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009.廃村の朝

 翌朝、日の出と同時に起きたのはクロロだった。彼女は基本的にいつもこの時間に起きる。

「ん~。いい朝だなぁ。久しぶりに屋根のあるところで寝たから気分がいいや」

 クロロは起き上がり、自分が着ていた服が乾いていることを確認して身に着けた。実はクロロが着ていた下着の内側には胸当て兼さらしの役目をする帷子がついている。これで上半身の体系をごまかしているのだ。

 ちなみに、昨日の夜はハイルが用意した服を使用したが、ぶかぶかだったため身体の線が全く出ず、女だとばれなかったのだと考えている。決して自分の身体の凹凸が貧相だというわけではない。そう信じている。信じたい。

 支度を終え、クロロはハイルとギルが寝ている部屋を覗きに行った。この家にはたくさんの部屋があり1人1部屋で寝ることができたのだ。おそらく客人を泊める宿屋代わりの家でもあったのだろう。ベットはかなり埃っぽかったが、ちょっと掃除するだけで使用できるものも多く、野宿よりもだいぶ快適に過ごすことができた。


 クロロが大広間に行くと誰もいない。まだ2人とも寝ているようだ。

 クロロ自身は早く出発したいところだったが、2人はなんだか疲れているようだったしもう少し寝かせておいてあげることにした。

 せっかく時間ができたので、朝食の準備をする。

 幸い大広間に続く部屋が台所だったため、そこを拝借することにした。竃にはまだ薪が残っていた。クロロは、その薪に向かって「フッ」と息を吐いた。すると薪に火がつき、見る見るうちに燃え上がる。

 彼女はそれを見届け、何事もなかったかのように家を漁ると鍋らしきものを見つけたので、マシマシダケとナッツの実を煎り、水を入れてグツグツと煮た。最後にポンポンの実をつぶして入れ、クロロ特製お腹満足スープの出来上がりだ。食後のオランジの用意もして完璧な朝食ができた。

 出来栄えに満足した彼女は、寝坊助な2人を起こしに行った。


「ハイルさん。おはようございます。もう起きれますか?」

 まずはハイルを起こそうとクロロは彼の寝ている部屋のドアをノックしながら尋ねた。返事か帰ってこないので、ドアを開けて中の様子を見ることにした。

「入りますよ」

 ハイルはクロロに背を向けて横向きに寝ていた。声をかけても起きそうにないので、揺さぶってみようと彼に手を添えた途端、ハイルは寝起きとは思えない鋭い動きで上半身を起こし、クロロを突き飛ばそうとした。

 クロロはビックリして後ろに飛びのきそれをかわした。

 2人の間に微妙な沈黙が流れる。

 最初に口を開いたのはクロロだった。

「…あの、おはようございます。朝食が出来てるんでよかったら食べてください」

「…」

 反応がない。

「ハイルさん…?あれ?起きてます?」

「…」

 やはり反応がない。

「え?何これ。どうしたらいいんだろう」

「…」

 ハイルはずっとうつむいたまま動かなかった。クロロは困ってしまった。こんなおかしなことになるなんて、もしかしてハイルは何かに身体を乗っ取られてしまったのではないだろうか。

 彼女は怖くなったがどうすることもできず、ハイルは放置して、ギルを起こしに行くことにした。

 彼の部屋の前に行ってハイルのときと同様ドアをノックしながら声をかける。

「ギールー。朝だよ、ご飯できてるよ。あとちょっと困ったことになってるのー」

 すると中から返事があった。

「んあ~、起きてるからちょっと待ってくれ。」

 ギルはちゃんと起きているようだった。

 クロロはちょっと安心してドアを開ける。

 着替えの真っ最中だったギルは真っ赤になって慌てた。

「どわーっ!ちょっと待ってろって言っただろう!何入ってきてんだよ!」

「えっ?ダメだった」

「当たり前だろ!未婚の女性が1人で男の部屋に入るもんじゃない!しかも俺今着替え中!」

 クロロはケラケラ笑う。

「大丈夫だよ。僕別に気にしないから」

 ギルはちょと怒った顔をしながら、彼女に諭す。

「ダメだ。気にしなさい。女の子だろ」

「えー。…でも僕が気にしなくても、ギルは気になるのか。それじゃあしょうがないよね。部屋の外で待ってるよ。着替えの最中に入っちゃってごめんね」

 クロロはそう言って反省し、部屋の外へ出て行った。

 1人になったギルは釈然としない。

「これ普通男女逆でやるやつだろ…」


 着替え終わったギルが部屋を出ると、クロロは律儀に扉の前で待っていた。

「あ、ギル準備終わった?さっきはごめんね」

「いや、わかってくれればいいんだが」

 ギルはまだ複雑な表情をしているが、クロロはそれを気にせず相談事をもちかける。

「あのね、ハイルが座ったまま動かなくなったんだけどどうしたらいいの?」

「ちょっと言っている意味がわからないんだが」

 確かに簡潔に言い過ぎたと、クロロは反省して事の次第を語った。

 それを聞いたギルは呆れた顔をした後、嬉しそうに笑った。

「そりゃただ単に寝ぼけてるんだろうよ」

「寝ぼける?呪いとかじゃないんだね!よかった!僕、寝ぼけてる人って初めて見た」

 クロロは妙なところで興奮している。

「お前の身近に寝起きの悪い奴はいなかったのか?」

「うん。みんな元旅人だから寝起きのいい人ばっかりだったんだ。一緒に旅することになった人が寝起きが悪くて大変だったってのは話には聞いてたよ」

「あー、あいつは本来寝起きはすこぶる悪くてな。最近気を張ってたからすんなり起きてたが。まぁ、寝てるどころじゃなかったってのもあったけどな。ただ、そうやって無意識に身体動いたのに、まだ寝てるってことは完璧ではないものの安心してる証拠でもあるな」

 クロロは首を傾げた。

「そういうもんなの?」

「あぁ、あいつは顔に出さないが俺よりも気を張ってたからな。性格上の問題もあるが立場的にもな。なんせあいつは…」

「ストーップ!」

 ギルの言葉を遮りクロロが大声を上げた。

「僕はその先は知りたくないよ。知ってたらなんかやっかいなことになりそうだ」

「ちぇっ、薄情なやつだな。でも、確かに今のは俺が迂闊だったな。ツルっとしゃべっちまうとこだった。短い付き合いだが、不思議とお前にはもう警戒心がわかねぇんだよな」

 ギルはハハハっと笑う。

 昨日と打って変わって彼はクロロにとても友好的だ。

 本来彼はこういう性格で、極度の空腹と緊張が彼を追い立ててたのだろう。

 陽気なギルが嬉しくてクロロはつられて笑った。


 2人はニコニコしながらハイルの部屋に到着した。クロロがそっとドアを開けると、ハイルは先ほどの体勢のまま微動だにしない。

「ギル、ハイルはどうしたら起きるの?」

「ふふふ…あいつを起こすのはあいつの頭を床に落としてやるのが一番だ。やってみろ」

 クロロは頭に首を傾げながらもギルの言うとおりにしてみることにした。

 まず、ベッドの上に座っているハイルの上半身を横に倒し、そのままお尻を押して、頭から床に落とす作戦だ。

 クロロが優しく押し始めると、ハイルは体制を変えようとするなどの抵抗を始めた。

 クロロは反応があったことに内心「おおっ!」と思ったが、彼が完全に起きたわけではないので身体を押し続ける。

 ハイルの抵抗むなしく、状況はクロロのほうが優勢で、少しずつ彼の上半身はベットからはみ出して床に近づいていく。

 もう少しで彼の頭が床につくというところで、ハイルは首をイヤイヤと振りながらしゃべり始めた。

「…ギル…今日のギルはいつもより意地悪だ。起きる…起きるからやめてくれ…」

 それを聞いたクロロは彼から手を放した。

「おはようございますハイルさん。残念ながら僕はギルではなくクロロです。朝ごはんできてますよ。起きてください」

 ハイルはハッとしたようにクロロを見上げる。

 彼にしては珍しく顔を赤くした。

「す、すまない。恥ずかしいところを見られた。どうも久々に安心して睡眠を取ったため、ちょっと寝起きが悪かったようだ」

「アハハ、別にいいですよ。ちなみにこの起こし方はそこで大爆笑してるギルから教えてもらいました」

 クロロの指差す方向には、腹を抱えてプルプルしてるギルの姿があった。

「ん…ぷぷ…うわはは!。ヒーッ!苦しい。いや、すまねぇちょとした悪戯心だったんだが、思ったよりもクロロが容赦なくてビックリしたぜ。クロロ、お前見た目より力あるな!」

 いまだに笑いが収まらないギルはうっすら涙まで浮かべている。

 そんな彼をハイルは恨みがましい目で見た。

「そんな目で見ないでくれよ。だいたい今まで寝てたお前が悪いんだぞ。さぁ、せっかくクロロが朝飯を作ってくれたんだ。冷めないうちに食べようぜ」

 ハイルはまだむっとした顔をしていたが、のそりと起き上がって着替え始めた。

 すかさずギルがクロロを部屋からポイッと追い出す。

「お前は朝飯の後すぐに出れるように準備しておきなさい」

 ギル、完全にお母さんである。

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