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089.巨石の大穴にて

 マジョリカは崩れ落ちて乙女座りになった。

「ぐすん、ぐすん…。私、最初はこの言葉づかいが癖になってるから、変に喋ってボロが出ないように黙ってたのよ…。誰か取り逃がしたときに備えて。でも途中から声で相手がアリスやメリーだってわかって…。私、どう頑張ってもそれ以上2人相手に戦えなかったのよぉぉ…」

 うおんうおん泣くマジョリカ。

 ビビリ種のエキスのせいか、精神的にもかなりきているようだ。

「っていうか、マジョリカさんハイルたちと知り合いだったの!?」

「クロロちゃんもごめんねぇぇ…。私、とんでもないことをぉぉぉ」

「いや、僕は別に気にしてないよ。それよりハイルたちと…」

「ごめんねぇぇ、ごめんねぇぇ」

 ダメだ。今のマジョリカはどうやら究極の罪悪感に襲われているようだ。会話が成り立たない。

 クロロは困った顔でアリスの方を見た。

「アリスさん。このビビリ種の効果ってどれくらい続く設定にしてるの?」

「そうねぇ。一応数時間で抜けると思うわ。もともと長期戦用の服でもないし」

 彼女も悩ましい表情をしている。

「では、一度先ほどまであなた方がいたあの岩の亀裂に行きませんか。雨もだんだん強くなってきましたし、なによりあなた方が伸してしまった我々の友をあのような状態で放置しておきたくないんでね」

 オズが倒れているリュックたちの方を指差しながら提案をする。

「うっ…。それを言われると辛いところですが…。…わかりました。一度腰を落ち着けてお話しできるようにしましょう。あの亀裂は奥へ行くと崖の裏に出るんですよ。そこはちょっとした広間になっています。行くと驚かれると思いますよ」

 ハイルはオズの提案を受け入れた。

 気絶しているショル、ハティ、テリーヌはクロロやオズが丁寧に扱いながら運んでいく。

 唯一意識のあったリュックはなんとか自力で立ち上がり、歩こうとしたが、生まれたての子ジカンのようにプルプルしていたため、ハイルがひょいと肩に担いだ。

 同じ男として、簡単に担がれてしまったリュックはチーンという様子で項垂れた。

「俺格好悪い…。ショルが気絶しててよかった…。よりによって、彼女が目の敵にしてるハイルとやらに…」

「…今、少々怖いことを聞いた気がするのだが?俺はあなた達とは初対面では?何故目の敵にされているのだろうか?」

「俺も彼女から聞いただけだからあまり詳しくは知らないんだが…、あんたクロリア王国の貴族を狙う組織のリーダーなんじゃないのか?」

 リュックの言葉にハイルは絶句した。

「…まさか、そんなことになっていたとは…。おのれオーグルめ!すべての罪を俺達になすりつけるつもりか!…はっ、取り乱してすまない…。その話は全員の意識が戻ったときに詳しくさせてもらおう」

 ハイルは難しい顔をしながら歩く速度を速めた。加えてちょっと上下運動も激しくなり、心なしか担いでいるリュックの扱いも雑になった気がする。

 リュックは内心「ぐえ、ぐえ」と思いながらも、抵抗すらできずに運ばれていく。

 ちなみに亀裂内で伸びていたクラッチは、彼を倒してしまったギルが責任を持って運ぶことになった。

 こちらも肩に担がれたが。


「ふぅおぉぉ!」

「きゃあぁぁ!」

「ほほう。これは見事な」

「まあ!素敵!」

 ハイルたちが潜んでいた亀裂は案外深かった。

 どうやらこの亀裂は岩肌を真っ二つにしているようで、奥まで行くとハイルの言うように崖の向こう側に出た。

 そこには目を疑うような光景が広がっていた。

 本来であれば山と見まごうような巨石が亀裂の出口をふさいでいるため、外に出ることは不可能なのだが、その巨石の中心には天に向かって斜めに大穴が空いていた。

 クロロたちはちょうど、その大穴の中に出てきたことになる。

「すごーい…。この場から巨人のパンチを空に向かって打ったらこんな風になるんだろうなぁ。すんごい穴」

「本当だね。もしそれが真実ならどんだけ凄い力で殴ったんだろうね。だって、この大岩底から天辺まで物凄く大きいよ。巨人の拳も痛かったんじゃないかな?」

 クロロとメリーは感動しながら想像力豊かな会話をする。

「そうだろ?俺も最初見たときは眼を疑ったぜ。たぶん何か自然の力が働いてこんな風になったんだろうが、それにしたって規模がちげぇ。亀裂のあった崖の裏にこんな場所があったなんてな」

 ギルは胸を張って自慢げだ。

「この場所ならば十分な広さがある。ここで一度全員腰を落ち着けて話し合いたいのだが、よろしいか?」

 ハイルが担いでいたリュックを地面に降ろしながら問いかける。

 確かにここならば雨の当たらない場所もあるし、上から光も入るので比較的明るい。

 誰も意義を唱えることなく、話し合いの場が決定した。


 気絶している商人たちや、極端なビビリになってしまったマジョリカの回復を待っている間、クロロは別れてからのお互いの話をしあった。

 ハイルたちはクリリ街から防衛都市リゼンに向かい、そこからこのウーエー国境に向けて旅をしてきたらしい。それは元々クロロが通ろうとしていたルートだ。様々な事情で計画倒れになってしまったが。

 しかし、リゼンを発ってからしばらくすると追手に追いつかれてしまい、そこからは逃げの一手でなんとかここまでたどり着いたらしい。

 話し終えたところでハイルが恥ずかしそうに言った。

「まったく、いつもクロロ君と出会うときはギリギリの状態だな。…情けないよ。ところで君の方はあれからどうしたんだい?」

 ハイルに尋ねられて、クロロも自身の状況を話した。

 すべて話すと長くなるが、ハイルと一番関係のありそうなクリリ街のアゼパスの悩みあたりを重点的に話しておいた。

「アゼパス殿はこちらの手紙の意図に気付いて下さったのか!これは貴重な朗報だ!クロロ君感謝するよ。よく教えてくれた!」

 ハイルは笑顔になってクロロに感謝した。

 後はアゼパスの娘さんの救出劇や、その後知り合った商人たちとここまで来たこと、旅をしていたメリーたちと合流したことなどを簡潔に話した。

 ハイルは貴族であるアゼパスの娘が攫われたことに対して難しい顔をしていた。

「もうそんなところの貴族までが狙われるようになったか…。これはあまり悠長にしていられん。一刻も早くオーグルを止めなくては」

 彼の意見に対して、ギルとビビリ中であるマジョリカさえも深く頷いた。

 その様子を見ていたリュックはぎょっとした。

 オーグルを止めるとはどういうことか?まさか、まさかオーグルがこの一連の黒幕とでもいうのか?


 リュックがそれらの疑問をぶつけようと思った矢先、気絶していたクラッチが呻き声を上げながら目を覚ました。

 それに誘発されたのか、女性陣達も次々に目を開けた。

「うーん…。…ここは?っつ、あいたたたた…」

 ハティは首の後ろ辺りを押さえている。

「うぅぅ…鳩尾辺りが気持ち悪いわ…」

 テリーヌはお腹を押さえながら前のめりになった。

「っは!テリーヌ!大丈夫かっ!っあぁぁ、後頭部が痛い…だ、だがこのような痛みに負けてはいけない…。俺の大切なテリーヌがっ!テリーヌゥゥ」

「…少し黙っていてちょうだい…」

「ああ、テリーヌ。俺が君を守れなかったことを怒っているんだな。…すまなかった。俺がもっと強かったら…。俺、もっと鍛えて強くなる。だから、どうか捨てないでくれテリーヌゥゥゥ」

「それ以上騒いだら、本当に捨てるわよ」

 なんだかんだ言って、クラッチとテリーヌのペアは元気のようだ。

 改めて自分が何の関係のない人たちを傷つけてしまったと見せつけられたマジョリカは彼女たちが痛がるたびに、自身の心も比例して痛んだ。

(ああ…なんて罪深い私…。これは罰なんだわ…。お友達だけでなくて、普通のか弱い女性たちをもひどい目に合わせた罰なんだわ…)

 マジョリカは明りが差す大穴の中心で雨に打たれながら、独特のポージングで空を仰ぐ。

 まるで登場人物、彼(彼女?)のみのドラマチックな劇を見ているようだ。

 ただ、なんやかんやでそろそろビビリ種の効果も切れてきている様子だった。


 最後に目を覚ましたのはショルだ。

「ショル、大丈夫かい?」

「うぅ…リュック?…首の後ろが痛くて目が回るわ。…私たちどうしちゃったの?」

「俺達は雨宿りをしようとしてた崖の亀裂に向かったんだ。だが、そこには先客がいて、その人たちに気絶させられたんだよ」

「どうして、そんなことをされたの…?」

「どうやらその人たちは追われる身だったみたいなんだ。だから俺達は、口封じや時間稼ぎのために気絶させられたみたいなんだ」

「そうなの?…じゃあ、もしかしてその人たち危ない人なの?」

「どうだろう。直接聞いてみようか」

 ショルは先ほどから少々上の空で会話している。

 おそらく、まだ意識が完全にハッキリしていないのだろう。

 これくらいの状態ならば、ハイルを紹介してもいきなり彼を捕まえにかかることはないだろう。

「ハイルさんとやら、あんたたちは危ない人なのかい?」

 リュックはこちらの様子を窺っていたハイルに自然な感じで話しかける。

「先ほどあなた方に襲い掛かってしまった手前、すんなり信じてもらえるかわかりませんが、俺達は決して怪しい物ではありません」

「いや、ハイル。俺達、残念ながら十分すぎるぐらい怪しいぜ?」

 ギルが自分たちのことなのにツッコミを入れた。

「…ハイル。???…ハイル?…薄紫色の目…貴族の証…ハイル?っつ!まさか、あのハイル!?」

「っ!」

 ショルの意識が突然はっきりしたかと思うと、いきなりハイルを捕えるべく動いた。

「うわぁ!ぼーっとしてる今ならいけると思ったのに!」

 リュックが慌ててショルをハイルから引き離そうとする。

「リュック何で!?早くハイルを捕まえないと!そうすればきっと私たちパパの元に帰れるわ!」

「待ってくれ、ショル!本当に彼が貴族狩りの首謀者なのかい?」

「だって宰相のオーグル様が捕えようとしている人物よ!それにそう考えればすべての辻褄が合うわ」

 ショルはハイルを離さない。

「オーグルめ…。こんなお嬢さんまで騙すとはっ!」

 ハイルはショルに捕まりながら、険しい表情で地面をにらみつけている。

「とにかく、まずは一旦話し合おう!ショル、彼から離れるんだ」

「嫌よ!ここで取り逃がしたら一生後悔するわ!」

 ショルは頑なに拒否する。

「頼む離してくれ!だって…だって…俺は君がほかの男に抱き着いているのを見るのにもう耐えられないんだ!」

 リュックが悲壮な声を上げる。

 実はショル、ハイルの胴体に腕を回して彼を全身で捕まえているのだ。

 熱烈な抱擁に見えなくもない。

 正直、つい先日結婚を誓い合った女性がそんなことをしているのを直視するのに耐えかねていると言うのが彼の本音である。


 そろそろ収集が付かなくなってきたが、それを見かねたクロロが彼らの方へつかつかと寄ってきて「べりぃ」っとショルとハイルを引き離した。


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