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082.旅は道連れ再び

 なんやかんやあったが、買い出しなど必要な仕事が終わり、約束の夕方までには宿屋の食堂に戻って来れた。クラッチたちのチームは夕方を少し過ぎたあたりで合流した。

「遅くなっちまってすまないな。俺達の方は日持ちする食糧を売っている店がなかなか見つからなくて時間を食っちまった。リュックたちの方は何も問題なかったか?」

 クラッチが悪気なく尋ねる。

「ああ、大丈夫だ。ナニゴトモナカッタ」

「ええ、大丈夫よ。ナニゴトモナカッタワ」

 じゃっかん遠い目をしながらリュックとショルは返事をした。

「えっとね。僕らの方は店が結構密集してたからすぐに買い出しは終わったよ。その後、神殿であまーいお菓子をごちそうになったの。それにね、それにね。これにハンコっ」

「わあぁぁぁぁ!!なんでもないんだ。なんでもないんだ!クロロ君、それは大切にしまっておこう。ね?ねねね?」

 クロロが軽い気持ちで神殿記を取り出そうとするのを必死で止めるリュック。

 動揺しすぎて、うっかり「ね」をたくさん言ってしまった。

「あ?なんでもないって感じじゃないが…?」

 クラッチたちが怪訝そうな顔をする。

 しかし、すかさずショルが援護に回る。

「本当に何もなかっタノヨ。ちょっと襲撃されたけれどクロロ君がパッパとやっつけてくれたし、ふらっと神殿に寄ったりしただけネ。ナカーミっていうこの村の名物を食べたりしたワ。これは日持ちのしないものだから売り物として仕入れるのはおすすめしないケド。クラッチたちの方はちゃんと食糧手に入れられタノ?」

 片言が抜けないショルだが、なんとか話題変換を試みる。

 挙動不審な彼女たちに少し思うところはあったものの、クラッチは自分たちのチームの報告をする。

「ああ。少し村の郊外に行ったところに旅用の品をそろえてる店があってな。こっち側には賊どもの襲撃もなかったし、問題ないぜ。…やっぱりショルが貴族だって完璧にバレちまってるみたいだな。明日の朝は早急に村を出た方がよさそうだ」

 それにはメンバー全員が同意した。

 その頃になると、日も落ちる時間帯になり、宿屋がガヤガヤと騒がしくなってきた。

 食堂の入り口をぼんやり見ていたクロロだが、そこにオズ、アリス、メリーの3人組を見つけたので、元気よく手を振った。

 すると彼らは、控え目に手を振りかえし、こちらに向かって歩いてきた。


「クロロ君、みなさん。今日の用事はちゃんと済みました?」

 アリスがにこやかにリュックに話しかける。

「ええ。大丈夫です。予定通り明日の朝にはウーエー国境に向けて出発しようと思います」

 リュックは美人のアリスに話しかけられたことで、少々鼻の下を伸ばしながら答える。

 それにムッとしたショルは、ひそかにリュックの足の指を自身のかかとで踏んだ。

「いっ~~~~」

 声にならない声を上げるリュック。

 ちなみにショルはひそかにやったつもりだろうが、周りからはバレバレである。

「あ…あら、予定通りならよかった。もしよかったら、この先のウーエー国境までご一緒しませんか?人数は多いに越したことはありませんし。何より全員馬か馬車なので移動が速いですし」

 アリスの提案は旅商人一行にとっては大変魅力的であった。

 何せ、集団になればなるほどショルを隠すのに好都合だからだ。幸い大変珍しいことに、このチーム編成だと女性の方が大人数だ。普通、旅商人や旅人に女性がいることが稀なのだが、何の因果だろうか。

 だがしかし、こちらは狙われている身…。ありがたい申し出だが、無関係な彼らまで巻き込むなんてできない…。

 良い人リュックと仲間たちは目線だけで会話をして断る方針にした。

「すごく魅力的なお誘いなのですが、実は俺達は少し厄介な人たちに目を付けられているようなのです。ここまで来るのにも何度か襲撃を受けていますし…。一緒に行動すればあなた達をそれに巻き込むことになってしまいます。それは俺達にとって気分の良い物ではないので、今回のお話は残念ながらお断りしようかと…」

 申し訳なさそうに頭を下げるリュック。

 それに続いて他のメンバーも習う。

 ちょっとクロロだけ遅れてしまった。ちくしょう。

 これで話が終わるかと思ったが、オズが意外な話をしてきた。

「いやいやいや。ならばなおさら一緒に行きましょう。実は私たちも旅する上で何度かおかしな輩に絡まれましてね…。噂によると、最近クロリア王国では国境を越えようとする旅人や商人への襲撃事件が相次いでいるそうなんですよ。だから近頃馬車や馬の貸し出しが減ってきているという話もあります」

 ハティが意外な展開に驚く。

「え?その襲撃って無差別に行われてるんですか?」

 オズは重々しく頷く。

「左様。一説には本当に襲いたいのは、ある一定の者たちだけで、他はそれを隠すためのカモフラージュに過ぎないとか、実はクロリア王国自体が国民を他国に流さないためにそんなことをしているとか。…まあ真実はわかりませんが、我々にとっては迷惑以外の何物でもありませんな」

「あの…。先ほどおかしな輩に絡まれたと言われていましたが、大丈夫だったのですか?そんなか弱い女性を2人も守りながらの移動は大変だったのでは?」

 テリーヌの心配に顔を引き攣らせるオズ。

 どこか遠い目をしながら

「ええ。全然、全く、これっぽちも問題はありませんでした」

 と言う。

 オズの隣ではアリスがにこやかに笑っている。

「ふふふ。私は一流の服職人です。一般の方にはあまり知られていませんが、良い素材と良い腕で作られた服というのは、その辺に売っている鎧よりも強いのよ」

 アリスは自分の服を抓みながら上機嫌だ。

「この服は自衛を兼ねているわ。ある程度の衝撃を受けると電撃が走るようになっているの」

 なんという危険な服だ。

 リュックたちと周辺でちらりと会話が聞こえていた客たちの心が1つになった。

 しかし、その服の解説は意外なところから行われた。

「あー!やっぱり?その服そうじゃないかと思ったんだ。それビリビリシソウとビビリ種でできてる服だよね。うーん…それに少しだけどツヨイネも混じってる?」

 声の主はクロロだった。

 アリスの服を触りながらまじまじと観察している。

「クロロ君!さすが、クロロ君!よくわかったわね!ツヨイネまで混じってるのを見抜けるなんて!」

 嬉しそうな声を上げて、アリスは思わずクロロを抱きしめた。

 周囲の男性たちから羨ましそうな視線が刺さったが、彼女の豊満な胸に埋もれたクロロは苦しくてそれどころではない。良く聞くと「もがもが」と呻く声が聞こえる。

 ハティはそんなクロロを少し面白くない気持ちを抱きながら救出した。

 どうしたのだろう、ちょびっと心がもやもやする。

「はあはあはあ…ハティありがとう」

「ううん…。どういたしまして」

 なんでこんな気持ちになるのかよくわからないハティはクロロに触れた自分の手を見ながら上の空で答える。

「あらやだ!ごめんなさい。私ったらつい…」

 アリスは少し顔を赤くして、恥ずかしそうに謝った。

「それで…その服にはどんな効果が!?」

 服を売っているショルが興味津々に話の続きを促す。

 そこからは、ぜーぜー言っているクロロに変わってアリスが解説を引き継いだ。

「ビリビリシソウの効果はさっき言った通りよ。衝撃が強ければ強いほど相手をビリビリさせるわ。だけどそれだけだとあまり意味はないの。別に怪我するほどでもないしね。でも同時に服の表面に塗りこんだビビリ種のエキスが相手に振りかかるわ。これを浴びるとしばらくはビビリになっちゃうの。そうね…冬場の静電気が怖くて金属に触れられなくなるというのが、もっとひどくなった感じかしら。また私に触れたらビリビリするかもしれない…怖いよーっとなって深追いして来なくなるの」

 なんという地味な効果!

 地味すぎるが、確かに嫌だ。

「メリーとオズさんの服も同じ素材でできているわ。ついでにツヨイネも使っているから、多少剣や弓矢が当たったくらいじゃ怪我はしないわよ」

 ふふふと笑うアリス。

 動きやすい旅装束でそんだけ機能があれば、確かに下手に重くて動きにくい鎧より優秀だ。

 それに加えて馬があれば、たいていの賊からは逃げ切れるだろう。

 ショルが商売の話を持ちかける。

「その服を仕入れることはできますか!?」

 あなたは貴族のお嬢様ではなかったのか。

 完全に商人魂が芽生えている。

 だが、アリスはすまなさそうに言った。

「ごめんなさい。これはかなり貴重な素材と技術を使っているからこの3着を作るのが精いっぱいだったの。商品としては出せないわ…」

 それを聞いたショルは少々残念そうだったが、納得してすぐに引き下がる。

 

「さてさて、こちらの事情はわかっていただけたかな?ただ、私たちもこれまでこの服の効果で乗り切ってきたが、国境付近になるとさずがに賊も増えるだろうし、これだけでは心もとないのだよ。だから、なるべく大人数で動きたい。数の力というのは案外馬鹿にできないからね。どうだね?私たちと一緒にウーエー国境に行ってはくれまいか?どうせ狙われるなら、なるべく大勢でいた方がけん制できるのではないかな?」

 再度オズが提案をする。

 リュックは仲間たちに視線を送るが、皆ここまで言われたならそれもありかと考えなおしたようだった。

「そうですね。そこまで言っていただけるなら、ご一緒しましょう。旅は道連れと言いますしね」

「うむ。よく言ってくれた」

 オズとリュックは硬く握手を交わした。

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