095.国境越え大作戦~とある賊の受難3~
クロロたちは捕えた男たちをまとめて縄でグルグル巻きにしていた。
「ちくしょー!離せ―!俺は天下のカイチョ様だぞ!」
「これが恋。恋なのか…。まだ心臓が痛い。っく…そうかこれは切ない思いというやつか…」
「何!?フクカイに恋っ!応援するぜ!…で?相手は誰だ?もしかして、あの筋肉美が美しい彼女か?」
「それはカイケイの趣味でしょ!どんだけストライクゾーンが広いの!?僕なら絶対お断りだよ!」
「僕もだよ!というか、あれ絶対男じゃん!女好きならそんくらい見抜いてよ!」
捕えられているというのに、やけに賑やかな集団だ。
なんか、その辺の女子会みたいになっている。
「…で?あなた達は一体何者なの?」
ショルが皆を代表して尋ねる。
いつもはリュックがこういった役回りをするが、今は女装で精神力をゴリゴリ削られているため無理だった。
「はんっ!誰が答えるかよっ!」
「私たちは神化教所属の『聖斗会』役員だ。今回は国境付近まで貴族の娘を取り逃がしてしまったという連絡を受けて出動した」
「お前なにあっさり言っちゃってんの!?」
せっかくカイチョがそっぽを向いたというのに、フクカイがビックリするくらいあっさり白状した。
ちなみに彼の目線はメリーに釘づけである。
「…ふ…。悪いなカイチョ。私は運命の人を見つけてしまったようだ。今でも切ない胸の痛みが引かないんだ。私の胸は恋の形になってしまったようだ」
フクカイはじっと自分の胸を見る。
その様子を見ていたメリーは、おそらく彼の胸には自分の手形しかないと思った。
面倒なので何も言わないが。勘違いも甚だしい。
「さて…あななたちのこれからだけど…。うーん。皆どうしよう?このまま放置しとく?」
ショルは皆に相談した。
「そうねぇ。どうせ良からぬことを考えてたんでしょうし、罰としてそれもいいかもね」
テリーヌが容赦ないことを言う。
「そうだよ。こんなサイテーな男共に情けなんていらないよ。このまま野生動物にやられちゃえばいいんだ!」
実際に下心のみで言い寄られたハティはお怒りモードだった。
「いやいや、生ぬるいよ。ここは全身真っ裸というオプションもつけよう。特に双子っぽい子たちには相当痛い目を見てもらわないと私の気がすまない!」
珍しく怒っているクロロだ。
どうやら男だと断定されたのが、癪に触ったようだ。
本来は正真正銘の女の子であるのに、女の格好をして男だと言われるこの屈辱…。
この恨み、晴らさでおくべきか!
「ふふふ。それなら二度と見れない顔にしてからでもいいですかな?私もなかなかに酷い目にあいましたのでね…」
女装していることも忘れて、手をぼきぼき鳴らしながらオズが彼らに詰め寄ってゆく。
何気にこの中で一番怒気が溢れている。
「ぎゃー!やめてくれー!怖いよぉ、かーちゃぁぁん!」
めっちゃ泣き叫んでるカイチョ。
「うぅぅ…。貴女にそんな姿を見られるなんて嫌だ!こんなことなら兄さんに誘われても村から出るんじゃなかったぁぁ!」
メリーに情けない姿を見られるのが何よりも嫌らしいフクカイ。
「顔は…顔だけはやめてくれぇぇ!畜生っ!何で俺も兄ちゃんたちについて来ちまったんだ!…そうだ、もっとたくさんの美女に会いたかったからだぁぁ!」
どうやら節操なしらしいカイケイ。
「サブショ~!どうして僕らもお兄ちゃんたちについて来ちゃったんだろ~!」
「うぇぇん、ショキー!僕もう村に帰るぅー」
双子たちは後悔の真っただ中のようだ。
…というか先ほどから大変気になる単語が行き交っている。
「ちょっと待って。お兄ちゃん、お兄ちゃんって…もしかしてあなた達兄弟なの!?」
ショルが驚きの声を上げる。
「うぅ…俺は長男のカイチョだ…。田舎の村がつまらなくて飛び出したんだ…。ちなみに22歳…」
「私は次男のフクカイ。カイチョが都会に行くと言うので、面白そうだったから一緒について来た…。21歳だ」
「俺は三男のカイケイ。村の女たちよりもたくさんの女性たちに出会いたくて兄ちゃんたちについて来たんだ…。20歳」
「ぐすん。僕は四男のショキ。お兄ちゃんたちだけズルいと思って…19歳…」
「ぐすぐす。僕は五男のサブショ。皆出てくっていうから寂しくて…僕ら顔はいいから絶対都会でもちやほやしてもらえるとも思ったし…同じく19歳…」
何気に五男のサブショが腹黒い。
というか、何故か聞いてもいないのに年齢まで暴露された。めっちゃ年子だった。
「こんなことになるなら、村を出なきゃよかった!今までは順調だったのに…。なんでこんなことになったのかさっぱりぽんだ!」
カイチョが空を仰ぎながら言う。
「私たちは所詮弱っちい、ただの村人だったということか…親父の言うとおりだった…」
同じく空を仰ぐフクカイ。
「あぁ…あの真面目なあいつ…元気かなぁ…」
やはり空を仰ぐカイケイ。
「村の食堂での商人や旅人の話に憧れるだけにしておけばよかった~」
遠い目をしながら空を仰ぐショキ。
「鬼の元神官が教えてくれたこと、ちゃんと守ればよかったよぉー」
涙目で空を仰ぐサブショ。
「なんか知ってるフレーズがいっぱい出てくるんですけどぉぉ!」
一緒になって空を仰ぎながら、大声を上げるクロロ。
「君たち、もしかして、もしかしなくてもコモン村出身なんじゃないの!?」
縛られた彼らに向かって歩み寄るクロロ。
「な…、なんだ?お前コモン村を知ってるのか?」
カイチョが戸惑いの声を上げる。
「知ってるよ!私が旅人になって初めて尋ねた村だもん!君たちあんないい村を飛び出してこんなところで何やってるんだよ!人に迷惑かけたり、貴族を攫ったり!そんな姿をロリア元神官が見たら卒倒…はしないか、コテンパンにやられちゃうよ!」
「ダメだ!鬼のロリアには絶対言うな!そんなことになったら、あんたらが今俺達にしようとしたこと以上のことをされる!頼む、あの鬼婆にはこのことは内密に…ぶへっ!」
ロリアを鬼婆と言ったとたん、カイチョの端正な顔がクロロに寄って歪まされた。
両頬をむにーっと押さえられるという、大変顔が不細工になる方法で。
「むむむむむー!」
首を激しく振るが、クロロの両手がそんなことで外れる訳もなく、さらに顔がおかしくなるだけだった。
「これ以上何かされたくなければ、君たちが知ってることを洗いざらい教えてもらうよ」
クロロの脅しに、次男以降たちは顔を見合わせ黙っていたが、彼女の後ろから聞こえて来た言葉に顔を真っ青にする。
「喋らないなら、それで結構。ならその口はもう必要ないだろう。私が使い物にならないようにしてあげよう」
「いやいや、オズの手を煩わせるまでもないよ。私がもうちょっとトキメキを味あわさせてあげてもいいし」
「あらあら、なんなら私がこの服を縫う自慢の腕前でお口も縫ってあげましょうか」
全員目が本気だ。
「「「「「洗い浚い喋ります!」」」」」
兄弟たちは声をそろえて言った。
なんだかんだで仲は良いようだった。




