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085.まさかまさかの事態

 ナカー村を出発するときには多少ごたごたしたものの、その先は比較的順調に旅を続けている一行。

 ちなみにナカーミに釣られて、周りを見ずに欲求のまま行動したクロロは後程こっぴどく叱られた。

 一番注意してきたのがメリーだったのが以外だったが…。

 なんか叱ってきている最中、えらく苦しそうな表情をしていたので、自分の為というより彼女のために反省の意を示した気がする。


 ただ、道中はやはり盗賊らしき者たちが頻繁に襲い掛かってきた。

 荷物を狙っているのか、ショルを狙っているのかは定かではないが…。

 これだけ武装している集団に挑んでくるのだ。やはり後者の確率が高い。

 しかも、襲撃してくる人間も今までならばあまり実力のない者たちも多かったが、ここにきてかなり腕の立つ者が出てき始めている。相手側の本気度が窺えるというものだ。

 …とは言っても、商人グループはクラッチとクロロがあっさり片付けるし、旅人グループはアリスの防護服に加えて、最近ではオズが戦闘に出るようになった。

 予想外だったのが、オズが素手で戦うことだ。

 普通護衛は剣や弓、槍または罠などを使用する。己の肉体のみで戦うのは命知らずのやることなのだ。

 それについてクラッチが尋ねると、オズは笑って

「私はどうも道具を使うのが苦手でね。素手の方が性に合ってるんですよ」

 と言った。

 それを傍目にクロロは内心

(あれ?普通戦うのって素手が基本じゃなかったっけ?手加減したいときとかに武器を使うんじゃないの?)

 と思った。だからクロロも戦闘ではなるべく石とかその辺の木の棒を使うようにしているのだ。

 ある日、時間があったのでそれについてオズに尋ねると、彼はしーっと口元に人差し指を当てて声を潜めた。

「オースから君のことは多少聞いているよ。だから教えてあげよう。実は普通の人は武器を持つ方が強くなるんだよ」

 なんと!それは目からうろこだ。

「え?でも、それだとおかしいよ?武器が壊れないように戦わなきゃいけないから絶対手加減することになるのに?」

「いやいや、君もそろそろ知っているだろう。世の中には、あんまりパワーのない人がいるんだ。彼らはそもそも武器を壊すほどの力がないから全力でそれを振るうことができるんだよ。だから大丈夫なんだ」

「へぇ~…知らなかった」

「知らなかったなら仕方ないよね。でもあまり大声で武器を持つと弱くなるなんて言ったら、嫌味に聞こえるから、今後武器を持たないで戦うときは私が使った言い訳をそのまま使うといい」

「うん。ありがとう」

 オズと話していると本当にオースといるような感覚になる。

 安心するし、ついついなんでも相談してしまうし、敬語も忘れてしまう。

 彼と顔を近づけながら和やかに内緒話をしていると、2人の間に手がにゅ~っと生えてきて、互いの顔を離す。

「クロロちゃん!私ともおしゃべりしましょ!」

「おわ、メリリン!」

「ちょ…、メリーよ。私だけ顔をギリギリ強く握るのはやめてくれ!痛いよ!」

「あら、ごめんね」

 メリーは悪びれもなく答える。

 最近クロロが特にオズと仲良くしていると、こうやってメリーが入ってくるのが定石となりつつある。


 そんなこんなで8日ほど経ち、ウーエー国境に後一歩というところでクロロは妙な気配を感じた。

 いつもはこちらに敵意のあるならず者たちがやる気満々でやって来るのだが、今回は少し様子が違うようだった。

「リュック。馬を止めて。なんか今までとは様子の違う人たちが近くにいる。こっちに向かって来てるみたいなんだけど…なんかうーん…慌ただしい感じ?」

 クロロは地面に触れて、地響きを感じながら言う。

 複数の人間がドタバタと走っている雰囲気だった。

「全員止まれ―!何かくるぞ!」

 リュックの号令にピタリと固まって止まる集団。

 この8日間でだいぶ連携がとれてきた。

 とそこで、森に続いていた細道から騎士の格好をした男たちが集団で現れた。

 彼らを見るや否や、クロロは馬車の中に大急ぎで隠れた。

 彼らの服に見覚えがあったのだ。

「クロロ君どうしたんだい?」

「ごめんリュック僕はちょっとここに隠れていたい気分なんだ。どうか気にしないで」

 クロロの行動を不審に思ったリュックだったが、彼らに対応しなければならないので、やむを得ず前を向いた。

 一方のクロロは心臓をバックンバックンさせながら、そぉ~っと馬車の外を覗きこむ。

「ぜぇ、ぜぇ…そこの者たち止まれ―!」

「いや、もう止まっているんだが?」

 リュックがごもっともな意見を言う。

「あっと…本当だ。はあ、はあ…。なんだ、タイミングがよかったのか?も、もしかして凄腕の護衛でもいて、俺達が来るのがわかってたとか?はあ、はあ…」

「マジかよ。ひー、ひー…。そ、そりゃ冗談でもすげえ。喉から手が出るほど欲しい人材だ…」

「はー、はー…。全くだ。特に今はな」

 騎士たちが息を切らしながら口々に話し出す。

 すると森からリーダーと思わしき人物が現れた。

「っく…。はぁ、はぁ…げほっ…。はぁ…はぁ…。畜生…。あと一歩と言うところで…逃がしてしまいましたか…念のためです。そこの馬車も調べなさい…」

 何があったのか知らないが、だいぶ体力を消耗していたようだ。

「あの…なんなんですか一体?」

 リュックがみんなを代表して尋ねる。

「はぁ…はぁ…。ふー…。突然お止してすみません。私は反国家組織捕縛部隊のリーダールベスという者です。実はこの辺りにクロリア王国に対して謀反を起こそうとしている反国家組織のリーダーが逃亡中でして。誰か不審な人物を見た方はいらっしゃいませんか?」

(ルベスさーん!)

 クロロは内心叫んだ。そりゃもう叫んだ。

(なんでこんなところにぃぃー!もしかしてハイルたちこの辺にいるのー?)

 ちなみにクロロは咄嗟に隠れてしまったが、よくよく考えると別に隠れる必要はなかった。

 ただ、なんだろう。

 こう知らない土地で知り合いに会うと、ちょっとこっぱずがしいというか…。

 ビックリした条件反射というか…。

 クロロが悶々としている間に、外ではショルが興奮気味にルベスに問いただしていた。

「ねぇ!反国家組織のリーダーってもしかしてあのハイルじゃないの!?」

 彼女の言葉にルベスは表情こそ変わらなかったが、僅かに驚いたようだった。

「どうしてその名を知っているのです?一般人まではこの情報は浸透していなかったはずですが?」

「やっぱり…。私は貴族なんです。だから彼について多少の知識はあるわ。…あなたたちが噂に聞いたエルベス王国からの助っ人さんたちね」

 ショルはルベスの髪色を見ながら納得したように言う。

 そして、クロロにとってはやっかいなことを言い出した。

「ねえ、リュック!私彼らに協力したいわ!彼らと一緒にハイルを捕まえるのよ!そうすれば、エルベス王国に逃げなくても、貴族狩りが終わるわ!私たちやお父様も助かるんだわ!」

 ショルは興奮気味にリュックに提案する。

 彼女は一つ返事でリュックが同意してくれるものだと思っていたが、彼はそうではなかった。

「ショル…それは出来かねる」

「え…。どうして…?」

 あっけにとられるショル。

「まず、俺達がどれだけ彼らの役に立つかわからない。君も知っているだろうエルベス王国の人たちは世界一追跡能力に長けているって。そんな彼らについて行っても足手まといになる可能性もあるし…。それに、僕らは今僕らだけで旅をしているんじゃないんだ。クラッチやテリーヌはエルベス王国で商売を始めることが第一の目的だし、護衛の依頼もウーエー国境までだ。それに合同で旅してる皆さんにも突然目標を変えると迷惑がかかるし…」

「で、でも、これは千載一遇のチャンスよ!」

 なおも食い下がるショルの両肩をリュックが掴む。

「なにより!狙われている君をこれ以上危険な目に合わせたくないんだ!だって…だって…君とは将来…夫婦になりたいから」

 ショルの目を見て、真っ赤になりながら告白するリュック。

 周囲をそっちのけでプロポーズが始まってしまった。

 周りのみなさんまで空気を読んで、しーんとしている。

 急いでいるのではなかったのだろうか。

「リュック…。そ、そんな…私…わたし…。リュックーー!嬉しい!一緒になりましょう!」

「ああ!ショル!一緒になろう!それにはまず安全なエルベス王国に行こう!そして、エルベス様に見守られながら式を挙げよう」

「ええ!」

 ひしっと抱き合う2人。

 完全なる2人の世界だった。

 これほど周りから隔離された空間を作るとは…もしや彼らには空間の神エルベス様がついているのだろうか…。

 しかしながら、ここにはちゃんと冷静な人物がいた。

「そういうことは後程でよいでしょうか。つまるところ、あなたたちは不審者は見ていないと。…念のために馬車を調べさせていただいてもいいですか?」

 どっきーん!

(わわわ!見つかっちゃう!) 

 クロロは自身のピンチを悟った。 

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