て話し始める。
「これには、ふか~い…それこそ大海で女戦士ウララの前に立ちはだかった巨大蛇が済んでいた深海より深い事情があるのです!」
「お、おう」
リュックの気迫にじゃっかん引き気味の兵士。
「私どもの仲間に賊に狙われやすい子がおりまして、その子を隠すために皆で同じ格好をしようという話になったのです。俺も本当はこんな恰好したくはなかったのですが、仲間のためです。そう、仲間の為なのです。決してこのような恰好が好きなわけではないので、そのあたりのこと誤解のないようにお願いします!」
リュックは警備兵にぐいぐい迫りながら言い訳をする。
「わ、わかった!わかったからそんなに近づかないでくれ!お前たちどんだけ化けるのが上手いんだ!体格以外はとても男には見えないぞ!化粧が上手いのか、元がいいのか知らんがな!ちくしょう、ドキドキするんだよ!うわーん、イトーシ!これは浮気じゃないよー!」
どうやらこの警備兵はイトーシという素敵なお相手がいるようだ。
それから少々警備兵はあっちへ行ったりこっちへ行ったりとうろうろしながら心を落ち着けた。
「ふぅ…落ち着いたぜ。こほん。取り乱してすまない。通常なら何も問題なく通すんだが、今は少々時期が悪い。反国家組織のリーダーらしき人物がこの辺をうろついているという情報が入ってるんだ。すまないが、あちらへ行って簡単な検査を受けてはくれまいか?」
彼は兵がたくさん集まっている方を指差す。
よくよく見ればそこにはルベス率いる一行が、国境を越える商人たちを検査しているところだった。
ハティは一瞬リュックと彼が操る馬車の方に目を向けたが、すぐに目線を戻して言った。
「わかりました。行ってきます」
「おう。そこで問題が無ければエルベス王国に入ってもらって結構だ」
警備兵はそのまままた定位置に戻った。
一行はパカパカと馬の足音を立てながらルベスたちに近づいて行った。
皆口には出さないが、相当緊張している。
「すみません。ここで検査を受けるように言われたんですけど」
ハティは声が震えないよう細心の注意を払いながら喋る。
「ああ、旅の商人たちですか?申し訳ありませんね。いつもはこんな面倒なことはしないのですが…」
声に反応して振り返ったのはルベスだったが、彼は振り向きざまに固まった。
「えっと…あなた方は…一体どういった集まりでしょう?」
そりゃ、振り返ったら同じ格好の奇妙な集団がいるのだから当たり前といえば当たり前の反応だ。
その質問には先ほど警備兵にしたのと同じ説明をした。
ここは特に嘘をついている訳ではないので、何の罪悪感もない。
事情を知ったルベスは納得してくれたようだ。
「なるほど、わかりました。それならば致し方ありません。それでは簡単に馬車の中身や皆さんのことを一人ひとり調べさせてください」
ルベスがそう言ったとき全員に緊張が走る。
一人ひとりの検査は大変まずい。
ハイルたちが乗る馬車は彼らの大きさを周りの物と比較することで小さくする仕組みだ。
もし、彼らが単体で馬車の外に出ることになればその効果がなくなってしまう。
何か良い言い訳はないかとリュックが内心大焦りしていたが、助け舟は意外なところから現れた。




