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093.国境越え大作戦~とある賊の受難1~

「皆わかってるだろうな!ここが貴族の娘を捕えられる最後の砦だぞ。どうして俺達がここを任されてるかわかってるだろうな」

「もちろんだとも。私達は今までの奴らとは格が違う。女性たちを捕える上で最も大切なものを持った集団だという自覚ぐらいあるさ。なあ、皆」

「あったり前。まったく他の連中はやり方を間違えすぎだってぇの。なんでも力ずくで解決できると思ったら大間違いだぜ」

「そうそう。必要なのは力じゃないよぉ~」

「でも、頭でもないよぉー。…必要なのはぁ…」


「「「「「顔!!!!!」」」」」


 『バーンッ!』と会話をしていた見目麗しい5人がそれぞれポージングを決める。

「勇ましく、カリスマ性あふれる俺、カイチョ!」

「クールで冷静沈着な私、フクカイ!」

「遊び慣れしてて、頭の回転が速い俺、カイケイ!」

「天真爛漫で元気な僕、ショキ!」

「同じく天真爛漫、元気いっぱい、サブショ!」


「「「「「聖斗会、参上!」」」」」


 彼らは国境まで逃げ延びた貴族を捕える役目を担っている集団『聖斗会』のメンバーだ。

 ここまで逃げてきた貴族というのは、数々の襲撃を躱したか耐えてきた者たちであり、力技というのはもはやほとんど有効ではない。

 そのため、組織の者たちはここで大幅に手段を変えた。

 大抵の貴族たちは最後の襲撃には備えているが、心理戦までは想定していないことが多い。

 そこを突いた作戦だ。


 貴族の女性相手であれば、素敵な殿方たちに好意を寄せられて嫌な気分になることはまずない。その上、偶然知り合ったタイプの違う男性たちから取り合われたりしたら、もうたまらない。

 そして気分が良くなっているところを、言葉巧みに人気のないところに呼び出して仕留めるのが彼らのやり方だ。

 ちなみに余談ではあるが、これが貴族の男性の場合は『聖女会』という者たちがこの役目を引き受ける。

こちらには、ツンデレ系、ロリータ系、真面目系、大人系、元気系の可愛い子ちゃんたちを取り揃えている。やり方は同じく、一人の殿方をみんなで取り合い、最終的に人気のないところで仕留めるのだ。

 噂では『聖女会』の方がやり方がえげつないそうだ。


「聞いたところによると、今回のターゲットは17,18才で肩くらいまで伸ばした黒髪と緑色の瞳の女の子らしい。貴族色は足の爪らしいから、見た目ではまずわからないだろう。体型は中肉中背とのことだ。この娘は商人たちと行動を共にしているらしい。その中に凄まじく腕の立つ護衛がいるようで、ここまで数々の襲撃を返り討ちにしてきたそうだ」

 カイチョが報告書を読み上げた。

「17,18というと私たちが最も得意とする年齢じゃないか。これは好都合」

「ふふふ、腕が鳴るね」

「早く行こう~」

「早くやろうー」

 彼らは意気揚々とアジトから街道に向けて出発した。

 作戦など立てるまでもない。

 いつも通りにいけばまず成功する難易度の低い獲物だと思だ。


 国境付近の街道にて…。

 5台の馬車と3匹の馬を連れた集団が国境に向けて進んでいる。

 そこに5人の男性が現れた。『聖斗会』のメンバーである。

「お、もしかしてあんたたちも国境に向かってるのか?」

 カイチョが目の前の集団にフレンドリーに話しかける。

「あっ…!あ…、あららん?は、初めましてぇ~。私、リュッ子と言いますの~。私たちぃ、おっしゃるとおり国境に向かってますのよ~…」

 リュッ子と名乗った女性は肩までの黒髪をしていた。目元は深めの帽子を被っているため見えない。

(こいつがターゲットの娘だろうか…?思っていたよりも大柄だな。報告書では中肉中背とあったが…。声もだいぶ低いし…。うーん…ちょっと特徴と違うか?)

 そう思っていたときに、カイチョの服が後ろからちょいちょいと引っ張られた。

 振り向くとフクカイが真っ青な顔をして、集団を指差している。

 何事かと思い、よくよく彼らを観察すると…

(んな馬鹿な!!全員肩までの黒髪をしてやがる!!しかもそれぞれ被り物をしてて顔がよく見えねぇ!ちくしょう、こいつら貴族の娘を巧みに隠してやがるな!想定外だ!)

 カイチョはひくつく顔を無理やり押さえて言った。

「あ、あんたたちずごく仲良しなんだな。そんなに同じような恰好をしてる集団なんて初めて見たぜ。どんなこだわりがあるんだ?」

 すると、奥の方からずずいっと押されて、大柄な女性が出てきた。

「い、いえね。私たちの仲間の1人が最近執拗に付け狙われていまして…彼女を守るために…このような恰好をしておるのですよ…わよ」

 この者も少々挙動不審だ。だが、それだけで偽物だと判断していいのか!?

 …っく、これは一度作戦会議が必要だ!

「そうなのかい。いやあ、最近物騒だよな。お互い大変だ。俺達も国境に向かってるんだが…もしよかったら、俺達も国境越えまでご一緒したいんだが…。あ、ちょっと待ってくれ…俺の一存じゃダメみたいだ!ちょっと仲間たちと相談してくるぜ!」

 カイチョは、少々不自然ながらも、仲間を連れて一旦彼らから距離を取った。


「おいおいおい、なんだありゃ?あれじゃあ、どれが貴族の娘かわかんねぇぞ!」

「そうだよ。ど~すんの?」

「どーすんの?」

「お、落ち着け。冷静に考えろ。娘は腕の立つ護衛が守る商人たちと行動してるらしいじゃねぇか…。旅商人なんて職業女たちだけでやるわけがねえ。少なくともあの集団の半分以上は男と考えるのが普通だ」

 カイチョは仲間たちの元へ戻り、少々冷静さが戻ってきた。

 フクカイもその意見に同意する。

「そうだな。私もそう思うんだが…。あいつらやけに女装のクオリティが高くないか?口調が行動が少々おかしかったから、さっき言葉を発した2人はおそらく男性だろうと思うが…。私でも一瞬ドキッとしたぞ」

 彼は自分の身体をさすりながら言う。

 いくら見た目が美しくても、男にドキッとした自分にショックを受けているようだ。

「…国境までもうあまり距離はないぞ。どうすんだ?」

 カイケイが困った表情で、ウェーブのかかった長めの髪をかき上げる。

「…もう時間もないし、もういっそ皆、個々で貴族だと思った人間にアプローチしてみない?そうすれば、誰かは当たるかもよ?…このパターンはやったことないけど…」

「でも、もうやるしかないよ。ほら、向こうさんにこっちがなかなか結論出さないと不信に思われるよ」

 ショキとサブショが提案をした。

 他に良い手も見つからず、致し方なくその作戦でいくことにした。


 カイチョは再び商人たちのところに来ると、仲間たちも一緒に行きたいと言っていると伝えた。

 するとリュッ子と名乗った人物は頷いてどうぞと彼らを招き入れた。

 カイチョはしめしめと思い、彼らの集団と合流した。

 そして、仲間たちには思い思いに、皆さんとコミュニケーションを取るように指示し、自分も怪しいと思う人物に検討をつけて話しかけることにした。


【カイチョの場合】

 カイチョは先ほどの2人は貴族の候補から外した。

 挙動不審であったし、体格も女性にしては大きかったからだ。

 彼は馬車を操っている女性の1人に近づいて行った。

 彼女は女性として中肉中背であり、なんとなくハキハキした雰囲気を醸し出していて、10代の若さを感じた。

「はじめまして。俺はカイチョ。あなたは?」

「え?私?私はハティって言うの」

「ハティか、可愛い名前じゃないか。見たところ旅商人のようだけど、女性なのに凄いな、感心するよ。…それになんか君の雰囲気、俺は好きだな」

 カイチョはずずいっと馴れ馴れしくハティに顔を近づけた。

 ドキドキシチュエーションを演出する効果というよりは、彼女の瞳の色を確認するためだった。

 彼女はなぜか口元を覆うようなマスクをしていて、帽子を被っていた。

 そのため、目だけでなく彼女の顔の造作もほとんどわからない状態だったのだ。

 結論から言うと、彼女は琥珀色の眼をしていたためターゲットではなかった。

 カイチョはハズレを引いたとわかり、内心舌打ちした。

 そのときだ、いきなり目の前の彼女に顔面へ白い粉をかけられた。

「うわっ…なんだ一体…う…こ…れ……は……」

 ドサッと彼は馬車から転げ落ちた。

 ハティがそっと近づくと、彼から「ぐぅ~」という、気持ちよさそうなイビキが聞こえてきた。

「ふふん。一丁上がり」

 彼女は彼の顔面に忍ばせておいたオネムの木の粉を放ったのだ。

 これは煙と同様、強烈な睡眠薬となる。

 近くにいたハティもこれを吸い込むはずだが、彼女のしていたマスクがそれを防いだのだ。

「さてさて、他のみんなもうまくやったかな?」

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