008.それぞれの会議
水浴びはクロロが分かれ道に遭遇した場所で行うことになった。
最初にハイルとギルが水を浴びた。その間クロロは少し離れたところから辺りを警戒する。
1人の時間ができたので、物思いにふけるクロロ。
ハイルとギルかぁ…。いい人たちそうだけど、なんか面倒くさそうな事情がありそうなんだよなぁ。
ハイルさんは冷静沈着な切れ者って感じがするけど、それだけじゃなさそうなんだよね。村で聞いてた話だと、一般的な人間ってギルみたい感情が表によく出てるはずなんだけど…。ハイルさんは自分の感情のコントロールが得意っぽいなぁ。なんかやり手の商人とか、団体のリーダー格みたいな気がする…。お付き合いする女性が自分を取り繕うタイプなのは、類は友を呼んでるだけなんじゃ…。
ただ、こういうタイプに出くわしたら、必ず一歩引いて接しろって言われてるんだよなぁ。相手に接近しすぎるとたいてい厄介なことになるって。アスリーお兄ちゃんは、逆にガンガンこういった人たちに絡んで行って、厄介ごとに巻き込まれることを生きがいにしてきたって言ってたけど!私は旅でたくさんのすごいものを見るのが生きがいだから、巻き込まれたくないや。
…そういえば、いきなりギルに女だってバレちゃってたし…。しかも、お嫁さんにしてくれそうな雰囲気だった…。
こんななあなあでお嫁さんは嫌だ!大体旅するんだから、お嫁にはしばらく行かないもんね。それよりも楽しいことがいっぱいありそうだもん。
ハッ!そういえば3日後にはまともに人がいる村に着けるんだった。どんな人がいるのかな、何があるのかな!楽しみだなぁ~。旅に出てからずっと森の中でつまんなかったし、ワクワク。
いあやぁ、でもまさかずっと彷徨ってたのが『時の山』だったなんて!
まだ旅立ちから1日くらいしか経ってないなんてビックリだ!
とりあえず、クロロの冒険第一章は『時の山での6日間』にしよう。
クロロが1人で本日の反省&報告会をやっていると、水浴びを終えた2人がやってきた。
「クロロ、見張りをありがとう。大事なかったか?」
「はい。全然なんにも起きませんでしたよ」
「そうか。それならよかった。さぁ、次は君の番だ。ゆっくり浴びてくれ。ただし、風邪を引かないようにな。」
クロロは素直に頷いた。
「了解です!…2人とも覗かないで下さいよ」
「ブッ、ぶぁっきゃろ!誰も覗かねぇから、とっとと浴びてこい!」
「あははははー!ギル真っ赤ー!それじゃぁ、行ってきます」
クロロはギルをからかって、水浴びに向かった。
クロロが去り、ハイルとギルだけになった途端、2人は真剣に話し合いを始めた。
「今後の予定はどうするよ」
「正直近くの村に戻るのは一種の賭けだ。かなり敵をかく乱してここまで来たから、俺達がこちらの方向へ逃げてきたことさえ相手側には読まれていないだろう。…もし、俺たちの行動を見張る特殊な方法がなければな…」
ハイルの言葉にギルは身を震わせた。
「怖いこと言うじゃねぇか…。もしかして、相手側にお前と同じように力を持ったやつがいるとでも考えてるのか。…ありえねぇだろ。そんじょそこらにゴロゴロいるもんじゃねぇぞ」
「だが、そう考えればすべての辻褄が合ってしまうのもまた事実だ。俺達の仲間が誰も裏切ってないのならな。だからこれは賭けなんだ。次の村でもし待ち伏せや襲撃があった場合は敵に力を使える人物が加担していることになる」
そこまで言うとハイルは自嘲気味に笑った。
「もしそうなら、この戦いはこちらが圧倒的に不利になる。こちらの行動を空間の隔てなく監視できる能力といったら…」
ギルは真っ青になりながら続きを引き継いだ。
「エルベス王国の王族…」
ハイルは静かに頷いた。
「冗談じゃねぇぞ!あそこはつい300年前に神の降臨があった国だ!王族が賜った能力はまだ原点力の衰えがほとんどない!そんな反則みたいな能力持ちがあいつら側に味方してたとしたら…、こっちに勝ち目はねぇよ!」
取り乱しているギルに対してハイルは落ち着いた声で話す。
「落ち着け。何もまだそうと決まった訳じゃない。それに、万が一エルベス王国の王族がやつらに加担していたとしても、騙されているか何か考えのあってのことかもしれない。この国の宰相に、国王の命を狙う反国家組織がある。その首謀者を捕えるのに協力して欲しいとでも言われているのかもしれないな。…馬鹿げた話だがな…」
「全くだぜ。何が国王の命だ。その国王と血族を全滅させて、国を乗っ取った張本人が!絶対に許さねぇ。絶対にだ!この国はもう俺達のクロリア王国じゃねぇ」
ギルの憤慨に同調するようにハイルも強い口調で続けた。
「そうだ!奴の思い通りにしてはおれん!このままではこの王国はそう遠くない未来…滅ぶ」
ハイルとギルは焦りと憎しみで滾っていた。
2人がシリアス全開だというのに、能天気な声が聞こえてきた。
「2人とも見張りありがとー。あ~、いい水だった」
クロロである。
「どうしたの怖い顔しちゃって。ふぁ~あ、お腹もいっぱいだし身体も綺麗になった。僕もう眠いや。戻って寝ない?」
それを聞いた2人は、張りつめていた気持ちが切れ、自分たちがひどく疲れていることに気付く。
「賛成だ。俺ももう眠たい」
「ふぁ~あ、俺も意識したらすんげぇ眠たくなった。今日はもう寝ようぜ」
3人は村に戻った。
建物内にいることと、追手の心配はないだろうということで、見張り番なしでぐっすり眠ることができた。
とりわけハイルとギルは何日かぶりの満ち足りた睡眠を取った。